内装現場で耳にする「床置きエアコン」をやさしく解説――意味・使い方・施工のコツまで
図面や朝礼で「ここは床置きエアコンね」と言われて、「床置きって壁掛けと何が違うの?どこに置けばいい?」と不安になったことはありませんか。この記事では、建設内装の現場で職人が日常的に使う現場ワード「床置きエアコン」を、意味・使い方・設置の勘どころまで一気に理解できるよう、やさしく丁寧にまとめました。読み終えるころには、打ち合わせや段取りで迷わずに会話できるはず。初めての方でも安心して使える実践的な知識だけを凝縮してお届けします。
現場ワード(床置きエアコン)
| 読み仮名 | ゆかおきエアコン |
|---|---|
| 英語表記 | floor-mounted air conditioner / floor-standing air conditioner |
定義
床置きエアコンとは、室内機を床に据え付けて使用するタイプのエアコンの総称です。壁面や天井に取り付けるのではなく、床面に置く(据え付ける)ため、天井懐が浅い空間や壁面強度が不足する場所でも導入しやすいのが特徴。住宅用の「床置き型ルームエアコン」と、店舗・オフィス向けの「床置形パッケージエアコン(業務用)」の2系統があり、現場では単に「床置き」「床置き形」「フロア形」などと呼ばれます。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では、次のような言い回しが通じます。意味はほぼ同じですが、対象が住宅用か業務用かでニュアンスが変わることがあります。
- 床置き、床置き形、床置形
- フロア形、フロア置き
- タワー型(スリムな縦型の床置き室内機を指すことが多い)
- (対比として)天カセ=天井カセット形、天吊り=天井吊形、壁掛け=壁掛形
使用例(現場会話の実例)
- 「この応接室は天井が低いから、天カセじゃなくて床置きで行こう。」
- 「床置きは前面メンテスペース要るから、家具配置と干渉しないように墨出しお願い。」
- 「床置き2馬力×2台、動力200V予定。ドレンは床上配管で1/100確保して立ち上げなしで頼む。」
使う場面・工程
床置きエアコンは、天井懐が取れない改修案件、軽量鉄骨の壁で壁掛けが難しい場合、店舗の窓面の冷気対策(下吹き・前吹き)などで採用されます。工程としては、内装下地の前に据付位置の墨出し→配管ルート(冷媒・ドレン・電源・制御)の先行確保→床仕上げ後に据付・接続→真空引き・試運転、という流れが一般的です。
関連語
- パッケージエアコン(PAC):業務用エアコンの総称。床置形はPACの一種。
- ルームエアコン:住宅用の個別エアコン。床置きタイプもある。
- 天カセ/天吊り/壁掛け:室内機の設置形状の別種。
- 冷媒配管:室内機と室外機をつなぐ配管(機種によりR32やR410Aなど)。
- ドレン配管:冷房時に出る結露水を排水する管。勾配確保が重要。
- 真空引き:冷媒配管内の気体・水分を除去する工程。
- 馬力(P):業務用の能力表記。現場では「2馬力」「4馬力」などと呼ぶ。
床置きエアコンの種類と構造
住宅用(ルームエアコン)の床置きタイプ
室内機が腰高の家具のような形で床面に据え付くタイプ。分離型(室内機+室外機)で、冷媒配管・電源・ドレンが必要です。窓下などにも置きやすく、掃除やフィルター交換も前面から行える機種が多いのが特徴です。
業務用(パッケージエアコン)の床置形
店舗・オフィス・医院などで使われる、能力帯が大きめのタイプ。室内機は横長または縦長の筐体で、前吹き・上吹きなどの吹出しバリエーションがあります。電源は3相200Vなどを採用する機種が多く、制御配線やリモコン位置の取り合いも計画に含まれます。
ファンコイルとの違い
ビル空調では、見た目が似た「床置形ファンコイルユニット」もありますが、こちらは冷温水配管(CHW/HW)でコイルに風を当てて空調する水式。冷媒直膨式の床置きエアコンとは系統が異なるため、図面記号や仕様書で混同しないよう注意が必要です。
床置きエアコンのメリット・デメリット
メリット
- 天井懐・壁強度の制約を受けにくく、改修現場でも採用しやすい。
- 前面からメンテができる機種が多く、フィルター清掃が容易。
- 足元から暖気・冷気を感じやすく、体感レスポンスが良い。
