LANケーブルの基礎と現場実践:種類選定・配線ルール・失敗しない施工のコツ
「LANケーブルって、どれを選べばいいの?Cat6とかRJ45って何が違うの?」――そんな戸惑い、現場ではよく耳にします。内装や設備の工事では、見えなくなる天井内や二重床にケーブルを通す場面が多く、最初の判断と施工の質がそのまま通信品質やトラブル発生率に直結します。この記事では、建設内装の現場で職人が使う「LANケーブル」というワードを、初心者にもわかりやすく、かつ実務に役立つレベルまでかみ砕いて解説します。基本の種類や選び方、配線時の注意点、よくある失敗と回避策、現場での言い回しまでまとめています。読み終える頃には、現場で自信をもって意思決定できるようになります。
現場ワード(LANケーブル)
読み仮名 | らんけーぶる |
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英語表記 | LAN cable(Ethernet cable) |
定義
LANケーブルとは、コンピューターやネットワーク機器(スイッチ、ルーター、無線AP、IP電話、監視カメラなど)を有線で接続するための通信ケーブルの総称です。一般的には「ツイストペア(より線)ケーブル」を指し、コネクタはRJ45(8P8C)が標準。カテゴリ(Cat5e、Cat6、Cat6Aなど)によって対応速度や周波数帯が異なります。建設内装の現場では、情報コンセント~パッチパネル間の固定配線や、機器直結のパッチコードとして用いられ、配線規格(T568A/B)や施工ルールを守ることが通信品質確保の鍵になります。
LANケーブルの種類と見分け方
カテゴリ(性能等級)の基礎
LANケーブルはカテゴリごとに伝送性能(周波数帯域)が規定され、対応できる通信速度の目安が決まります。現場選定の基準になる代表的カテゴリは以下の通りです。
- Cat5e(100MHz):最大1Gbps(ギガビット)に一般的に対応。既存施設や小規模オフィスでの更新で残存豊富。
- Cat6(250MHz):1Gbpsが安定。短距離で2.5/5Gbpsに使われることも。コストと性能のバランスが良い。
- Cat6A(500MHz):10Gbps(~100m)が前提の設計で広く採用。PoE機器の増加に伴い新設で主流化。
- Cat7/Cat7A:シールドを前提とした欧州系規格が中心。現場ではRJ45以外のコネクタ仕様もあり、設計意図要確認。
- Cat8(2000MHz):データセンター等、短距離で40Gbps用途。一般オフィスの構内配線では稀。
建物の新設・大規模リニューアルなら、将来性とPoEの熱対策も考え、Cat6Aが無難という判断が増えています。既存機器の要件・コスト・工期とあわせて決めます。
UTPとシールド(STP/FTP/S-FTPなど)
構造は大きく「UTP(無シールド)」と「シールドあり」に分かれます。
- UTP(Unshielded):扱いやすくコストも低い。オフィスの一般的な固定配線で多数派。
- シールド(Shielded):外来ノイズ対策や高周波特性に有利。表記はFTP(箔シールド)やS/FTP(編組+箔)などさまざま。施工はアース処理や部材統一が必要で、ルール厳守が前提。
特に工場、医療機器周辺、強電が密集するルートなどノイズが懸念される環境ではシールドの検討価値が高まります。設計・監理の指示に従いましょう。
単線とより線(ストランデッド)
- 単線(Solid):芯線が1本。配管内や天井内の固定配線向け。距離を長く取りやすく、情報コンセント~パッチパネル間に使う。
- より線(Stranded):細線の集合。柔らかく屈曲に強い。機器直結やラック周りのパッチコードに使う。
「壁の中は単線」「機器周りはより線」が基本。コネクタやモジュラジャックの適合も変わるため、部材の取り違いに注意します。
LANケーブルの選び方(現場判断のポイント)
性能要件から逆算する
- 必要速度:1Gbpsで十分か、将来10Gbpsを見込むか。
- PoEの有無:IPカメラや無線APへの給電がある場合は、発熱・束配線時の温度上昇も考慮し、Cat6Aや太めのケーブル径を採択するケースが増えています。
- 配線距離:1チャネル(機器-配線-機器)で最長100mが一般的な上限。余長の取りすぎに注意。
- 環境:電源ケーブルとの離隔、ノイズ源の有無、天井内/二重床/露出モールなど敷設方法。
部材の整合性を取る
パッチパネル、情報コンセントのモジュラジャック、RJ45プラグ、ケーブルタイやモール類まで、カテゴリ・シールド有無・単線/より線の仕様を揃えることが大切です。一部だけ低いカテゴリを混在させると全体性能が落ちます。
