現場ワード「防犯カメラ」完全ガイド|内装工事で失敗しない選定・配線・設置のコツ
「防犯カメラって、どれを選べばいいの?どこに付ければ効果的?」そんな不安や疑問に、建設内装の現場感覚でやさしく答える記事です。現場で職人が実際に使う言い回しから、種類・機能・設置位置・配線・法令の注意まで、初めてでも迷わないように具体的に整理しました。読み終えるころには、見積もりや現調、発注や設置の会話がスムーズにできるようになります。
現場ワード(防犯カメラ)
読み仮名 | ぼうはんカメラ |
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英語表記 | security camera / surveillance camera(CCTV camera) |
定義
防犯カメラとは、犯罪抑止・証跡(エビデンス)確保・安全管理などを目的に、指定範囲を撮影・録画・監視するカメラ機器の総称です。建設内装の文脈では、天井や壁、仮設事務所・資材置き場などに設置し、出入口・通路・受渡しエリア・動線の死角をカバーする設備を指します。録画機(DVR/NVR)やクラウド、電源・ネットワークと組み合わせて運用します。
現場での使い方
現場では「カメラ」「監視カメラ」「CCTV」など略称で呼ばれ、形状や方式でさらに細かく言い分けます。打合せでは「何台・どこに・何を撮るか・何日分録るか・どの配線経路か」を短時間で決めるのが定番です。
言い回し・別称
- 監視カメラ/CCTV(閉回路テレビ)
- IPカメラ/ネットワークカメラ(LAN・PoEで接続)
- 同軸カメラ(AHD/HD-TVI/CVIなど、既存同軸を流用)
- ドーム/バレット(形状)/PTZ(パン・チルト・ズーム)/全方位(360°)
- レコーダー(DVR/NVR)/VMS(管理ソフト)
使用例(3つ)
- 「入口は逆光になるから、WDR強めのドームで。レンズは2.8〜12mmのバリフォで微調整しよう。」
- 「通路はPoEで3台。天井裏から縦配線、盤までCat6で戻してNVRに集約します。」
- 「仮設はLTEのモバイルカメラで。資材置き場が見える位置にポール立てて、ステッカーも貼っておこう。」
使う場面・工程
- 計画・現調:目的・撮影範囲・台数・電源・配線経路・録画日数の確認
- 設計・選定:方式(IP/同軸)、形状、解像度、夜間性能、保存容量
- 配線・取付:天井裏・壁内ルート、金具・アンカー選定、落下防止、ラベルリング
- 設定・試運転:画角・ピント・露出・時刻同期・録画モード・スマホ閲覧
- 引渡し・運用:掲示物、運用ルール、保存・上書きポリシー、メンテ計画
関連語
- PoE、RJ45、Cat5e/Cat6、BNC、同軸、PF管、モール、金具、アンカー
- IR(赤外線)、WDR、DNR、プライバシーマスク、動体検知
- NVR/DVR、HDD、NAS、UPS、クラウド録画、VMS
防犯カメラの種類と選び方
接続方式で選ぶ
- IP(ネットワーク)カメラ:LANケーブルで接続。PoE給電可、拡張性が高く、新設に向く。
- 同軸カメラ(AHD/HD-TVI/CVIなど):既存の同軸ケーブルを流用可能。更新案件でコストを抑えやすい。
- 無線(Wi‑Fi/LTE):配線困難な仮設・屋外遠隔などに。通信品質・電源の確保が鍵。
形状で選ぶ
- ドーム:意匠になじみやすく、屋内の出入口・天井に適する。レンズ方向が目立ちにくい。
- バレット:屋外向けで威嚇効果が高い。サンシェード付きで雨天でも見えやすい。
- PTZ:広域を一台でカバー。遠隔で向き・ズーム操作。監視員がいる現場やイベント向け。
- 全方位(フィッシュアイ):360°を一台で。記録後のデワープ表示で使い勝手向上。
機能で選ぶ
- 解像度:フルHD(2MP)で多くの内装現場は十分。人物同定・細部重視なら4MP〜4Kも検討。
- 夜間性能:IR(赤外)照明、低照度感度、カラー低照度(条件次第で夜間もカラー)。
- 逆光補正:WDR(120dB級)で出入口の昼夜逆光に対応。
- 耐環境:IP66/67(防塵防水)、IK10(耐衝撃)、動作温度範囲。
- 音声:内蔵マイク/外部マイク対応。録音は運用ルール・掲示に配慮。
- エッジ録画:カメラ内SDカードでネットワーク障害時も記録継続。
