内装現場で使う「断熱材」を完全理解|意味・使い方・種類・施工のコツまで一気に解説
「断熱材ってそもそも何?どこにどう入れるの?」——初めて現場用語に触れると、似た言葉や素材が多くて戸惑いますよね。本記事は、建設内装の現場で毎日のように飛び交うワード「断熱材」を、初心者にもわかりやすく、実務に役立つ視点で解説します。意味・使い方から、種類ごとの違い、部位別の施工ポイント、よくある失敗までをまとめて確認できるので、読み終える頃には「図面の指示がスッと入ってくる」「職人さんとの会話が噛み合う」状態に。後悔しない材料選びと、現場で頼られる基本の施工判断を身につけましょう。
現場ワード(キーワード)
読み仮名 | だんねつざい |
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英語表記 | Thermal Insulation / Insulation Material |
定義
断熱材とは、熱の伝わりを抑えるために建物の壁・天井・床・屋根などに充填・貼付・吹付して使う材料の総称です。室内の暖冷房エネルギーのロスを減らし、結露やカビの発生を抑え、居住性・耐久性・省エネ性を高めます。グラスウールやロックウールなどの繊維系、発泡プラスチック系(ポリスチレンフォーム、ウレタン、フェノールなど)、セルロースファイバー等の自然系まで、素材により熱性能・耐火性・透湿性・施工方法が異なります。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では「グラス」「ロック」「スタイロ」「ネオマ」「ウレタン吹き」「断熱ボード」など、商品名や素材名の省略で呼ぶことがあります。図面上は「断熱材 t=〇mm」「GW16K 100」「XPS3種b 30mm」など、素材種・密度・厚みが指示されるのが一般的です。
使用例(会話・指示の実例)
- 「この外壁ライン、グラス16Kの100入れて、室内側は防湿シート先張りでね。」
- 「床下はXPS30ミリを根太間に、気流止めは柱間上端で。」
- 「水回りは発泡の連続断熱で欠損作らないように。配管周りはウレタンで充填して。」
使う場面・工程
主に内装下地工事の工程で使用します。木造では上棟後〜外装下地・サッシ取り付けと並行して壁・屋根に充填。鉄骨・RCの内装ではGL工法やLGS(軽量鉄骨)下地の直貼・充填・ボード貼りの前後で施工します。設備配管・電気配線との取合い調整、気流止め・防湿層・通気層の確保など、複数職種の段取りが重要です。
関連語
- 気流止め/防湿層(防湿フィルム)/通気層
- 熱橋(ヒートブリッジ)/結露(表面結露・内部結露)
- 遮熱材/吸音材/防音層/耐火被覆
- グラスウール(GW)/ロックウール(RW)/XPS・EPS/硬質ウレタンフォーム/フェノールフォーム/セルロースファイバー
断熱材の主な種類と特徴
無機繊維系(グラスウール/ロックウール)
ガラスや岩石を繊維状にしたマット状・ボード状の断熱材。多孔質で空気をため込むことで熱を伝えにくくします。
- 長所:不燃性、コスパが良い、吸音性に優れる、安定した品質で建築標準に馴染みがある
- 注意:施工の密実さで性能が左右されやすい(隙間・押し込みNG)。防湿層の位置づけが重要
- 主な用途:壁・天井・間仕切り、二重天井の吸音兼用、耐火間仕切りの充填
発泡プラスチック系(EPS/XPS/硬質ウレタン/フェノールフォーム)
樹脂に発泡体を形成した板・吹付フォーム。熱伝導率が低い製品が多く、厚みを抑えられるものもあります。
- EPS(ビーズ法ポリスチレンフォーム):軽量、コスパ良好、床・外断熱にも使用。吸水配慮が必要な部位あり
- XPS(押出法ポリスチレンフォーム):EPSより吸水しにくく、床・基礎外側・下地の不陸が少ない面に適する
- 硬質ウレタンフォーム:現場吹付で連続気密がとりやすい。ボード品もあり。高い断熱性能
- フェノールフォーム:非常に低い熱伝導率で薄くても高性能。耐火性にも配慮された製品が多い
- 注意:可燃材区分のものがあるため、仕上・下地・防火区画の取り合いに留意。屋内の露出使用不可なケースあり
自然系(セルロースファイバー/木質繊維/羊毛など)
紙や木質、羊毛由来の繊維を充填するタイプ。現場吹込みで空隙を埋めやすく、吸放湿による湿度緩和も期待されます。
- 長所:環境負荷の低減、調湿性、吸音性、隙間充填性
