吹付塗装の基本と現場での言い回し完全ガイド|工法・機材・手順までやさしく解説
「吹付塗装ってローラー塗りと何が違うの?」「エアレスってどういう機械?」——内装の現場でこんな疑問を耳にすることは少なくありません。初めて関わると専門用語が多くて戸惑いますよね。本記事では、建設内装現場で職人が日常的に使う現場ワード「吹付塗装」を、基本から実践までわかりやすく整理しました。言い回し・工程・機材・品質のコツ・安全面までを一気に把握できるので、現場での意思疎通や段取り確認にそのまま役立ちます。
現場ワード(吹付塗装)
| 読み仮名 | ふきつけとそう |
|---|---|
| 英語表記 | spray painting(sprayed coating) |
定義
吹付塗装とは、塗料を霧状にして下地に噴霧・付着させる塗装方法の総称です。コンプレッサーで空気を使って霧化する「エアスプレー」や、高圧ポンプで塗料自体を霧化する「エアレス」などの機械を用い、壁・天井・鉄部・ダクト類などを効率よく塗装します。ローラーや刷毛に比べて塗り継ぎが目立ちにくく、細部や凹凸にも行き渡りやすい一方、養生や換気、飛散(オーバースプレー)対策が重要になります。
吹付塗装の仕組みと種類
エアレス(Airless)
高圧ポンプで塗料を圧送し、専用のチップ(ノズル)で微粒化する方法です。扇形のパターンで広範囲を均一に塗布できるため、天井や広い壁面など面積の大きい場所で活躍します。比較的高粘度の塗料にも対応しやすく、生産性が高いのが強み。反面、圧力管理・チップ選定・吐出量の調整を誤ると、塗料の飛散やダレ(たれ)を招きやすいため、試し吹きと設定調整が欠かせません。
エアスプレー(コンプレッサー式)
圧縮空気で塗料を霧化する従来型の方法です。ガンの操作でパターンや吐出を緻密にコントロールしやすく、見切りや細部、意匠性の高い仕上げに向きます。仕上がり重視の局所塗装や補修、什器・金物の塗装などで多用されます。HVLP(低圧大風量)などの方式は飛散を抑えながら塗着効率を高められるのが特徴です。
どちらを選ぶ?使い分けの目安
大面積でスピードと均一性を求める場合はエアレス、細部や質感重視、補修や部分対応はエアスプレーが基本。現場では両方を併用し、「面はエアレス、見切りや入隅はエアスプレー」など使い分けることがよくあります。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では「吹付」「スプレー」「エアレス」「ガン吹き」といった短縮形で呼ばれます。たとえば「天井はエアレスで一発」「見切りはガンで押さえて」など。ローラー仕上げと対比して「ローラー仕上げか吹きか?」と工程打合せで確認されます。なお、「吹きっぱなし」は「後処理・検査が不十分」を指摘するネガティブな言い回しなので注意しましょう。
使用例(3つ)
- 「明日は壁面Aは吹付で行くから、朝イチで全面養生よろしく。」
- 「鉄骨階段の側板は2液ウレタンをガンで。プライマー入れてからね。」
- 「ジプボード天井はシーラー後、エアレスで2回。見切りは手元でマスカーしながら寄せて。」
使う場面・工程
対象は、内装の壁・天井、露出ダクト・配管、スチールパーテーション、軽鉄(電気炉亜鉛めっき鋼板)など。工程は概ね「養生→下地処理(清掃・ケレン・パテ)→シーラー/プライマー→中塗り→上塗り→清掃・検査」。吹付は中・上塗りで威力を発揮し、均一な膜厚と継ぎ目の少ない仕上がりを実現します。
関連語
- 養生:飛散や汚れを防ぐための保護作業。マスカー、マスキングテープ、養生シートなどを使用。