- プライバシーマスキング:映してはいけない領域を塗りつぶし。
レンズと画角の目安
固定焦点は広角2.8〜4mmが屋内で扱いやすく、通路の先まで見たいときは6〜12mm。バリフォーカル(例:2.8–12mm)は現地で最適画角に調整でき便利です。人物の顔識別を狙うなら、入口やレジ前など通過点を狭めに撮る配置が有効です(広い空間を無理に一台で撮るより、狙いを絞るほうが証跡は明瞭)。
配線・電源・設置の実務ポイント
配線の基本
- IPカメラ:Cat5e/Cat6を推奨。PoEスイッチ〜カメラは100m以内が目安。長距離はPoEエクステンダや光で。
- 同軸カメラ:既存BNC同軸を流用。老朽化・減衰を現調で確認。電源は別系統またはPoC対応を検討。
- 保護と美観:PF管・モールで露出配線を保護。可動部はスパイラルチューブ。天井裏は結束とラベルで整線。
- 余長と識別:機器側に適度な余長、IDラベルで台番号・行先を明記。盤側は配線表と写真記録を残す。
電源計画
IPカメラはPoE給電がシンプルで停電対策(UPS)も集約しやすいです。バレットやIR強めの機種は消費電力が増えるため、PoEの電力枠(PoE/PoE+/PoE++)を事前確認。同軸はDC12V/AC24Vの個別給電が必要な場合あり。AC100Vの新設・延長は有資格者による電気工事が必要です。
取付位置・高さ
- 出入口:2.5〜3.0m高で顔がはっきり映る角度に。逆光対策として室内側から入口方向を撮る構成が鉄板。
- 通路・動線:角の天井隅や梁下から斜めに全体を見る。行き止まりは死角になりやすいので注意。
- 窓面・ガラス:映り込みを避け、屋外はレンズ前に遮蔽物が入らないようサンシェードを調整。
固定方法・金具
石膏ボードにはボードアンカーや補強板を併用。軽天の場合は下地位置を探し、必要に応じて補強。コンクリートはプラグアンカーを使用。屋外は防水ボックス・防水グランドで結線部を保護し、落下防止ワイヤも忘れずに。仕上げ材の割れ・欠けを避けるため、下穴の径・位置を正確に。
ネットワーク・録画設定
NVRは台数・解像度・フレームレートに見合うスループットを選定。録画は常時+動体検知の併用が実務的。保存日数は「総ビットレート×日数」でHDD容量を目安計算(例:2MP・H.265・15fps・1台あたり約1.5~3Mbpsを参考に、台数で合算)。時刻同期(NTP)、ユーザー権限、リモート閲覧のポート設定やP2P機能のセキュリティも確認します。
現場用(仮設)防犯カメラの活用
工事期間中の盗難・いたずら対策に、仮設用のモバイルカメラが有効です。LTE回線対応・ソーラーパネル・大容量バッテリー・強力マグネット・ポール取付金具など、現場向けの仕様を備えたモデルもあります。資材置き場や搬入口・仮設ハウスを押さえるだけでも抑止効果は上がります。
- メリット:配線がほぼ不要、短期レンタル可、撤去が容易、遠隔で映像確認ができる。
- 注意点:通信費、電源(バッテリー交換やソーラー設置角度)、風・粉塵・雨対策、夜間照度。
- 運用:防犯ステッカー掲示、動体検知通知の閾値調整、記録媒体の定期バックアップ。
法令・運用の注意(日本国内の一般的配慮)
- 掲示:撮影の事実・目的・管理者連絡先などを見やすく掲示。音声録音の有無も明示が望ましい。
- 個人情報保護:録画データの保存期間を必要最小限に設定し、閲覧権限を限定。外部提供はルール化。
- 近隣配慮:敷地外や隣地の生活空間を過度に写さない。プライバシーマスクで範囲を絞る。
- 安全:脚立・高所作業の安全帯、通行規制、感電・落下物対策。AC工事は有資格者で実施。
代表的メーカー・機器の傾向(例)
- パナソニック/i-PRO:国内現場での実績が多く、信頼性やサポートに定評。各形状・機能が幅広い。
- Axis Communications(スウェーデン):ネットワークカメラ分野の草分け的存在。拡張性・VMS連携に強い。
- Hanwha Vision(韓国):コストと機能のバランスが良いラインアップ。
- Hikvision/Dahua(中国):グローバルで流通が多く、選択肢が広い。導入時はサポート体制やセキュリティ要件を確認。