- 据付が比較的シンプルで、工期短縮につながる場合がある。
デメリット
- 床面・前面にスペースが必要で、家具や動線と干渉しやすい。
- ホコリを吸い込みやすく、環境によっては目詰まりが早い。
- 機器周りの結露・ドレン漏れが発生すると床仕上げのダメージが大きい。
- 壁掛けや天カセに比べ、意匠的に目立ちやすい。
設置条件・事前確認チェックリスト
- 据付位置の確保:前面の吸込・吹出・メンテスペースをメーカー施工要領に沿って確保。
- 床強度・水平:重量に耐えられること、レベル調整ができること。
- ドレン経路:自然勾配が取れるか、ドレンポンプが必要か、排水先の合意。
- 冷媒配管ルート:貫通部の位置、断熱、化粧カバー有無、露出・隠蔽の判断。
- 電源・ブレーカ容量:単相/三相、電圧、専用回路かどうか、配線ルート。
- リモコン位置:操作性・見やすさ、配線長の範囲。
- 室外機の設置:置場、振動・騒音対策、風通し、ドレン処理。
- 他設備との取り合い:家具、什器、カーテン、サイン、弱電・照明との干渉。
- メンテアクセス:フィルター・熱交換器清掃、ドレンパン点検のための前面開口。
施工手順(現場向け)
据付準備(墨出し・養生)
図面と施工要領書で据付寸法とクリアランスを確認し、床に墨出し。機器搬入経路の養生を行い、床仕上げを傷つけないよう注意します。必要に応じて防振ゴムや据付台を準備します。
機器据付と固定
機器を所定位置に仮置きしてレベル確認。メーカー指定の方法で固定します(直置き・据付台・アンカー固定など、機種により異なります)。振動・共鳴を避けるため、防振ゴムの挿入や隙間処理を適切に行います。
冷媒配管・断熱・気密
冷媒配管はメーカー仕様(フレア接続またはろう付け)に従い施工。配管径・最大長・高低差の制限を事前確認します。結露防止のため断熱を連続させ、貫通部は気密・防火措置を行います(現場の仕様書・法令に適合させる)。
ドレン配管(排水)
冷房時の結露水を確実に流すため、一般に1/100~1/50程度の勾配を確保するのが実務の目安です。立ち上がりやサイホンが発生しないよう配慮し、トラップが必要な場合はメーカー指示に従います。排水先は衛生設備と調整のうえ合意をとり、漏水試験・通水確認を実施します。ドレンポンプ内蔵機種では施工要領に沿って配管し、試運転で動作確認を行います。
電源・制御配線
電源種別(単相/三相)・電圧・ブレーカ容量を銘板で確認し、専用回路で結線。制御配線(リモコン・集中制御など)は極性や配線長の制限を守ります。絶縁抵抗測定は電子部品を損傷しない手順で実施し、必要に応じて機器側を切り離します。
真空引き・試運転
冷媒配管を真空引きして含有水分・空気を除去し、規定の到達真空・保持を確認。メーカー手順で試運転し、吸込/吹出温度、電流値、異音・振動、ドレン排水の流れをチェック。完了後、外観清掃と周囲養生の復旧まで行います。
安全・品質管理のポイント
- 重量物の取り扱い:転倒・指詰めに注意し、搬入は複数人で。狭所では台車・スリングを活用。
- 防火・防煙措置:貫通部の処理は仕様書・法規に準拠。可燃物の近くでのろう付けは養生・防火管理を徹底。
- 水漏れ対策:ドレンの勾配・固定・接着を確実に。試運転で必ず通水確認。
- 結露対策:断熱の途切れをなくし、金物露出部は結露防止処置。夏場の養生シート内結露にも注意。
- メンテナンス性:前面サービススペースを塞がない計画にし、将来的なフィルター交換の導線も確保。
主なメーカーと床置き形の例
国内で床置き形(または床置き対応の室内機)を取り扱う代表的なメーカーには、以下があります。機種名や仕様は世代で変わるため、最新のカタログ・施工要領書で確認してください。
- ダイキン(Daikin):店舗・オフィス用のパッケージエアコンや住宅用で床置き形のラインアップあり。
- 三菱電機(Mitsubishi Electric):業務用「パッケージエアコン」シリーズに床置形。ルームエアコンの床置きタイプも展開。
- パナソニック(Panasonic):業務用・家庭用ともに床置きタイプをラインアップ。
- 東芝キャリア(Toshiba Carrier):業務用エアコンで床置形の室内機を用意。
- 日立グローバルライフソリューションズ(Hitachi):業務用パッケージエアコンで床置形を展開。
