GL工法を完全ガイド:意味・メリット・施工手順・注意点まで現場目線でやさしく解説
「GL工法って何?」「GLボンドで貼るって聞いたけど、どんな工法?クロス仕上げとの相性は?」——はじめて内装工事に関わると、こうした疑問が次々に湧いてきますよね。この記事では、現場で当たり前に使われる「GL工法」を、専門用語をかみくだいて丁寧に解説します。実際の施工の流れや、向くケース・向かないケース、見積もりや品質チェックのコツまで、現場のプロ視点で「ここだけは押さえておきたい」ポイントをまとめました。読み終わるころには、GL工法がなぜ選ばれるのか、どこに注意すべきかが自信をもって判断できるようになります。
現場ワード(キーワード)
読み仮名 | じーえるこうほう |
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英語表記 | Gypsum Lining (GL) adhesive direct-bond method |
定義
GL工法とは、鉄筋コンクリート(RC)などの室内側の躯体面に、せっこう系接着剤(通称GLボンド)を「だんご状」に塗布して石膏ボードを直接圧着・直貼りする内装下地工法の総称です。下地の軽鉄(LGS)や木胴縁を組まずに仕上げ下地を作れるため、工期短縮・コスト低減・厚みの圧縮が期待できる一方、適用範囲や施工条件に制限があり、計画・施工管理に注意が必要です。現場では「GL貼り」「GLボンド貼り」「だんご貼り」とも呼ばれます。
GL工法の基本と背景
どんなときに選ばれる?
GL工法が選ばれる典型は、マンションやオフィスのRC躯体壁を短期間でフラットに整え、クロスや塗装で仕上げたい場面です。下地組みを省けるため、室内有効寸法を大きく取りたい場合や、工程を圧縮したい場合によく採用されます。既存躯体の不陸(凸凹)調整もしやすく、微妙な通り(面のまっすぐさ)合わせに向いています。
メリット(現場で実感する利点)
- 工期短縮:下地組みが不要になり、貼り込み〜通り合わせまでのスパンが短い。
- コスト抑制:軽鉄材・ビス・防錆処理などの資材・手間が減る。
- 厚みの圧縮:室内側の仕上がり寸法を確保しやすい(家具や建具計画にも有利)。
- 不陸調整が容易:躯体の凸凹を接着剤の厚みで吸収し、面を出しやすい。
- 遮音・断熱の微改善:ボード背面の空隙がわずかに効く場合がある(ただし計画的な性能確保には別途設計が必要)。
デメリット・注意点(採用前に必ず確認)
- 下地条件に左右される:コンクリートの含水・レイタンス・油分など、下地不良は剥離や浮きの原因。
- 配線・配管の自由度が低い:壁内空間が小さく、後施工が難しい。
- 重量物取付が難しい:壁掛け金物や棚は、計画的に下地補強を設けないと不可。
- やり替えが大変:改修時に接着剤が躯体に強固に残り、撤去・補修コストが嵩む。
- 適用範囲が限定的:基本は室内の壁面。天井や高湿環境、ALC面などは原則不向きまたは要検討。
- 防火・遮音の認定確認が必要:構成が変われば認定外になる可能性がある。
施工手順と重要ポイント
1. 事前調査・下地処理
まず躯体の状態を確認します。コンクリート打ち放し面のレイタンス(セメントの弱層)や離型剤の残り、ほこり、油分は大敵。スクレーパーやサンダーで除去し、清掃を徹底します。含水が多いと接着不良を招くため、雨水の浸入や結露がないかも確認。欠け・ジャンカは補修モルタルで平滑に。下地の健全性確認は打診も有効です。
2. 墨出し・通り(アタリ)の設定
レーザー墨出し器や下げ振りで通りを設定します。仕上がり面位置を決め、スペーサーや定規材で「アタリ」を作って基準面を明確に。これが面の良し悪しを左右します。
3. 接着剤(GLボンド)の練り
製品の指定に従い、所定の配合で練り上げます。だまが残らないよう撹拌し、可使時間(使える時間)内に使い切るのが鉄則。気温・湿度で硬化が変わるため、現場環境に合わせて小分けに練ると失敗が少なくなります。
4. だんご付け(ピッチ)と圧着
