現場でよく聞く「絶縁ジョイント」をやさしく解説—意味・目的・使い方・選定ポイントまで
図面や打合せで「ここに絶縁ジョイント入れておいて」と言われて、「それって何?どこに、どう付けるの?」と戸惑ったことはありませんか。絶縁ジョイントは、主に配管系の職種で登場する現場ワードですが、内装工事の工程や引き渡し後のトラブルとも密接に関わります。本記事では、初心者の方にもわかりやすく、現場で恥をかかない基本から、具体的な使い方・選び方・施工チェックまで、プロの目線で丁寧に解説します。
現場ワード(絶縁ジョイント)
| 読み仮名 | ぜつえんじょいんと |
|---|---|
| 英語表記 | insulating joint(isolation joint, dielectric union) |
定義
絶縁ジョイントとは、金属配管同士の電気的な連続性を意図的に遮断(絶縁)する継手・接合部の総称です。配管内外に流れる微弱な電流や迷走電流、異種金属接触による電位差を断ち、電食(腐食)や誤作動、雷・静電気の影響などを低減する目的で用います。代表的な形態には、工場一体成形のモノリシック型(MIJ)、フランジ面を絶縁材で区切るフランジ絶縁キット、ねじ込み配管で用いるダイレクト(ダイエレクトリック)ユニオンなどがあります。
現場での使い方
絶縁ジョイントという言葉は、水・空調・消火・ガスなどの配管工事や、電気・防災の取り合いでよく登場します。現場では「絶縁継手」「アイソレーションジョイント」「絶縁フランジ」と呼ばれることもあります。
言い回し・別称
- 別称:絶縁継手/アイソレーションジョイント(アイソジョ)/ダイレクトユニオン(ダイエレクトリックユニオン)/絶縁フランジ
- 略し方の例:絶縁J、アイソジョ、絶縁継
- 図面表記の例:MIJ、Insulating Joint、絶縁FLキット、Dielectric Union など
使用例(3つ)
- 「屋外の鋼管から屋内のステン管に切り替わる手前に絶縁ジョイント入れて、電食防止しておいて。」
- 「ポンプの吐出側はキャビネットに電気機器があるから、フランジは絶縁キットで組んでからメガチェックね。」
- 「ガスメーター手前のMIJは仕上げで隠さないこと。点検口位置は内装と調整して。」
使う場面・工程
- 異種金属の取り合い部(例:SGP⇄SUS、銅⇄鉄、ダクタイル鋳鉄⇄ステンレス)
- 建物の外部配管が屋内に入る境界部(電位差・雷サージの影響低減)
- ポンプや制御機器、計装機器の近傍(迷走電流が機器へ回り込むのを抑制)
- 防食区画の区切り(犠牲陽極・電気防食のセクション分け)
- ガス配管・オイル配管・消火配管の指定箇所(設計図書・要領書に基づく)
関連語
- 電食(でんしょく):電気的要因で金属が腐食する現象。異種金属接触腐食や迷走電流腐食が代表例。
- 異種金属接触腐食:電位の異なる金属が導通したときに起きる腐食。
- 迷走電流:本来の経路以外を流れる電流。鉄骨や配管を介して流れることがある。
- 絶縁フランジキット:ガスケット・スリーブ・ワッシャー等でフランジ同士を電気的に分離するセット。
- MIJ(モノリシック絶縁継手):一体成形の工場完成品。現場では溶接・フランジ等で接続して組み込む。
- ボンディング(等電位化):安全のため設備を電気的に接続すること。防食目的の絶縁と安全上の等電位化は設計思想が異なるため、計画に従い両立策(抵抗付きバイパス等)を検討する。
- エキスパンションジョイント:温度変化等の伸縮吸収部。絶縁ジョイントとは目的が異なる(混同注意)。
何のために必要?原理と効果
金属配管は見えないところで「電気の通り道」にもなっています。異種金属の接触や、機器のアース・落雷・近傍の電鉄線路などの影響で、微弱な電流が配管を流れると、電気化学反応により局所的な腐食(電食)が進みやすくなります。絶縁ジョイントは、配管系を電気的に区切って電流のルートを遮断し、腐食を抑制します。
また、計装・制御機器の誤作動リスクを下げたり、外部からのサージ(落雷等)の影響を低減する狙いもあります。ガス・油など可燃性流体の系統では、設備・人の安全の観点からも、事業者要領や設計仕様で設置が指定されることが多い部材です。
種類と構造(現場でよく使う代表例)
1. モノリシック絶縁継手(MIJ)
