上げ下げ窓の基礎知識と現場での呼び方・使い方ガイド
「上げ下げ窓ってなんだろう?引き違い窓と何が違うの?」——初めて建築用語に触れると、似たような言葉が多くて戸惑いますよね。この記事では、内装・サッシの現場で日常的に使われる現場ワード「上げ下げ窓」を、職人の言い回しから構造・種類・施工のコツまで、やさしく丁寧に解説します。読み終えるころには、図面や打合せで「なるほど、そういうことか」と安心して会話できる土台ができます。
現場ワード(上げ下げ窓)
| 読み仮名 | あげさげまど |
|---|---|
| 英語表記 | double-hung window / single-hung window(vertical sliding sash window) |
定義
上げ下げ窓とは、ガラスの入った障子(サッシ)が上下方向にスライドして開閉する窓の総称です。日本の現場では縦に動く引き違い窓のイメージで「上げ下げ」と呼び、下障子のみが可動のものをシングルハング、上下ともに可動のものをダブルハングと呼び分けることがあります。開閉スペースを取りにくく、直上に庇や外装があっても干渉しづらい構造が特徴で、トイレ・洗面所・キッチン・階段室などの通風用としてよく採用されます。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では状況に応じて、次のように呼ばれます。
- 「上げ下げ」:略称。例「ここ上げ下げでいこう」「上げ下げ1本追加」
- 「ハング」:ハング窓の意。例「ダブルハングで手配」「シングルハング指定」
- 「縦スライド窓」「縦滑りとは別」:縦すべり出し窓(蝶番で外側に押し出す開き方)と混同しないための言い回し。
- 「障子(しょうじ)」:可動するサッシ枠。例「下の障子だけ動くタイプ」
- 「ミーティング」:上下障子が重なる中央部。例「ミーティングのロック位置」
注意点として、「縦すべり出し窓」は蝶番で開く別種の窓、「内倒し」「オーニング(上げ下げではなく押し出し)」なども別物です。打合せでは「上下にスライドするタイプ」と明言して誤解を避けましょう。
使用例(3つ)
- 「この階段室は風が抜けるように上げ下げにして、上側も開くダブルハングにしといて。」
- 「トイレは外部との干渉が怖いから、内側に出っ張らない上げ下げに変更で。下だけ動くシングルでOK。」
- 「ミーティングのロック位置を手が届く高さに下げたいから、窓台を50ミリ下げて納められるか確認して。」
使う場面・工程
上げ下げ窓は主に以下の工程で登場します。
- 設計・計画:通風計画、意匠、家具・水回りとの干渉検討
- 開口計画・下地:まぐさ・窓台の位置決め、補強下地の配置
- 防水・防湿:開口防水(防水シートの立ち上げ、四隅の処理、シーリング計画)
- 取付・建付け:水平垂直の通り出し、障子の動きとロック位置調整
- 仕上げ:室内外の額縁・見切り、網戸・面格子・内窓との取り合い
- 検査:水密・気密の確認、開閉操作のスムーズさ、ロックの掛かり
関連語の解説
- シングルハング:下障子のみ可動。上障子はFIX(固定)。
- ダブルハング:上下障子が可動。高所の排気(上から排気、下から給気)がしやすい。
- ミーティングレール:上下障子が重なる中央の横桟。ロックの受け・気密材が入る。
- バランサー:障子の重さを支える機構(スプリングやウェイト)。操作の軽さに関わる。
- ウェザーストリップ:気密・水密を高めるモヘア・ゴムパッキン。
- ロック(ラッチ):障子の施錠金物。補助錠が選べる場合もある。
- 網戸:上げ下げ用は可動方向に合わせた専用網戸(内付け・ロール式など)。
仕組みと構成部材
上げ下げ窓の基本構造は「枠(フレーム)」「上下障子(サッシ)」「ガラス」「バランサー」「ロック・補助錠」「気密材・パッキン」「網戸」で成り立ちます。障子は枠内のガイドに沿って上下に滑り、バランサーが重さを相殺することで、少ない力で止めたい位置に保持できるのが特徴です。ダブルハングでは中央ミーティング部にロックが配置され、上下障子のかみ合わせと気密材で風雨の侵入を抑えます。
- 枠:アルミ、樹脂、アルミ樹脂複合など。断熱性能・剛性のバランスが選定ポイント。
- 障子:ペアガラス(Low-E含む)やトリプルガラスを採用するケースも。重量増→バランサーの選定に影響。
- バランサー:スプリング式が一般的。経年劣化で保持力が落ちると「勝手に降りる」症状が出る。
