面内たわみを現場目線で理解する:意味・見分け方・納まり対策をやさしく解説
「図面で“面内たわみに注意”って書いてあるけど、結局どういうこと?」――内装の現場で初めてこの言葉に出会うと、そう感じる方は多いはずです。本記事では、職人や監督が日常的に使う現場ワード「面内たわみ」を、初心者にもわかる言葉で丁寧に解説します。意味の整理から、現場での使い方、簡易チェック方法、納まりのコツ、失敗しやすいポイントまで、実務ですぐ役立つ内容に絞ってまとめました。読み終えたときには、「何を確認して、どう納めればいいか」が自信を持って判断できるようになります。
現場ワード(面内たわみ)
| 読み仮名 | めんないたわみ |
|---|---|
| 英語表記 | in-plane deflection(in-plane drift, racking deformation) |
定義
面内たわみとは、壁・パネル・下地などの「自分の面(平面)の中」で起こる変位・たわみのことです。たとえば間仕切り壁の長手方向に押されて“平行にずれる”ような動きがこれに当たります。反対に、壁が室内側へ倒れ込む・押し出されるような動きは「面外たわみ」と呼び、方向が異なります。
内装の現場では、LGS(軽量鉄骨)間仕切り、ボード貼り壁、造作枠、建具枠、ガラスパーティションなどで、地震・風・人荷重・温度変化・コンクリートの乾燥収縮・躯体のクリープや不同沈下などが原因となって面内たわみが発生します。面内たわみを見誤ると、建具のこすり、目地割れ、ガラスの端欠け、巾木の浮き、シーリングの破断など、仕上がりや耐久性に影響が出るため、計画段階から「どの方向に、どれだけ動く可能性があるか」を見越した納まりが重要です。
現場での使い方
内装では「面内」「面外」を使い分けて指示・確認することで、納まりや金物選定のミスを避けられます。ここでは言い回し・別称、使用例、使う場面、関連語をまとめます。
言い回し・別称
- 面内変形/面内方向の変位
- ラッキング(racking)/平面内のくるい
- 平面内のズレ/壁の面内ドリフト
使用例(3つ)
- 「この間仕切り、層間変位で面内たわみが出る向きだから、端部はスライド納まりにしましょう。」
- 「建具枠は片側固定・反対側は面内で逃がす。シーリングも伸縮タイプに切り替えて。」
- 「ガラスのかかり代を増やして、面内たわみ時にエッジに応力が集中しないようスペーサーを調整してください。」
使う場面・工程
- LGS下地組み:ランナーへの固定方法、端部のスライド金物、長孔の向きの確認
- 建具枠取付:片側固定/片側スライド、クリアランス・シム調整、ヒンジの可動余裕
- ボード張り:伸縮目地の位置、端部の遊び、ビス固定のピッチと固め過ぎ防止
- ガラス取合い:エッジクリアランス、パッキン・スペーサーの選定、金物の追従性
- 見切り・巾木・役物:コーナーや開口周りのスリップ納まり、ジョイントの分割
- シーリング:可動量、下地のプライマー、目地幅・深さ、背充填材の選定
関連語
- 面外たわみ(out-of-plane deflection):壁が室内側・廊下側に倒れる向きの変形
- 層間変位(story drift):地震などで上下階の柱・梁位置が相対的にずれる現象
- クリアランス:動きを吸収するために設ける隙間
- スリップ(スライド)納まり:金物や長孔で変位に追従させる納まり
- 伸縮目地/エキスパンションジョイント:仕上げの伸縮・変位を吸収する目地
なぜ面内たわみが問題になるのか
面内たわみ自体は構造的な安全性の議論(建物全体の耐震性など)とは別軸ですが、内装仕上げの「見栄え」「納まり」「耐久性」を大きく左右します。代表的な不具合は以下の通りです。
- 開口の歪み:ドアのこすりやラッチの掛かり不良、オートクローザーの戻り不安定
- 目地割れ:ボード目地・シーリングの破断、巾木や見切りの浮き
- ガラスの端欠け:面内に偏荷重がかかり、かかり代不足やパッキン不良で破損
- 仕上げ剥離:タイル・石・化粧シートの端部からの浮きや音鳴り
- 設備干渉:配管・ダクト・カバー類が可動を阻害しビビりや破損を誘発
こうした不具合の多くは、設計図書で示された許容変位・可動方向を読み取り、現場で「固めるところ」と「逃がすところ」を正しく設計・施工できれば未然に防げます。
