現場でよく聞く「防塵塗装」をやさしく解説——基礎知識から施工手順、失敗しないコツまで
「床の防塵、入れておいて」「今回は防塵仕上げで」——内装や設備の現場でよく飛び交うこの言い回し、なんとなくイメージはできても、具体的に何を指しているのか曖昧…という方は少なくありません。この記事では、初心者の方でも迷わないように、防塵塗装の意味・効果・種類・施工手順・注意点までを丁寧に整理。現場での実践的な使い方や、見積もり・工程検討のコツもわかりやすく解説します。読み終わる頃には「どんな時に、どの仕様で、どう段取りすれば良いか」が自信を持って判断できるはずです。
現場ワード(防塵塗装)
読み仮名 | ぼうじんとそう |
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英語表記 | Dustproof Coating |
定義
防塵塗装とは、主にコンクリートやモルタルの床表面に薄い塗膜(または含浸材)を形成し、表面の粉化や発塵を抑えて清掃性を高めるための塗装・処理の総称です。工場・倉庫・機械室・駐車場・共用部など、常時歩行や軽度な台車走行のある床で用いられ、仕上がりは半艶~艶有りの着色またはクリア。強度増しの厚膜「塗り床」ほど重装ではない、比較的ライトで短工期・低コストな床仕上げです。
防塵塗装の目的と効果
「床の粉が舞って製品が汚れる」「掃除してもすぐに黒ずむ」「見た目を整えて引き渡したい」。こうした課題に対し、防塵塗装は次の効果を発揮します。
- 発塵の抑制:レイタンスや表層の微粉を封じ、歩行や台車走行で塵が立ちにくくなる。
- 清掃性の向上:汚れが染み込みにくく、モップや掃除機が掛けやすい。
- 吸水防止:コンクリートの微細孔を塞いで水・油の浸透を低減。
- 美観向上:色ムラや補修跡を目立ちにくくし、空間の印象が締まる。
- 軽度の耐摩耗:厚膜塗り床ほどではないが、素地むき出しより摩耗に強い。
一方で、重量フォークリフトが常時走る、薬品が頻繁にこぼれる、衝撃や熱にさらされる等の過酷条件では、厚膜のエポキシ・ウレタン系「塗り床(モルタル含む)」を検討した方が安心です。
適用場所と「向き・不向き」
現場で迷ったら、使用条件(荷重・走行頻度・薬品・清掃方法)と求める寿命・予算・工期で判断します。
向いている場所
- 一般倉庫・物流拠点の歩行・軽台車エリア
- 機械室・電気室・ボイラー室などの設備室
- マンション共用廊下やゴミ置き場の床(屋内相当)
- 店舗バックヤード、事務所内のコンクリート床
- 短工期の改修現場、仮設もしくはコスト重視の仕上げ
注意・不向きなケース
- 重量フォークリフトが常時走る(厚膜塗り床を推奨)
- 強アルカリ・強酸・溶剤が頻繁にこぼれる(薬品仕様の塗り床が安全)
- 常時濡れる・屋外で日射雨掛かりが強い(屋外対応品や別仕様が必要)
- 新設直後で含水率が高い(乾燥待ち、あるいは高含水対応品を検討)
塗料・材料の種類と選び方
「防塵塗装」と一口に言っても、材料はいくつかのタイプがあります。現場条件に合うものを選ぶことが大切です。
- 水性アクリル/アクリルウレタン系:低臭・短工期・コスト重視。発塵抑制と美観確保が目的の一般エリアに適する。
- 溶剤形エポキシ(2液):付着性・耐久性が高く、油や擦れに比較的強い。換気・有機則対応が必要。
- 水性エポキシ(2液):低臭と性能のバランスが良い。改修など短工期で臭気制限がある現場に使いやすい。