- ロック:ミーティング部のサッシュロックや補助錠。防犯配慮でサブロック追加が可能な製品もある。
- 気密・水密材:ウェザーストリップ、ドレン経路で雨仕舞いを確保。
- 網戸:上下動に合わせた納まり。内付けで掃除しやすいタイプが多い。
種類と開き方の違い
上げ下げ窓は主にシングルハングとダブルハングに分かれます。シングルは構造がシンプルでコストや気密面で有利なことが多く、ダブルは上下からの換気が得意です。似た名称でも動きが違う窓があるので注意しましょう。
- 上げ下げ窓(ハング)=上下にスライド。室内・外に出っ張りにくい。
- 縦すべり出し窓=縦軸の蝶番で外側に開く。上げ下げではない。
- 内倒し窓(内開き・内倒し)=室内側に傾けて換気。ハンドル操作で角度調整。
- オーニング(横すべり出し)=上部ヒンジで外に押し出す。雨天時の換気に強い。
メリット・デメリット
メリット
- 開閉スペースを取らない:カーテンや水回り機器と干渉しにくい。
- 通風制御がしやすい:ダブルハングは上から排気・下から給気の自然換気が可能。
- 雨だれに比較的強い:開口が上下に限定されるため、横吹き込みに一定の耐性(製品性能による)。
- 意匠性:縦長意匠や洋風ファサードと相性が良い。
デメリット
- 気密確保の難しさ:可動部が多い分、引違い窓やFIXに比べ気密・水密の確保に注意が必要。
- 重量影響:高性能ガラスで障子が重くなると、バランサーの負担増・操作性低下の恐れ。
- 掃除手間:外面清掃のアクセス性は製品仕様に依存。高所の場合は計画段階で配慮が必要。
- コスト:構造や金物が増える分、用途やサイズ次第で他形式より高くなる場合がある。
設置位置と納まりのポイント
上げ下げ窓は、計画段階の数センチで使い勝手が大きく変わります。以下をチェックしましょう。
- 窓台高さ(床からの寸法):ロック位置に手が届くか。トイレ・洗面では腰壁との取り合いを確認。
- 開閉クリアランス:室内側の水栓、棚、手すり、ブラインドと干渉しないか。
- 外部干渉:庇、面格子、雨樋、外付けブラインドとの干渉。クリアランス確保。
- 防水納まり:四隅の切り欠き処理、防水紙の先張り・後張り順序、ドレン経路の確保。
- 壁厚と額縁:断熱仕様により壁厚が増すと見切りが変わる。既製額縁の対応可否を確認。
- 安全対策:2階以上や浴室周りは転落防止(手すり・面格子・補助錠の可動範囲制限)を検討。
- 網戸納まり:内付けか外付けか、掃除・交換のしやすさ、ブラインド干渉。
性能・法規の基礎知識
窓は居住性・安全性に直結します。上げ下げ窓でも基本は同じです。
- 断熱性能:ガラス(Low-E、ペア、トリプル)と枠材(樹脂・複合)で大きく変わる。地域の断熱基準や省エネ計画に合わせて選定。
- 気密・水密・耐風圧:製品ごとに規格に基づく等級が表示される。設置高さ・地域の風荷重を考慮。
- 防火規制:防火地域・準防火地域では「防火設備」など該当品の採用が必要。ガラス種・面格子も含め設計者に確認。
- 換気計画:有効開口、開口比率、対角通風の確保。ダブルハングの上下開放を生かす配置が有効。
- 手が届く高さ:バリアフリーや操作のしやすさの観点から、ロック・ハンドルの位置に配慮。
採寸・発注のコツ
上げ下げ窓は「呼称サイズ」と「外形寸法」が異なる場合が多く、製品カタログの寸法表を必ず確認します。既存建物への後付けや入替では、開口のゆがみと直角を実測し、最小寸法に対して適切なクリアランスを見込んで発注するのが基本です。
- 開口の3点実測(上・中・下、左右)で最小値を基準にする。
- 防水納まりの層厚(防水紙、シーリング、バックアップ材)を事前に算定。
- ガラス重量の確認:障子サイズ・ガラス構成でバランサー仕様が変わるためメーカーに適合確認。
- 網戸・面格子・シャッターの同時検討:後付けで干渉しないようセットで手配。
- 色・質感:内外色の違い、他サッシとの統一感、樹脂・アルミの見え方を確認。
施工の流れとチェックポイント
内外装の出来栄えと性能は、初期の通り出しと防水で決まります。代表的なフローと要点は以下の通りです。
- 1. 開口確認・下地調整:まぐさ・窓台の水平、通りを出す。必要に応じてスペーサーを準備。
- 2. 防水先張り:四周に防水紙を先張りし、下→側→上の順に重ね。四隅は切り欠き処理で漏水経路を作らない。
- 3. サッシ仮置き・レベリング:水平器で枠の水平・鉛直・対角を確認。歪みは障子の走りに直結。
