防火扉の基礎から現場の勘所まで。内装工が押さえておきたい実務ポイント
「防火扉って、普通のドアと何が違うの?設置や点検はどうすればいいの?」——初めて現場に入ると、こんな疑問を抱く方が多いはずです。防火扉は、火災時に炎や煙の広がりを食い止めるための“最後の砦”。内装工・建具工・設備や電気との取り合いまで、現場では知っておきたいルールとコツがたくさんあります。この記事では、建設内装の現場でよく使われる「防火扉」というワードを、やさしい言葉で実務目線に落とし込み、設置基準の考え方、施工の注意、点検方法、現場での言い回しまで、丸ごと整理して解説します。
現場ワード(防火扉)
読み仮名 | ぼうかとびら |
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英語表記 | Fire door |
定義
防火扉とは、火災時に開口部を遮断し、火炎や煙の延焼・拡大を抑えるために設計・認定された扉の総称です。日本では建築基準法に基づき、国土交通大臣の認定(いわゆる「大臣認定」)を受けた「防火設備」または「特定防火設備」に該当する扉のことを実務上「防火扉」と呼びます。常時は人や物の出入りを妨げず、火災時には自動的に閉まって区画を保つことが求められ、扉本体・枠・金物・シール材などを含む“セット”で性能が成立します。
防火扉の種類と構造
区分(特定防火設備/防火設備)
現場では「旧称」で呼ばれることもありますが、現在は以下の二本立てで考えます。
- 特定防火設備(旧称:甲種防火戸)…火災拡大リスクの高い開口に用いるグレード。厳しい遮炎性能が求められます。
- 防火設備(旧称:乙種・丙種防火戸)…用途や設置部位に応じた遮炎性能を持つ扉。
どちらも大臣認定の対象で、製品ごとに性能・納まり・使用条件が認定書に記載されています。現場では図面の指定(特定防火/防火)と製品の認定書が一致しているか、必ず確認しましょう。
材料と内部構成
扉の素材は、鋼板(スチール)やステンレス、木製(芯材に難燃・不燃材を組み合わせたもの)などが一般的です。内部には遮炎・断熱のための無機系材料(例:せっこう系、ケイ酸カルシウム系、セラミック系など)が組み込まれ、目地部には耐熱性のシール材や発泡材(熱で膨張して隙間を塞ぐタイプ)が使われます。枠・丁番・ラッチ・ドアクローザーなどの金物も含め、セットで認定されている点が重要です。
形状・方式
- 開き戸(片開き/両開き/親子)…最も普及。避難経路に多い。
- 引き戸(片引き/引分け)…通路側スペースが限られる場合に採用。
- 自動ドアタイプ…火災時は自閉・閉鎖に切り替わる認定品。
なお、「防火扉」と混同されやすい「防火シャッター」は別の設備です。用途・認定が異なるため、図面指定を必ず確認しましょう。
設置基準の考え方(やさしく要点だけ)
詳細は法令・図書・認定書の確認が前提ですが、現場で押さえるべき考え方は次の通りです。
- どこに必要か…防火区画・竪穴区画(階段、エレベーターホール等)の開口部、前室、機械室や電気室の出入口など、図面に「特定防火」「防火」と明記される場所。
- 何が求められるか…大臣認定に適合したセットであること、自閉機能を備えること、枠・扉・金物・シールの組合せが認定書通りであること。
- どう取り付けるか…躯体との取り合い、隙間寸法、アンカー・モルタル充填、周囲の不燃下地、スモークシールの有無など、認定条件を満たす施工。
性能は「時間」や「遮炎条件」などで規定されますが、具体の数値・条件は製品の認定書に従います。現場の判断で金物を変えたり、穴あけ・加工を行うと、認定外となる恐れがあるため厳禁です。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では以下のような言い方をよくします。
- 防火扉/防火戸(ぼうかど)
- 特防(特定防火設備の略)
- 防火ドア(一般的呼称)
- 甲(旧称を引きずって「甲」などと略す現場もあるが、正式表記ではないため注意)
使用例(3つ)
- 「ここは竪穴区画だから特防の両開き入るよ。枠先行、躯体補修まで段取りして。」