面内たわみの見分け方・簡易チェック
現場で「今は面内?面外?」を即断できると、金物の選択や納まりの判断が速くなります。簡易的な見分け方とチェック手順を紹介します。
- 壁の向きで判断:地震時に建物がX方向に揺れると仮定し、その方向と“平行な壁”は面内の影響を受けやすい。直交する壁は面外の影響を受けやすい。
- 開口の対角寸法:枠の対角をメジャーで測り、差が大きい場合は面内方向のラッキングを疑う。
- スライド金物の動き:端部にスライド金物を入れている場合、可動範囲のセンターにあるか、偏っていないかを目視確認。
- シーリングの状態:目地が一方向に引かれて痩せていれば、その向きに面内変位が出ているサイン。
- 床・天井の伸縮:長い廊下や大開口に隣接する壁は温度変化・乾燥収縮で面内変形が出やすい。季節や日照条件も考慮。
納まりと対策の基本方針
面内たわみへの対策は、大きく「可動方向に逃がす」「剛に固める」の使い分けです。どちらを採るかは、壁の役割(耐力の有無、遮音・防火の要求)、仕上げ種別、開口や設備の位置関係などで変わります。基本の考え方は以下の通りです。
- 可動を許容:端部・見切り・金物をスライド(長孔や専用金物)にして、変位を吸収する。
- 剛に固める:必要な位置でブレースや補強下地を入れ、可動が生じにくいようにする(ただし他部材に無理がかからないよう配慮)。
- 目地で分節:仕上げ面は伸縮目地やエキスパンションで分割し、1スパンあたりの累積変位を抑える。
- クリアランス設計:建具・ガラス・見切り部で必要な「逃げ」を事前に見込む。
LGS間仕切りの場合のポイント
- 端部納まり:柱・壁との取り合いは、面内可動を阻害しないようにスライド金物や長孔で接合し、ビスは締め込みすぎない。
- ランナー固定:長孔の向きを面内可動方向に合わせ、可動範囲の中央付近でセットする。
- 補強の入れ方:開口周りは面内で歪みが出やすい。枠回りに補強スタッドやたて枠プレートを配置し、片側固定+片側スライドで“逃げ”を作る。
- ボードと目地:長手方向に伸びる壁は、所定のピッチで伸縮目地を計画。端部はジョイナーや見切りで動きを吸収。
建具・ガラス周り
- 建具枠:片側固定・反対側スライドのセオリー。ヒンジ側は剛、召し合わせ側や上枠はクリアランスを確保。
- 金物:長孔付き座金やスライドブラケットを使用。ビスの本締めは“動きが出る”方向を阻害しない程度に。
- ガラス:かかり代(押さえ代)とエッジクリアランスを確保し、パッキンは応力を均等に伝えるものを選ぶ。
仕上げ・シーリング
- 弾性シーリング:可動量に見合う材質・目地設計(幅・深さ・背充填材)を選定。
- 硬い仕上げの分節:タイル・石は“面内の一体化”を避けるため、分割目地や縁の切り欠きを入れる。
- パテ・塗装:動きが集中する位置は、剛なパテで全面を固めすぎない。必要に応じて可とう性の下地処理を検討。
ざっくり計算・見積りの考え方(実務の感覚)
現場で「どれくらい逃がせば安心か」を感覚的に掴むための簡易式です。詳細は設計図書の許容値やメーカー仕様に従ってください。
必要スリップ量 s ≧ 想定変位 δ + 施工誤差 e + 余裕 m
- δ:構造設計・設備設計から読み取れる面内方向の相対変位(層間変位など)
- e:現場での取り付け公差(芯ズレ・反り・曲がりなど)
- m:温度・乾燥収縮・経年を見込んだマージン
たとえば、δ=8mm、e=2mm、m=3mmなら、s≧13mm。スライド金物の可動範囲が±10mm(計20mm)なら、可動の中心にセットしておけば理屈上は足ります。実際には、偏心や累積変位も考慮して、片寄りが出ないよう施工順序や固定位置を工夫します。
図面・打合せでのチェックリスト
- どの方向にどれだけ動くか(面内/面外、想定変位の大きさ)の情報が図面・仕様にあるか
- 壁の向きと揺れの方向の関係(面内影響を受ける壁の抽出)
- 開口部:建具・ガラスのクリアランス、片固定/片スライドの整理
- スライド金物の可動範囲と取付位置(中心セット・長孔の向き)
- 伸縮目地の位置・数量・仕上げとの取り合い
- 設備との干渉:ダクト・配管・ケーブルラック・カバー類の可動余裕
- 防火・遮音要求との両立:可動目地に入れる材料と性能の整合
- シーリング材の選定:可動量・暴露条件(屋内外、日射、清掃方法)
