建設内装で使う「マルチメーター」完全ガイド:基本の測り方・安全の勘所・失敗しない選び方
「電気の通電確認ってどうやるの?」「検電器と何が違う?」——内装の現場でこんな疑問を抱いたことはありませんか。仕上げ前のコンセントやスイッチの確認、照明器具の取付前チェック、弱電機器のトラブル対応など、内装でも“ちょっとした電気の見える化”が必要な場面は意外と多いもの。そんな時に頼りになるのがマルチメーターです。本記事では、現場でよく聞くワード「マルチメーター」を、プロの視点でわかりやすく解説。使い方や選び方、安全チェックポイント、現場の言い回しまで丁寧にまとめました。初めての方でも、この記事を読み終える頃には「まず何をどうすればいいか」がイメージできるはずです。
現場ワード(マルチメーター)
| 読み仮名 | まるちめーたー |
|---|---|
| 英語表記 | Multimeter / Digital Multimeter(DMM) |
定義
マルチメーターは、1台で電圧(AC/DC)、電流、抵抗、導通(ブザー)、ダイオード、周波数、容量(コンデンサ)などを測定できる計測器の総称です。現場では「テスター」とも呼ばれ、主に回路の“生きている/切れている”の確認や、数値の実測を行うために使われます。内装現場では仕上げ前の安全確認、機器取付時の最終チェック、トラブル発生時の原因切り分けなどで活躍します。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では正式名称以外の呼ばれ方をされることがよくあります。代表的な言い回しは次のとおりです。
- テスター:マルチメーターの通称。ほぼ同義として使われます。
- DMM(ディーエムエム):Digital Multimeter の略。仕様書やカタログでよく見ます。
- 導通計:導通ブザー機能を主として呼ぶ言い方。
- 電圧計:電圧確認だけを指して言う場面で使われます(厳密には機能の一部)。
使用例(3つ)
- コンセントの電圧確認(100V/200V)
- ダイヤルをACV(交流電圧)に合わせる。
- テストリードの赤を右側スロット、黒を左側スロットへ挿入(極性は商用ACなので数値が出ればOK)。
- 約100V(または200V)を確認。異常な値(0V、異常に低い/高い)なら分電盤側や配線の問題を疑い、無理に作業しない。
- スイッチの結線チェック(導通)
- 電源を切る(ブレーカーOFF)。必ず無電圧を確認。
- ダイヤルを導通モード(ブザー)に合わせ、スイッチの両端にプローブを当てる。
- スイッチONでブザー、OFFで無音を確認。鳴りっぱなし/鳴らないときは結線やスイッチ不良を疑う。
- 弱電(インターホン・サーモスタット等)の電源確認(DC)
- 機器仕様に合わせてダイヤルをDCVへ。12V/24Vなどのレンジを意識。
- 赤をプラス、黒をマイナス端子へ。当て間違えると符号がマイナス表示になるだけで、通常は故障しません。
- 規定電圧が出ているか確認。低い/出ていない場合は電源ユニットや配線断線を切り分ける。
使う場面・工程
- 仕上げ前検査:コンセント・スイッチ・照明器具取付前の生き/死に確認。
- 機器取付時:レンジフード、ダウンライト、換気扇、温調器、インターホン親機/子機などの取付直前チェック。
- トラブルシュート:点灯しない・動かない時の「電源は来ているか」「スイッチは動作しているか」を切り分け。
- 弱電作業:ドアホン、センサー、サーモ、セキュリティ機器のDC電源確認や導通信号のチェック。
- 改修現場:既存配線の確認、安全な切り離しと復旧時の通電チェック。
関連語
- 検電器(非接触検電器):電圧の有無だけを光/音で知らせる簡易器具。数値は出ない。
- クランプメーター:電線にクランプをかけて電流を非接触で測る計器。電流測定が主用途。
- 絶縁抵抗計(いわゆる「メガー」):配線の絶縁劣化を高電圧印加で測る専用器。用途が異なる。
- ロックアウト・タグアウト(LOTO):誤通電を防ぐための施錠・札かけ手順。安全管理用語。
マルチメーターで測れるものと仕組み
主な測定項目(機種により差あり)