- 下地調整:パテ処理、ケレン、油分除去、目荒らしなど塗装前の整え作業。
- シーラー/プライマー:下地と塗膜の密着を高め、吸い込みやヤニ止めに効く下塗材。
- 希釈:水性は水、溶剤系は指定シンナーで適正粘度に整える工程。製品仕様に厳密に従う。
- オーバースプレー:塗料の飛散。見切り不良や異種材汚染の原因。風向・養生・圧力調整が鍵。
メリット・デメリット
メリット
- 仕上がりの均一性:継ぎ目やローラー目が出にくく、面の一体感が出る。
- 生産性:大面積の塗布速度が速い。凹凸・細部にも行き渡りやすい。
- 膜厚コントロール:設定が合えば均一膜厚を確保しやすい。
デメリット
- 養生コスト:飛散対策で養生範囲が広くなりがち。
- 環境条件の影響:換気・粉じん・湿度/温度の影響を受けやすい。
- 音・ミスト:機械音やミストが出るため、周辺との調整が必要。
ローラー・刷毛と吹付を上手く組み合わせ、工期・品質・環境制約のバランスを取るのが現場の腕の見せ所です。
どんな下地に向く?適用範囲と注意点
内装では、石膏ボード(パテ処理後)、モルタル・コンクリート、ALC、既存塗膜面(金属・木部含む)、金物(鉄・亜鉛めっき・アルミ系は適合プライマー必須)、露出配管・ダクトなどに適用可能です。吸い込みの強い下地はシーラーで整え、金属は防錆や密着用のプライマーを選定します。既存面は密着試験や清掃・脱脂が不可欠です。
注意が必要なのは、稼働中の施設での作業(換気・臭気・ミスト)、粉塵が多い環境(ゴミ噛みのリスク)、感知器や精密機器のある空間(養生と一時カバー)、高湿・低温(乾燥不良)など。素材固有の可塑剤移行やシリコン汚染がある場合はハジキの原因になるため、専用下塗材や洗浄で対処します。
施工手順(内装での基本フロー)
1. 計画・確認
仕様書・塗料選定・色番・光沢・塗回数・乾燥条件・安全計画を確認。周辺の稼働状況や他職との取り合い(設備・電気・内装仕上)を調整し、作業時間帯や養生範囲、換気ルートを決めます。試し塗りの有無とサンプル承認も早めに調整します。
2. 養生
床・建具・ガラス・什器・設備機器・感知器を保護。マスカー、ノンスリップ養生、静電防止シートなどを状況に応じて選ぶ。見切りラインはテープ幅・品番を揃え、剥がしやすいタイミングを想定して貼り込みます。
3. 下地調整
清掃・脱脂・ケレン(目荒らし)、石膏ボードはパテで目地・ビス頭・不陸を処理。粉っぽい面はダストを除去。既存塗膜は浮き・割れ・脆弱部を除去し、必要に応じて研磨します。
4. シーラー/プライマー
吸い込み止め・密着向上・ヤニ止め目的で適合品を選定。金属は防錆プライマー、亜鉛めっきやアルミは専用プライマーを使用。塗布量と乾燥時間は製品仕様に従い、指触乾燥・研磨・粉拭きまでを丁寧に。
5. 試し吹き(テストスプレー)
吐出圧・チップ/ノズル径・パターン幅・希釈率を調整。試験板や隅部で粒立ち、オーバーラップ、色・艶の見え方を確認します。照明角度を変えてムラやダレの兆候をチェック。
6. 本吹き(中塗り・上塗り)
ガン距離はおおむね15〜30cmを基準に一定を保ち、ストロークはパネル外から入り外で切るのが基本。オーバーラップは約50%を目安に、角・入隅は先に押さえ、面は水平・垂直を交差して均一膜厚を狙います。塗り重ね時間は製品仕様に厳守。環境により乾燥が遅れる場合は送風・除湿などで補助します。
7. 乾燥・検査・是正・養生撤去
ピンホール、ダレ、塗り残し、ゴミ噛み、色ムラ、艶ムラ、見切り乱れを点検。必要に応じて研磨・部分補修。乾燥後に養生を撤去し、粘着転移や剥離を避けるため角度とタイミングに注意します。