難燃・外被仕様の確認
共用部や空調経路付近などでは、難燃・低発煙などの仕様を設計が指定する場合があります。現場調達時は品番と適合用途を必ず確認。屋外配線や機械室では外被の耐久性や柔軟性もチェックします。
施工の基本ルールとコツ
配線ルートの計画
先行して、ルートを実地確認します。天井内・梁貫通・CD管/PF管・二重床・ケーブルラック・モール等、建築・電気・空調との取り合いを調整。強電ケーブルとは適切な離隔を確保し、交差は直角を基本にします。
ケーブルの取り扱い
- 過度な引っ張り・圧迫・ねじりを避ける。ドラムからの引き出し方向に注意。
- 曲げ半径はケーブル外径の約4倍以上を目安に無理な曲げをしない(メーカー仕様優先)。
- 結束は面ファスナーやベルクロを推奨。樹脂結束バンドは締めすぎに注意。
- 余長は最小限かつメンテしやすい位置で取り、コイル状に巻き過ぎない。
T568A/B配線の統一
情報コンセントとパッチパネルの結線規格は、T568AかT568Bのどちらかに統一します。片側A・片側Bの混在は通信不良の元。以下は色順の参考です(左からピン1→8)。
- T568B:白橙・橙・白緑・青・白青・緑・白茶・茶
- T568A:白緑・緑・白橙・青・白青・橙・白茶・茶
現場では「今回はBで統一ね」といった指示が多いです。どちらでも性能は同じなので、現場ルール・既存設備に合わせます。
端末処理(ケイパビリティを保つ)
- 外被の剥きすぎ注意。対撚り(ツイスト)をほどく長さは最小限に。
- モジュラジャックは規定トルクで打ち込む。RJ45プラグは対応線種(単線/より線)を見て圧着。
- シールド系はアース処理を確実に。パッチパネル・ジャック・ケーブルで連続性を確保。
ラベリングと写真記録
盤・ラック・情報コンセント・ケーブル双方に行き先ラベルを付け、図面・スプレッドシートへ反映。竣工後のトラブル切り分けが段違いに楽になります。天井復旧前に写真記録を残すのも有効です。
試験・確認
- 最低限の導通・配線順試験(ワイヤマップ)で誤配線を早期発見。
- カテゴリ性能まで要求される現場は、認証試験(NEXT、減衰など)に対応したテスターで測定。
- PoE機器は給電の有無やクラスを確認。機器・スイッチ設定も含め総合テストを行う。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では「LAN」「UTP」「ツイストペア」「カテゴリ(キャテ)」などと略して呼ばれます。RJ45は「モジュラ」「8P8C」と言われることも。固定配線は「幹線」「水平配線」、機器周りの短いケーブルは「パッチ」と区別します。
使用例(3つ)
- 「この会議室、Cat6Aで4本通しといて。配線はB結線で統一ね。」
- 「APはPoEだから、情報コンセントからスイッチまで同一カテゴリで。余長はラック側で取って。」
- 「このルート強電近いから、モール別経路で離隔確保。どうしても並走するところは交差を直角で。」
使う場面・工程
- 配線ルートの墨出し・先行確認
- 配管通線(CD/PF/ケーブルラック/二重床/天井内)
- ケーブル敷設・結束・ラベリング
- 端末処理(パッチパネル、情報コンセント、RJ45プラグ)
- 試験(導通/認証)、調整・是正、写真記録、引き渡し
関連語
- RJ45(8P8C)/モジュラジャック/キーストーン
- パッチパネル/19インチラック/情報コンセント
- T568A/B/PoE(IEEE 802.3af/at/bt)
- UTP/シールド(FTP、S/FTP)/単線・より線
- NEXT・減衰・リターンロス(試験用語)
PoEと発熱・束配線のポイント
PoE(Power over Ethernet)はLANケーブルでデータと電力を同時に送ります。規格は主に以下です。
- IEEE 802.3af(PoE):最大約15.4W
- IEEE 802.3at(PoE+):最大約30W
- IEEE 802.3bt(PoE++):Type3約60W、Type4約90W
高出力PoEでは束配線時に温度上昇が大きくなります。カテゴリー選定(Cat6A推奨の場面が多い)、束ね過ぎを避ける、ケーブルの余長を大量に溜め込まないなど、放熱を意識した施工が大切です。スイッチ側の給電クラス設定と機器側の対応も事前確認しましょう。
よくある失敗と対策
誤配線(A/B混在)
現象:リンクしない、速度が出ない。対策:現場ルールを「B統一」など明確化。ジャック側・パッチパネル側の色票を確認しながら同じ規格で結線。試験器でワイヤマップ確認。
強電との干渉