- AC電圧(ACV):商用電源(100/200V)の確認に必須。True RMS対応だと歪んだ波形でも精度が安定。
- DC電圧(DCV):弱電機器やバッテリーの確認。
- 抵抗(Ω):センサーやヒーター素子の確認に。導通チェックの代用にも。
- 導通(ブザー):回路がつながっているかを音で素早く確認(閾値は機種で異なる)。
- ダイオードテスト:整流素子の健全性確認。
- 周波数(Hz):インバータ出力や信号系の確認に。
- 容量(F):コンデンサの容量測定。設備保守で活用。
- 温度(°C):温度プローブ対応機種で可能。
- 非接触電圧検出(NCV):近づけるだけで通電の有無をざっくり確認(数値は出ない)。
ざっくり構造と動き
内部では、測りたい量に応じて入力回路(電圧分圧・整流・シャント抵抗など)を通し、A/D変換した値を表示します。電圧レンジを誤ると内部ヒューズや保護回路が働くことがありますが、完全ではありません。安全等級(CAT)や内部ヒューズの性能が、万一の過電圧・サージから使用者を守る鍵になります。
安全チェックポイント(プロの視点)
電気の確認は「慣れた頃」が一番危険。以下を習慣にしましょう。
- 使用前点検
- 本体の安全等級(IEC 61010のCAT表示)と定格を測定対象に見合うものに。建物の固定配線や分電盤周辺はCAT III(600Vなど)を目安、引込/電力量計周辺はCAT IVが目安。
- テストリードの被覆割れ・チップの摩耗・根元の断線を目視/曲げ点検。損傷があれば即交換。
- レンジとリード差し込み位置をダブルチェック。電流端子に挿したまま電圧を測らない。
- 測定時の基本
- 片手作業を意識(もう一方はポケットに入れるなど)。感電経路を体幹に作らない。
- プローブの指ガードより先を持たない。滑り止めグリップを使う。
- 「LIVE → DEAD → LIVE」の原則(既知の生きた回路で動作確認→対象回路測定→再度既知回路で動作確認)。
- 作業範囲を整理し、金属くずや濡れた手袋・床面を避ける。
- 作業後
- レンジをACVやOFFに戻す、リードを電圧端子に戻すなど「次回の事故を防ぐ位置」に整える。
- 電源復旧時は関係者に合図。復旧札やLOTO手順を守る。
注意:日本国内で電気配線の工事・接続を行うには、内容により電気工事士の資格が必要です。計測は確認作業にとどめ、工事は有資格者へ依頼してください。
選び方(現場向けの実用基準)
- 安全等級(CAT):固定配線を触る可能性があるならCAT III 600V以上を推奨。引込・屋外柱上などはCAT IVが目安。
- 保護ヒューズ:HRC(高遮断容量)ヒューズ搭載か。内部アークを抑えられる設計が望ましい。
- True RMS:インバータ機器が多い現場では必須。歪み波でも正確。
- オートレンジ/マニュアル:初心者はオートレンジが安全で便利。素早い判断が必要な人はマニュアル切替もあると良い。
- 表示と視認性:バックライト・大型数字・アナログバー表示(トレンド把握)があると現場向き。
- 耐久性:IP(防塵防水)や耐落下設計、寒冷地での動作温度範囲をチェック。
- リード品質:シリコンリード、交換可能な先端(細先・フック・ワニ口)など、用途に応じて拡張できるもの。
- NCV・ホールド:非接触検電、オートホールド、最小/最大値記録は単独作業で便利。
- 校正・サポート:校正対応やメーカーサポートの有無。現場で長く使うなら重要。
よくある失敗・トラブルと対処
- 電流端子に挿したまま電圧測定しようとして火花が出た
- 対処:すぐ中止。ヒューズの溶断や内部損傷の可能性あり。分解せずメーカー点検へ。
- 予防:使用前の「レンジ・端子」確認を声出しで行う。端子色分けが明確な機種を選ぶ。
- オートレンジで数値が落ち着かない
- 対処:マニュアル固定レンジに切替、プローブ接触を安定させる。
- 原因:接触不良やノイズ、レンジ切替の度に表示が揺れることがある。
- 微妙な電圧(ゴースト電圧)が出てしまう
- 対処:LoZ(低インピーダンス)モード搭載機なら切替。ない場合は負荷をかけて再測定(安全と規定を厳守)。
