現場でよく聞く「建付調整」をゼロから理解する。仕組み・手順・プロの見分け方まで丁寧ガイド
ドアが床に擦る、引き戸が重い、閉めても隙間が気になる……そんな時に職人が口にするのが「建付(たてつけ)調整」。言葉は聞くけれど、具体的に何をどう直すのか、どんな道具で、どこを見れば良いのかが曖昧な方も多いはずです。本記事では、建設内装の現場で日常的に使われる「建付調整」という現場ワードを、初心者にもわかる言葉で、しかし現場でそのまま使える実践レベルまで噛み砕いて解説します。読み終えたころには、職人との会話がスムーズになり、不具合の切り分けや是正の指示が怖くなくなるはずです。
現場ワード(建付調整)
| 読み仮名 | たてつけちょうせい |
|---|---|
| 英語表記 | fit-and-alignment adjustment (for doors/windows/cabinetry) |
定義
建付調整とは、ドア・引き戸・窓サッシ・収納扉・造り付け家具などの「建具」や枠・金物の位置や傾き、隙間(チリ)や作動性を、規定の状態に合わせ込む作業の総称です。具体的には、丁番(蝶番)・戸車・レール・金物ビス・カム機構・受け座(ストライク)などを微調整し、開閉の軽さ、当たりの無さ、隙間の均一、ラッチ・クレセントの確実な掛かり、防音・気密・意匠ラインの整合を満たすよう仕上げます。新設時の追い込みはもちろん、季節による木部の伸縮や下地のクリープ、使用による摩耗に伴う是正も含みます。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では以下のように言い換えられることがあります。
- 「建具の建付け見る(直す)」「建付け合わせる」
- 「チリ(クリアランス)を揃える」「戸当たり見て」
- 「丁番(蝶番)追い込む」「戸車上げる(下げる)」
- 「受け(ストライク)寄せる」「クレセント調整」
- 別称:建て付け調整/建付け調整(どちらの表記も現場では通用)
使用例(3つ)
- 「この開き戸、床に擦ってるね。丁番側で建付調整しといて」
- 「引き戸が重いのは戸車が落ちてる。レール掃除してから高さ調整ね」
- 「ラッチが浅いから受け座を1ミリ寄せ。チリも右上で詰まってるから枠と丁番で追う」
使う場面・工程
- 木工事終盤〜内装仕上げ前後の建具吊り込み時
- 器具付け・クリーニング直前の最終調整
- 施主検査・社内検査での指摘是正(擦り・当たり・隙間・音)
- 引き渡し後のアフター対応(季節変動や使用によるズレ)
関連語
- 建具(ドア・引き戸・折れ戸・収納扉)/枠(方立・鴨居・敷居)
- 丁番(スライド丁番、ドアヒンジ)/戸車/レール/クローザー
- チリ(クリアランス)/召し合わせ/当たり/こすり
- ラッチ/ストライク(受け座)/クレセント(窓の締め金物)
- 通り(通り芯の直線性)/直角(スクエア)/鉛直・水平(レベル)
建付調整の基礎知識:何を「合わせる」のか
1. 直角・通り
扉と枠、扉同士が直角であるか、反りや捻れがないか。定規(さしがね)やコーナーゲージで角当たりを見ます。通りは見付(見える面)のラインが一直線に揃うこと。
2. 鉛直・水平
扉の鉛直(垂直)が出ているか、敷居やレールの水平が確保されているか。レーザー・下げ振り・レベルで確認します。傾斜があると自重で勝手に閉まる/開く、戸先が持ち上がる等の症状が出ます。
3. チリ(クリアランス)
枠と扉、扉と扉の隙間が均一か。狭すぎると擦り、広すぎると見た目が悪い・気密低下・音漏れにつながります。チリは部位・メーカーで規定が異なるため、一般的な目安として「室内木製建具で2〜3mm、召し合わせ3〜4mm」を基準にしつつ、必ず製品の取扱説明書を優先します。
4. 作動性と保持
開閉の軽さ、ラッチの掛かり具合、クローザーの速度・勢い、ダンパーの効き。最後のひと押しが必要か、自然に閉じて指を挟まないか、ドアストッパーでしっかり保持されるかも評価ポイントです。
代表的な不具合と原因の切り分け
症状から原因を素早く絞るのがプロの近道です。
- 床に擦る(開き戸)=丁番の沈み・ビス緩み/枠の傾き/床の不陸/ドアの反り
- 勝手に開く・閉まる=枠やレールのレベル不良/建具自重と把手位置の影響
- 上端だけチリが広い・狭い=丁番の芯ズレ/枠のねじれ/扉反り(湿気)
- ラッチが掛からない=受け座位置ズレ/ラッチ舌の出寸法不良/ハンドル機構の摩耗
- 引き戸が重い=レールゴミ詰まり/戸車摩耗・破損/戸車高さズレ/鴨居のたわみ
