現場で耳にする「ケレン」って何?意味・種類・具体手順を内装プロがやさしく解説
内装や改修の現場で「ここ、先にケレンしておいて」「ケレンが甘いと密着しないよ」なんて会話を聞いて、正直ピンと来なかった…という方は多いはず。ケレンは仕上がりと耐久性を左右する、とても大切な下地処理です。本記事では、現場で実際に使われる言い回しから、種類、手順、工具の選び方、安全対策まで、初心者の方にもわかりやすく丁寧に解説します。読み終えるころには、「ケレンってこういうことだったのか!」と不安が解消され、自信をもって現場で使える知識が身につきます。
現場ワード(キーワード)
読み仮名 | けれん |
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英語表記 | Surface preparation(表面処理・下地調整)/Rust removal, Scraping, Sanding(状況により使い分け) |
定義
ケレンとは、塗装・防水・接着・床仕上げなどの前に行う下地調整の総称です。具体的には、錆(さび)、旧塗膜の浮き、汚れ、コンクリートのレイタンス(弱い表面層)、付着した油脂やホコリなどを除去し、必要に応じて「目荒らし(微細な傷をつける)」を行って、次工程の材料(塗料・プライマー・接着剤など)の密着性を高めます。手工具(スクレーパー・ワイヤーブラシなど)、電動工具(グラインダー・サンダーなど)、研磨材(ペーパー・不織布)を使い分け、対象物(鉄・アルミ・ステンレス・木材・モルタル・コンクリートなど)に合わせた方法で実施します。
ケレンの目的と必要性
ケレンのゴールは「長持ちする仕上がり」をつくることです。どれだけ良い材料を使っても、下地に錆やホコリ、弱い層が残っていると、早期の剥がれ・浮き・白化・膨れなどの不具合が出やすくなります。ケレンで余分なものを取り除き、表面を適度に粗くすることで、機械的結合(がっちり食いつくこと)と化学的結合(プライマーとの反応・濡れ性向上)が働き、密着力が安定します。さらに、微細な割れや欠陥を見つける「診断の機会」にもなるため、施工全体の品質を底上げする要所です。
ケレンの種類(1種〜4種)と国際的な表現の目安
現場では、ケレンの程度を「1種〜4種」で言い分ける慣習があります。塗装分野の素地調整基準に由来する呼び方で、内装現場では簡略的な意味で用いられることが多いです(正式基準は工事仕様書・メーカー資料に従ってください)。
- 1種ケレン:ブラストなどで素地をほぼ金属光沢まで露出させる重作業。建築内装では登場頻度は低め。
- 2種ケレン:電動工具(ディスクグラインダー、電動ワイヤーブラシなど)で酸化物・旧塗膜の除去を主体とする中~重作業。
- 3種ケレン:手工具(スクレーパー、皮スキ、手ワイヤーブラシ)中心で浮きや錆、付着物を除去する一般的な作業。
- 4種ケレン:軽度の清掃・脱脂・拭き取り・サンディングなどの簡易的な下地調整。
海外規格では、ブラストの清浄度を示す「Sa2.5」や、手工具・動力工具の仕上がりを示す「St2/St3」などが目安として使われます。日本国内の内装改修では、工事仕様書に「素地調整(例:St2相当)」のように記載される場合もあります。要点は、呼称よりも「どの程度まで取り除くか」「どの程度粗くするか」を現場で合意し、写真・試験・サンプルで確認することです。
現場での使い方
ケレンは職人同士の指示や確認でよく登場します。言い回しや別称、実際の会話例、登場する工程、関連語をまとめます。
言い回し・別称
- ケレンする/ケレンかける/ケレン出し
- 素地調整/下地処理/サンディング/目荒らし(特に非鉄金属や樹脂)
- 錆落とし/レイタンス除去/ハツリ(コンクリートを物理的に削る場合)
使用例(3つ)
- 「鉄骨の角、旧塗膜が浮いてるから、2種ケレンでいこう。ディスクは#60スタートで。」
- 「長尺シートの前に、床のレイタンスが強い。全面ケレンしてからプライマーね。」
- 「アルミ見切りは足付けが命。#240で軽く目荒らしして、脱脂忘れないで。」
使う場面・工程
- 鉄部塗装前:錆・旧塗膜の除去、エッジの面取り、油分除去。
- 床仕上げ前:コンクリートのレイタンス除去、接着剤残渣の除去、平滑化。
- 防水・シーリング前:密着不良部の撤去、目地や端部のクリーニング、プライマー前の足付け。
- 金物・非鉄金属(アルミ・ステンレス)への塗装や接着:軽い目荒らしと確実な脱脂。
