スリーブの基本が丸わかり:配管・配線の貫通に欠かせない理由と現場での使い方
「図面に“スリーブ入れ”って書いてあるけど、そもそも何? どんなときに必要? 大きさはどう決めるの?」——初めて建設や内装の現場に入った方から、よくいただく疑問です。この記事では、現場で日常的に使われるワード「スリーブ」を、内装・設備・躯体の視点からわかりやすく解説します。役割や種類、寸法の考え方、施工手順、よくあるミスまで、実務に役立つ内容を丁寧にまとめました。読み終えた頃には、図面指示の意図がスッと理解でき、現場でのやり取りにも自信が持てるはずです。
現場ワード(キーワード)
読み仮名 | すりーぶ |
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英語表記 | sleeve(pipe sleeve / penetration sleeve) |
定義
スリーブとは、配管・電線・ケーブル・ダクトなどが壁・床・天井などの躯体や間仕切りを貫通する際、その通り道としてあらかじめ設置する「保護用の筒(管)」のこと。主な目的は、貫通部の保護、施工スペースの確保、仕上げ精度の維持、防火・防水・止水・遮音などの性能確保です。新築では型枠に固定してコンクリート打設時に一体形成する方法が一般的で、改修ではコア抜き後にスリーブを挿入・固定します。配管やケーブルの交換・増設がしやすくなるメリットもあり、各職種の取り合いを円滑にする“現場の橋渡し役”ともいえます。
スリーブの役割とメリット
なぜ必要なのか(基本の5機能)
スリーブが現場で重宝される理由は、以下の通りです。
- 保護:配管やケーブルが躯体の角で擦れて傷むのを防ぐ
- クリアランス確保:施工時の通しやすさ、後の入替・増設を容易にする
- 性能確保:防火・止水・遮音などの貫通部処理を“やりやすく・再現性高く”する
- 仕上げ品質:内装の見切りを整え、クラックや欠けを抑える
- トレーサビリティ:開口位置が明確になり、他職との干渉や誤穿孔を防ぐ
スリーブと開口の違い
「開口」は単に穴や孔を設ける行為・状態を指す言葉で、そこに保護管(スリーブ)を設けるかは別問題です。高い再現性や性能が求められる貫通部は「開口」+「スリーブ」+「適切な貫通処理(防火・止水・遮音など)」のセットで考えるのが基本です。
スリーブの種類と材質
用途別の主な種類
- 一般スリーブ:配管・ケーブル等の通線・通管用。内装・設備で最も一般的。
- 防火スリーブ:防火区画(耐火・準耐火)貫通に使用。認定工法とセットで施工。
- 止水(防水)スリーブ:地下や水廻りで漏水を防ぐ目的。止水リング等と併用。
- 可とうスリーブ:地震時の躯体相対変位に追従するタイプ。外装・躯体貫通で使用。
- 化粧スリーブ:仕上げ見切りと美観重視。エスカッション(化粧座)と併用。
材質の特徴
- 塩ビ(PVC・VP管等):軽量・加工容易・コスト良好。内装や一般設備で多用。
- 鋼製(薄鋼板・亜鉛めっき・ステンレス):強度・耐久・耐火性に優れる。外部や防火区画、機械室など。
- ポリエチレン・ゴム系:止水リングや可とう性が必要な部位で併用。
現場では「VP50の短管でスリーブ作っといて」のように、身近な管材を流用してスリーブとして使うケースが多いです。防火・止水が求められる場合は、認定を受けた部材・工法の採用が必須です。
寸法選定の考え方(失敗しないクリアランス)
基本の考え方
スリーブ内径は「通すものの“外径”+必要クリアランス」で決めます。クリアランスは施工性、保温・保護材の厚み、防火・止水工法の要求寸法を考慮します。
- 配管(裸管)の目安:外径+20〜30mm程度
- 配管(保温あり):外径+保温厚×2+10〜20mm程度
- ケーブル束・PF/CD管束:束径+10〜20mm程度
- ダクト:ダクト外寸+周囲クリアランス(最低でも10mm以上)。大開口は枠・補強検討
例えば、50A(外径約60.5mm)の鋼管を裸で通す場合、スリーブ内径は75〜100mmが現実的。保温厚が20mmなら、内径は最低でも100〜125mm程度が目安です。最終的には、図面・仕様書・メーカーの認定工法の要求値を優先します。
長さ(出代)と納まり
- 壁:仕上げ面でツラ、または数ミリの出代を取り、後で化粧座やシーリングで納める。
