現場で使う「内装解体」完全ガイド:意味・使い方・手順と注意点
「内装解体って、何をどこまで壊すの?費用はどう決まる?どんな順番で進むの?」初めての方ほど、用語のイメージがつかみにくいものですよね。本記事では、建設内装現場で日常的に使われる現場ワード「内装解体」を、プロの視点でやさしく解説します。定義や使い方、工程の流れ、安全・法令のポイント、見積もりの見方まで、これだけ読めば疑問がスッキリする実践ガイドです。
現場ワード(内装解体)
| 読み仮名 | ないそうかいたい |
|---|---|
| 英語表記 | interior demolition / strip-out |
定義
内装解体とは、建物の躯体(柱・梁・床・壁などの構造体)を残し、内装仕上げ材や間仕切り、天井・床材、家具什器、設備(空調・衛生・電気の内装側機器)などを撤去する作業の総称です。目的は「原状回復(スケルトン・半スケルトン含む)」「改修・リニューアルに向けた既存撤去」「テナント入替に伴う造作撤去」など。建物を丸ごと壊す“建物解体”とは異なり、構造体を傷めずに分別・搬出する技術と段取りが求められます。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では以下の呼び方がよく使われます。
- 内装解体(標準的な呼称)
- スケルトン解体(内装を全撤去して躯体まで出す状態)
- 原状回復解体(退去時に入居前の状態へ戻す撤去)
- 部分解体(該当範囲に限定した撤去)
- 造作解体(造作家具・間仕切り等の撤去に焦点を当てる言い方)
使用例(3つ)
- 「明日から内装解体入るので、設備は今日中に止めておいてください。」
- 「今回は原状回復なので、スケルトンまで出してから墨出しやり直します。」
- 「梁型に絡む軽鉄だけ残して、他は部分解体して天井高さを確保しましょう。」
使う場面・工程
テナント退去、オフィス移転、店舗のリニューアル、住居の間取り変更などの場面で用いられます。工程としては、事前調査→仮設・養生→設備停止→分別解体→搬出→処分→清掃・引き渡し、の流れが基本です。新設工事に先立ち、既存を“ゼロベース”に整えるための準備工程という位置づけです。
関連語
- 躯体(くたい):構造体のこと。内装解体ではこれを傷つけないことが大前提。
- 養生(ようじょう):粉じん・騒音・傷を防ぐための保護措置。
- はつり:コンクリート等の部分的な斫(はつ)り作業。
- マニフェスト(産業廃棄物管理票):産廃の流れを管理する伝票。
- アスベスト事前調査:石綿含有の有無を事前に確認する手続き。
内装解体の目的と種類
原状回復内装解体
賃貸物件での退去時に、入居前の状態へ戻すための撤去。オフィスや店舗では、間仕切り・天井・床材・造作・設備機器(内装側)などを撤去し、次のテナントが使いやすい状態に整えます。契約で「スケルトン返し」「軽微な復旧のみ」など条件が異なるため、賃貸借契約書や内装制限を必ず確認します。
スケルトン解体
内装一式を撤去して躯体まで露出させる解体。新たに内装を一から作り込むリノベーションや店舗づくりで採用されます。梁・柱の形状や、既存の配管・配線ルートが露出するため、その後の設計自由度が高まります。
部分解体(選択解体)
必要な範囲のみ撤去する方法。例えばキッチンのみ入れ替える、床フローリングのみ貼替える、天井を一部撤去してダクトを通すなど。仕上がりの継ぎ目や既存との取り合いが品質のポイントです。
基本の工程(現場標準フロー)
1. 事前調査・計画
図面・現地の確認、仕上げ材・設備の種類、搬出ルート、養生範囲、使用時間帯の制限、共用部の使用ルールなどを洗い出します。石綿(アスベスト)の有無は最新の法令に基づき事前調査を実施し、必要な届出・掲示・養生・隔離・処理は専門の手順に従います。耐火被覆や天井裏の仕上げも対象です。
2. 近隣・管理会社との調整
工期・搬出時間・積込み場所・エレベーター養生の方法などを取り決めます。オフィスビルや商業施設では、管理規定に沿って申請が必要なケースが一般的です。