品質確保のコツ(プロが気にするポイント)
- 機材の適正化:対象・塗料に合うチップ/ノズル・圧力・パターンを選ぶ。
- 一定のリズム:距離・速度・角度を一定に保つ。ガンのオン/オフは面外で。
- 照明:斜めから当ててムラやダレの兆候を早期発見。色・艶の見え方も確認。
- 環境管理:温湿度・換気・粉じん対策。乾燥不良やゴミ噛みを未然に防ぐ。
- 見切り養生:ラインの直線性、テープの密着、剥がすタイミングを設計。
- 塗料管理:ロット管理・攪拌・濾過(ストレーナー)を徹底。希釈率は厳守。
よくあるトラブルと対策
- オーバースプレー(飛散):圧力・吐出量を適正化、パターン幅を見直し。風がある時は送風方向を制御、養生を拡大。
- ダレ:希釈過多、吐出過多、動作が遅いことが原因。距離を詰めすぎない、薄く複数回で仕上げる。
- ピンホール・泡:下地の吸い込み・含水、スプレー距離が遠すぎる場合。シーラーの選定と乾燥管理で対処。
- ハジキ(シリコン汚染):シリコンオイルや離型剤の影響。脱脂・洗浄・専用下塗りで対策。
- 色ムラ・艶ムラ:ロット混在、膜厚不均一、乾燥差。同ロット運用、撹拌、交差吹きで均一化。
安全・衛生と法令のポイント
吹付塗装はミスト・臭気・可燃性溶剤(溶剤系の場合)を伴う可能性があります。基本は換気の確保、周辺との調整、火気厳禁の徹底。個人保護具として保護メガネ、手袋、皮膚保護、必要に応じて防塵マスクや有機溶剤用防毒マスクを着用。溶剤系塗料を扱う作業では、関係法令・指針に基づく管理や有機溶剤作業主任者の選任が必要となることがあります。現場の安全衛生計画と製品の安全データシート(SDS)を必ず確認し、指示に従ってください。
代表的な機材・メーカー
- アネスト岩田(Anest Iwata):スプレーガンの国内定番メーカー。HVLPなど仕上げ重視のガンが充実。小型コンプレッサや周辺機器も取り扱い。
- グラコ(Graco):業務用エアレスポンプの代表的メーカー。大面積塗装や高粘度対応機で現場採用が多い。
- ヴァーグナー(Wagner):ドイツ系。業務用・半業務用のエアレス機を幅広く展開。軽量・可搬性に優れる機種も。
- デビルビス(DeVilbiss):自動車補修向けで著名なスプレーガンブランド。微妙なパターン調整がしやすく、意匠性重視の仕上げで活躍。
- 明治機械製作所(MEIJI AIR):国内のスプレー機器メーカー。堅牢で扱いやすいスプレーガンをラインアップ。
各メーカーともノズル(チップ)サイズやパターン、吐出量の選択肢が豊富です。塗料(粘度・固形分)と対象(面積・形状)に合わせて選定し、必ずメーカー仕様に従って運用しましょう。
塗料の種類と内装での使い分け
- 水性アクリルエマルション(AEP):内装壁・天井の標準。低臭・取り回しが良く、F☆☆☆☆等の低VOC製品が主流。
- エポキシ樹脂系(EP):密着・耐薬品性に優れ、下塗りや鉄部、設備周りに使用されることが多い。
- ウレタン樹脂系(U):金物や手摺など耐久性・耐擦傷性を求める部位に。2液型は可使時間(ポットライフ)管理が必須。
- シーラー/プライマー:吸い込み止め、ヤニ止め、金属用、防錆など用途別に選定。
色・艶(つや消し〜3分・5分・7分・全艶)は空間の照度や意匠と合わせて決定。傷や補修の目立ちづらさ、汚れの拭き取りやすさも考慮します。
費用感・工期の目安(考え方)
