現場ワード「框組（かまちぐみ）」をやさしく解説｜意味・構成・使い分け・施工の勘所
建設内装の現場で「この扉は框組でいく？」「鏡板どうする？」といった会話を耳にして、意味が分からず不安になったことはありませんか。框組は、建具や造作家具の扉によく使われる基本構造のひとつ。言葉のイメージだけでは掴みにくいですが、仕組みが分かると図面の読み方や現場調整がぐっとスムーズになります。本記事では、初心者の方にもわかりやすく、職人目線で「框組」の意味・使いどころ・メリット／デメリット・施工のポイントを丁寧に解説します。読み終えるころには、現場で飛び交うやり取りの意図が理解でき、明日からのコミュニケーションが楽になるはずです。
現場ワード（框組）
| 読み仮名 | かまちぐみ |
|---|---|
| 英語表記 | frame-and-panel construction（stile and rail construction） |
定義
框組とは、縦方向の「縦框（たてかまち）」と横方向の「横框（よこかまち）」で四方の枠を組み、その内側に「鏡板（かがみいた：パネル）」をはめ込む「枠＋パネル」の建具・扉の構造です。木材の反りや伸縮を逃がしつつ、枠が全体を剛性高く支えるため、内装の木製建具（室内ドア、収納扉）、造作家具の扉、腰壁パネルなどで広く採用されます。接合は、ほぞ組み（ほぞ・ほぞ穴）、相欠き、留め、込み栓などが使われ、鏡板は四周の溝（鏡板溝）に「遊び」を確保して浮かせるのが基本です。
框組の基本と構成要素
框組を理解する近道は、部材の名前と役割を知ることです。最低限、以下を押さえれば現場会話のほとんどが通じます。
- 縦框（たてかまち）：扉の左右に立つ主材。見付（正面から見た幅）が意匠に効く。強度の要。
- 横框（よこかまち）：上下や中間に入る横材。上框・下框・中框とも呼ぶ。
- 中桟（なかざん）：大判の鏡板を分割したいときに入れる補強兼意匠材。
- 鏡板（かがみいた）：枠の中にはまるパネル。無垢、突板合板、MDF塗装、樹脂板、ガラスなど多様。
- ほぞ・ほぞ穴：框同士を直角に強固に組む伝統的な接合部。耐久性・精度に直結。
- 鏡板溝：框の内側に切る溝。鏡板が四周で差し込まれ、クリアランスにより季節伸縮を吸収。
- 見付（みつけ）／見込み（みこみ）：見付は正面幅、見込みは厚み方向の寸法。意匠と強度の指標。
要は、枠（框）が骨格、鏡板が“面”で、骨と皮の役割分担をさせているイメージです。これにより、扉の反りや割れを抑えながら加工・メンテナンス性や意匠の自由度を確保できます。
どこで使われる？具体例と特徴
框組は、次のような内装要素でよく見かけます。
- 室内木製ドア：框組戸（例：上下で鏡板を分割する2枚鏡、クラシックな4枚鏡、ガラスを入れる上部オープンなど）
- 収納扉・造作家具：框組＋ガラスで軽やか、框組＋塗装で高級感、框組＋ルーバーで通気性を確保
- 腰壁・装飾パネル：框で目地をデザイン化し重厚感を演出
- 建具のアレンジ：上部ガラス（上開口）＋下部鏡板、猫扉用の小開口など
「上がり框（玄関の段鼻材）」と混同しがちですが、上がり框は床段差の見付材のことで、構造の呼び名ではありません。文脈が“扉”や“パネル構造”であれば、框組の意味だと考えて差し支えないでしょう。
框組のメリット・デメリット
メリット
- 反り・伸縮に強い：鏡板が浮いているため、無垢材でも季節による動きを逃がせる。
- 剛性が高い：枠が力を受け持ち、長期的に建て付けが安定しやすい。
- 意匠の自由度：中桟の入れ方やパネル素材で表情を変えやすい（ガラス、突板、MDF塗装など）。
- メンテナンス性：破損時に鏡板のみ交換など部分対応がしやすい設計にできる。
デメリット
- 製作コスト・手間：ほぞ加工や精密な組みが必要で、フラッシュ構造より工数が増える。
- 重量が出やすい：無垢や厚い框を使うほど重量が増し、金物選定にも影響。
- 埃溜まり：段差・框目地に埃が溜まりやすく、清掃頻度を考慮する必要。
- クリアランス管理が必要：鏡板の逃げ不足は割れ・音鳴りの原因、過多はガタ付きの原因に。
フラッシュ扉・ベタ芯との違い