- 「スモークシールは認定どおり黒のL型ね。勝手に交換しないで、メーカー手配で。」
- 「常時開けたいなら電磁式の開放金物にして防災盤連動を確認。ドアストッパーでの固定はNG。」
使う場面・工程
代表的な流れは以下の通りです(現場条件により前後あり)。
- 墨出し・開口確認(クリアランス/下地種別/スラブ段差)
- 枠の先行取付(レベル・通り・振れ止め、アンカー打ち、モルタル充填等)
- 周囲の不燃下地・耐火間仕切りとの取り合い処理(目地幅・シール)
- 扉吊り込み(丁番調整、ラッチ・ドアクローザーの設定)
- スモークシール等の装着(認定指定の型・位置・長さ)
- 自閉・閉鎖試験、解錠・施錠確認、連動設備(防災盤)との試験
関連語
- 防火区画/竪穴区画/前室
- 大臣認定(認定書)/遮炎性能
- 自閉装置(ドアクローザー、フロアヒンジ)
- ラッチ/丁番(ヒンジ)/シリンダー錠
- スモークシール(膨張材)/気密材
- 電磁式開放装置(火報連動)
- 防火シャッター(別設備)
施工の勘所(プロがやりがちなミスと回避策)
1. 枠の通り・水平垂直が甘い
わずかなねじれや傾きでも、ラッチが掛からない・自閉しない原因に。レーザーで通りを出し、対角寸法を確認。溶接・アンカー固定後はモルタル(または指定材料)でしっかり充填し、空洞を残さないこと。
2. 隙間寸法(クリアランス)の取り違え
扉と枠、扉下端のアンダーカットなど、認定で許容範囲が決まっています。床仕上げの厚み(タイル、長尺シート、カーペット等)を見込んで設定。完成後に「擦る」「閉まりが甘い」を防ぎます。
3. スモークシールを“似た材”で代用
見た目が同じでも性能は別。メーカー指定の型番・長さ・貼付位置を厳守し、油分・ホコリを除去してから施工。コーナー部は切り欠きと圧着を丁寧に。
4. 常時開放をゴムストッパーで固定
火災時に閉まらなければ本末転倒。常時開けたい場合は、大臣認定に適合する電磁式開放装置+火報連動を採用。電気工事と試験をセットで段取りします。
5. 勝手な後加工(のぞき穴、サイン、配線穴)
扉・枠への穴あけ、金物追加、フィルム厚みの変更などは、認定外加工となる恐れが高く原則不可。サイン類はメーカー推奨の位置・方法で。疑問点はカタログと認定書、メーカー技術窓口で確認しましょう。
6. 金物の選定・設定ミス
ドアクローザーの番手、ラッチストライクの調整、丁番ビスの締め不足などは自閉性能に直結。クローザーのスピード・ラッチング角度を現地で微調整し、風圧・気圧差がある場合は強めに設定します。
点検・メンテナンス方法(現場でできる基本)
法定点検の詳細は専門家の業務ですが、日常管理・引渡し前のチェックとして以下をおすすめします。
- 外観:歪み、凹み、腐食、ビス浮き、塗装剥離、扉の擦り確認
- 表示:大臣認定ラベルの有無・型式の一致、表示が読める状態か
- 自閉:全開からの自然閉鎖、最後まで確実にラッチが掛かるか(風や気圧差があっても閉まるか)
- クリアランス:三方・下端の隙間が認定範囲内か、床見切りとの干渉の有無
- 金物:丁番のガタ、ビスの緩み、ラッチ・ストライク位置、クローザーの油滲み
- シール:スモークシールの欠損・剥がれ・汚れ、扉面との当たり具合
- 開放装置:電磁ホルダー・防災盤連動の作動試験(感知器発報で自動閉鎖するか)
- 周囲仕上げ:枠まわりシールのひび割れ、可燃物の取り付け(掲示板・装飾)有無
不具合を見つけたら、むやみに調整・改造せず、施工会社またはメーカーに相談を。防火扉は「元の認定状態」に戻すことが最優先です。
他職種との取り合い(段取りが9割)
- 電気:電磁開放、火報連動、常時開放スイッチ、非常電源の系統確認。試験は電気・管制盤立会いで。
- 内装(壁・天井):不燃下地の種別、枠周りの防火シール、見切り材。ボードの突き付け・クリアランスに注意。
- 設備(空調・換気):気圧差で閉まりが悪くなる場合があり、クローザー設定を調整。防煙垂れ壁との干渉も確認。
- 金属工:枠先行・躯体アンカー・モルタル詰めまでの分担。監理者と納まり図で決着してから着工。
よくある質問(Q&A)