工場で一体成形された絶縁継手。継手内部に絶縁層が組み込まれ、外面は防食コーティングが施されているのが一般的です。フィールドでは溶接、ねじ込み、フランジ接続などで配管本体に組み込みます。特徴は、構造が一体で絶縁性能が安定し、組立部品の入れ忘れが起きにくい点です。
2. フランジ絶縁キット
フランジ面で配管を接続する際に、絶縁ガスケット(エポキシガラス、PTFEなど)、ボルト用の絶縁スリーブ、絶縁ワッシャーを組み合わせて、フランジ同士とボルトを電気的に遮断する方式です。既設ラインの一部更新時にも適用しやすく、サイズ・圧力クラスに柔軟です。施工ではスリーブやワッシャーの入れ忘れ、ボルトの過大・不足トルクに注意が必要です。
3. ダイエレクトリックユニオン(ねじ込み用)
ねじ込み配管で用いる絶縁継手。接続部に絶縁材を挟み込み、工具で着脱がしやすいのが利点。家庭用・小口径ラインにも登場しますが、絶縁抵抗や流体条件の適合範囲を確認して採用します。
選び方のポイント(失敗しない実務チェック)
- 流体と使用条件:水・温水・蒸気・ガス・油などの種類、常用圧力・温度、清浄度(スケール・錆)に適合する材質・構造か。
- 配管材料と接続方式:SGP・STPG・SUS・銅など母管材料との電食リスク、接続方法(溶接・フランジ・ねじ込み)との相性。
- サイズと圧力クラス:呼び径、JISフランジ呼び圧(例:10K、20K など)や規格適合性。
- 設置場所:屋外・屋内、機械室・天井内などの環境。点検・交換性、結露や腐食環境への耐性コーティング。
- 絶縁性能:設計・仕様書で求められる絶縁抵抗値や試験方法(例:500Vメガーでの測定)に合致するか。
- 安全・法令・要領:ガス事業者や発注者の標準仕様、監督員指示、設計図書の特記を最優先。電気設備の等電位化・ボンディングとの整合も事前協議。
- 保守と代替性:将来の更新容易性、標準的な入手性(納期・補用品)を考慮。
施工の基本手順とチェックリスト
共通の準備
- 図面・仕様で設置位置と方向性(矢印表示の有無)を確認。
- 周辺の金物(支持金具、吊りバンド、補強プレート)が絶縁を短絡しないか事前に干渉チェック。
- 塗装・防錆や保温の前に、組付けと試験の工程順を計画。
MIJを組み込む場合
- 仮組で芯出し・逃げ寸法を確認し、溶接熱影響・歪み対策を講じる。
- 矢印(流向)指定がある場合は方向を合わせる。
- 溶接後、外観・漏れ試験(気密・水圧)を実施し、乾燥後に絶縁抵抗を測定。
- 保温・保護前に、識別ラベルや点検可能な配置を再確認。
フランジ絶縁キットを組む場合
- フランジ面の清掃・小傷除去。絶縁ガスケットの座屈・欠けがないか確認。
- 各ボルトに絶縁スリーブ、内外ワッシャーを正しく組込み、金属ワッシャーとフランジが直接触れないようにする。
- 締付は対角線の倍掛け(スター)で、指定トルクを段階的に。過大トルクはガスケット損傷の原因。
- 締結後に導通チェック(抵抗測定)。意図せぬ短絡がないかを確認。
ねじ込み(ダイエレクトリックユニオン)
- 指定方向で組付け(ワンウェイ構造のものがある)。
- シール材の選定はメーカー指示に従う(絶縁構造を阻害しないもの)。
- 過締めによる絶縁体の割れに注意。漏れ試験と絶縁抵抗をセットで確認。
試験・検査の目安
- 絶縁抵抗:仕様書の基準に従い測定(例:500Vメガー)。配管と配管の間、ボルトとフランジ間などポイントごとに。
- 導通試験:想定外の導通がないか、金属支持・金具経由の短絡を含めて確認。
- 気密・水圧試験:漏れがないか、トルクの再調整が必要かを判断。
よくあるミスと対策
- フランジの絶縁スリーブ入れ忘れ:ボルトから短絡。組立チェックリストを用い、第三者確認を実施。
- 塗装・保温工事での短絡:金属バンドや補強板が橋渡しになる。非金属スペーサーを併用し、点検後に封じる。
- 設置場所の誤り:機器手前・屋外境界などの指定を読み違え。図面のディテール(DWG/ディテ)を確認し、監督員に指示確認。
- 過大トルクでガスケット破損:トルクレンチ使用、段階締付、再増し締めのタイミングを明確に。
- 絶縁測定の未実施:漏れ試験だけで終わらせない。メガーとテスターを常備し、記録を残す。
- 等電位化との矛盾:後工程でボンディングを付けられて短絡。電気・設備・内装で事前協議し、必要に応じて抵抗・サージ対応のバイパス方式を採用(設計指示に従う)。
内装現場ならではの注意点
- 点検性の確保:天井内・壁内に納まる場合は点検口を設ける。ガス系・重要配管は特に「隠さない」原則を徹底。
