研磨紙の基礎知識|内装現場での意味・番手・種類・使い分けと実践テクニック
「研磨紙ってサンドペーパーのこと?番手はどれを選べばいいの?」――内装の下地処理や塗装前の整えで必ず出てくる道具ですが、最初は呼び方や選び方がわかりにくいですよね。本記事は、現場での実務に沿って「研磨紙」の意味、種類、番手(目の粗さ)の考え方、シーン別の使い分け、失敗しないコツまでをやさしく解説。今日からすぐに役立つ実践的なノウハウを、プロの視点でポイント整理しています。
現場ワード(研磨紙)
読み仮名 | けんまし |
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英語表記 | sandpaper / abrasive paper |
定義
研磨紙とは、砥粒(とりゅう:砂状の硬い粒)を紙などの基材に接着した「削るためのシート状の研磨材」の総称です。木材や石膏ボードのパテ、金属、樹脂などをこすって「平滑にする・段差をなくす・毛羽を取る・塗装の足付けをする」目的で使います。現場では「紙やすり」「サンドペーパー」「耐水ペーパー(耐水タイプ)」などの呼び方も含めて幅広く指します。
研磨紙の種類(基材・砥粒・用途で選ぶ)
基材(台紙)の違い
研磨紙の「しなり・強度・追従性」は基材で大きく変わります。
- 紙(Paper):最も一般的。コスパが良く、木工や石膏ボードのパテ研磨に多用。強く折り曲げると割れやすい。
- 布(Cloth:研磨布・布やすり):引き裂きに強く、曲面にもよく追従。金属のバリ取りや木口の整形に強い。
- フィルム(Film):厚みと平滑性が均一で、仕上げ精度が高い。目詰まりしにくい製品も多く、仕上げ番手に好適。
- メッシュ(Net):全面が網状で粉じんを吸い込みやすい。集じん一体のサンダーと相性が良く、室内の粉じん対策に有効。
- スポンジタイプ:柔らかく曲面やコーナーにフィット。仕上げや「ならし」に便利。
耐水・乾式の違い
- 乾式(ドライ):一般的な紙やすり。石膏ボードや木部の下地調整に。
- 耐水(ウェットアンドドライ):水研ぎが可能。粉じんを抑え、目詰まりもしにくい。塗装の下地や仕上げ番手で重宝。
砥粒(とりゅう)の種類
- 酸化アルミニウム(A/O):汎用性が高く耐久性も◎。木材、パテ、金属まで広く対応。
- シリコンカーバイド(S/C):鋭く砥ぎが速い。耐水ペーパーに多く、仕上げや硬い被削材に有効。
- ジルコニア/セラミック:重研削向け。内装では金属金物の整形や硬質下地でスポット的に使用。
形状の違い
- シート(手研磨用の定番)
- ロール(長尺。現場で必要なサイズにカット)
- ディスク(丸型。オービタル/ランダムサンダー用)
- ベルト(ベルトサンダー用)
番手(目の粗さ)の基礎と選び方
番手は「削れ方・仕上がり感」を左右する最重要ポイントです。数字が小さいほど粗く、大きいほど細かくなります。現場ではFEPA規格の「P番手(例:P120、P240)」表記が主流。記号なしの「#120」など旧来表記も残っていますが、実際の粒度はPと#で微差があるため、同じメーカー同一シリーズ内で番手を揃えるのが無難です。
番手選定の目安(内装現場向け)
- 石膏ボードのパテ処理
- 一次成形:P100〜P150(段差を落とす)
- ならし:P180〜P220(面を整える)
- 仕上げ:P240〜P320(塗装・クロス前の最終調整)
- 木部(巾木・建具・面取り)
- 荒削り・面取り:P80〜P120
- 下地調整:P150〜P180
- 仕上げ:P220〜P320(透明仕上げや塗装前)
- 塗装の足付け(既存塗膜のつや消し・密着向上)
- マット化:P240〜P400(密着重視ならP320前後が扱いやすい)
- 樹脂・金属金物のバリ取り
- バリ取り:P80〜P120
- ならし:P150〜P180
- 目消し:P240〜P320
コツは「段階を飛ばしすぎないこと」。たとえばP120でつけた深いスクラッチは、いきなりP320では消えにくいもの。P120 → P180 → P240 → P320のように2〜3段階で上げると、早く綺麗に仕上がります。
現場での使い方
言い回し・別称