現場では、扉構造を大きく「框組」「フラッシュ」「ベタ芯（無垢一枚や積層）」で使い分けます。
- 框組：枠＋パネル。反りに強く意匠性が高い。コストは中〜高。
- フラッシュ：外周枠＋中空＋薄い面材（合板や化粧板）でサンド。軽量・量産向き・安価。エッジはテープや無垢貼り。
- ベタ芯：無垢や積層材を板状にした“中身ぎっしり”の構造。高級感・重厚。反り管理や重量対策が課題。
意匠性、コスト、重量、環境条件（湿気・温度変化）を踏まえて最適解を選ぶのが設計・施工の腕の見せどころです。
寸法感・材料選定の目安（現場の実感値）
建物・仕様・金物により異なりますが、現場でよく見る“目安”を示します。最終判断は設計図と現場条件に従ってください。
- 框の見付（幅）：30～45mm前後（住宅内装の標準域）。意匠上太く（50mm以上）する例も。
- 扉厚（見込み）：33～40mm程度が一般的。ハイグレードや防音では厚くなる。
- 鏡板のクリアランス：四周合計で1.5～3.0mm程度の“遊び”を確保（仕上げ・材質で調整）。
- 中桟の配置：強度とデザインで決定。大判ガラスや鏡板では1本以上入れると安心。
- 框材：タモ、ナラ、アッシュ、ヒノキ、スプルース、ラバーウッドなど。塗装ならポプラやブナ系も。
- 鏡板材：突板合板、MDF塗装、パーティクルボード化粧、ガラス（透明・型）、アクリルなど。
- 接着剤：屋内は木工用（酢酸ビニル系）を基本。強度・環境条件に応じて選定。
上記はあくまで一般的なレンジです。丁番（ヒンジ）やドアクローザーの適合荷重、開口サイズ、日射や湿度条件で最適値は変わります。
施工手順（工場製作〜現場取付の流れ）
框組は精度が命。基本の流れを把握しておくと、検収や手直しの判断がしやすくなります。
- ①現調・図面確定：開口寸法、納まり、金物（丁番・錠）、見付・見込み、意匠割りを確定。
- ②木取り・含水率確認：框材の木目・反りを読み、芯持・柾目を配慮。含水率の偏りは後の反りに直結。
- ③加工（溝・ほぞ）：鏡板溝を一定深さで切り、ほぞ・ほぞ穴を精密加工。見付面は基準面として統一。
- ④仮組み：対角寸法の差をチェックし、ねじれ・目違いを修正。必要に応じクランプで矯正。
- ⑤接着・本組み：圧締時間を守り、はみ出し糊を早めに除去。鏡板の“遊び”を確実に確保する。
- ⑥仕上げ：面取り（Rや面取り幅）、サンディング、塗装（ウレタン、オイル、ラッカーなど）。
- ⑦金物加工：丁番座彫り、錠前・ラッチの掘り込み。テンプレートを使い精度確保。
- ⑧現場吊り込み：建付け調整（チリ均一、召し合わせ隙、開閉スムーズ）。ドアクローザーや戸当たりで最終調整。
各工程で基準面をブレさせないこと、対角チェックを繰り返すことがトラブル防止の近道です。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では以下のように呼ばれます。
- 框組（かまちぐみ）／框組み：最も一般的。
- 框戸（かまちど）：框組で作られた扉のこと。
- スティル＆レール（stile and rail）：英語由来の言い方。図面注記で稀に見かける。
使用例（会話例・指示例）
- 「このリビングドアは框組で、上ガラス・下鏡板の2枚割りにしよう。縦框は見付40で。」
- 「鏡板は突板タモのクリア塗装。四周1.5ミリ逃げて。中桟はH=900で一本入れてね。」
- 「框組だから重くなる。丁番は3枚使いに変更、クローザーは中荷重タイプで見積り直して。」
この3つの例で、構造（框組）、意匠（ガラス・割付・見付）、性能（重量・金物）を同時に検討していることが分かります。
使う場面・工程
- 設計・見積：フラッシュとの比較検討、意匠の割付、材種・塗装の選定。
- 工場製作：框材の選別、ほぞ・溝加工、仮組・本組、塗装。
- 現場取付：建付け、隙間（チリ）調整、金物の最終合わせ。
- 補修・改修：鏡板の差し替えや框の部分補修、再塗装。
関連語
- 縦框／横框／中桟／鏡板／ほぞ／ほぞ穴／込み栓／鏡板溝
- 見付／見込み／チリ／召し合わせ／座彫り／面取り
- フラッシュ扉／ベタ芯／框戸／框構造