- ウレタン系(1液・2液):耐摩耗・柔軟性・耐候を狙う仕様で採用。屋内の負荷中程度に。
- 無機系含浸材(シリケート等):塗膜を作らず、表層密度を上げて発塵と吸水を抑える。素地感を活かすクリア仕上げに。
選定ポイントは、臭気規制(稼働中施設は水性有利)、求める耐久性、下地含水率、温湿度と露点、工期(可使時間・乾燥時間)、予算、将来の再塗装性です。迷ったら「水性エポキシ2液で標準仕様、負荷が軽いなら水性アクリル」という考え方が扱いやすいです。
施工手順(現場の基本フロー)
製品仕様が最優先ですが、現場での一般的な流れとポイントを押さえましょう。
1. 事前調査・試験
- 含水率:一般に8%以下が目安。高含水対応品でなければ乾燥養生を延長。
- 下地強度:表層が脆いと剥離リスク。簡易引っかきやテープ試験で確認。
- 汚れ・油分:油染みは密着不良の元。アルカリ洗浄や溶剤拭きで徹底除去。
- ひび割れ・欠け:Uカット・充填やエポキシパテで補修。段差は研削で整える。
- 環境:気温5~35℃、相対湿度85%以下、露点差3℃以上を確保(製品指示に従う)。
2. 下地処理
- 研磨・目荒らし:レイタンス除去にサンダー、ショットブラスト、ダイヤ研磨などを選択。
- 清掃:産業用掃除機で微粉を除去。エアブローは粉の再付着に注意。
- 補修:ピンホールや巣穴は下地調整材で埋め、乾燥後再研磨・清掃。
- 養生:立上り・巾木・設備基礎・誘導標示などを丁寧にマスキング。
3. プライマー(シーラー)
下地に含浸させて付着を確保。吸い込みが激しい場合は2回目を検討。ローラー・刷毛でムラなく塗布し、規定乾燥時間を守ります。
- 塗布量の目安:0.10~0.20kg/m²(製品による)
- 乾燥時間:1~6時間程度(温湿度と製品に依存)
4. 上塗り
ローラー2回塗りが一般的。1回目を均一に伸ばし、乾燥後に2回目で色ムラ・ピンホールを潰します。骨材を少量配合すると防滑性が上がります。
- 1回あたりの膜厚:30~80μm程度(製品による)
- インターバル:2~8時間程度(再塗り可能時間に注意)
- 可使時間(2液):20~60分程度。混合は必要量ずつ、計量厳守。
5. 養生・引渡し
- 歩行可能:8~24時間
- 台車・軽車両:24~48時間
- 普通車両:48~72時間
上記は一般目安。低温・高湿では延長が必要です。養生中は立入禁止・換気継続・埃の飛来対策を行い、端部のテープは塗膜が完全硬化する前に剥がすとエッジが綺麗です。
現場での使い方
「防塵塗装」という言葉は現場では幅広く使われ、言い回しやニュアンスにバラつきがあります。通じる言葉を押さえつつ、仕様を具体化して誤解を防ぎましょう。
言い回し・別称
- 床防塵/防塵仕上げ(一般的な略称)
- フロアトップ(床用上塗りの総称的に呼ぶことがある。製品名が一般化した言い方)
- シーラー+上塗り薄膜(仕様を表す現場表現)
- 含浸防塵(無機系含浸材で塗膜を作らないタイプ)
使用例(3つ)
- 「機械室の床、今回は防塵で色はグレー、ラインは後日で。」
- 「倉庫B区画は下地弱いから、プライマー強めで防塵2回仕上げね。」
- 「臭い制限あるから水性エポで防塵、週末で完了目標に段取りしよう。」
使う場面・工程
- 新築引渡し前の床仕上げ(美観確保と発塵抑制)
- 改修で短工期が求められる物流・店舗バックヤード
- 入居中施設での夜間・週末工事(低臭の水性品が有利)
- 工程順:下地調査→清掃・研磨→補修→プライマー→上塗り×1~2→養生→引渡し
関連語
