現場で聞く「シーラー」完全ガイド――下地づくりの要と失敗しない選び方・使い方
「シーラーって何?プライマーと何が違うの?いつ塗るの?」――初めて内装の現場用語に触れると、こんな疑問が次々と湧いてきますよね。この記事では、建設内装の実務で毎日のように使われる「シーラー」を、現場の言い回しから種類の違い、選定と施工のコツまで、やさしく丁寧に解説します。読み終える頃には、何のために、どの場面で、どう使えばいいかがスッキリ分かるはず。失敗例と対策もまとめたので、今日の現場からすぐ役立ててください。
現場ワード(キーワード)
読み仮名 | しーらー |
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英語表記 | Sealer(Primer Sealer) |
定義
シーラーとは、塗装やクロス貼りなどの前に下地へ塗布し、粉っぽさや吸い込みを抑え、密着性や仕上がりの均一性を高めるための「下塗り材」の総称です。主に多孔質の下地(石膏ボード、モルタル、ALC、ケイカル板など)に使われ、表面を固めたり、シミ・ヤニのにじみを抑えたり、上塗りや接着剤の食いつきを良くする役割を担います。現場では「下地を止める」「吸い込みを止める」「粉を押さえる」といった表現で語られます。
何のために塗る?シーラーの役割と効果
主な役割
シーラーの目的は下地のコンディションを整えることです。粉(チョーキング)を押さえ、吸い込みムラをなくし、上塗りやクロス糊の密着を安定させます。これにより、仕上がりの色ムラ・ツヤムラを防ぎ、耐久性も向上します。
もうひとつ重要なのが「トラブルの予防」。古い壁のヤニ・シミの再発、石膏ボードのパテ粉の浮き、ケイカル板の激しい吸い込みなど、下地由来の不具合を事前に封じ込めるのがシーラーの仕事です。
種類と特徴を知る(水性/溶剤、用途別)
水性と溶剤の違い
水性シーラーは扱いやすくにおいが少ないため、集合住宅や商業施設の内装で使いやすいタイプ。乾燥も比較的早く、幅広い下地に対応します。溶剤(油性)シーラーは浸透力やシミ止め効果が高い製品が多く、強いチョーキング面やヤニのひどい部位など、クセのある下地で選択されます。におい・引火性があるため、換気や火気管理に注意が必要です。
用途別の代表的な系統
- 浸透シーラー:多孔質下地に浸み込み、粉を固めて吸い込みを抑える基本型。石膏ボード、モルタル、ALCに幅広く使用。
- カチオン系シーラー:陽イオン性の樹脂でチョーキング面の粉をしっかり固着。古い塗膜や経年劣化した外装面の室内側などにも有効。
- エポキシ系シーラー:高い付着力が必要な場面向け。下地の強度不足や再塗装のリスクが高い箇所の「押さえ」として選ばれることがある。
- ヤニ・シミ止めシーラー:タバコのヤニ、木材のアク、雨染みの再発を抑えることに特化。溶剤系やアルコール系、顔料入りタイプなどがある。
- 透明/白色タイプ:透明は下地の状態確認が容易。白色は上塗りの発色・隠ぺいを助け、仕上げ回数の削減につながる場合がある。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では「シーラー打っといて」「一回シーラーで止めてから」「下塗り(シーラー)入れて」といった具合に使われます。別称として「下塗り」「プライマー」と呼ばれることもありますが、厳密には役割や適用下地のニュアンスが異なる場合があります(後述)。
使用例(3つ)
- 「このボード、粉が出てるから先にカチオンのシーラーで押さえてからパテね。」
- 「天井はヤニが強いから、今日はヤニ止めシーラー一発入れてから上塗りいこう。」
- 「ケイカル板は吸い込みがきついから、浸透シーラーを原則一度入れてからクロス糊ね。」
使う場面・工程
塗装の場合はケレン・清掃→シーラー→パテ・フィラー(必要に応じて)→上塗りの順。クロス貼りの場合は旧下地の清掃→シーラー(下地の吸い込み調整・粉止め)→パテ→再度軽くシーラー(必要に応じて)→糊付け・貼り。下地が弱い、粉っぽい、シミがある、吸い込みムラが出そう、といったサインがあればシーラーの出番です。