3. 仮設・養生
出入口・床・壁・エレベーター・搬出経路に養生を施し、粉じんの拡散を抑えるための簡易気密区画や負圧集じんの準備を行います。水回りは止水、電源は安全を確認し、必要に応じて仮設電源・照明を設けます。
4. 設備の停止・撤去準備
電気・空調・給排水・ガスなどの停止・切り回しを行います。専門職種(電気・設備)が安全に分離してから内装解体に移行するのが基本です。
5. 分別解体(上から順に、軽いものから)
天井材→壁仕上げ→軽量鉄骨(LGS)・木下地→床仕上げ→造作・什器→機器の順で、分別を意識して撤去します。ビス・ボルトの撤去、配線の識別、躯体へのダメージ回避を徹底します。
6. 搬出・仮置き・運搬
現場内で分別した廃材を仮置きし、台車や養生したエレベーターで搬出。共用部はこまめに清掃し、騒音対策・振動対策も行います。運搬車両の手配は搬出量とルートに合わせて調整します。
7. 処分・マニフェスト管理
法令に基づき適正に運搬・処分し、マニフェストで流れを管理します。木くず、金属くず、石膏ボード、廃プラスチック類、ガラス陶磁器くずなどに分けるのが一般的です。
8. 清掃・躯体補修・引き渡し
粉じん清掃、ビス穴・アンカー跡の補修などを行い、次工程(墨出し・下地工事・配線配管)へ引き継ぎます。写真記録を取り、図面との相違があれば是正・報告します。
費用の考え方と見積もりの読み方
内装解体の費用は、面積だけでなく「構造・仕上げの種類」「分別の手間」「搬出条件」「管理規定」「養生範囲」「発生廃材の量と性状」「工期」「夜間作業の有無」など多くの要因で変動します。坪単価で目安を語られることもありますが、現場条件により前後幅が大きいため、必ず現地調査のうえで見積もり比較を行いましょう。
見積もりの主な内訳項目
- 仮設・養生費(出入口・エレベーター・共用部養生、粉じん対策など)
- 内装解体工(天井・壁・床・造作・下地などの撤去手間)
- はつり工(モルタル・コンクリート部分の斫りがある場合)
- 設備分離・撤去(電気・空調・給排水の内装側処置)
- 搬出・運搬費(階段出し・エレベーター使用・車両手配など)
- 産業廃棄物処分費(分別・性状に応じた処理費)
- 雑工(想定外の軽微な作業や清掃)
- 共通仮設・現場管理費・一般管理費
比較のポイントは「撤去範囲の図示」「分別内訳の明確化」「養生レベルの記載」「処分先・マニフェストの運用」「追加費用の発生条件(想定外の埋設配管・残置物など)」の明確さです。単価が低くても養生や処分が不十分だと、後工程で品質・安全・関係者トラブルを招きやすくなります。
安全・法令・近隣配慮のポイント
石綿(アスベスト)への対応
石綿含有建材の有無は、法令に基づき事前調査を実施し、必要な届出・掲示・隔離・養生・個人防護具・集じん・適正処理を行います。天井材、床材、パテ、吹付材、外部に接する区画材など、対象は多岐にわたります。判定が難しい場合は、有資格者や専門機関に相談し、無理な推測で作業を進めないのが基本です。
労働安全衛生
防じんマスク・保護メガネ・手袋・安全靴・ヘルメットなどの個人防護具を適切に使用します。粉じん・騒音・振動作業は、機械の選定(低振動・集じん機能付き)、換気、散水、休憩サイクルの設定で負担を軽減。高所作業・感電・切創・飛来落下にも注意し、KY(危険予知活動)を実施します。
建設リサイクル・届出関係
一定規模以上の工事は、分別解体や届出が求められる場合があります。対象・手続き・提出先は地域や工事内容によって変わるため、最新の要件を元請・発注者・行政窓口で確認し、スケジュールに反映させましょう。
近隣配慮
作業時間帯・騒音・振動・粉じん・臭気(接着剤・塗料の剥離時)に配慮し、事前周知と当日の清掃・見回りを徹底します。エレベーター占有や車両の一時停車は管理者に事前相談し、クレームの未然防止に努めます。
内装解体でよく使う工具・資材
- バール・ハンマー・タガネ:仕上げ材のこじ開けや撤去の基本。