- 背景:高インピーダンス入力は誘導で微小電圧を拾うことがある。
- 導通ブザーが鳴らない/鳴りっぱなし
- 対処:レンジ確認、プローブ接触面の酸化や汚れを清掃、必要に応じて抵抗レンジで数値確認。
- 備考:ブザーの閾値(何Ω以下で鳴るか)は機種差が大きい。
- 表示が暗い・途切れる
- 対処:電池交換、端子の緩み確認、低温環境では本体を温めてから使用。
代表的なメーカーと特徴
- HIOKI(日置電機)
- 日本の計測器メーカー。堅牢性と安全設計に定評。現場向けの使い勝手と研究用途の両方をカバー。
- 三和電気計器(SANWA)
- 日本の老舗。コストと性能のバランスが良く、教育用からプロユースまで幅広いラインアップ。
- Fluke(フルーク)
- 米国発のテスト機器メーカー。耐久性・安全性への信頼が高く、世界の現場で標準的に使われるブランド。
- Keysight Technologies(キーサイト・テクノロジー)
- 計測器の大手。主に高精度なベンチタイプのデジタルマルチメータで知られ、研究・開発用途で選ばれる。
現場の携帯用途では堅牢なハンドヘルド型(HIOKI、SANWA、Flukeなど)が主流。高精度の検査・研究にはベンチ型(Keysightなど)がよく使われます。
現場で役立つ小ワザと運用ルール
- プローブ先端を使い分ける:細先端で狭所に、フック/ワニ口で手放し固定。誤接触を減らせます。
- 携帯の定位置化:腰袋の外ポケットに専用ホルダーを用意。落下と紛失防止に。
- 確認作業の宣言:周囲に「測ります、戻します、復旧します」を声掛け。誤通電・誤操作防止。
- 写真記録:異常値のときは表示画面と接続状態を撮影。後工程・電気業者への共有がスムーズ。
メンテナンス・保守と保管
- 清掃:乾いた布で拭き、溶剤は避ける。端子やプローブは酸化皮膜を除去。
- 電池・ヒューズ:指定品を使用。異常後は自己判断で分解せず、メーカー/校正業者へ。
- 校正:使用頻度や要求精度に応じて定期校正を検討。現場用でも年1回程度の点検が安心。
- 保管:直射日光・高温多湿・粉塵を避け、ケースに収納。長期不使用時は電池を外す。
FAQ(初心者がよく迷うポイント)
- Q. マルチメーターとテスターは違うの?
- A. 現場ではほぼ同義。複数の電気量を測れるものをまとめてそう呼びます。
- Q. 検電器だけじゃダメ?
- A. 検電器は「有無」の目安には便利ですが、誤検知や感度の影響があります。数値確認や確実な判定にはマルチメーターが必要です。
- Q. 100Vと200Vの見分けは?
- A. ACVレンジでコンセントの両端を測定し、表示で判定します。三相や特殊配線は電気業者に確認を。
- Q. アナログとデジタル、どっちがいい?
- A. 使い勝手と安全性、持ち運びやすさから、現場ではデジタル(DMM)が主流。針の追従性が必要な特殊用途を除きDMMでOK。
- Q. オートレンジでいい?
- A. 初心者はオートレンジが使いやすいです。慣れてきたらマニュアル固定でスピードと安定を両立できます。
- Q. 電気工事の資格がないと使えない?
- A. 計測自体に資格は不要ですが、配線の工事・接続は資格が必要な場合があります。無理をせず有資格者に依頼しましょう。
チェックリスト(測定前の30秒ルーチン)
- ブレーカー状態と作業範囲の安全確認(関係者へ声掛け)。
- メーターのCAT表示・レンジ・端子位置の確認。
- テストリードの被覆・根元・金属部の目視点検。
- 既知の生きた回路で動作確認(LIVE)。
まとめ:内装でも「数値で確認」が安全と品質を高める
マルチメーターは、単なる「電気屋さんの道具」ではありません。内装現場でも、仕上がり前の最終チェックやトラブルの切り分けに欠かせない“共通言語”を与えてくれる道具です。大切なのは、正しいレンジ選択とテストリードの扱い、そして安全等級(CAT)に見合った機種選定。検電器で目安を取り、マルチメーターで数値を確かめる——この二段階を習慣にするだけでも、事故と手戻りは大きく減らせます。まずは現場に1台、信頼できる機種を。今日から「感覚」ではなく「数値」で、安全と品質を守っていきましょう。









