現場の「蝶番」をやさしく解説—種類・名称・選び方・取り付けのコツまで【内装職人が基礎から】
「蝶番(ちょうつがい)って丁番と何が違うの?」「ドアや扉の金具を選ぶとき、どれを買えばいいの?」——現場でよく耳にするのに、意外と説明がむずかしいのがこの言葉。この記事では、内装のプロ目線で、蝶番の意味・種類・選び方・取り付けの基本までをやさしく整理して解説します。現場で恥をかかない用語理解から、失敗しない製品選び、トラブルの予防・対処まで、今日の作業にそのまま役立つ実践情報をまとめました。
現場ワード(蝶番)
| 読み仮名 | ちょうつがい |
|---|---|
| 英語表記 | hinge(ヒンジ) |
定義
蝶番(ちょうつがい)とは、扉・フタ・建具などを回転開閉させるための軸付き金具の総称です。日本の現場では「丁番(ちょうばん)」と書くことも多く、日常会話ではほぼ同義で使われます。意匠的に蝶の形をした飾り金具を特に「蝶番」と呼ぶ場合もありますが、建設内装分野では「丁番=蝶番=ヒンジ」という理解で差し支えありません。
蝶番の基礎知識
「丁番」「蝶番」「ヒンジ」は何が違う?
現場では以下のニュアンスで使い分けられることが多いです。
- 蝶番(ちょうつがい):一般名。和室の箱物や意匠金具の文脈で目にする表記。
- 丁番(ちょうばん):図面・発注書・現場会話での頻出表記。プロはこの字をよく使います。
- ヒンジ(hinge):カタログや輸入金物、家具金物での呼び方。特に隠し丁番やスライド丁番の場面で使われがち。
機能としては同じ「回転軸金具」です。現場のコミュニケーションでは、相手がイメージしやすい言葉(丁番/ヒンジ/蝶番)を使い分ければOKです。
主な種類と用途
建設内装でよく使われる種類を用途別に整理します。
- 平丁番(ひらちょうばん):最も基本的な板状の丁番。室内の軽い木製扉や箱物に。シンプルで安価。
- 旗丁番(フラグヒンジ):片側が旗のような形。戸先側の取り外しがしやすく、建具の吊り込みで使います。
- スライド丁番(コンシールド/カップヒンジ):扉側に丸いカップ穴を掘って埋め込む家具・収納用の隠し丁番。全かぶせ/半かぶせ/インセットの扉に対応し、三方向調整が可能。キッチンや洗面化粧台などで定番。
- ピボットヒンジ:上下の軸で扉を支えるタイプ。重い扉や框の細い扉、開口部の見た目をすっきりさせたい場合に。
- フロアヒンジ(床埋込型):ドアクローザー機能を持つ床埋込の軸受。主に店舗・共用部のガラス扉や重量扉。
- 連続丁番(ピアノヒンジ):長尺の細い丁番。薄い扉の反りを抑えたいときや、全長にわたってしっかり支えたいときに。
- オートヒンジ(スプリング内蔵):自閉機能をもつ丁番。小型のドアクローザー代わりに使うことがあります。
- ダンパー内蔵ヒンジ:ソフトクローズで「バタン」を防止。住宅収納・キッチンで主流。
- デザイン蝶番(装飾丁番):真鍮や鉄の意匠型。和洋の意匠に合わせて家具・建具の見せ場に。
現場で「家具ヒンジ」といえばスライド丁番、「建具丁番」といえば平丁番や旗丁番、「ピボット」は上下軸、「フロア」は床埋込タイプ、というイメージを持っておくと会話がスムーズです。
蝶番の選び方(失敗しない基準)
1. 扉のサイズ・重量と枚数
丁番は「どれだけの重さ・高さの扉を何枚で支えるか」で決まります。基本はメーカーの耐荷重表に合わせるのが鉄則です。一般的には、軽い室内木製扉なら2~3枚、重い扉や高い扉は3枚以上で支えるのが目安。スライド丁番も同様に枚数とピッチを仕様に従って配置します。
2. 扉の納まり(全かぶせ/半かぶせ/インセット)
家具・収納でスライド丁番を使う場合はここが最重要です。
- 全かぶせ:扉が側板を全面的に覆う納まり。
- 半かぶせ:左右の扉が側板を半分ずつ覆う納まり。
- インセット:扉が内側に収まる納まり。
それぞれ対応する丁番・台座が異なるため、合わない組み合わせにすると開かない/隙間が出るなどの不具合が起きます。カタログで「対応納まり」を必ず確認しましょう。