関連語
- プライマー:密着促進を主目的とする下塗り材。金属・樹脂など非吸収性下地で使われることが多い。
- フィラー:目つぶし・凹凸調整のための厚付け下塗り材。吸い込み止めとは役割が異なる。
- サーフェイサー:素地調整・肌調整に使う中塗り材の総称。
- シーリング材(コーキング):目地充填材。名称が似ているが、シーラーとは全く別物。
施工手順:プロがやっている基本
- 1. 下地確認:素地の種類、粉噛み、吸い込み、シミ、既存塗膜の状態をチェック。
- 2. 清掃・下地調整:ケレン、ダスト除去、油分・ヤニの拭き取り、カビ除去など前処理を徹底。
- 3. 養生:にじみ・飛散を防ぐため、床や開口部などを適切に保護。
- 4. 材料選定:下地に合わせてシーラーの系統(水性/溶剤、カチオン、ヤニ止め等)を決定。
- 5. 攪拌・希釈:缶をよく撹拌し、指定の希釈剤・希釈率を厳守。むやみな薄め過ぎは禁物。
- 6. 塗布:刷毛・ローラー・スプレーで均一に。塗り過ぎず「吸わせて止める」イメージで。
- 7. 乾燥:指触乾燥を待ち、テープ付着や手触りで完全乾燥に近いことを確認。
- 8. 再確認:吸い込みムラや粉の再発があれば追いシーラーを検討。
- 9. 次工程へ:パテ・上塗り・クロス貼りを規定のインターバル内で行う。
下地別の選び方・使い分け
石膏ボード:新設なら浸透性の水性シーラーで吸い込みを均一化。パテ粉が出る場合はカチオン系で押さえると安心。
モルタル・ALC:素地の吸い込みが強いので浸透シーラーが基本。外気に接して劣化した面はチョーキングが出やすく、カチオン系を選ぶケースが多い。
ケイカル板:吸い込みが激しく粉も出やすい素材。浸透性+カチオンの考え方で、まず吸い込みを確実に止める。
木部:にじみ・ヤニが懸念される箇所はヤニ・シミ止め系を選択。目止めや導管の抑えが別途必要な場合もある。
既存塗膜面:表面清掃・目荒らし後、付着性重視でプライマーに近いシーラー(高付着タイプ)を検討。
強いヤニ・シミ:アルコール系や溶剤系のシミ止めタイプが効果的。におい対策と養生・換気は万全に。
よくある失敗と原因・対策
- 吸い込みムラが残る:塗布量不足/希釈過多。追いシーラーを検討し、次回からは均一な塗布を徹底。
- 上塗りが密着しない:乾燥不足や不適合の材料選定。十分な乾燥と適合確認、下地の油分除去を徹底。
- ヤニ・シミが浮く:シミ止め系の選択不足。シミ止め専用に切り替え、問題部は局所で二度塗り。
- ベタつき・乾かない:低温高湿下での施工や厚塗り。環境条件を見直し、薄く均一に塗る。
- ローラーマーク・ムラ:作業スピードの遅さや塗り継ぎタイミングのズレ。一区画の塗り切りを意識し、ウェットオンウェットで。
- クロス糊の食いつき不良:シーラーの過剰塗布によるガラス化。指定量を守り、必要に応じて軽く目荒らし。
シーラーと似た言葉の違い
シーラー:多孔質下地の吸い込み・粉を抑え、上塗りや糊の密着を安定させる下塗り材。透明〜白色、各種系統がある。
プライマー:密着促進が主目的。金属・プラスチック・タイル面など非吸収性下地で活躍。現場では「シーラー=下塗り」と広義で呼ぶ場合があるが、素材適合は別物として要確認。
フィラー/サーフェイサー:肌調整・目つぶし・段差の平滑化に用いる。吸い込み止めとは別の役割。(併用されることも多い)
シーリング材(コーキング):目地や隙間を充填して防水・気密を確保する材料。名称が似ているだけで用途は全く違う。
乾燥・希釈・塗り重ねの目安
乾燥時間は製品・環境により異なりますが、内装の水性シーラーであれば一般に短時間で指触乾燥します。寒冷・高湿時は乾燥が遅れるため、触ってベタつかない、マスキングテープの粘着が移らない、白濁が消えて艶が落ち着く、といった現物確認を優先してください。溶剤系はにおいが強く、換気と火気管理が必須です。