- 紙やすり/サンドペーパー/耐水ペーパー(耐水性のある紙やすり)
- 研磨布(布やすり)/フィルムペーパー/メッシュペーパー
- 「ペーパー当てといて」「P240でならしておいて」「足付けお願い」などの短い指示が一般的
使用例(3つ)
- 例1:石膏ボードのジョイントパテの段差取り
- P120〜P150で段差を落とす → P180〜P220で面を均す → P240〜P320で仕上げ。光を斜めに当て、スクラッチや波打ちをチェック。
- 例2:木口の毛羽立ち除去と面取り
- P120で小口の毛羽を取り、P180→P240でなめらかに。角は45度に軽く当てて「面(小さな面取り)」を出すと仕上がりが綺麗。
- 例3:塗装の足付け(つや消し)
- P320前後の研磨紙やスコッチ系不織布で表面を均一に曇らせ、脱脂してから塗装。密着不良やはじきを予防。
使う場面・工程
- ボードパテ処理(下地段差調整〜仕上げ)
- クロスや塩ビシート前の下地調整(パテの肌ならし)
- 木部の建具・枠・巾木の仕上げ・補修
- 既存塗膜の足付け、タッチアップ前の整え
- 金物の出面・バリ取り、コーキング際の微調整
関連語
- サンディングブロック(当て木)/オービタルサンダー/集じん機
- パテ/ケレン/足付け/目詰まり/番手(P番)
- 不織布研磨材(スコッチパッド等)/スポンジヤスリ
仕上がりを上げる実践テクニック
当て木・パッドの使い分け
手指の腹で研ぐと面が波打ちやすく、スクラッチも不均一になりがち。平面はサンディングブロック(当て木)やコルクパッドに巻いて当てると「面」が出ます。逆に、入り隅や曲面はスポンジタイプや柔らかいパッドで追従させます。
番手の上げ方とスクラッチの消し方
- 各番手ごとに「前番手の筋を完全に消してから」次へ進む。
- 研磨方向を番手ごとに少し変えると、前の筋が見つけやすい。
- 仕上げは光を斜めから当て、指先でなでて段差や引っかかりを確認。
目詰まりの対策
- 粉の多いパテはメッシュペーパー+集じんサンダーが有効。
- ドライなら時々叩いて粉を落とす。専用の目詰まりクリーナーや硬めの消しゴムも有効。
- 耐水ペーパー+少量の水での水研ぎは粉じんが出にくく、仕上げ肌も整いやすい(養生と水分管理は確実に)。
エッジの保護と欠け防止
角は紙が引っかかりやすく、欠けや段落ちの原因。角には軽く面を取ってから広い面を仕上げる、または紙の角を丸めて当てると欠け防止になります。
電動サンダーの使いこなし
- 番手と面圧のバランスが命。押し付けすぎはムラや渦跡の原因。
- 穴あきペーパーはサンダーの穴位置にしっかり合わせ、集じん効率を最大化。
- 最後は手当てで「仕上げ確認」をすると精度が上がります。
安全・マナー(室内作業の基本)
- 粉じん対策:防じんマスク、保護メガネ必須。集じんサンダーや掃除機を併用。
- 養生:周囲の仕上げ面や設備に粉が回らないよう、開口部や床を養生。
- 騒音配慮:電動サンダーは時間帯・周辺環境に配慮。必要に応じて耳栓。
- 火気・静電気:粉じんが漂う空間での火気は厳禁。掃除は水拭きやHEPA対応の集じんを活用。
- 廃棄:使い古しの研磨紙は可燃ごみ扱いが一般的(自治体ルールに従う)。水研ぎの廃液は排水基準と現場ルールに従って処理。
よくある疑問Q&A
Q1:研磨紙と耐水ペーパーの違いは?
A:耐水ペーパーは、水研ぎに対応するよう耐水性接着剤や基材を使った「研磨紙の一種」です。乾式の紙やすりに対し、水を使うことで粉じんが減り、目詰まりもしにくく、細かい仕上げに向きます。
Q2:P番手と#番手、どちらを基準にすべき?
A:内装現場ではP番手(FEPA表記)が主流。メーカーや規格で粒度の実数値が微妙に異なるため、「同一メーカー・同一シリーズ」で番手を揃えるのが安全です。
Q3:番手は何番から始めればいい?
A:削る量(段差の大きさ)と仕上げ要求で決めます。パテの段差が大きければP120前後から、整えるだけならP180〜P240から。常に「削りすぎ」を避けるのが基本です。
Q4:研磨紙はどれくらいで交換する?
A:切れ味が落ちた、目詰まりして落とせない、スクラッチが鈍くなったら交換サイン。無理に使い続けると逆に時間がかかり、面も荒れます。
Q5:手研ぎと電動、どちらが良い?