現象:ノイズによる通信不良。対策:別経路の確保、離隔、交差は直角、必要に応じてシールド採用。
過度な曲げ・圧迫
現象:減衰、反射(RL)悪化。対策:曲げ半径の遵守。ダクトやモール曲がり角での余裕確保。結束の締めすぎ禁止。
部材不整合
現象:カテゴリ性能が出ない。対策:ケーブル、ジャック、パネル、パッチコードまで同カテゴリで統一。単線/より線の適合を確認。
ラベル・記録不足
現象:メンテ時の特定に時間がかかる。対策:両端ラベル、盤面一覧、写真記録の徹底。竣工引渡し図書へ反映。
現場でのチェックリスト
- カテゴリ・UTP/シールド・単線/より線の仕様が統一されているか
- ルートの離隔・支持間隔・曲げ半径を満たしているか
- T568A/Bを現場ルール通りに統一しているか
- 端末処理のツイスト保持、被覆剥き長さは適正か
- ラベル・台帳・写真記録は揃っているか
- 導通・性能試験、PoE給電確認は完了しているか
代表的なメーカー・ブランド(参考)
現場調達や設計指示で見かけやすい名称を、簡単にまとめます(順不同)。詳細仕様は各社資料を参照してください。
- Panduit(パンドウイット):配線資材・パッチパネル・ジャック・結束などの総合ブランド。
- TE Connectivity(AMP):コネクタ・ジャック等で実績が多い。
- 住友電工・古河電工など電線系メーカー:ケーブル本体の供給で実績。
- ELECOM(エレコム)・サンワサプライ・バッファロー:パッチコードや小物で流通が広い。
- Fluke Networks(フルーク):LANケーブル認証試験器で業界標準的に用いられる。
施工フローの実践例(オフィス改修)
例:フロア全面Wi-Fi増設で、各APへCat6A配線+PoE給電するケース。
- 事前調整:AP位置、スイッチ容量、PoEクラス、配線ルート、天井復旧順序を確認。
- 材料手配:Cat6A単線UTP(または必要に応じシールド)、Cat6A対応ジャック・パッチパネル、面ファスナー結束、ラベル。
- 敷設:強電との離隔を確保しつつ天井内ルートで配線。曲げ半径・支持間隔に留意。
- 端末処理:T568Bで統一。ジャックのツイスト保持を意識して処理。
- 試験:ワイヤマップで誤りゼロを確認後、必要に応じてカテゴリ認証試験。PoE給電テスト。
- 引渡し:配線台帳・ラベル・写真をまとめ、更新図面へ反映。
用語ミニ辞典
- RJ45(8P8C):LAN用で一般的な8極8心のモジュラプラグ/ジャック。
- パッチパネル:ラックに取り付ける終端盤。配線を整然と集約。
- 情報コンセント:壁や床に設ける通信用アウトレット。
- ワイヤマップ:導通とピン配列の確認試験。
- NEXT(近端漏話):ペア間の干渉。数値が良いほど通信品質が良い。
- PoE:LANケーブルで電源供給する規格。af/at/btで出力が異なる。
FAQ(初心者がつまずきやすいポイント)
Q. Cat6とCat6Aは何が違う?
A. 大きな違いは周波数帯域と10Gbps対応の前提です。Cat6は基本1Gbps用途で、Cat6Aは10Gbpsまで見据えた設計。PoE増加や将来拡張を考えると、Cat6Aを採用する現場が増えています。
Q. A結線とB結線、どちらが良い?
A. 性能に差はありません。現場や既存設備のルールに合わせ、同じ規格で両端を統一することが最重要です。
Q. ケーブルの長さはどこまでOK?
A. 一般的なEthernetチャネルは最長100m(機器-配線-機器の総長)を目安にします。余長の取りすぎに注意しましょう。
Q. シールドの方が速い?
A. 速度自体が速くなるわけではありません。ノイズ対策や高周波の安定性で有利な場面がある一方、アース処理や部材統一が必要です。環境と設計意図で選びます。
Q. 安い部材を混ぜても大丈夫?
A. 一部でも低いカテゴリや不適合部材が混ざると、全体の性能が落ちたり、認証に通らなかったりします。仕様の統一が鉄則です。
まとめ:現場で失敗しないために
LANケーブルは「ただの線」ではありません。カテゴリ選定、UTP/シールド、単線/より線、T568A/Bの統一、端末処理の丁寧さ、ラベル管理、そして試験まで、ひとつひとつの積み重ねが安定したネットワークを作ります。特に近年はPoE機器が増え、発熱や束配線の配慮が重要度を増しています。この記事のチェックポイントを現場の標準手順に落とし込めば、「つながらない」「速度が出ない」「どこにつながっているかわからない」といったトラブルは大幅に減らせます。迷ったら、設計書・メーカー仕様・現場ルールに立ち返ること。そして、記録と可視化を徹底することが、品質と工期を守る最短ルートです。