建設現場で使う「スリーブキャップ」をやさしく解説—意味・種類・現場運用のコツ
図面には載っていないけれど、現場ではみんな当たり前のように使っている言葉「スリーブキャップ」。はじめて現場に出ると、「それ何?どこで使うの?」と戸惑う人も多いはずです。この記事では、内装・設備の実務でよく登場するスリーブキャップについて、意味・役割・選び方・使い方まで、やさしく丁寧に解説します。読み終わるころには、現場で指示されても迷わず動けるようになります。
現場ワード(スリーブキャップ)
読み仮名 | すりーぶきゃっぷ |
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英語表記 | sleeve cap |
定義
スリーブキャップとは、コンクリート壁・床(スラブ)などに貫通させたスリーブ(配管・配線を通すための保護管・開口)に取り付ける蓋(キャップ)のこと。砂・ホコリ・雨水・モルタルの流入を防ぎ、開口の安全確保や仕上げ面の汚れ防止、異物落下の防止、臭気・虫の侵入抑制といった仮設的な養生を目的に使われます。防火性能や止水性能そのものを担保する製品ではなく、基本は「保護・養生のためのカバー」です。
そもそも「スリーブ」って何?
スリーブは、コンクリートに穴を開けて後から配管・配線を通すための筒状部材(保護管)です。配管径より一回り大きな径で設け、管の挿通や断熱材・シール材の施工スペースを確保します。施工段階では、コンクリート打設時や内装工事中にスリーブがむき出しになるため、その口元を保護するのがスリーブキャップの役割です。
キャップがないと、打設圧力や清掃時の洗い水、粉塵、落下物がスリーブ内に入り、後工程での閉塞・詰まり・悪臭・虫の発生、さらに階下への漏水リスクにつながります。小さな部材ですが、品質・安全・工程管理の要となる「現場標準の養生材」です。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では、次のような呼び方をすることがあります。現場ルールや業種によって言い回しが少しずつ違う点も覚えておくと会話がスムーズです。
- スリーブキャップ(正式に近い)
- キャップ(略称。文脈でスリーブ用とわかる)
- スリキャップ(略称)
- 養生キャップ(養生目的を強調)
- 開口キャップ(開口部全般の仮蓋として)
使用例(3つ)
- 「床の給水スリーブ、今日は打設だから全部キャップかぶせといて。」
- 「壁のφ100スリーブ、キャップ足りないから追加で持ってきて。色は赤で統一ね。」
- 「明日の配管挿通までキャップ外さないで。清掃の水が入ると詰まるから。」
使う場面・工程
スリーブキャップは、主に以下の工程で活躍します。
- 型枠建込み〜コンクリート打設前:スリーブを仮固定し、上面にキャップをしてモルタル流入を防止。
- 打設後〜内装下地(LGS)〜設備先行配管:清掃・搬入で粉塵や破片が多い期間、継続して蓋を保持。
- 配管・配線挿通直前:キャップを外し、作業後は必要に応じて再度養生。複数回の着脱を想定した樹脂キャップが便利。
- 仕上げ前:臭気・虫の侵入、落下事故防止の観点で、使用しないスリーブはキャップ+封鎖の指示が出る場合あり。
関連語
- スリーブ:配管・配線用の貫通保護管そのもの。
- 貫通スリーブ先行(先行スリーブ):コンクリート打設前に設置する方法。
- 後施工コア(コア抜き):打設後にコアドリルで開口する工法(この場合も仮蓋が必要)。
- 防火区画貫通処理:耐火性能確保のための充填・シール工事。キャップは防火性能を担保しない。
- 止水措置(止水リング・止水材):水密性確保の処置。キャップは止水材ではない。
種類と構造(何を選ぶか迷ったらここを見る)
スリーブキャップにはいくつかのタイプがあります。現場の目的・工程に合わせて選びます。
- 差し込み式樹脂キャップ:もっとも一般的。スリーブ内径に合わせて差し込むタイプ。着脱が容易で繰り返し使える。