- 4. 固定:メーカー指定ビスピッチで固定。縦材に偏りが出ないよう均等に締める。
- 5. シーリング:外周のシールは二面接着を基本に、バックアップ材で目地厚を管理。
- 6. 建付け調整:障子の上下動、ロックの掛かり、保持力(任意位置で止まるか)を確認。
- 7. 仕上げ・取合い:額縁、見切り、クロス・タイルの納まりを整え、網戸・面格子を取り付け。
- 8. 完了検査:散水試験(必要に応じ)、風打ち時の異音の有無、操作説明と注意喚起。
メンテナンスとトラブル対処
上げ下げ窓は、適切な点検で長く快適に使えます。よくある症状と対応を押さえておきましょう。
- 勝手に降りてくる:バランサーの劣化や不適合。メーカー部品交換で改善することが多い。
- 重い・引っかかる:ガイド溝の汚れ、枠の歪み、パッキンの硬化。清掃と建付け調整、消耗部品の交換。
- 結露が気になる:室内の湿度管理、ガラスの断熱仕様見直し、内窓の追加も有効。
- 隙間風・漏水:シールの劣化、ウェザーストリップの傷み。外周シールと気密材を点検・補修。
- ロックが掛かりにくい:ミーティングの位置ズレ。枠の水平・対角を確認し、金物位置を微調整。
清掃は柔らかい布と中性洗剤が基本。シリコーンスプレーは樹脂やパッキンに悪影響を与える場合があるため、使用の可否を取扱説明書で確認しましょう。
代表的メーカーと特徴
国内の主要サッシメーカーでは、住宅・非住宅向けに上げ下げ窓をラインアップしています。
- LIXIL(リクシル):住宅建材総合メーカー。アルミ樹脂複合・樹脂サッシやLow-Eガラスなど省エネ仕様が豊富。
- YKK AP:窓・サッシに強み。断熱や気密性能に配慮したラインアップと納まり部材が充実。
- 三協アルミ:意匠バリエーションや外装とのトータル提案が得意。リフォーム対応品も展開。
- 不二サッシ:非住宅・ビル用サッシでも実績があり、用途に応じたカスタム対応に強み。
同じ「上げ下げ窓」でも、枠材、ガラス構成、網戸方式、ロック仕様、性能等級が異なるため、物件条件(地域・階数・用途)と求める性能を整理してから選定しましょう。
よくある質問
Q. 引き違い窓と比べて、上げ下げ窓は気密が悪いの?
A. 製品や等級によりますが、可動部が上下2方向にあるため、気密・水密確保にはより丁寧な施工と調整が求められます。高性能等級の製品と適正なシール・調整で十分な性能が得られます。
Q. トイレや洗面に向いている理由は?
A. 開閉スペースを取らず、吊戸棚や水栓と干渉しにくい点、上下の開放量で通風を細かく調整できる点が評価されています。視線配慮で上側だけ開ける使い方も可能です(ダブルハングの場合)。
Q. 高所の外側ガラス掃除はどうする?
A. 製品によっては障子が内側に傾けられる清掃モードがあります。無い場合は足場・高所作業の計画が必要なため、設計段階で清掃性を確認しましょう。
Q. 子どもの落下防止は?
A. 補助錠で開放量を制限したり、手すり・面格子を併用する方法があります。設置高さの配慮も重要です。地域の安全基準・指針に従って検討してください。
Q. 網戸はどんなタイプ?
A. 上げ下げ窓専用の内付け可動網戸やロール網戸が一般的です。開閉方向と干渉しないタイプを選び、ブラインド・カーテンとの取り合いも確認します。
現場で役立つチェックリスト
- 用途と操作性:シングル/ダブルどちらが適切か。ロック位置に手が届くか。
- 性能:断熱・気密・水密・耐風圧等級が物件条件に合致しているか。
- 納まり:防水層の連続性、額縁・見切り、網戸・面格子の干渉確認。
- 安全:転落防止、補助錠、ガラス仕様(飛散・防火等)の要否確認。
- メンテ性:清掃モードの有無、消耗部品の入手性、将来の調整方法。
まとめ
上げ下げ窓は「上下にスライドして開く窓」。省スペースで通風制御に優れ、トイレや洗面、階段室などで重宝されます。現場では「シングルハング」「ダブルハング」といった呼び分けや、「ミーティング」「バランサー」といった部材名が飛び交いますが、仕組みさえ理解すれば難しくありません。設計段階では操作性と清掃性、防水・気密の納まり、そして安全への配慮をセットで検討するのがコツです。メーカーの性能等級と納まり資料を確認し、丁寧な通り出しとシーリングで仕上げれば、快適で長持ちする窓になります。今日から図面や打合せで自信を持って「上げ下げでいきましょう」と言えるはずです。