- 閉めても隙間風・音漏れ=チリ過大/パッキン劣化/クレセント浅掛かり(サッシ)
- 扉の跳ね返り=クローザー速度・ラッチング調整不良/丁番抵抗不足
プロの調整手順(チェックリスト付き)
闇雲にビスを回すと悪化します。必ず「現状把握→原因特定→最少介入→再確認」の順で。
- 1. 目視と触診:チリのムラ、当たり跡、擦り傷、歪みを確認。扉を半開にして軽く揺すり、ガタを感じる部位を探る。
- 2. 測定:レーザーやレベルで枠の鉛直・水平、定規でチリを測る。必要に応じ下げ振りで直線性を確認。
- 3. 清掃:レール・戸車のごみ、丁番付近の粉塵を除去。潤滑が必要な箇所に適正な潤滑剤(樹脂・ゴムを傷めないもの)を少量。
- 4. 丁番・戸車のビス締結:まず既存のビスの緩みを適正トルクで締め直す。これだけで改善することが多い。
- 5. 位置調整:スライド丁番のカム(左右・前後・上下)、戸車の高さネジ、ストライク(受け座)の前後左右を微調整。1回の調整は0.5〜1mmを目安に、都度動作確認。
- 6. 枠側の修正:枠が原因の場合はシム(スペーサー)で調整、必要ならビス位置を見直し。仕上げを傷めない範囲で慎重に。
- 7. 最終確認:フルストロークの開閉で引っかかりがないか、ラッチの掛かり、隙間の均一、見付ラインの通り、音・手応えまで確認。
- 8. 記録:調整箇所と寸法、写真、使用工具・部品をメモ。再発時の手掛かりになります。
よく使う工具と選び方
手工具・電動工具
- プラス/マイナスドライバー(番手を合わせてなめ防止)
- インパクトドライバー(低速・弱締め設定で微調整)
- 六角レンチ(スライド丁番・カム式調整で使用)
- スパナ/ラチェット(戸車・クローザーの調整)
- ノミ・カッター(受け座の微修正時。仕上げ破損に注意)
- シム(プラ・木)と薄板(0.3〜1.0mmのスペーサー)
- 潤滑剤(樹脂・木部・ゴム対応のものを選択)
測定・確認機器
- レーザー墨出し器/下げ振り(鉛直・水平確認)
- スケール・隙間ゲージ(チリ測定。ゲージが無ければ名刺等で代用可)
- 直定規・差し金(反り・直角確認)
代表的メーカー(例)
電動工具:マキタ(Makita)、HiKOKI、ボッシュ(Bosch)などは現場で広く使われています。建具金物:スガツネ工業(LAMPブランド)、Häfele Japan、Blum(スライド丁番や引出し金物)などが代表的。サッシ・建材:YKK AP、LIXIL、DAIKENなど。製品の調整方法はメーカーごとに異なるため、型番と取扱説明書の確認を推奨します。
建具・サッシ別の調整ポイント
開き戸(室内ドア)
- 丁番調整:スライド丁番は左右・前後・上下のカムで0.5〜2mm程度の範囲で微調整可。一般的な露出丁番は座金・ビス穴の遊びで追い込みます。
- ラッチと受け座:掛かりが浅い/深いは受け座の前後で調整。噛み込み音は縦位置や当たり面の当たりを微修正。
- クローザー:閉まる速度(1速・2速)とラッチング。速すぎると危険、遅すぎると閉まりきらない。季節で再調整が必要。
- 底擦り:丁番側で上げられない場合は扉下端の削り調整が最終手段。仕上げと面材方向に留意。
引き戸(片引き・引き違い)
- 戸車高さ:左右で0.5mm単位の追い。水平が出ると動きが軽くなり隙間も整う。
- レール清掃:砂塵・石粒で戸車が痛みます。清掃後に乾式潤滑。
- 召し合わせ:戸先の当たり・戸当たりゴムの押し代で音や気密が変わる。
- 鴨居たわみ:長尺開口は中央が下がりがち。上吊り金具の高さで吸収、難しければ補強を検討。
折れ戸・クローゼット扉
- スライド丁番と上部ランナーで四方のチリを均す。折れ代のピンの抜け・摩耗にも注意。
- ソフトクローズ機構付きは取り扱い説明書どおりの初期化・調整が必須。
家具扉(キッチン・洗面・収納)
- スライド丁番の三方向調整が基本。扉が重いときはヒンジの耐荷重と本数を要確認。
- 引出しはレールの前後・左右・高さ調整で見付を揃え、スムーズさとソフトクローズの終末位置を合わせます。
窓サッシ(アルミ・樹脂)
- 引違い:戸車調整ネジで上下を合わせ、クレセントの掛かりを浅すぎず深すぎずに。戸先の気密材は劣化に注意。
- 開き窓・上げ下げ窓:ヒンジ・ストライカー位置の微調整で気密と閉まりを両立。メーカー指定以外の調整は避ける。
サッシは安全・気密に関わるため、必ずメーカーの手順に従い、無理な加工はしないでください。
仕上がりの許容範囲(目安)
以下は一般的な室内建具の目安で、製品・仕様によって変わります。現物の仕様書を最優先してください。