希釈は必ず製品ラベルに従い、規定外の薄め過ぎは避けます。塗り重ねは、下地の吸い込みが残る場合のみピンポイントで追加。過度な重ねは密着不良やベタつきの原因になります。
メーカーと特徴(代表例)
日本ペイント:国内最大手塗料メーカー。内外装の下塗り材が充実し、内装向けの水性シーラーやシミ止め系もラインアップが豊富。
関西ペイント:総合塗料メーカー。内装・建築用の下塗り材に強く、低臭・環境配慮型の製品展開が進んでいる。
エスケー化研:建築仕上げ材の大手。下地処理材や弾性塗材のバリエーションが広く、浸透・カチオン・高付着といった用途別の選択肢が豊富。
菊水化学工業:建築仕上げ材・下地材に注力するメーカー。モルタル・ALCなど多孔質下地向けの実用的なラインを持つ。
アサヒペン(DIY向け):一般ユーザー向け製品が多く、室内改修や小規模補修で手に取りやすい。プロ現場では仕様の適合確認を忘れずに。
同じ「シーラー」でも各社で適用下地や乾燥条件が異なります。必ず製品の技術資料・ラベルを確認し、現場条件に合わせて選定してください。
安全・品質管理のポイント
- 換気・火気管理:溶剤系は火気厳禁。密閉空間では送排気を確保。
- 温湿度管理:低温・高湿は乾燥遅延の原因。結露の恐れがある露点付近での施工は避ける。
- 養生の徹底:にじみや飛散による二次汚染を防ぐ。特に白色シーラーは目立ちやすい。
- 材料ロット管理:同一面は同ロットで。やむを得ず混用する場合は十分に撹拌し色・艶ムラを防ぐ。
- 現場コミュニケーション:クロス班・塗装班で「どの面に何のシーラーを入れたか」を共有し、重複や不適合を回避。
迷ったときのQ&A
Q1:シーラーとプライマー、どっちを選ぶ?
A:多孔質下地の吸い込み・粉止めが主目的ならシーラー、非吸収性下地で密着を上げたいならプライマーが出番。下地に合わせて選び分けましょう。
Q2:水性と溶剤、現場での使い分けは?
A:内装でにおいを抑えたい・作業性重視なら水性。ヤニ・シミが強い、劣化が激しいなど難易度が高い場合は溶剤系も検討。
Q3:透明と白色、どちらが良い?
A:下地の状態を見極めたいなら透明、上塗りの隠ぺい性を補強したいなら白色が有利。仕上げ色が淡色なら白色で工程短縮になることも。
Q4:クロス貼りにも必要?
A:下地が粉っぽい、吸い込みがバラつく、既存糊が残っている等では有効。糊の乾燥ムラや接着不良防止に役立ちます。
Q5:一度塗れば十分?
A:下地次第。吸い込みが止まらない、粉が再発する場合は追いシーラーを。やみくもな厚塗りは逆効果です。
Q6:乾燥の見極め方は?
A:手触りがサラッとしてベタつかない、艶のムラが落ち着いた、テープを軽く当てても糊が移らない、などの目視・触感で判断。
Q7:上塗りとの相性は?
A:必ずメーカーの適合表を確認。水性同士でも樹脂の相性でトラブルが出ることがあります。
Q8:余った材料の保管は?
A:密閉し直射日光・高温多湿を避けて保管。水性は凍結厳禁。溶剤系は火気近傍を避け、法規に従って管理・廃棄を。
チェックポイント(サクッと復習)
- 粉・吸い込み・シミ――いずれかがあればシーラーの出番。
- 素材に合わせて「浸透/カチオン/ヤニ止め/高付着」を選ぶ。
- 塗り過ぎは禁物。「吸わせて止める」が基本姿勢。
- 乾燥の実測確認(手触り・テープ)で次工程へ。
- プライマーやフィラーとは役割が違う。混同しない。
まとめ
シーラーは、仕上げの美しさと耐久性を左右する「下地づくりの要」です。素材に合った種類を選び、規定に沿って的確に塗るだけで、ムラ・にじみ・密着不良といったトラブルの多くは未然に防げます。現場でよく交わされる「まずシーラーで押さえよう」という一言には、経験に裏打ちされた確かな意味があります。この記事を手元の道しるべに、下地を見極め、最小の手数で最大の効果が出るシーラー使いを実践してみてください。仕上げがグッと楽になり、品質も安定します。