石膏ボード裏に接着剤を「だんご状」に配置します。一般的な目安は、周辺部はやや細かく、中央は等間隔で配置します(具体のサイズ・ピッチは製品仕様と設計指示に従ってください)。貼り付け後は、基準のアタリや通り糸を見ながら押さえ、ゴムハンマーや当て木で微調整。はみ出した接着剤は清掃し、必要に応じて仮固定で動きを止めます。
5. 養生・目地処理・仕上げ
接着剤が所定の強度に達するまで動かさないよう養生します(硬化時間は製品の指示に従う)。その後、ボードの目地にジョイントテープ+パテ処理を施し、平滑に仕上げ。最終的にクロスや塗装を行います。角部はコーナービードで補強すると割れを抑えられます。
よく使う工具:レーザー墨出し器、下げ振り・レベル、撹拌機、スクレーパー、ゴムハンマー、当て木、定規、メジャー、カッター、パテベラ、打診棒など。
GL工法が向くケース/向かないケース
向くケース
- RC造の室内壁で、短期間でフラットな下地を作りたい。
- 室内の有効寸法を確保したい(下地組みの厚みを避けたい)。
- 仕上げがクロスや塗装中心で、軽量仕上げが多い。
- 躯体の不陸が中程度で、接着剤厚みで吸収できる範囲。
向かない・慎重に検討すべきケース
- 天井面や高湿環境、結露リスクが高い場所。
- ALCや旧仕上げ面など、接着用途の適合が未確認の下地。
- 重量物(大型テレビ、収納棚、石・タイルなど)を広範囲に取り付ける計画。
- 大きなふかし寸法が必要、もしくは壁内に多くの配線・配管を通す計画。
- 耐火・遮音などの性能認定が厳密に要求され、構成が限定される場合。
仕上げ材・重量物取付の考え方
GL工法は、クロスや一般的な塗装との相性が良好です。一方、タイルや石材など重量のある仕上げは、接着剤やボードの許容を超えやすく、基本的に避けるか、設計段階で別工法(下地組み+ボード、ラス張り等)や専用の下地補強を計画します。壁掛けテレビや棚、手すりなどの重量物は、ボードの背後に受け材を設ける、あるいは躯体へアンカーで直接固定できるよう事前に位置を確定し、開口・補強を行うのが安全です。
品質・安全・法規チェックリスト
- 下地の健全性:レイタンス・油分・粉塵の除去、欠損補修が完了しているか。
- 含水・環境:湿気や結露、漏水がないか。躯体が十分に乾燥しているか。
- 接着剤仕様:使用製品の施工要領(配合・ピッチ・可使時間)を遵守しているか。
- 通り・精度:アタリ設定と通り合わせの記録(写真・スケール)を残しているか。
- 性能認定:防火・遮音・断熱など、求められる性能の認定範囲に収まっているか。
- 安全衛生:撹拌・切断時の粉じん対策、養生・墜落・挟まれ対策がとれているか。
- 後施工計画:コンセント・スリーブ・下地補強などの事前計画が反映されているか。
現場での使い方
言い回し・別称
「GL」「GL貼り」「GLボンド貼り」「だんご貼り」などと呼ばれます。会話では「この壁はGLでいく?」「ここはGL不可、LGSに切り替え」など、方式の可否や切り替え判断とセットで使われることが多いです。
使用例(3つ)
- 「この躯体、レイタンス強いから、GL前にしっかりケレンしてプライマー入れて。」
- 「こっちは不陸が大きいからGLじゃ厳しいね。LGSでふかして面出そう。」
- 「テレビのブラケット位置、GLだと下地効かないから、補強入れるか躯体アンカーで計画しよう。」
使う場面・工程
既存躯体の室内仕上げ工程で、下地づくりの段階に登場します。工程としては、躯体検査→下地処理→墨出し・アタリ→接着剤練り→だんご付け→圧着・通り合わせ→養生→目地処理→仕上げ、の順で使われます。設計・施工打合せでは、GL適用範囲、ふかし寸法、開口や補強の位置が議題に上がるのが通例です。
関連語
- 直貼り:下地を組まずに仕上げ材(またはボード)を直接貼る工法の総称。
- LGS(軽量鉄骨下地):軽鉄で下地を組む工法。配線・補強が自由でGLの対案になる。
- だんご貼り:接着剤を団子状に置く貼り方。GL工法のキモ。
- 不陸・通り:面の凸凹・まっすぐさ。GLではアタリ設定と圧着で調整。
- PB(プラスターボード):石膏ボードの略。GLで圧着する対象材。
- レイタンス:コンクリート表面の弱層。GL前に除去が必須。
- アタリ:仕上がり基準面。スペーサーや通り糸で設定。
よくある疑問Q&A
Q1. GL工法は天井にも使えますか?