- ラベル・方向表示:仕上げで見えにくくなる前に、恒久的なラベルを取り付け。矢印や用途表示も忘れずに。
- 仕上げ材との取り合い:配管断熱・ラギングとボード・塗装の取り合いで、金属バンドが絶縁部を跨がないよう管理。
- 関連職との段取り:機器据付や試運転スケジュールと合わせ、絶縁測定のタイミング(前後)を共有。
メンテナンスと点検のコツ
- 定期測定:年次点検等で絶縁抵抗を記録管理。低下傾向があれば原因(錆の橋渡し、ガスケット劣化)を調査。
- 腐食・漏れの外観確認:フランジ部の錆汁、ウィーピング、塗膜の膨れは要注意サイン。
- 更新判断:絶縁性能の基準割れ、ガスケット損傷、機器更新時の規格変更に合わせて取り替え。
トラブル事例から学ぶ(ケーススタディ)
ケース1:異種金属切替で早期腐食
屋外の亜鉛めっき鋼管から屋内のステンレスへ切替。絶縁ジョイント未設置で数年後に局部腐食。対策は切替位置の見直しとMIJの追加、支持金具の絶縁スペーサー化。以後、腐食進行が止まりました。
ケース2:フランジ絶縁キットの入れ忘れ
ボルトスリーブ未使用により短絡。メガーで0Ω表示、再組立で改善。以後、キットの構成品チェックリスト化と、締結前後の導通測定を標準化しました。
ケース3:内装仕上げで点検不可
ガスメーター手前のMIJが天井内で塞がれてしまい、事業者点検で是正要求。点検口新設と位置ラベル付与。工程初期の内装・設備の調整会議の重要性を再認識。
よくある質問(Q&A)
Q1. 絶縁ジョイントはどの配管にも必要?
A. 必ずしも全てではありません。必要性は設計目的と環境条件(異種金属、屋外境界、機器の影響、事業者要領)で決まります。図面・特記仕様に従い、疑問は設計者・監督員に確認しましょう。
Q2. 絶縁ジョイントを付けると感電対策上まずい?
A. 防食上の絶縁は、電気設備の等電位化と目的が異なり、両者の要求が矛盾する場合があります。多くの現場では、設計で両立策(抵抗・サージを通すバイパス素子等)を定めます。独断でジャンパー接続すると目的を損なうので必ず指示に従ってください。
Q3. 絶縁抵抗はどれくらいあれば良い?
A. 要求値は案件ごとに異なります。一般にはメガオームオーダーの絶縁を求めることが多いですが、基準は設計仕様書で確認してください。測定は500Vメガーが一つの目安です。
Q4. 施工後に数値が落ちたら?
A. まず短絡要因(ボルトスリーブの破損・入れ忘れ、支持金具の橋渡し、錆の堆積)を疑います。順番に分離・清掃・再測定し、原因を切り分けます。必要に応じて部材の交換を行います。
チェックリスト(現場でそのまま使える)
- 設置位置・方向は図面と一致しているか。
- 接続方式(溶接/フランジ/ねじ)に適した型式を選定しているか。
- フランジキットのスリーブ・ワッシャーは全数組み込み済みか。
- 締付トルクは規定値か。対角線締めを実施したか。
- 漏れ試験後、絶縁抵抗を測定・記録したか。
- 支持・吊り金具が絶縁部を短絡していないか。
- 点検口・ラベル・保温納まりは維持管理に適しているか。
- 電気設備の等電位化との整合は事前協議済みか。
まとめ:絶縁ジョイントは「配管の安全と長寿命」を支える要の部材
絶縁ジョイントは、目立たない小さな部材ですが、電食の抑制や機器保護、設備の安定運用に直結する重要な役割を担っています。要点は、正しい場所に、適切な型式を、正しい手順で施工し、測定で確かめること。内装工程との取り合いでは点検性の確保と短絡リスクの排除が肝心です。この記事を手元のチェックリストとして活用し、現場での「分からない」を「できる」に変えていきましょう。
用語ミニ辞典(さらに理解を深めたい人へ)
電食(でんしょく)
金属が電気化学反応で溶ける現象。異種金属接触や迷走電流によって発生しやすく、漏水・破断・機器故障の原因になる。
迷走電流
本来想定されていない経路を流れる電流。鉄骨・配管・床スラブなどを介して回り込み、腐食やノイズの原因になる。
異種金属接触腐食
電位の違う金属同士が電解質(湿気・水)を介して接触することで、卑な金属が優先的に腐食する現象。
ボンディング(等電位化)
感電防止・雷保護・ノイズ対策のため、設備を電気的に接続して電位差を小さくする考え方。防食上の絶縁と目的が異なるため、設計の整合が必要。
エキスパンションジョイント
熱伸縮や振動を吸収する部材。絶縁ジョイントとは目的が違うため、併用時はそれぞれの要件(伸縮量・絶縁性能)を満たす必要がある。