関連語
- 素地調整:ケレンを含む広い概念。清掃・脱脂・研磨・補修を含めた下地づくり。
- 目荒らし(足付け):表面に微細なキズをつけ、密着を高める処理。
- レイタンス:コンクリート表面の脆弱層。除去しないと接着不良の原因。
- プライマー:ケレン後に塗布して密着力を高める下塗り材。
ケース別:具体的なケレンの手順
ケース1:鉄部(スチール)の塗装前ケレン
- 1. 現況確認:錆の範囲、旧塗膜の浮き、素地欠損の有無をチェック。写真記録。
- 2. 養生と安全:火花・粉塵養生、周辺保護。保護メガネ、手袋、防塵マスクを着用。
- 3. 粗取り:浮いた塗膜・厚錆はスクレーパーや皮スキで除去。
- 4. 動力ケレン:ディスクグラインダー(#36〜#80)や電動ワイヤーブラシで錆や酸化皮膜を除去。エッジは面取り。
- 5. 手ケレン・仕上げ:ワイヤーブラシ、不織布(スコッチブライト相当)で凹部の残りを取る。
- 6. 除塵・脱脂:集塵機で吸引し、ウエスと溶剤で油分除去。手脂対策も忘れずに。
- 7. すぐに下塗り:フラッシュラスト(急速な再錆)を防ぐため、可能なら当日中にさび止めプライマーを塗布。
ケース2:コンクリート床の仕上げ前ケレン(長尺シート・タイルカーペット・塗床など)
- 1. 調査:レイタンスの強さ、含水率、旧接着剤残り、段差や欠けを確認。
- 2. 粗取り:スクレーパーで厚い接着剤や汚れを除去。必要に応じてハンドスクレーパーを「ケレン棒」として使用。
- 3. 機械ケレン:サンダーやダイヤモンドカップで面を均し、レイタンスを除去。集塵機接続で粉塵を抑える。
- 4. 清掃:産業用掃除機で徹底除塵。油染みはアルカリ洗浄や溶剤拭きで脱脂。
- 5. 補修:欠けや巣穴はパッチング材で補修し、再研磨で平滑化。
- 6. プライマー:仕様に合うプライマーを塗布し、開放時間を守って次工程へ。
ケース3:アルミ・ステンレス金物への塗装・接着前
- 1. 脱脂:シリコーンオフなどで徹底的に脱脂。ワイプは清潔なものを使用。
- 2. 目荒らし:#180~#320のサンドペーパーや不織布で軽く均一に足付け。
- 3. 再脱脂:粉塵・油分を完全に除去。
- 4. 適合プライマー:金属用(非鉄金属対応)のプライマーを選定し、薄く均一に。
工具・研磨材の選び方(内装でよく使うもの)
手工具
- スクレーパー/皮スキ:浮いた旧塗膜、接着剤、汚れの粗取りに。
- ワイヤーブラシ:凹凸部の錆落とし、軽度の目荒らしに。
- ケレン棒:長柄のスクレーパー的に使い、床の広面積を立ち姿勢で作業。
電動工具
- ディスクグラインダー:鉄部の2種ケレンに。砥石やフラップディスクを使い分け。
- ランダムサンダー/ベルトサンダー:木部・床・金物の均しや目荒らしに。
- ダイヤモンドカップ+集塵機:床のレイタンス除去や段差修正に有効。
研磨材の番手の目安
- 荒作業:#36~#80(厚い錆・旧塗膜、レイタンスの強い面)
- 中仕上げ:#100~#150(均し、面の整え)
- 足付け・最終:#180~#320(アルミ・ステンレスや仕上げ前の軽い目荒らし)
番手は「数字が大きいほど細かい」点がポイント。素材の硬さや次工程の要求(例:意匠面の平滑性)に合わせて選びます。
安全対策・養生と環境配慮
- 個人防護具:保護メガネ、手袋、防塵マスク(粉塵が多い作業は防じん機能付き)、耳栓。
- 粉塵対策:集塵機連動、養生シート・養生テープで間仕切り、HEPA対応の掃除機が有効。
- 火花・火気管理:金属研磨時は火花が出るため、可燃物の撤去、消火器常備、火気厳禁エリアの確認。
- 騒音配慮:時間帯の調整、近隣への周知、低騒音工具の活用。
- 廃棄物:剥離した旧塗膜・研磨粉じんは分別回収。アスベスト含有の可能性がある場合は事前調査・法令順守。
品質確認とチェックポイント
- 目視と触診:浮き・錆・粉じん・油分が残っていないか。白いウエスで拭いて汚れが付かないか。
- 表面粗さ:次工程の推奨粗さ(メーカー資料)に近いか。粗すぎても仕上がり低下の原因。
- テープテスト:簡易な密着確認として、プライマー後にテープで剥離がないかを見る場合がある。
- タイミング:ケレン後はできるだけ速やかに次工程へ。時間が空くと再汚染・再錆のリスク。
- 記録:作業前後の写真、使用工具・番手、養生・清掃の記録は品質の裏付けになります。
よくある失敗と防止策