- 被せ(外掛け)タイプ:スリーブ外径に被せるタイプ。内側に配線等が仮設で入っている場合でも外側から塞げる。
- 薄型・平蓋タイプ:床面と干渉しにくく、歩行や台車の通行を妨げにくい。マスキングと併用することも。
- 表示付きタイプ:径・系統(給水・排水・電気など)を書き込める表示スペースや色分けが可能なもの。
- 使い切り簡易キャップ:紙・スポンジ・発泡材など。短期の仮蓋に。長期養生には不向き。
材質は主に樹脂(PE・PPなど)が多く、耐水性・耐薬品性・柔軟性のバランスが良好。屋外や長期の仮設では紫外線で劣化しやすいため、必要に応じて交換・養生シート併用を検討します。
サイズの見方と選び方
キャップ選定で最も多いミスは「サイズ違い」です。スリーブは「呼び径」と「内径・外径」があり、素材(鋼管・塩ビ管)によって寸法が異なります。キャップは内径差し込みか外径被せかで適合サイズが変わるため、事前確認が必須です。
- 内径差し込みタイプ:スリーブの内径に合わせる。挿入深さ、保持力(抜けにくさ)を確認。
- 外径被せタイプ:スリーブの外径に合わせる。外周の出代や仕上げ厚との干渉も考慮。
- 呼び径の勘違いに注意:例)「呼び100」は外径114相当の鋼管と、外径110の塩ビ管で異なる。
- 余裕の取り方:緩すぎると隙間からゴミ・水が入る。きつすぎると着脱困難。メーカー適合表に従うのが安全。
- 再利用予定:着脱頻度が高い現場は、エッジが割れにくい肉厚タイプが扱いやすい。
現場感覚としては、設備でよく使う径(例:φ50、φ65、φ75、φ100、φ125、φ150、φ200など)を常備。特殊径や角形開口は事前手配が安心です。
施工手順とチェックポイント
基本の流れはシンプルですが、抜け漏れが品質トラブルに直結します。以下を参考に標準化しましょう。
- 1. スリーブ確認:径・本数・位置(墨)・高さ(GL/FL基準)を確認し、写真記録。
- 2. 清掃:装着前にスリーブ内外の粉塵・水分を除去。湿潤面は外れやすい。
- 3. 装着:指定のキャップを奥まで確実に装着。差し込み抵抗が適切か手応えを確認。
- 4. 表示:系統・径・区画など現場ルールに従いマーカーやシールで明記(色分けも有効)。
- 5. 二次養生:雨天や長期放置が想定される場合は、上から養生テープ・フィルムで保護。ただし貼りすぎで剥がしにくくしない。
- 6. 点検:打設前・打設後・清掃後・挿通前に定期点検。欠落・破損があれば即時交換。
現場チェックリスト
- すべてのスリーブにキャップが装着されているか(未使用開口の見落としに注意)。
- サイズ適合・抜け止め状態は問題ないか(軽く引いて外れない)。
- 表示(径・系統・行先)が見えるか、色分けルールに合っているか。
- 防火区画・止水仕様の区画は別途指定の処置が必要で、キャップのみで代用していないか。
- 歩行・台車が通る箇所の干渉・段差はないか。転倒・躓きの危険がないか。
安全・品質上の注意点(よくある失敗と対策)
- テープ仮止めだけで済ませる:打設圧・清掃水で剥離し、スリーブにモルタル・泥水が侵入。必ずキャップ本体で物理的に塞ぐ。
- サイズ選定ミス:緩すぎて隙間から漏水・粉塵侵入。適合表で内径・外径を確認して手配。
- 防火区画での誤用:キャップ=防火ではありません。区画貫通は認定材料・工法で処理する。
- 長期放置での劣化・紛失:紫外線・人荷の接触で割れ・脱落。定期点検と予備の常備、交換ルールを徹底。
- 表示なしで混乱:どのスリーブか現場で迷子に。系統・径・行先の簡易表示を標準化。
法規・性能に関する基本知識
スリーブキャップは仮設養生であり、建築基準法上の耐火性能や防火区画の貫通処理の代替にはなりません。防火区画・準耐火構造の壁・床を貫通する場合は、所定の耐火認定(例:FPマーク等の認定を持つシステム)に適合した材料・充填・施工を行う必要があります。また、止水仕様が求められる場所(機械室・屋外壁貫通等)は止水リングや防水シーリングなど、別途設計・仕様書に従った処置を実施してください。