- 床:仕上げ面ツラ〜数ミリ上がりで段差・防水を考慮。床仕上げ厚を見込んで設定。
- 天井内:干渉物(ダクト・ブリダ・吊り材)とのクリアランスに注意。
コンクリート躯体貫通の場合は、型枠厚さと躯体厚を合算した長さで事前にカットします。改修の後挿入では片側面で固定し、必要に応じてモルタル+シールで仕舞います。
施工手順(新築・改修)
新築での先行スリーブ
- 1. 墨出し:中心・レベル・躯体位置を確認。鉄筋・スリーブ干渉を事前調整。
- 2. 固定:型枠へ釘・ビス・番線・タイラップ等で確実に固定。ずれ防止の当て木や治具も有効。
- 3. 打設:コンクリート流入防止の栓(養生)を実施。浮き・傾き・位置ズレに注意。
- 4. 脱型後:栓を外し、内外面のバリ・スラッジを除去。必要な貫通処理へ。
改修での後施工スリーブ
- 1. 位置決め:配筋探査・配線探査を実施し、安全位置を確定。
- 2. コア抜き:所定径で穿孔。粉じん・防音・防振に配慮。
- 3. 挿入固定:スリーブを挿入し、モルタル・アンカー・シーリングで固定。
- 4. 仕舞い:防火・止水の必要があれば認定工法で処理し、化粧座で見切る。
現場での使い方
言い回し・別称
- 別称:スリーブ管、袖管、貫通スリーブ
- 略語・口語:「スリーブ入れ」「袖入れ」「袖通し」
- 関連指示:「先行スリーブ」「後施工スリーブ」「防火スリーブ」「止水スリーブ」
使用例(会話・指示の実例)
- 「この壁、給水50Aが通るから、100のスリーブを先行で入れといて。保温あるから大きめで。」
- 「ここ防火区画だから、認定の防火スリーブで。ケーブル束の隙間は耐火パテで塞いでね。」
- 「床は後貼りフロアだから、スリーブは仕上がりツラで止めて、化粧座で見切る納まりにしよう。」
使う場面・工程
- 設備先行:RC躯体の型枠建込み時に配管・配線の貫通位置へ先行設置。
- 内装工程:軽量間仕切りや二重床での配線・配管通過部に化粧・見切り目的で使用。
- 改修工事:コア抜き→スリーブ挿入→防火・止水処理→仕上げ。
関連語
- 開口(コア抜き)、ボイド、インサート、アンカー
- 耐火パテ、ロックウール、耐火シーリング材、バックアップ材
- 化粧座(エスカッション)、止水リング、パッキン
- PF管・CD管、VP管、ダクト見切りリング
防火・止水・遮音:貫通部の性能確保
防火区画を貫通する場合
防火区画(耐火・準耐火)を貫通するスリーブは、評価・認定を受けた工法に従うのが必須です。一般的には、スリーブ+耐火パテ・モルタル・ロックウール等の組み合わせで、貫通後に規定の充填厚・両面処理・はみ出し寸法を守って施工します。スリーブ径や隙間の許容値、ケーブルの本数や被覆材の条件など、認定の“適用範囲”を必ず確認しましょう。
止水が必要な場所
地下・ピット・屋外貫通などでは、漏水や逆流対策が求められます。止水スリーブ(フランジ付)や止水リング・膨張材を併用し、スリーブ外周の打ち継ぎ目・貫通部の周囲を確実にシールします。配管側でも防水継手や防水シールを組み合わせ、二重三重の対策とするのが実務的です。
遮音・気密の配慮
ホテル・病院・オフィスなどの間仕切りを貫通する場合、遮音や気密確保が重要です。スリーブと管・ケーブルの隙間は、指定の遮音シーラントやバックアップ材で施工し、両面処理・厚み・幅を図面通りに守ることが品質の要です。
よくあるミスと防止策
- 位置ズレ:型枠固定が甘い、墨の転記ミス。→当て木・貫通治具で固定、複数基準からのダブルチェック。
- 径不足:後から保温・化粧座が入らない。→早期に設備・内装と情報連携し“完成外形”で設計。
- 防火不適合:認定外の材料・手法で施工。→必ず認定番号と施工手順書を確認、写真管理徹底。
- 止水不良:外周シール抜け、打ち継ぎ部の隙間。→止水リング・二次シール・水張り試験で検証。
- 仕上げ割れ・欠け:ツラ調整不足。→端部の面取り・バリ取り・化粧座の座彫りを丁寧に。
- 干渉:梁・スラブ筋に当たる。→配筋図と照合し、必要なら設計と代替位置を調整。
現場で役立つチェックリスト
- 用途は?(一般/防火/止水/遮音)
- 通すものの外形(保温・被覆を含む)と施工クリアランスは十分?
- 材質(PVC/鋼製/ステンレス)と長さ(出代)は適切?
- 新築先行か、改修後施工か。固定方法・養生は?
- 認定工法の番号・手順・適用範囲を確認済み?