- 注意:指定の施工密度の確保や防湿・防露設計の整合、含水管理がポイント
性能の見方(カタログ・ラベルの読み解き)
断熱材は「熱を通しにくい」ほど有利ですが、同じ素材でも厚みや密度、施工状態で最終性能は変わります。以下を総合でチェックしましょう。
- 熱伝導率(λ):小さいほど高性能。比較は厚みとセットで
- 厚み(t):必要な断熱等級や地域区分に応じて設定。胴縁・下地寸法との兼ね合いを確認
- 密度・種類:グラスウールの10K/16Kなど、強度と吸音性、たわみに影響
- 透湿性:内部結露を抑えるため、防湿層の位置づけと合わせて判断
- 防火性:不燃・難燃の区分や、仕上げ材との組み合わせで法令適合を確認
- 吸音性:間仕切りや天井での遮音・吸音性能に関係
- 耐水性・吸水性:浴室周り・基礎・外断熱など、部位ごとの注意
- 環境性・健康性:リサイクル含有率、VOCなど室内空気質への配慮
施工の基本と「失敗しない」チェックポイント
1. 断熱ラインを連続させる
開口部まわり、梁・土台・間柱の取り合い、コンセントボックス、配管・ダクト周りは欠損や隙間が生じやすい場所。欠損は熱橋や結露の原因。切り欠きは最小にし、残りは同材や専用フォームで丁寧に充填します。
2. 防湿層(室内側)を切らない
寒冷地や冷暖房条件では、室内側に連続した防湿層(気密層)を設けるのが基本。継ぎ目は重ね貼り+気密テープで連続させ、貫通部はブーツ・テープで確実に処理します。
3. 通気・排湿の道を塞がない
外壁の通気層、屋根の換気スペースは断熱材がはみ出すと機能低下。厚みの選定・スペーサーの活用で、所定の通気寸法を確保します。
4. 圧縮もスカスカもNG
繊維系は「ふんわり密実」が基本。押し込むと性能低下、逆に隙間があると対流で効きません。規定厚みの空間を確保し、配線奥に先回りで充填します。
5. 気流止めを要所に
床下・天井裏・間仕切り内に流れる空気を止める「気流止め」が断熱の効きを大きく左右します。基礎と土台の取り合い、胴差し周り、間柱上端・下端などにボード・部材で確実に形成します。
6. 露出使用の可否・防火を確認
発泡系は原則、室内側で石膏ボード等の仕上げ材で被覆します。法規・仕様書に従って厚みや被覆材を選定します。
部位別の要点
外壁
充填断熱の場合、柱・間柱間にぴったりサイズでカットし、耳付きのグラスウールならステープルで固定。室内側で防湿シートを連続させ、コンセントボックスは防気カバーなどで処理。外側は通気層を確保します。
屋根・天井
屋根断熱では通気層の確保が特に重要。天井断熱は天井上に敷き込み、気流止めで小屋裏の空気と区画します。点検口周りは断熱欠損が出やすく、蓋にも断熱補強を。
床・1階土間
根太間充填または床合板下にボード状断熱材を連続貼り。基礎断熱の場合はXPSやフェノールを外周に連続して貼り、継ぎ目を気密処理。防蟻仕様の要否は設計・地域条件に合わせます。
浴室・水回り
配管貫通が多く欠損の温床。発泡系や現場発泡を使って、連続性と防湿・防水の取り合いを丁寧に。湿気の抜け道・点検性も考慮します。
間仕切り・遮音
LGSや木下地の間仕切りでは、遮音目的で繊維系を充填。双方向のボード枚数・目地ずらしとセットで性能が決まります。
よくあるミスとトラブル事例
- 防湿シートの穴あき・未テーピング:内部結露→カビ・断熱劣化の原因。穴は即補修
- 開口部まわりの欠損:窓周りの結露・冷気漏れ→小割で細かく充填し気密処理
- 断熱材の湿り・雨濡れ:性能低下・カビリスク→濡れたら乾燥・交換、現場養生を徹底
- 設備後施工での断熱切断:欠損放置→要補填・再気密。事前のスリーブ計画が有効
- 通気層の閉塞:外壁仕上げの不具合・湿気こもり→スペーサー・通気見切りで確保
メーカーと代表的な製品例(順不同・一例)
下記は日本の建築現場で広く知られるメーカーと代表的なカテゴリ例です。最新仕様・適用は各社公式資料で必ず確認してください。
- 旭ファイバーグラス株式会社:グラスウール断熱材の国内大手。住宅から非住宅まで幅広いラインナップ
- マグ・イソベール株式会社(サンゴバン・グループ):グラスウール・ロックウール系の主要メーカー
- 旭化成建材株式会社:フェノールフォーム断熱材「ネオマフォーム」など高性能ボードを展開
- カネカ:押出法ポリスチレンフォーム(XPS)ボード「カネライトフォーム」等で知られる