Q. 防火扉は常時開けておいてもいいですか?
A. 可能ですが、認定に適合する電磁式開放装置等で「火災時に自動閉鎖する」仕組みが必須です。ゴム製ドアストッパー等での固定はNGです。
Q. 表面にフィルムやシートを貼り替えても大丈夫?
A. 仕上げ材・厚み・貼付方法によっては認定外になる恐れがあります。メーカーが指定する化粧材・施工要領に従い、事前に承認を取りましょう。
Q. のぞき穴やドアガードを後付けできますか?
A. 原則不可。穴あけや金物追加は認定の前提を崩します。必要な場合はメーカーのオプション設定・認定範囲で手配します。
Q. 扉だけ交換してもいい?枠はそのまま使える?
A. 多くの認定は「枠+扉+金物のセット」で性能が成立します。扉のみ交換は適合しない場合があるため、型式一致の一式交換が基本です。
代表的なメーカー(例)
防火扉は「認定が命」です。以下のような大手メーカーが、非住宅・住宅向けの防火ドアをラインアップしています。製品ごとに認定条件が異なるため、必ず最新カタログと認定書を確認してください。
- 文化シヤッター株式会社:金属建具・防火設備の大手。防火ドア、防火シャッター等を幅広く展開。
- 三和シャッター工業株式会社:防火設備全般を国内で広く供給。現場支援体制も整備。
- YKK AP株式会社:スチールドアやアルミ建材の総合メーカー。防火戸仕様のドアを各種展開。
- 株式会社LIXIL:住宅・非住宅の建材総合メーカー。用途別の防火ドアラインアップあり。
- ナブコシステム株式会社(NABCO):自動ドアの大手。防火仕様の自動ドアを扱う。
メーカーが異なれば、同じ「防火扉」でも納まり・金物構成・シールの指定が異なります。混載せず、仕様統一が基本です。
現場で役立つチェックリスト(引渡し前・定期点検の要点)
- 図面と型式:図面指定(特定防火/防火)と製品の大臣認定が一致しているか
- 枠:レベル・通り・対角寸法、アンカー固定、モルタル充填の有無
- 扉:反り・歪みなし、面内ガタつきなし、表面傷の補修
- 金物:番手・型番一致、ビス増し締め、ラッチ・クローザーの調整完了
- シール:スモークシールの連続性、角部の納まり、剥離なし
- 隙間:三方・下端のクリアランスが認定範囲内
- 連動:電磁開放の復帰、感知器発報による自動閉鎖の確認
- 周囲:可燃物の取り付けなし、枠周りの防火シール・見切りの仕上げ良好
- 表示:避難誘導サイン、使用上の注意ラベルの掲示
- 記録:調整値・試験結果を写真付きで残し、認定書とセットで保管
用語ミニ辞典(初心者向け)
- 大臣認定:国土交通大臣が性能を認めた証明。製品・型式ごとに交付され、施工・使用条件が詳細に記載。
- 自閉装置:扉を自動で閉める金物(ドアクローザー、フロアヒンジなど)。防火扉では必須。
- スモークシール:扉と枠の隙間を煙が抜けにくくするシール材。熱で膨張するタイプもある。
- 竪穴区画:階段室やエレベーターホール等、上下階へ火煙が広がりやすい部分を区画する考え方。
- 防火区画:火災の延焼を一定範囲に留めるための区画。開口部は防火設備で塞ぐ。
トラブル事例と対処のコツ
床仕上げ変更でアンダーカット不足
対応:仕上げ厚み変更時は早期に共有。扉下の見切り・丁番位置・クローザー設定で吸収できるか確認。難しければ型式の再選定も検討。
気圧差で最後まで閉まらない
対応:クローザーのラッチング強化、戸当たりの摩擦低減、空調の風量調整。根本は空調との調整がポイント。
引渡し後に勝手口的に常時開放される
対応:使用者へ「防火扉の目的」と禁止事項を説明。必要なら電磁式開放+連動に改修提案。掲示で注意喚起。
まとめ(今日から現場で役立つポイント)
防火扉は「出入りしやすく」「いざという時は確実に閉まる」ことが使命です。その性能は、製品そのものだけでなく、正しい取り付けと適切な点検で初めて発揮されます。現場では、図面指定と大臣認定の一致、枠の精度、金物・シールの認定準拠、常時開放の扱い、連動試験の実施を徹底しましょう。困ったときは、認定書とメーカー技術資料に立ち返るのが鉄則です。この記事が、現場でのコミュニケーションや段取り、品質確保の一助になれば幸いです。