- チリ:枠と扉の周囲 2〜3mm、召し合わせ 3〜4mm 程度
- 作動力:片手で自然に開閉でき、任意位置で大きな戻りがない
- ラッチ:戸先を軽く引いても外れないが、ハンドル操作で軽く解除
- 見付の通り:光を斜めから当ててラインが乱れない
- 音:擦り音・金属異音がしない(ラッチング音は適正)
トラブルを減らす「予防」と日常メンテナンス
- 湿気対策:梅雨時は換気・除湿。木製建具の反りを抑える。
- 清掃:レールと戸車まわりの定期清掃。砂粒は大敵。
- 締結確認:半年〜1年に一度、丁番ビス・取手ビスの緩みチェック。
- 潤滑:樹脂・ゴムを侵さない潤滑剤を少量。油染み・ホコリ固着に注意。
- 荷重:扉に物をぶら下げない。引出しに過積載しない。
施工管理・検査でのポイント
- チェックシート化:建具ごとに「チリ・ラッチ・作動・傷・音」を項目化し、合否と寸法を記録。
- 写真記録:調整前後で同フレーミングの写真を残す。後日の是正協議がスムーズ。
- 製品情報紐付け:図面・仕様と型番・取説を同梱保管。アフター時に効く。
- 是正の最小化:仕上げを傷めない微調整から。加工は最終手段。
現場ですぐ役立つミニTIPS
- チリ確認は名刺でもOK:名刺の厚みは約0.2〜0.3mm。何枚分かでざっくり把握。
- ビスが効かない時は:同径より長いビスか、穴に木栓・エポキシで補修してから再固定。
- 音が気になる:ラッチの当たり面を微調整、戸当たりゴムを健全なものに交換。
- 戻り・跳ね返り:クローザーのラッチングを1/8回転ずつ調整。触りすぎ厳禁。
- 寒暖差対策:季節替わりに点検日を設定。梅雨・乾燥期で様子が変わるのが普通です。
初心者がやりがちなミスと回避策
- いきなり強締め:まず清掃と緩み締め直しから。調整は小さく刻む。
- 片側だけ見る:四方のチリと全体の通りをセットで確認。症状の反対側を調整することもある。
- 取説を見ない:スライド丁番やサッシはメーカーごとに調整方向が違う。型番検索が早道。
- 潤滑の入れすぎ:埃を呼んで逆効果。必要最小限に。
- 最終手段を先にやる:削り・穴加工は後戻り不可。痕跡が出ない方法を優先。
よくある質問(FAQ)
Q1. 自分でできる範囲と、プロに任せるべき範囲は?
戸車・スライド丁番の微調整やレール清掃、ビスの緩み締めは一般の方でも可能です。一方で、枠の傾き是正、扉の削り、サッシの機構部調整、クローザーのバランス調整は仕上がりや安全に直結するため、プロに依頼をおすすめします。
Q2. 調整してもすぐズレるのはなぜ?
原因が根本(枠の歪み・下地の沈み・過荷重・戸車摩耗)にある場合、表面的な調整では持ちません。部品交換や下地補修、使用条件の見直しが必要です。
Q3. どのくらいの隙間が普通?
製品仕様により異なりますが、室内木製ドアで周囲2〜3mmが一つの目安です。引き戸の召し合わせは3〜4mm程度。気密・防音仕様は専用品の規定に従ってください。
Q4. 季節で動きが違うのは故障?
木質系は湿度で寸法が変わるため、梅雨時に重く、冬は軽くなる傾向があります。故障ではなく材の特性です。季節に合わせて微調整すると快適です。
Q5. どの潤滑剤を使えばいい?
樹脂・ゴムに優しい乾式タイプ(シリコーン系など)が無難。油性を多用すると埃を巻き込みやすいので注意してください。
用語ミニ辞典
- チリ(クリアランス):扉と枠の隙間。均一性が重要。
- 召し合わせ:扉同士が合わさる部分の隙間。
- ストライク(受け座):ラッチが掛かる相手金物。
- スライド丁番:家具扉などで使う多機能ヒンジ。三方向調整が可能。
- 戸車:引き戸の足回り部品。高さ調整と清掃が肝。
- クレセント:引違い窓の締め金物。掛かり深さで気密が変わる。
- クローザー:ドアを自動で閉じる機構。速度・ラッチングを調整。
現場視点のまとめ
建付調整は「見た目(通り・チリ)」「機能(作動・保持)」「安全(指はさみ・勢い)」の三拍子を、現場条件と製品仕様の中で最短距離に収束させる作業です。コツは、原因を一つずつ潰すこと、調整量を小さく刻むこと、そして記録を残すこと。道具も特別なものは多くありませんが、測る・比べる・整えるの基本を丁寧に積み重ねることで、扉一枚の印象や暮らしの質は大きく変わります。困ったときは、この記事のチェックリストに沿って現状を見直し、必要に応じてメーカーの取扱説明書やプロの力を頼ってください。きっと、気持ちの良い「スッ」と閉まる音に近づけます。