A:面積や精度要求で使い分けます。広い面や均一性重視は電動+集じん。見切り際や入り隅、仕上がりの最終確認は手研ぎが有利です。
代表的なメーカーと特徴(例)
以下はいずれも業界で広く流通している代表的メーカーです。各社に紙・布・フィルム・メッシュなど多様なシリーズがあります。
- 3M(スリーエム ジャパン):世界的な研磨材メーカー。紙・フィルム・不織布・メッシュまでラインアップが豊富。集じん性や切れ味に優れた製品が多い。
- 三共理化学(FUJI STAR):日本の老舗研磨材メーカー。ウェットアンドドライ紙やすりで広く知られ、安定した粒度と使いやすさに定評。
- KOVAX(コバックス):高精度な仕上げ用研磨材で評価が高い。フィルムベースや微粒子番手の製品群が充実。
- RIKEN Abrasives(理研コランダム):紙・布ベースのコーテッド研磨材を幅広く展開。番手レンジが広く、汎用から仕上げまで対応。
- Mirka(ミルカ):メッシュタイプ(例:Abranet)で有名。集じんと仕上げ肌の両立を重視する現場に人気。
電動サンダー用の貼り付けペーパーは、マキタ、ボッシュ、フェスツールなど各電動工具メーカーの純正品や互換品も入手しやすく、穴位置や番手の互換性に注意して選ぶと作業効率が上がります。
内装の素材別・実践フロー例
石膏ボード(パテ〜塗装・クロス)
- 下地成形:P120〜P150(当て木使用で面を出す)
- ならし:P180〜P220(照明でスクラッチと凹凸を確認)
- 仕上げ:P240〜P320(塗装やクロスの透け・影を予防)
- 粉じん対策:メッシュ+集じんサンダー、または耐水で軽く水研ぎ(一部養生必須)
木部(枠・巾木・建具)
- 素地調整:P120→P180→P240
- 木口・R出し:布やすりやスポンジヤスリで追従性を確保
- 塗装前足付け:P240〜P320、クリア仕上げはP320以上で毛羽を確実に除去
既存塗膜のリペア・塩ビシート前下地
- 付着物・段差除去:P100〜P150(ケレン併用)
- パテ後の肌合わせ:P180〜P220
- 最終:P240〜P320(密着と肌のバランス重視)
購入・保管・コストの考え方
- 購入先:ホームセンター、金物店、建材商社、オンライン。必要番手を欠番なく揃えると段取りが良い。
- サイズ:シートは現場で半分・1/4にカットして使いやすく。ディスクはサンダーの径(主に125mm/150mm)と穴数を確認。
- 保管:湿気で波打つと面精度が落ちます。直射日光と高湿を避け、フラット保管。耐水は乾かしてから収納。
- コスト最適化:粗削りはコスパの良い紙、仕上げはフィルムやメッシュで時短と品質を両立――用途分けが経済的。
プロの視点:失敗例とリカバリー
- 番手飛ばしで筋が消えない
- 対策:一段戻って均す。スクラッチが消えるまで根気よく。光で確認。
- 角欠け・面落ち
- 対策:角は先に軽く面取り。紙の角を丸める。当て木をずらして「逃がし」を作る。
- 粉じんで現場が白くなる
- 対策:メッシュ+集じん、または耐水。パテ粉は作業区画を区切って都度清掃。
- 電動で渦目が出る
- 対策:面圧を下げ、細かく均一に動かす。最後は手当てで仕上げ確認。
用語メモ(簡易辞典)
- 足付け:塗装や接着の前に細かな傷を均一につけ、密着性を高める処理。
- ケレン:旧塗膜やサビ、付着物を落とす下地処理の総称。内装では段差・突起の除去も含む。
- 目詰まり:砥粒間に粉が詰まり切れ味が落ちる現象。圧を下げる、耐水やメッシュに替えると軽減。
- 当て木(サンディングブロック):紙を巻いて平面を出すための治具。コルクやゴムのタイプもある。
まとめ:研磨紙は「番手の設計」と「道具の当て方」で結果が決まる
研磨紙は、ただ擦るための消耗品ではありません。素材・基材・番手の選択、当て木や集じんの活用、番手の上げ方――この「設計」ができるほど、仕上がりは安定し、スピードも上がります。まずはP120・P180・P240・P320の基本番手を軸に、紙・メッシュ・スポンジを使い分けるところから始めてみてください。きっと「段差が消える速さ」「肌の均一さ」「現場の清潔さ」が目に見えて変わります。