- 干渉(配筋・梁・ダクト・設備機器)チェックは完了?
- 仕上げ納まり(化粧座・シール色・見切り)は合意済み?
- 写真・記録(位置・寸法・材料・認定書)は保存できている?
代表的なメーカー・資材(例)
スリーブは多くの場合、一般的な管材を活用します。用途に応じて以下のようなメーカー・資材を現場でよく見かけます。
- 塩ビ管(VP・VU等):積水化学工業(エスロン)、クボタケミックスなど——軽量・加工が容易で、内装や設備の一般スリーブに使いやすい。
- 鋼製スリーブ・電設用部材:未来工業など——電設資材メーカーで、貫通部材・ボックス・PF/CD管関連も豊富。
- 防火貫通部材・耐火パテ:ヒルティ、3M(スリーエム)など——各種の防火認定工法・製品を展開。適用範囲に従って使用。
製品や工法は物件仕様・認定条件で異なるため、採用時は必ず最新のカタログ・認定書・施工要領書を確認してください。
内装との取り合いと美観のポイント
スリーブは“見えないところの仕事”と思われがちですが、最終的な見え方を左右します。壁・天井の仕上げ前にスリーブの出代や水平・垂直を確認し、化粧座(エスカッション)やシーリングの色・幅を揃えると、仕上がりの印象が格段に向上します。床では清掃性や水の溜まりを避けるため、ツラ調整や面取り、シールの段差処理まで気を配ると良いでしょう。
ケーススタディ:こんなときどうする?
ケース1:ケーブル増設に備えたい
将来の増設を見込む場合は、束径を見込んだ余裕を持たせるか、空スリーブを近傍に設置します。空スリーブには必ず養生栓をし、行き先ラベルを貼っておくと迷いません。
ケース2:防火区画をケーブル束で貫通
認定工法で「ケーブル束径」「スリーブ径」「充填材の厚み・片面/両面処理」が規定されています。束の構成が変わると認定条件から外れることがあるため、施工前に現場の実情と認定書を突き合わせましょう。
ケース3:地下外壁での止水
止水スリーブや止水リングを使用し、コンクリート打設前にしっかり固定。外周は打ち継ぎ部に膨張材シール、内外面は二次シールでリスクを分散します。通管後の管周りにも防水シールを追加し、導水経路を断ちます。
FAQ(よくある質問)
Q. スリーブ径はどれくらい大きくすればいい?
A. 目安は「外径+20〜30mm」。ただし保温・被覆の有無、認定工法の要求値、化粧座の外径を考慮して決めます。迷ったら一段階大きめにし、最終は図面と要領書を優先してください。
Q. スリーブは必ず入れないとダメ?
A. 性能や仕上げが求められる貫通部では基本的に推奨・指定されます。とくに防火・止水が必要な場所は、スリーブ+貫通処理がセットで計画されます。
Q. スリーブの材質は何を選ぶべき?
A. 内装で一般的なのは塩ビ(軽くて加工が楽)。外部・防火区画・機械室・高荷重では鋼製・ステンレスが安心です。要求性能とコスト、施工性でバランスを取ります。
Q. 化粧座は必須?
A. 必須ではありませんが、見切りと清掃性が向上し、シールの劣化も隠せます。意匠性が求められる内装では付けることが多いです。
図面・現場指示のコツ
スリーブは「位置・高さ・径・材質・性能・納まり」をセットで指示すると伝わりやすく、手戻りを減らせます。
- 位置・高さ:通り芯・基準からの寸法、床・天井レベル
- 径:通過物の外形+クリアランス(保温・化粧座考慮)
- 材質・長さ:PVC/鋼、出代、端部処理
- 性能:防火/止水/遮音の要否と工法番号
- 納まり:化粧座の有無、シール色、片面/両面処理
安全・品質・工程管理のポイント
- 探査の徹底:後施工は配筋・設備・電線の探査が安全の要。
- 固定と養生:打設時の浮き・ズレ・モルタル流入を防止。
- 記録写真:材料ラベル、設置前後、寸法、認定工法の要点を撮影。
- 他職連携:設備・電気・内装・躯体の取り合いは日々共有。
- 検査タイミング:配筋検査・型枠検査・内装下地検査で位置と径を再確認。
まとめ:スリーブは“段取り”で品質が決まる
スリーブは、単なる筒ではなく「後工程をスムーズにし、性能と仕上がりを支える重要部位」です。適切な径と材質、認定に則った貫通処理、内装の見切りまでを含めて計画すれば、やり直しやトラブルは大幅に減ります。迷ったら「何を通すか」「どんな性能が必要か」「最終の見え方はどうしたいか」を整理し、図面・要領書・メーカー資料を確認しましょう。現場での一言「ここ、スリーブどうする?」が、品質と工程を守る合言葉になります。