3. 材質と仕上げ(環境に合わせる)
- スチール(鉄):コスパ良好。室内向けの標準。
- ステンレス:防錆性が高く、湿気の多い場所や屋外に適合。
- 真鍮:意匠性が高く、経年変化を楽しむ家具や意匠建具に。
仕上げ(サテン、黒、真鍮色など)も内装デザインとの相性で選びます。水回りや海沿いなど腐食リスクの高い場所はステンレス推奨です。
4. 機能(ソフトクローズ/自閉/着脱性/調整範囲)
住宅やオフィスでは、ソフトクローズや三方向調整のある丁番が施工後の満足度を上げます。トイレや共用部では自閉機能(オートヒンジ)が便利なケースもあります。
5. 右勝手・左勝手
開き勝手は丁番選定の基本。扉を手前に引いて開ける位置で立ち、丁番が右にあれば右勝手、左にあれば左勝手が一般的な見分け方です。旗丁番や一部のヒンジは勝手が固定のため、発注ミスに注意します。
6. 施工条件(下地・ビス・クリアランス)
扉と枠のクリアランス(チリ)は、製品仕様と建具設計に依存します。丁番の厚み・曲げ形状で必要な隙間が変わるため、設計図とメーカー資料で事前確認。重い扉は下地補強やビスの下穴加工が必須です。
取り付け方の基本(プロが押さえるポイント)
木製建具の平丁番/旗丁番
- 位置決め:上から一定ピッチ(例:上端から200mm前後・下端から200mm前後、中間1枚)など、設計指示や慣例に合わせて決める。
- 彫り込み:埋め込みが必要なタイプはノミやトリマーで座板厚さに合わせて浅く掘る。面一を意識。
- 下穴:割れ防止と保持力のため、ビス径に合わせた下穴を開ける。
- 固定:仮止め→建付け確認→本締めの順。最初から強く締めすぎない。
- 建付け:扉と枠のチリ、床との擦り、戸先の当たりを確認・調整。
スライド丁番(カップヒンジ)
- カップ穴:専用の座ぐりビットでカップ径・深さを指定通りに加工。扉端からの距離も図面に従う。
- ビス固定:扉側に丁番本体、キャビネット側に台座を取り付ける。
- 調整:左右・前後・上下の三方向調整ネジで、面の通りと隙間を追い込む。
- ソフトクローズ:内蔵や別体のダンパー有無を確認。複数枚扉は動きのバラつきを合わせる。
スライド丁番は「対応納まり(全かぶせ等)」「台座の高さ」「かぶせ量」といった要素が相互に関係します。メーカーの組み合わせ表を参照するのが最速・最確実です。
ピボット/フロアヒンジ
- 芯位置:上・下の軸の芯を正確に通す。ここが狂うと開閉が重くなる。
- 躯体固定:フロアヒンジは床下の埋設やレベル出しが重要。鉄骨・コンクリートへのアンカー計画も事前に。
- 調整:閉じ速度、ストップ角度、左右のクリアランスを現地で微調整。
重量扉・共用部は関係者の安全に直結するため、経験者の監督下で施工し、必ずメーカー資料に従いましょう。
現場での使い方
言い回し・別称
- 「丁番」「蝶番」「ヒンジ」:ほぼ同義。家具はヒンジ、建具は丁番と言われやすい。
- 「旗(はた)」「平(ひら)」「スライド」「ピボット」:種類の略称。
- 「吊元(つりもと)」「戸先(とさき)」:丁番側が吊元、反対が戸先。
使用例(現場会話・指示の言い回し)
- 「ここは旗丁番でいこう。左右勝手、各3枚ずつで拾っておいて」
- 「この扉は全かぶせだから、スライドヒンジは全かぶせ用。台座の高さは図面通りで」
- 「建付け甘いね。ヒンジ側で1ミリ寄せて、戸先のチリそろえて」
使う場面・工程
- 建具吊り込み工程:枠が立ち、床が仕上がる前後で建具を仮吊り→調整→本吊り。
- 家具・造作据付工程:箱体設置後、扉を取り付け、調整・通り合わせ。
- 仕上げ工程:クロス・塗装に干渉しないよう養生し、最終調整・クリーニング。
関連語
- 台座(プレート):スライド丁番のキャビネット側部品。
- クローザー/ドアチェック:ドアの閉まりを制御する機器。
- かぶせ量/チリ:扉と本体の重なり・隙間の寸法概念。
- 勝手(右/左):開き方向の指定。