- 施工順序:どこを先に固め、どこを最後に遊ばせるかの段取り
よくある勘違い・失敗例
- 全部を強固に固定してしまう:一体感は出るが、面内たわみ時に弱点で割れる。逃がすべき場所を設ける。
- 長孔の向きが逆:面内可動方向に対して長孔が効いていない。取付前に現物で確認。
- スライド金物の可動範囲の端で取り付け:偏ってセットすると、実稼働時にすぐ限界に達する。
- 弾性シールの目地設計ミス:幅が細すぎ・深さが足りない・三面接着で可動が確保できない。
- ガラスのかかり代不足:面内荷重でパッキンが片側に寄り、エッジに応力集中→端欠け。
- 設備・カバーの橋掛かり:変位目地をまたいで連続物を付けてしまい、動きを拘束。
ケース別の考え方
長い廊下の間仕切り
温度変化・乾燥収縮・地震で面内に累積変位が出やすい。数メートル〜十数メートルで分節し、見切り・伸縮目地を計画。消火栓・誘導灯・掲示板などの固定物が橋掛かりにならないようチェック。
ガラスパーティション
ガラスは割れ感度が高い。かかり代・クリアランス・パッキンの弾性を最優先。押縁・床天レールの遊びを十分確保し、柱・梁取合いはスライド可動。搬入・施工時の楔・シム撤去忘れにも注意。
大開口の建具
開口の対角管理と枠の片固定・片スライドが基本。上枠はランナーとの取合いで可動を阻害しないよう長孔を活用。自動ドアや重い扉は、金物メーカーの可動量仕様に合わせて枠・壁側も整合させる。
面内たわみと面外たわみの違いを一言で
壁の「面の中でずれる」のが面内たわみ、「面から外へ曲がる」のが面外たわみ。どちらの影響が支配的かで、金物の向き・長孔の向き・逃がし方が変わります。現場で指示を出すときは、「面内で○mm逃がす」「面外のスリップを確保」など、方向を明示すると伝達がスムーズです。
用語ミニ辞典
- スリップ(スライド)納まり:ボルト・ビスを長孔や可動金物で留め、変位を許容する納まり。
- 伸縮目地:仕上げの伸縮・変位を吸収するために設ける意図的な目地。弾性シールや専用ジョイナーを用いる。
- クリアランス:部材間の隙間。可動・施工誤差・熱伸縮を吸収する余裕。
- 対角誤差:開口や枠の対角寸法差。面内ラッキングの指標。
- 層間変位:上下階の相対変位。壁の向きによって面内または面外として現れる。
現場で今日からできる実践ポイント
- 壁の向きと揺れの方向をまずスケッチし、「面内の壁」を赤でマーキング。
- 端部の金物は長孔の向きを確認し、可動範囲のセンターで仮固定→全体を見て本締め。
- 開口は対角を測って記録。枠は片固定・片スライドを徹底。
- 仕上げ目地は「割付の見た目」だけで決めず、可動の逃げもセットで設計。
- 設備・カバー・見切りは変位目地を跨がない配置に再調整。
よくある質問(FAQ)
Q. 面内たわみの許容値はどれくらい?
A. 設計条件や用途、仕上げ、メーカー仕様によって異なります。必ず設計図書・仕様書・各メーカーの技術資料で確認してください。現場判断で数値を決めるのは避けましょう。
Q. 面内と面外の両方に対応するには?
A. 方向ごとに可動金物・長孔の向き・目地計画を分けるのが基本です。両方向可動の専用金物が必要な場合もあります。現場にある「長孔=万能」ではない点に注意。
Q. とにかくガチガチに固めたほうが強いのでは?
A. 内装では「強さ=固める」だけでは不具合の原因になります。動きを適切に逃がすことで仕上げの健全性が保たれます。固める位置と逃がす位置のバランスが肝心です。
まとめ:面内たわみは「方向を見極めて、逃がしを設計」
面内たわみは、壁・下地が平面内でずれる動きのこと。地震や収縮・温度変化などで必ず起こり得ます。対応のコツは次の3点です。
- 方向を特定:壁の向きと揺れの方向から「面内」「面外」を判断。
- 逃がしを設計:スライド金物・長孔・伸縮目地・クリアランスで可動を許容。
- 固めどころを見極め:開口周りや性能部位は補強しつつ、他で無理をさせない。
この基本を押さえれば、「どこで何ミリ逃がすか」「どの金物にするか」「どの目地を入れるか」が論理的に決められ、仕上がりの品質と耐久性がぐっと上がります。現場で迷ったら、まず“方向”の確認から。面内たわみを味方につけて、納まり上手な現場をつくっていきましょう。