- JSP:XPS系断熱材「ミラフォーム」など樹脂発泡素材を供給
- 株式会社日本アクア:現場吹付の硬質ウレタンフォーム「アクアフォーム」等を施工提供
- 株式会社デコス:セルロースファイバー断熱材の施工・供給を行う
同じカテゴリでも性能値・防火区分・施工方法が異なるため、設計意図(外皮性能・防火・コスト・施工性)に合わせて選定します。
選び方の考え方(迷ったらここを見る)
- 省エネ性能の目標:求める外皮性能(断熱等級や地域条件)に応じてλ×厚みで必要性能を満たす
- 部位の条件:外壁通気層の有無、屋根の換気計画、床下環境(水分・白蟻)を考慮
- 工期・施工体制:職人の得意分野や現場規模。吹付が有利か、板材で確実にいくか
- 防火・法規:可燃材の被覆要件、界壁・竪穴・設備シャフトの区画条件に適合
- 維持管理:後で点検・更新しやすいか、濡れリスクが低いか
- コストバランス:材料単価だけでなく、施工手間・ミス耐性も含めた総合コストで判断
現場で役立つ小ワザ・プロのひと工夫
- 先に「欠損リスト」を作る:窓周り、コンセント、設備立上り、梁成の変化点などを図面でチェック
- 切りしろ+5〜10mm:繊維系は微妙に大きめにカットし、軽く密着させると隙間が出にくい
- ボックス裏は防気カバー:内装気密を確保しつつ、発熱・防火の取り合いも担保
- 継ぎ目は千鳥に:ボード系はジョイントを揃えずずらして熱橋・漏気を抑制
- 写真管理:断熱・防湿の施工状態は石膏ボードで隠れる前に記録。引渡し後の説明にも有効
リフォーム・改修でのポイント
既存建物では、壁内の状態が読みにくいのが難点。部分的な開口検査で構造・防湿の向き・配線密度を確認し、可能なら室内側からの付加断熱や、外装更新時の外張り断熱を検討します。既存の湿気問題がある場合は、先に通気改善・雨仕舞補修を優先。天井裏や床下は、気流止めの設置だけでも体感が大きく改善する事例が多いです。
よくある質問(FAQ)
Q. 断熱材は厚いほど良い?
A. 基本的には厚いほど熱は通りにくくなりますが、部位の納まり・通気・防火・コストのバランスが重要。必要性能を満たしたうえで、欠損ゼロと気密の確保が優先度高めです。
Q. 吹付ウレタンとグラスウール、どちらがいい?
A. どちらも適材適所。吹付は連続気密がとりやすく複雑形状に強い。一方グラスウールは不燃でコストに優れ、吸音も得意。設計意図と現場条件で選び分けます。
Q. 結露を防ぐコツは?
A. 防湿層を室内側で連続させること、通気層を確保すること、貫通部の気密処理を丁寧に行うこと。湿気の通り道を設計通りに作るのが肝心です。
Q. 断熱材はカビますか?
A. 無機繊維自体はカビの栄養になりにくいですが、濡れて含水が続くと周辺材でカビが発生しやすくなります。雨養生・湿気管理・防湿施工が重要です。
現場チェックリスト(配布用メモ)
- 断熱ラインは図面通りに連続しているか
- 窓・配管・ボックス周りの欠損と気密処理はOKか
- 防湿層の重ね・テーピングは連続しているか
- 通気層・屋根換気の確保に干渉していないか
- 濡れ・汚れ・圧縮・落下など施工不良はないか
- 法規上の防火区分・被覆要求を満たしているか
- 写真・是正記録を残したか
用語ミニ辞典(断熱まわり)
- 熱橋(ヒートブリッジ):金物や躯体を通じて熱が逃げやすい部分。付加断熱や間に断熱スペーサーで低減
- 気流止め:部位間の空気の流れを止める部材。断熱の効きを高め、結露を抑える
- 防湿層:室内側に設ける湿気のバリア。ビニールシートや気密シート、面材・塗膜で代替する場合も
- 透湿抵抗:湿気の通しにくさ。外側ほど通しやすく、内側ほど通しにくい「内弱外強」が原則
- 付加断熱:既存の充填断熱にさらに外側(または内側)から断熱層を追加すること
まとめ:言葉の意味がわかると、現場の“正解”が見えてくる
断熱材は、ただ「入れれば良い」材料ではありません。熱を止め、湿気をコントロールし、火に配慮する——複数の要件を同時に満たすことで、はじめて本来の性能を発揮します。現場ワードとしての「断熱材」の意味、素材ごとの違い、欠損ゼロと気密・防湿の基本、部位別の要点を押さえれば、設計意図を崩さずに高い施工品質へとつながります。迷ったら、連続・防湿・通気・防火の4点に立ち返り、メーカー資料・仕様書で裏を取る。これがプロの段取りです。今日の現場から、ひとつずつ実践していきましょう。