条件によって大きく変動しますが、広い面の新規塗装では吹付のほうがローラーより歩掛りが軽くなる傾向があります。一方、テナント内等で養生範囲が広い・換気が取りにくい・稼働中で制約が多い場合は、養生費・調整コストが上振れし、総合でメリットが出にくいことも。素地の状態、天井高さ、他工種との取り合い、使用塗料の乾燥時間などを踏まえ、吹付とローラーを最適に組み合わせるのが実務的です。
エアレスとエアスプレーの調整ポイント
- チップ/ノズル選定:パターン幅(扇形の広さ)とオリフィス径(吐出量)を対象に合わせる。
- 圧力:低すぎると粒が粗くなりザラつき、高すぎると飛散が増える。試し吹きで微調整。
- 希釈率:製品仕様を基準に。過剰希釈はダレ・隠ぺい不足・艶ムラの原因。
- フィルタリング:ストレーナーで異物混入を防ぎ、ガン詰まりを回避。
周囲との取り合い・段取りの勘所
吹付はミストが出るため、他職と同時作業は基本避けます。電気・設備が先行している場合は機器や端子盤を厳重養生。天井感知器は一時カバー+作業後速やかに復旧。床仕上げ前の段階で大面積を一気に進めると効率的です。色替えや意匠面は先にサンプルで合意し、ロット統一を徹底します。
初心者がつまずきやすいQ&A
Q1. 吹付は全部キレイに仕上がるの?
A. 均一に仕上げやすい工法ですが、下地が整っていないと段差・割れ・パテの粗が透けます。下地調整とシーラーが最重要です。
Q2. 水性なら換気しなくても大丈夫?
A. 水性でもミスト・臭気は発生します。人体や周辺設備への配慮として換気・養生は必須です。
Q3. 飛散を最小化するコツは?
A. 圧力・パターン・距離を適正化し、オーバーラップを一定に。風の流れを読み、必要なら仮設の風の壁(シート)で区切ります。
Q4. ローラーとどちらが早い?
A. 同条件なら大面積は吹付が有利ですが、養生・段取り・換気制約で総時間は逆転することも。現場条件で判断します。
Q5. 色や艶が打合せと違って見える…
A. 光源・照度・面の向きで見え方が変わります。事前の試し塗りと承認、同一条件での確認が大切です。
用語ミニ辞典(吹付塗装まわり)
- オレンジピール:表面の微細な凹凸模様。塗料粘度・噴霧条件・乾燥で変化。
- スケ:隠ぺい不足で下色や下地が透ける状態。膜厚不足や希釈過多が要因。
- 砥ぎ出し:研磨で面を整える工程。部分補修やゴミ噛み是正に用いる。
- 可使時間(ポットライフ):2液型で混合後に使用できる時間。超過使用は密着不良の原因。
- 目止め:下地の吸い込みや目を埋める処理。シーラーやフィラーを活用。
現場で役立つチェックリスト(抜粋)
- 仕様確認:塗料名・色番・艶・回数・乾燥時間・適用下地・希釈率。
- 機材:エアレス/ガン、チップ/ノズル、ホース、フィルター、コンプレッサ、延長ポール。
- 安全:換気計画、感知器扱い、PPE(保護具)、近隣調整。
- 養生:範囲・材料・手順、剥がしタイミング、見切りライン設計。
- 試し吹き:圧力・パターン・距離・希釈・塗着の確認、承認取得。
- 品質:照明角度でムラ確認、交差吹き、塗り重ね時間厳守。
- 後処理:検査・是正・清掃、SDS/余材管理、養生撤去の順序。
まとめ
吹付塗装は、内装の大面積をスピーディかつ均一に仕上げられる心強い工法です。ポイントは「下地を整える」「設定を合わせる」「養生と環境を制御する」の三本柱。現場では「面はエアレス」「細部はガン」で使い分け、他職との取り合いや換気も含めて段取りを組むと失敗が減ります。本記事の言い回し・工程・機材選び・品質管理のコツを押さえれば、初めてでも自信を持って打合せ・指示・確認ができるはず。明日の現場でぜひ活用してください。