A. 一般には壁面での使用が前提です。天井への直貼りは落下リスクが高く、採用しないのが通常です。天井は下地組み+ビス留めが基本です。
Q2. ALC面にもGLできますか?
A. 標準的にはRCコンクリート面が対象です。ALCは表面性状や吸水性が異なるため、専用材料・仕様が明示されない限り避けるか、試験・メーカー指示に従う必要があります。
Q3. 接着剤の「だんご」の大きさ・間隔は?
A. 製品の施工要領と設計指示を厳守してください。目安として周辺部は細かく、中央は等間隔に配置し、全体として面精度と必要強度を満たすことが重要です。温湿度により調整が必要です。
Q4. リフォームで既存GL壁に新たな仕上げは?
A. 既存ボードの浮き・段差を点検し、必要に応じてビス増し・張替えを検討。重い仕上げはNG。クロスの貼替えや塗装なら、下地調整(パテ・シーラー)で対応できる場合があります。
代表的なメーカー・資材
吉野石膏
国内最大手の石膏ボードメーカー。現場で「GLボンド」と通称されるせっこう系接着剤や、各種石膏ボード(一般・耐火・遮音など)を幅広く供給。施工要領や認定資料が充実しており、GL工法の標準的なリファレンスとして扱われます。
チヨダウーテ
石膏ボードの主要メーカー。ボード製品のラインナップが豊富で、仕上げや性能要件に応じた選定が可能。GL工法でも同社ボードが採用されることが多く、設計・施工の選択肢を広げます。
あると安心な工具・副資材
- レーザー墨出し器・下げ振り:通り・アタリの精度確保に必須。
- 電動撹拌機:接着剤のムラを防ぎ、所定の粘度に安定化。
- スクレーパー・ワイヤーブラシ:下地処理の基本。
- スペーサー・通り糸・当て木・ゴムハンマー:面調整と圧着の精度向上。
- ジョイントテープ・パテ材:目地割れ防止と平滑仕上げに。
見積もり・工程での実務ポイント
見積もりでブレやすい項目
- 下地処理の範囲:ケレン・プライマー・補修の有無。
- 不陸の程度:ふかし量が増えるほど手間が増す。
- 開口・補強:コンセント・設備・壁掛け金物の下地対応。
- 養生・待ち時間:硬化待ちや他 trades との調整時間。
工程管理のコツ
- 乾燥条件の確保:雨仕舞・換気・暖房で硬化環境を安定させる。
- 関連職との調整:電気・設備の先行配管/後施工方法を早めに確定。
- 検査と記録:通り・不陸・接着剤配置の写真記録で品質を見える化。
トラブル事例と未然防止
よくある不具合
- 浮き・剥離:下地の油分・粉塵・含水が原因。→徹底した下地処理と適正配合で予防。
- 目地割れ:テープ不足や養生不足。→テーピング+段階パテ、養生時間の厳守。
- 面のうねり:アタリ不足・圧着不均一。→基準面設定と通り糸の活用、二人体制での押さえ。
小さなコツ(プロの現場メモ)
- 一発で決めようとせず、基準面から順に「面をつなぐ」意識で貼る。
- 可使時間が短い日は、少量練りをこまめに回すと作業が安定する。
- 角・開口まわりは早めに通りを決め、ビードや補強で割れを予防。
- 「重いものが付く壁か?」を最初に確認。GLで難しければ早期にLGS提案。
まとめ:GL工法を味方につけるポイント
GL工法は、RC躯体壁の内装下地づくりをスピーディかつ経済的に行える合理的な直貼り工法です。成功の鍵は「下地処理」と「通り合わせ」、そして「適用範囲の見極め」。仕上げや重量物、性能要件との相性を早い段階で確認し、必要ならLGS等の他工法に切り替える判断力が求められます。この記事のポイントを押さえれば、現場でのコミュニケーションもスムーズになり、品質・コスト・工期のバランスが取りやすくなります。迷ったときは、使用する接着剤やボードのメーカー施工要領と、設計図書の指示を最優先に確認してください。GL工法を正しく使いこなして、きれいで長持ちする仕上がりを実現しましょう。