メーカー・入手先の例
スリーブ本体やキャップ類、貫通部保護・養生資材は、電設・設備の副資材メーカーや商社で広く扱われています。代表的な取り扱いメーカー例として以下が知られています(各社で「スリーブ」「キャップ」「開口養生」など名称・仕様は異なります)。具体的な型番・適合寸法は各社カタログを確認してください。
- 未来工業株式会社:電設・設備向けの樹脂副資材全般でラインアップが豊富。
- 積水化学工業(エスロン):塩ビ管・継手など配管システムと周辺部材を展開。
- 因幡電工(因幡電機グループ):空調・配管副資材や端末部材の取り扱いがある。
購入は、現場近隣の設備資材店・電材店、建材商社、または工事向けECサイトでも可能です。現場支給ルール(支給・持込・レンタル)を事前確認しましょう。
現場で役立つ小ワザ
- 色分け運用:系統ごと(給水・排水・電気・通信用など)にキャップ色やシール色を統一すると、探す・確認する時間が短縮。
- タグ管理:径・行先・系統を耐水ラベルで明記。写真管理と合わせて後工程で迷わない。
- 二重養生:長期現場や粉塵が多い工程は、キャップ+フィルムで二重に。外す順番がわかるようにタグ付け。
- 使い分け:打設時はしっかり保持力のある差し込み型、仕上げ直前は薄型で段差を抑えるなど、工程別に最適化。
- 予備の常備:よく使う径は各階に少量ストック。紛失・割れへの即応で手戻りを防止。
注意:排水用などで一時的に通気を確保したい場面でも、勝手に穴を開けるなどの改造はNG。必要があれば監督・設備担当に確認し、適切な部材・方法を採用してください。
似た言葉との違い
- ボイドキャップ:ボイド管(軽量型枠)端部の養生用。目的が近いが対象が異なる。
- 埋設管の端末キャップ:配管端の養生・封止用。スリーブキャップは開口部(貫通保護管)の蓋。
- 防火スリーブ・貫通部材:耐火性能を有するシステムの総称。スリーブキャップは防火材ではない。
よくある質問(FAQ)
スリーブキャップは必ず必要?
必須と明記されないこともありますが、実務ではほぼ「標準対応」です。未装着だと、モルタル・粉塵侵入や落下事故、後工程での詰まり・臭気・虫など多くのトラブル要因になります。小コストで大きなリスクを減らせるため、装着が推奨されます。
養生テープで代用できる?
短時間の仮止めは可能でも、打設圧・清掃・人荷の接触で簡単に剥がれます。確実な密閉・保持にはキャップ本体が必要。どうしても一時対応の場合は、外れやすい方向に力がかからないよう配慮し、速やかにキャップへ切り替えてください。
防火区画でも使える?
スリーブキャップは防火性能を担保しません。防火区画の貫通は、設計・仕様に従い、認定工法による充填・耐火措置が必要です。工区ごとに施工写真・材料証明の整合も取ってください。
床が仕上がってからも付けておく?
未使用スリーブや、後日挿通予定の開口は養生継続が有効です。仕上げを傷めない材質・固定方法を選び、引渡し時の状態(撤去・残置)を監督と合意しておきましょう。
コスト・段取りの考え方
キャップ自体の単価は高くありませんが、現場全体で本数が多いと総額は無視できません。使い捨てと再利用のバランス、よく使う径のまとめ買い、工程ごとの回収ルール(撤去・清掃・再配布)を決めると、紛失・ムダ発注を減らせます。写真記録で「装着済み」を見える化すると、点検の手間も削減できます。
まとめ
スリーブキャップは、スリーブ開口を守るための小さな仮設部材ですが、品質・安全・工程の三拍子に効く「現場の当たり前」です。ポイントは「正しいサイズ」「確実な装着」「明確な表示」「定期点検」。防火・止水といった性能は別途の専門工事で確保しつつ、キャップは日常の養生として地道に運用する。これが、後戻りのないスマートな現場づくりのコツです。初めての方も、この記事の内容をチェックリスト代わりにすれば、明日からの現場で迷わず動けます。