- 富士通ゼネラル(Fujitsu General):業務用・家庭用の一部で床置き対応機種あり。
冷媒は機種によりR32やR410Aなどが用いられます。省エネ性、外形寸法、静音性、ドレン処理の仕様など、現場の条件に合うかを総合的に比較しましょう。
選び方のコツ(現場・施主対応の視点)
能力選定(負荷に合ったサイズ)
床面積、天井高さ、断熱性能、窓面積・方位、在室人数、機器発熱などを踏まえ、冷暖房負荷に見合う能力を選定します。業務用では「○馬力」で会話しますが、最終的にはメーカーの選定ツール・カタログで確認し、過不足のない能力に調整するのが安全です。
電源・回路計画
単相/三相、電圧、起動電流、ブレーカ容量、専用回路の要否を確認。既存改修では受変電・分電盤の余裕や配線ルートの可否もセットで検討します。
レイアウト・意匠
前面スペースと吹出し方向を家具・動線と整合させます。窓面のドラフト対策や、入口付近の外気侵入を考慮して配置計画すると、体感が向上します。
メンテナンス性・清掃性
フィルターアクセス、熱交換器洗浄、ドレンパン点検が支障なくできる位置・高さに。繁忙店舗ではフィルターの目詰まりが早いので、掃除頻度を事前に共有しておくとトラブルを防げます。
よくあるトラブルと対処
- ドレン漏れ:勾配不足、配管のたるみ、接続部の不良が原因。再勾配、固定、接着・シールの見直しと通水確認を実施。
- 効きが弱い:吸込面の塞ぎ、フィルター詰まり、能力不足、設定ミス。まず清掃とレイアウトの干渉を解消し、必要なら能力再検討。
- 結露(水滴):断熱の切れ、金物露出、湿度高めの環境。断熱補修と換気・除湿の併用を検討。
- 異音・振動:据付のレベル不良、固定不足、共振。防振材の追加、レベル調整、固定方法の是正を実施。
- 臭い:フィルター・熱交換器の汚れ、ドレンパンのスライム。定期清掃と薬剤洗浄で改善。
Q&A(初心者の疑問に答えます)
Q. 床置きエアコンと壁掛け、どちらが省スペース?
A. 壁掛けは床面を占有しない分、省スペースです。ただし床置きは天井や壁の強度・下地条件に左右されにくく、改修現場では採用しやすい利点があります。空間条件で使い分けます。
Q. ドレン配管の最低勾配は?
A. 現場の実務では1/100~1/50程度を目安に確保するのが一般的です。具体値はメーカー施工要領に従い、現場の配管径・ルートに適合させてください。
Q. 床置きは暖房に向いていますか?
A. 足元からの吹出しで体感の立ち上がりが早く、暖房と相性が良いケースが多いです。ただしレイアウトや断熱状況で体感は変わるため、配置と風向調整が大切です。
Q. 仮設の冷房機(スポットクーラー)も「床置き」と呼びますか?
A. 現場では移動式の冷房機を「スポットクーラー」「ポータブルエアコン」と呼ぶのが一般的です。「床置きエアコン」は据置型の常設機器を指すことが多いので、区別して使うと誤解がありません。
Q. 室外機までの距離に制限はありますか?
A. 冷媒配管の最大長・高低差は機種ごとに規定があります。超過すると能力低下や故障の原因になるため、必ずカタログ・施工要領で確認してください。
細かな現場のコツ(プロの視点)
床仕上げが柔らかい場合は荷重分散のために下板や据付台を併用します。前面の吸込グリルにマットや什器がかからないよう、立ち上がり見切りやピットカバーの納まりを検討すると安定します。貫通部は結露を起こしやすいので、断熱の連続性と気密処理を丁寧に。既存改修では、既設ドレンとの合流部で逆流が起きやすいため、立ち上げ・トラップ条件を現地で必ず確認します。試運転時は冷暖ともに運転し、ドレンの通水と室外機の異音・振動までチェックすると引き渡し後の手戻りが減ります。
まとめ:床置きエアコンは「条件に強い万能選手」
床置きエアコンは、天井懐が浅い、壁に掛けられない、改修で大掛かりな下地補強が難しい――そんな現場の「困った」に応えやすい空調方式です。大切なのは、前面スペース・ドレン勾配・配管ルート・電源計画という基本の四点を外さないこと。この記事で紹介した言い回しや段取りを押さえておけば、打ち合わせでも現場でも自信を持って対応できます。迷ったときは、必ずメーカーの施工要領書を確認し、他職と早めに取り合い調整を。床置きエアコンを正しく使いこなして、快適で安心な空間づくりに役立ててください。