同一メーカーで統一すると管理が容易ですが、レンズ・設置条件次第では混在構成も現実的です。保守・交換を見据え、国内流通・保証・ファーム更新の入手性を確認しましょう。
見積り・コストの目安と削減策
金額は仕様・数量・現場条件で大きく変わりますが、一般的な参考感として以下をイメージしてください。
- カメラ本体:1台あたり概ね2万〜10万円台(解像度・機能で変動)。
- NVR(レコーダー):3万〜20万円台(対応台数・スループット・HDD別)。
- HDD・記録媒体:数TBで1万〜数万円台。
- 配線・取付工事:1台あたり1万〜3万円程度から(距離・天井高・屋外防水・穿孔数で増減)。
- ネットワーク機器(PoEスイッチ・UPSなど):数千円〜数万円台。
削減策としては、目的を絞って台数を最適化、既存配線の活用、PoE集約で電源工事を最小化、録画は常時+動体検知で保存日数を確保、が効果的です。
よくある失敗と対策
- 逆光で顔が真っ黒:WDR機種を選定、設置角度を調整、入口を背にしない配置に変更。
- 夜間が真っ白・真っ黒:IRの反射物(ガラス・白壁)を避け、照度を補う。DNR設定を見直す。
- 録画日数が足りない:H.265・フレームレート最適化、動体録画併用、HDD増設やNASバックアップ。
- PoE電力不足:予算より上位のPoE規格にする、IR強度の高い機種は個別給電を検討。
- 配線取り回しが汚い:ルート計画、PF管・モール使用、ラベルと写真記録の標準化。
- 掲示・運用ルール不足:掲示物を標準化、管理者・保存期間・問い合わせ先を明記。
- メンテ抜け:定期清掃(レンズ・ドームカバー)、ファーム更新、HDDのSMARTチェック。
導入前チェックリスト
- 目的は何か(抑止/証跡/安全管理)
- どこを撮るか(入口・通路・資材置き場・受渡し)と死角の洗い出し
- 必要台数と形状(ドーム/バレット/PTZ/全方位)
- 方式(IP/同軸)、配線ルート、電源(PoE/個別)
- 解像度・夜間性能・逆光対策・レンズ焦点距離
- 録画方式(常時/動体)、保存日数、HDD容量
- 遠隔閲覧・ユーザー権限・ログ管理
- 掲示・運用ルール・保存と破棄の基準
- 保守計画(清掃・点検・更新)
- 見積りの内訳(機器・配線・金具・設定・試運転)
よくある質問(FAQ)
Q. 何台必要かの考え方は?
A. 入口・出入口、主要通路の合流点、資材置き場や搬出入エリアを起点に、死角がなくなるまで追加します。広い空間を一台で無理に撮るより、目的に応じて狙いを分けるほうが実用的です。
Q. 屋外にWi‑Fiカメラはダメ?
A. 短期・仮設なら使えますが、常設では通信の安定性や電源の確保、防水・防塵・耐候を重視し、有線(PoE)を基本にするのが安全です。
Q. どのくらいの期間、録画を残せばいい?
A. 運用目的や社内規程次第ですが、1〜4週間程度を目安に設定するケースが多いです。事件・事故発生時に遡れる日数を想定し、HDD容量を調整します。
Q. 既存の同軸を活かしたい。
A. AHD/HD-TVI/CVI対応の同軸HD方式を選べば、配線を流用できる可能性があります。老朽化や距離の影響があるため、現調で減衰やコネクタ状態を確認してください。
Q. 音声も録るべき?
A. 必要性とプライバシー配慮を慎重に判断してください。録音の有無は掲示で明確化し、運用ルールを整備します。
用語集
- WDR:明暗差の大きい環境でも白飛び・黒つぶれを抑える機能。
- IR(赤外):暗所で照射して白黒撮影を可能にする。反射物に注意。
- PoE:LANケーブルで電源供給。PoE/PoE+/PoE++など規格がある。
- NVR/DVR:ネットワークカメラ/同軸カメラの録画装置。
- PTZ:パン(左右)・チルト(上下)・ズームを遠隔操作できるカメラ。
- プライバシーマスク:指定エリアを記録映像からマスクする機能。
- VMS:複数拠点・多台数を統合管理するソフトウェア。
- IK等級:耐衝撃性能の指標。IK10は高い耐衝撃性。
- IP等級:防塵防水性能の指標。IP66/67など。
防犯カメラは「どの機種が良いか」よりも「どこをどう撮るか」「どう運用するか」が成果を左右します。本記事を現調と打合せのチェックリストとして活用し、目的に合った選定・配線・設置で、内装現場の安全と安心を確実に高めていきましょう。