- 表面だけきれいで、浮き層が残っていた:スクレーパーで「音」や「感触」を確認。疑わしい箇所は一段深く当てる。
- 粗すぎて仕上げに傷が出た:番手を段階的に上げて仕上げる。エッジは軽く当て、角を立てない。
- 脱脂を忘れて密着不良:油分は目視で分かりづらい。最後に溶剤拭きをルーティン化する。
- 粉じん残りでプライマーが乗らない:集塵とウェット拭きの併用。乾燥を待ってから次工程。
- 再錆(フラッシュラスト):金属はケレン後すぐ下塗り。梅雨時や多湿環境では特に注意。
「ケレン」と「ハツリ」「剥離」「洗浄」の違い
- ケレン:研磨・削り・ブラッシング・清掃・脱脂を含む総合的な下地調整。
- ハツリ:コンクリートを機械的に削り取る作業。ケレンより除去量が多い重作業。
- 剥離:薬剤や熱、機械で旧塗膜・接着剤をはがす行為。ケレンの一部として行うこともある。
- 洗浄:水洗い・高圧洗浄・薬品洗浄など。油脂や汚れの除去が中心で、目荒らし効果は限定的。
代表的なメーカーと製品の例(選定の参考として)
特定製品の推奨ではなく、現場でよく見かけるメーカー例です。実際の採用は仕様書・安全データシート(SDS)・現場条件に従ってください。
- 電動工具
- マキタ(Makita):グラインダー、サンダー、集塵対応の豊富なラインナップ。
- ハイコーキ(HiKOKI):ハイパワーなグラインダーやサンダーが充実。
- ボッシュ(BOSCH):集塵一体型や低振動モデルなど、室内改修向けも多い。
- 研磨材・不織布
- スリーエム(3M):不織布(スコッチ・ブライト)や各種研磨ディスク。
- NCA(日本研紙):紙ヤスリ、布ヤスリ、フラップディスクなど番手が豊富。
- 塗料・プライマー
- 日本ペイント:鉄部用さび止め、下塗り材が多種。
- 関西ペイント:エポキシ系プライマーや建築内装向け塗材。
- エスケー化研:改修向けプライマー、防水・外装仕上げ材も充実。
- 養生・清掃
- トラスコ中山:養生資材、ワイヤーブラシ、スクレーパーなど汎用工具。
- 各社産業用集塵機:HEPA対応モデルは室内改修で特に有効。
語源の豆知識(参考)
「ケレン」の語源には諸説あり、ドイツ語の「Kehren(掃く)」に由来するという説や、英語の「clean」をもじった業界俗語という説などが語られます。ただし、いずれも明確な学術的根拠が定まっているわけではなく、業界の慣用語として定着した表現と捉えるのが適切です。現場では語源より「どこまでやるか」が重要です。
チェックリスト:明日の現場でそのまま使える
- 対象は何か(鉄・コンクリ・木・非鉄金属)を確認したか。
- 除去の目標(1~4種の程度目安、メーカー推奨の素地調整)を合意したか。
- 工具・番手・集塵の段取りは整っているか。
- 養生・安全・廃棄の計画はできているか。
- ケレン後、すぐに次工程へ移れるよう材料と時間を確保したか。
よくある質問(Q&A)
Q. 目で見てきれいならケレンは不要ですか?
A. 不要ではありません。油分や粉じん、微細なレイタンスは目視で見落としがち。最低限のサンディングと脱脂・除塵は行いましょう。
Q. 1種・2種・3種・4種の指定がない場合は?
A. 使用する材料のメーカー仕様に従うのが基本です。鉄部塗装なら、一般的には3種~2種程度が多いですが、現況(錆・浮き)次第で調整します。
Q. 室内でグラインダーは粉じんが心配です。
A. 集塵機連動、低粉じんの砥石や不織布の使用、養生での区画化、作業時間帯の調整でリスクを下げられます。可能なら手ケレン+不織布で代替する手もあります。
Q. 非鉄金属(アルミ・ステンレス)へのケレンのコツは?
A. 強い研磨は厳禁。細目のペーパーや不織布で軽く足付けし、徹底的な脱脂を優先します。適合するプライマー選定が鍵です。
Q. どのくらい粗くすれば良いか分かりません。
A. 仕上げ材料の技術資料に「推奨表面粗さ」や「下地条件」が記載されています。サンプル面での事前テストと写真共有が安心です。
まとめ:ケレンは「見えない工程」こそ最重要
ケレンは、仕上げの美しさと耐久性を支える“見えない仕事”です。素材と目的に応じた工具・番手の選択、丁寧な除去・目荒らし・脱脂・除塵、そしてすぐに次工程へ進む段取り。この基本ができていれば、塗装も防水も床仕上げもグッと長持ちします。現場で「ケレンが甘い」と言われたら、除去の程度、足付けの粒度、清掃・脱脂の有無を見直すサイン。この記事を手元のチェックリスト代わりに、安心・確実な施工につなげてください。