品質チェックとよくある不具合（現場あるある）
- 対角寸法のズレ：仮組みでの対角チェック不足が原因。ズレると建付けで苦労します。
- 鏡板割れ・音鳴り：逃げ不足や塗装での固着が原因。四周のクリアランスと塗膜厚に注意。
- 反り・ねじれ：含水率の偏り、木取りミス、圧締不良で発生。基準面とクランプ管理が要。
- 金物の座彫り精度不足：丁番芯ズレで開閉が重い・戻る。治具・テンプレート利用で再発防止。
- 目違い・面の乱れ：組立圧締時の当て木不良やサンディング不足。光の当たりで浮き彫りになる。
- チリ不均一：額縁・枠との取り合いで調整不足。スペーサーやパッキンで微調整を。
検査時は、開閉の軽さ、戻りやすさ、チリの均一、隙間音（キシミ）、目視での面の通り、塗装のカブリ・タレ、ガラスのガタつきなどを一つずつ確認しましょう。
材料・工具・金物のポイントと代表的メーカー
框組自体は“構造”の呼称ですが、製作・取付には工具や金物の選定が不可欠です。以下は現場でよく使われる分野と代表例（一般的な知名度のあるメーカー）です。
- 電動工具（溝切り・ほぞ加工・仕上げ）：マキタ、HiKOKI（日立工機）など。ルーター、トリマー、スライド丸ノコ、サンダーが定番。
- 手工具・治具：大工鉋・ノミ・ジグ・クランプ。圧締用クランプやテンプレート治具は精度確保に有効。
- 建具金物：スガツネ工業（丁番・スライド・ソフトクローズ機構）、川口技研（開き戸金物・ドアクローザー）、長沢製作所／堀商店（錠・ハンドル）。
- 板材・面材：一般流通の突板合板・MDF・化粧板など。意匠・耐久・塗装適性を考慮して選定。
メーカーごとに製品ラインアップ・荷重区分・対応厚みが異なります。扉重量の見積（框＋鏡板＋金物）を行い、金物の適正荷重・ビス仕様を必ず確認しましょう。
設計・仕様で迷ったら（判断の指針）
- 意匠優先か、コスト・納期優先か：高級感や木質感を出したいなら框組。ローコスト・軽量優先ならフラッシュ。
- 環境条件：日射・空調の影響が大きい場所では、鏡板の逃げ大きめ＋反り対策を強化。
- メンテナンス性：公共・商業施設では、鏡板交換のしやすい納まりにしておくと長寿命化。
- ガラス採用時：重量増と割れリスクを踏まえ、中桟追加や強化ガラスの採用を検討。
初心者でも失敗しないミニチェックリスト
- 図面の「見付・見込み」「割付け（中桟の位置）」「金物仕様」を読み解けているか。
- 鏡板の逃げ寸法が図面化されているか。塗装膜厚も加味したか。
- 対角・反り・ねじれの検査ポイントを工程ごとに設定しているか。
- 扉重量から金物の適正荷重を検証したか（丁番枚数・種類、クローザーの番手）。
- 搬入経路・現場での養生・保管体制（反りやキズ対策）が整っているか。
よくある質問（Q&A）
Q. 框組と「上がり框」は同じ意味ですか？
A. いいえ。上がり框は玄関など段差部の見付材の名称で、扉の構造を指す言葉ではありません。「框組」は扉やパネルの枠＋鏡板構造のことです。
Q. 鏡板を無垢にすると割れませんか？
A. 乾燥と逃げの確保が適切なら割れにくくできます。四周のクリアランスを確保し、塗装設計も木の動きを妨げないよう配慮します。環境変化が大きい場所では合板やMDFも有力です。
Q. 重量が心配です。対策は？
A. 縦框・横框の断面を見直す、鏡板を軽量材にする、中桟でねじり剛性を稼ぐ、丁番を増やす／高荷重タイプにするなどが効果的です。
まとめ：框組を理解すれば、現場がスムーズになる
框組は、縦框・横框で骨格を作り、鏡板を浮かせてはめる「枠＋パネル」の構造です。反りに強く、意匠の自由度も高い一方、加工の手間や重量増には配慮が必要。フラッシュやベタ芯との違いを理解し、見付・見込み・割付・金物・鏡板の逃げといった要所を押さえれば、図面の意図が腹落ちします。現場で「この建具、框組でいく？」と聞かれたら、構造・意匠・金物・重量までセットでイメージできるようになるはずです。今日の現場から、ぜひ役立ててください。
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