- シーラー(プライマー):付着と吸い込み止めのための下塗り
- 塗り床(厚膜):エポキシ・ウレタンの高耐久床。防塵塗装より重装
- 防滑仕上げ:骨材混入やノンスリップ仕様
- 含浸強化材:シリケート等で表層を緻密化、塗膜レスで防塵
よくある失敗と対策
- 白化(ブリッシング):高湿度・結露が原因。露点差を確保し、換気と加熱養生、低温向け製品の選定で回避。
- ベタつき・硬化遅延:配合比ミスや低温が要因。重量比で正確に計量し、温調・硬化待ちを徹底。
- 剥がれ・めくれ:油分・レイタンス残り、含水率過多が典型。徹底洗浄と機械的下地処理、含水確認が必須。
- ピンホール・泡:空気巻き込みや素地の吸い込み。ローラーの転がし過ぎ注意、1回目で吸い込みを止めてから2回目。
- 色ムラ・艶ムラ:塗り継ぎ時間差や日の当たり方が原因。区画で一気に塗り切る段取り、湿潤端部の管理が有効。
- 滑り:艶有りは濡れると滑りやすい。必要に応じて微粒骨材で防滑化、清掃時の注意喚起を行う。
品質基準の目安とチェックポイント
- 付着:テープ剥離で容易にめくれない、素地破壊傾向がある。
- 膜厚・塗布量:仕様値を満たす。必要に応じ膜厚計で確認。
- 外観:ローラー目が目立たない、色ムラが許容内。
- 端部・巾木:ラインが通っており、にじみ・はみ出しがない。
- ピンホール:目立つ孔がなく、連続した塗膜が確保されている。
- 清掃性:モップ掛けで引っかかりなく、粉が手に付かない。
安全衛生・法令のポイント
- 換気:溶剤形は強制換気を基本。水性でも可使時は換気を心掛ける。
- PPE:手袋・保護メガネ・マスク(有機溶剤用)。撹拌・塗布時は皮膚曝露を避ける。
- 有機溶剤中毒予防規則:溶剤形では該当するため、作業主任者選任・作業環境・掲示など法令遵守。
- 火気厳禁:溶剤形は引火性に注意。現場火気管理・静電気対策。
- 周知:立入禁止の標示、湿塗膜への踏み込み防止、臭気クレーム予防の周辺通知。
施工に必要な道具・機材
- ローラー(中~短毛)・刷毛・ローラーハンドル・トレー
- 撹拌機(低速ミキサー)・計量器・混合容器
- サンダー・ダイヤカップ・ショットブラスト(現場条件に応じて)
- 産業用掃除機・ほうき・集塵機
- マスカー・養生テープ・ビニールシート
- 温湿度計・露点計(または露点計算アプリ)・含水率計
- スパイクシューズ(塗装面の歩行が必要な場合)
代表的なメーカー例(順不同)
床用の防塵塗料・関連材料を扱う代表的な国内メーカーの一例です。各社、用途や環境に応じた多様な製品ラインアップを展開しています。製品選定は最新カタログ・技術資料をご確認ください。
- 関西ペイント:総合塗料メーカー。床用の水性・溶剤形、エポキシ・ウレタン系などを展開。
- 日本ペイント:総合塗料メーカー。工場・倉庫向けの床用塗料シリーズをラインアップ。
- エスケー化研:建築仕上げに強いメーカー。床用の水性系を含む多様な製品を提供。
- 大日本塗料:重防食から建築まで幅広い。床用エポキシ・ウレタン系を取り扱い。
- 中国塗料:工業・船舶分野で実績。産業用床向け製品も展開。
- アトミクス:床用・防水など実用塗料に強み。防塵・塗り床分野の製品を多数扱う。
費用相場と工期の目安
- 水性アクリル系防塵塗装:1,000~2,500円/m²(下地処理・ライン・補修別)
- 水性エポキシ系(2液):1,800~3,500円/m²
- 溶剤形エポキシ系:2,500~4,500円/m²
- 無機系含浸材:1,200~2,500円/m²