- レシプロソー・丸のこ:木製造作・下地の切断。刃の選定で金属・木・塩ビに対応。
- ディスクグラインダー:金属切断・研削。火花や粉じん対策を徹底。
- ハンマードリル・電動ブレーカー:斫り・アンカー撤去。
- 集じん機・送風機:粉じんの抑制・換気。負圧管理にも活用。
- 養生材:プラベニヤ、プラダン、ノンスリップマット、養生テープ、マスカー。
- 台車・かご台車:搬出効率化。共用部サイズに合わせて選定。
- 個人防護具:防じんマスク、保護メガネ、イヤマフ、耐切創手袋、安全帯。
代表的な電動工具メーカーとして、マキタ(日本の大手電動工具メーカーで現場採用実績が多い)、HiKOKI(旧日立工機。国内外で幅広く使用)、ボッシュ(ドイツ系。切断・研削系のラインナップが充実)などが挙げられます。機種選定は作業内容と安全要件、現場の電源条件に合わせて行います。
品質確保のチェックリスト
- 撤去範囲が図面・仕様と一致している(残すもの・壊すものが明確)。
- 躯体・サッシ・既存設備を傷めていない(必要箇所の養生が適正)。
- 分別が適切で、廃材の混入がない(処分費の過大化を防止)。
- アンカー・ビス・配管切り口の処理が安全で、次工程に支障がない。
- 天井裏・床下の残置物がない(見えない部分の最終点検)。
- 写真記録・マニフェスト管理が完了している。
- 清掃が行き届き、粉じんの残留が少ない(近隣・入居者配慮)。
よくある失敗と回避策
- 撤去ミス(残すべき配管・ケーブルを切断):事前マーキングと分離作業の専門職連携で回避。
- 養生不足によるクレーム:共用部・隣接テナントの養生を過不足なく設定し、巡回清掃をルーティン化。
- 粉じんトラブル:散水・集じん・負圧養生・こまめな小運搬で発生源を抑制。
- 想定外の埋設物:現地調査時の試験開口・サーモ等で事前把握し、見積に条件明記。
- 搬出渋滞:時間帯分散・台車導線の一方通行化・エレベーター予約で効率化。
内装解体後に続く工程との連携
内装解体は“前工程”ですが、仕上がりを左右します。墨出しのための床面清掃、アンカー跡の補修レベル、露出した躯体の凹凸や欠損の報告など、次工程(LGS・ボード、設備配管配線、内装仕上げ)と取り合いを密に行いましょう。特にスケルトンの場合、梁型やスラブレベルの差異は、天井高さや床仕上げ厚に直結するため早期共有が重要です。
ミニ用語辞典(関連ワード)
- 軽量鉄骨(LGS):壁・天井の下地材。内装解体ではビス撤去・切断で分離。
- GL工法:下地調整をモルタルで行う工法。はつり・剥離に注意。
- 墨出し:位置・高さ・芯を床や壁に記す作業。解体後の基準作りに必須。
- はつり:コンクリート・モルタルの削り取り。振動・粉じん対策が重要。
- スケルトン返し:テナント退去時に躯体現しまで戻して引き渡す契約形態。
- 二次製品:既製カウンターや什器など。固定方法を見極めて安全に撤去。
初心者が発注・立ち会いで意識したいこと
- 撤去範囲の線引き(「残す」「壊す」を図示・写真で共有)。
- 管理規定・近隣条件のヒアリング(エレベーター使用、騒音時間帯)。
- 安全・法令の確認(アスベスト事前調査、届出の要否)。
- 見積比較の軸(養生レベル、分別・処分の内訳、追加条件の明確さ)。
- 引渡し状態の定義(清掃レベル、補修範囲、写真記録の受領)。
まとめ:内装解体は「準備8割」—段取りと配慮が品質を決める
内装解体は、単に“壊す”作業ではありません。事前調査・安全計画・養生・分別・搬出・法令順守・近隣配慮が連動する、段取り重視の専門仕事です。現場ワードとしての「内装解体」の意味と使い方、工程や見積の考え方を押さえておけば、工程全体の理解が深まり、余計なトラブルを避けられます。これから内装工事に関わる方は、本記事のチェックポイントを活用し、信頼できる業者と丁寧にすり合わせて進めていきましょう。必要に応じて、工具・法令・処分方法などは最新情報を確認し、安全で質の高い解体を実現してください。