よくあるトラブルと対策
扉がこすれる・閉まりが悪い
- 原因:丁番位置ズレ、ビスの緩み、扉の反り、床レベル差。
- 対策:ビス再固定、スライド丁番の三方向調整、上丁番の増し締め、扉反りが大きい場合は連続丁番や補強の検討。
ビスが効かない・穴がバカになった
- 原因:下穴不適合、繰り返しの脱着、柔らかい下地。
- 対策:埋木(堅木)+木工用接着剤で穴を補修し、乾燥後に再タッピング。重い扉は長いビスや座金で保持力を確保。
異音・きしみ
- 原因:ピン部の摩耗、汚れ、偏荷重。
- 対策:可動部の清掃後、少量の潤滑(樹脂・塗装を侵さないシリコン系など)を点注。垂れや飛散に注意し、拭き取りを徹底。
ソフトクローズが効かない
- 原因:ダンパーの寿命、調整不足、扉重量の不一致。
- 対策:調整ネジで作動域を合わせる。非対応重量の場合は丁番仕様を見直す。劣化時は部品交換。
現場で信頼のある主なメーカー
- スガツネ工業(LAMP):日本の代表的金物メーカー。建築金物から家具金物までラインアップが広く、国内現場での採用が多い。
- BLUM(ブルム/オーストリア):スライド丁番・引出し金物の世界的メーカー。滑らかな動きと調整性が高評価。
- Hettich(ヘティヒ/ドイツ):家具金物大手。丁番・スライドレールともに住宅・オフィスで実績がある。
- HAFELE(ハーフェレ/ドイツ):総合家具金物ブランド。幅広い規格とアクセサリが強み。
同じ「全かぶせ用」でもメーカーごとに寸法体系や調整量が異なるため、同一メーカーで統一するのが安全です。交換時も型番互換を必ず確認しましょう。
安全・法規の注意
- 防火設備・特定用途の扉:認定品・指定金物以外の使用は不可。図面・メーカー指定に厳密に従う。
- 重量扉:複数人での施工、仮設支持具の使用、指挟み防止を徹底。
- 共用部・高頻度開閉:耐久性の高い仕様を選び、定期点検計画を立てる。
- 引渡し前確認:開閉の軽さ、チリ、ソフトクローズ作動、ビス緩み、干渉の有無をチェックリストで確認。
よくある質問(FAQ)
Q. 蝶番と丁番、どちらが正しい?
A. 現場では同義で使われます。図面・発注では「丁番」表記が多く、家具分野や一般向け記事では「蝶番」がよく使われます。
Q. 室内ドアの丁番は何枚が基本?
A. 扉の高さ・重量で変わります。一般的な木製室内ドアでは2~3枚が目安ですが、最終判断はメーカーの耐荷重表に合わせてください。
Q. スライド丁番のカップ径は?
A. 家具用では直径35mmが広く使われていますが、薄扉向けや小型では別径もあります。扉厚と合わせて、採用製品の仕様書で確認してください。
Q. 既存のヒンジを別メーカーに交換できる?
A. 可能な場合もありますが、穴位置・かぶせ量・台座規格が異なると建付けが崩れます。同等互換の有無を型番で確認し、試し付けやスペーサーで調整するのが安全です。
Q. バタンと閉まる音を小さくしたい
A. ソフトクローズ機能付き丁番への交換、別体ダンパーの追加、クッション材の貼付などで改善します。重量・扉サイズに合った製品を選ぶことが重要です。
現場で失敗しないチェックリスト
- 勝手(右/左)は合っているか。
- 扉重量・サイズと丁番の耐荷重が一致しているか。
- 納まり(全かぶせ・半かぶせ・インセット)に対応した製品か。
- 下地補強とビスの下穴加工を行ったか。
- チリ・通りを調整して、開閉がスムーズか。
- 可動部に干渉物や鋭利なエッジがないか。
まとめ:蝶番を制する者は建付けを制す
蝶番(丁番/ヒンジ)は、扉の動きと見映えを左右する要の金具です。種類と納まりを正しく理解し、扉の重量・サイズ・環境に合った製品を選ぶこと。取り付け時は位置決めと下穴、本締め前の調整を丁寧に行うこと。これだけで仕上がりは大きく変わります。今日の現場で「この扉、なんか決まらないな」と感じたら、まずは蝶番まわりを見直してみてください。きっと改善の糸口が見つかります。