- 最低発注金額・駐車場費・夜間割増などは別途。広さ・下地状態で大きく変動します。
工期の目安は、100~300m²程度なら1~2日(下地が良好で水性仕様の場合)。下地研磨・補修が多い、または低温期はさらに日数を見込みます。
メンテナンスと再塗装のタイミング
- 日常清掃:乾拭き・モップ・バキュームで粉と砂を除去。砂が摩耗を早めます。
- 洗浄:中性洗剤で汚れを落とし、水拭き後はしっかり乾燥。
- ゴム汚染:黒ずみ対策にマットやキャスター材質の見直しを。
- 再塗装目安:3~7年(負荷・清掃頻度・材料による)。艶引け・摩耗・色抜けが兆候です。
再塗装時は剥離部の入念な下地処理と、既存塗膜との適合性(上塗り可否)を必ず確認します。
防塵塗装と他工法の比較
- 防塵塗装(薄膜):短工期・低コスト・清掃性向上。重荷重・薬品は不得手。
- 厚膜塗り床(エポキシ・ウレタン):高耐久・耐薬品・耐摩耗。コストと工期は増加。
- 無機系含浸強化材:素地感を活かしつつ発塵抑制。色合わせや表面欠陥隠しは苦手。
- 防滑仕様(骨材入り):濡れや勾配部に有効。清掃性はやや低下。
よくある質問(Q&A)
Q. 新設コンクリートはいつから防塵塗装できますか?
A. 目安として28日以上の養生後、含水率が仕様値(例:8%以下)に下がってから。高含水対応の水性エポキシ等でも、露点管理と下地強度の確認は必須です。
Q. 臭いを抑えたいのですが、どの材料が良いですか?
A. 水性アクリルや水性エポキシが有力候補です。稼働中施設では夜間換気を併用し、においの周知と動線分離を徹底します。
Q. フォークリフトがたまに入る程度なら防塵で大丈夫?
A. 低頻度・軽量機種・ノーパンクタイヤで直線走行中心なら運用可能な場合もありますが、急旋回や荷重集中が多いと摩耗・剥離のリスクが高まります。試験施工や厚膜仕様の検討をおすすめします。
Q. 既存の不明塗膜の上に塗れますか?
A. 付着確認の試験塗りが安全です。適合しない場合は全面研磨で既存塗膜を撤去するか、相溶性の高いプライマーを選定します。
ケーススタディ:こう考えると失敗しにくい
例えば、築10年の倉庫で粉が舞うとの相談。現地では油染みとクラック、レイタンス残り。臭気制限あり。こんな時は「機械研磨→脱脂洗浄→クラック補修→水性エポキシ2液でプライマー+上塗り2回」を基本に、骨材微量添加で防滑、乾燥は週末の48時間確保。これで発塵低減と清掃性を両立し、臭気クレームも回避できます。
用語ミニ辞典
- レイタンス:コンクリート表面に残る脆弱な微粉層。密着不良の原因。
- 可使時間(ポットライフ):2液反応型で、混合後に施工可能な時間。
- 露点差:表面温度と露点の差。小さいと結露し白化や付着不良が起きる。
- ピンホール:塗膜に生じる微小孔。下地の吸い込みや泡が原因。
まとめ:現場で迷わないための要点
防塵塗装は「粉を止めて、清掃しやすく、見た目を整える」ための薄膜床仕上げです。材料は水性/溶剤、エポキシ/アクリル/ウレタン、含浸系など多様ですが、現場の臭気制限・含水率・負荷条件・工期で素直に選べばOK。成功の鍵は、下地処理の丁寧さ、露点と乾燥の管理、配合比とインターバルの厳守、そして区画を「塗り切る」段取りです。言い回しとしては「防塵」「床防塵」で通じますが、実務では「材料」「回数」「色」「養生時間」まで具体化すると齟齬がなく、安全で美しい仕上がりにつながります。現場で判断に迷ったら、本記事のチェックポイントに立ち返ってみてください。