仮設電気をやさしく解説—内装工事で困らない基礎知識と安全のコツ
「現場で“仮設電気、もう入ってる?”って聞かれたけど、正直よく分からない…」「延長コードを使っていたらブレーカが何度も落ちた。なぜ?」——そんな初歩的な疑問や不安を、内装現場の視点でていねいに解消します。この記事では、職人同士の会話で頻出する現場ワード「仮設電気」を、基本の定義から使い方、安全ポイント、トラブル対処まで、はじめての方にも分かりやすく整理。読んだ後は、現場で自信をもってやり取りできる知識が身につきます。
現場ワード(仮設電気)
読み仮名 | 英語表記 |
---|---|
かせつでんき | Temporary Power Supply(Temporary Electrical Installation) |
定義
仮設電気とは、工事期間中にだけ設置・運用される一時的な電源設備の総称です。電力会社からの臨時契約による引込・メーター、仮設分電盤(漏電遮断器・分岐ブレーカ付き)、仮設照明やコンセント、延長ケーブルなどで構成され、解体・新築・改修・内装仕上げといった各工程の電動工具や照明の電源を安全に供給します。工事完了後は撤去・解約するのが前提です。
なぜ仮設電気が必要?現場での役割
内装工事では、インパクトや攪拌機、集じん機、レーザー墨出し器、照明など、電源が欠かせません。既存の建物でも、工事中は既設電源が使えなかったり、容量・安全性が不足することが多く、工事専用の電源を計画的に用意する必要があります。
- 安全性の確保:漏電遮断器や接地(アース)により感電・火災リスクを低減
- 作業効率の確保:必要な場所に必要な口数のコンセントと照度を確保
- 管理の明確化:元請・電気工事会社が管理者を定め、計画と点検を実施
- 工程の安定:容量不足や停電トラブルを防ぎ、工期遅延リスクを低減
現場での使い方
言い回し・別称
現場では略語や別称がよく使われます。意味はほぼ同じでも、微妙にニュアンスが異なることがあります。
- 仮設電気/仮設電源:最も一般的な呼び方
- 仮電(かでん):カジュアルな略称
- 臨電(りんでん):電力会社の「臨時電灯・臨時電力」契約に由来
- 動力(どうりょく):三相200Vの臨時電力を指すことが多い
- 仮設盤/仮設分電盤:現場に置くブレーカ付きの配電盤
使用例(会話の型・3つ)
- 「今日からボード貼り入るけど、仮設電気どこから取れます? 分電盤の位置教えてください」
- 「集じん機と攪拌機でブレーカ落ちるんで、回路分けてもらえますか? 20Aの口あります?」
- 「外部足場の照明、雨対応になってます? 防雨コンセントとアース確認済みですか」
使う場面・工程
解体から仕上げまで、ほぼ全工程で仮設電気が活躍します。特に内装工程では、照明・電動工具・集じん設備の確保が重要です。
- 解体・下地:投光器、ハンマードリル、集じん機
- LGS・ボード:スクリュードライバ、レーザー、切断機
- 左官・床:攪拌機、乾燥用送風機、スポットクーラー
- 仕上げ:照明、掃除機、測定器、微細工具
- 試運転・調整:設備機器の確認電源(必要に応じて200V/三相)
関連語
- 仮設分電盤/漏電遮断器(ELB)/分岐ブレーカ
- 仮設照明/投光器(防雨型)
- 電工ドラム(延長リール)/VCT・PNCTケーブル
- 接地(アース)/アース棒/接地抵抗
- 臨時電灯・臨時電力(電力会社契約)
- 単相100V/単相200V/三相200V
仮設電気の仕組みと主な機器
仮設電気は、電力会社からの臨時引込→メーター→仮設分電盤→各回路(照明・コンセント)という流れで構成されます。屋外・屋内の状況に応じて防雨仕様や保護具を選定します。
- 臨時引込・メーター:工事期間だけ設置し、工事完了後に撤去・解約
- 仮設分電盤:主幹に漏電遮断器、回路ごとに分岐ブレーカを配置。鍵付きで管理するのが一般的
- 仮設コンセント:100Vが中心。必要に応じて200Vや三相200Vの回路を用意
- 仮設照明:LED投光器など。防雨型や保護カバーで破損・感電を防止
- 延長ケーブル・電工ドラム:屋外は耐候・太線(例:2.0mm²×3心)を優先。巻いたまま使用は発熱の危険
- 接地(アース):D種接地が一般的(現場では100Ω以下を目安に管理する基準が用いられる)。必ず有資格者が施工
計画と容量計算の基本(内装視点)
「ブレーカがすぐ落ちる」の多くは、容量計画か負荷の集中が原因です。着工前におおまかな負荷計算と回路分けの検討をしておくと、現場がスムーズに回ります。
- 工具・機器の消費電力(W)を洗い出し、同時使用の組み合わせを想定
- 各回路に余裕(目安20〜30%)を見込み、突入電流の大きい機器(集じん機、コンプレッサ、攪拌機など)は回路を分ける
- 照明は回路を分散し、1回路停止でも全消灯しない設計に
- 100V中心で足りない場合のみ200Vや三相200Vを検討(大型機器・揚重・設備試運転など)
例:100V工具(インパクト400W、集じん機1200W、LED照明100W)を同時使用するなら、少なくとも15A(1500W)回路では厳しいため、集じん機を別回路にする等の分散が有効です。
申請・手続きと責任分担
仮設電気の申込みは、電気工事業者(元請または協力会社)が電力会社へ「臨時電灯」や「臨時電力」で行うのが一般的です。引込・メーター・仮設分電盤の設置、接地工事、配線は電気工事士の資格が必要な作業を含みます。無資格者が勝手に結線・改造するのは厳禁です。現場での管理者(鍵・点検・復旧手順)は元請が指名し、掲示・周知しておきましょう。解体時には解約と撤去を忘れずに。
安全ポイント(必ず守るべき基本)
感電・漏電対策
- 主幹の漏電遮断器(ELB)・分岐ブレーカの作動を定期点検。テストボタンで動作確認
- アース付コンセント(3極)を優先し、アースピンを殺す変換アダプタの安易な使用は避ける
- 水気・湿気のある場所では防雨型器具を使い、濡れた手での接続・抜き差しは行わない
配線の取り回し
- 通路・階段はケーブルを浮かせるか養生カバーで保護。車両・台車通行部は踏圧対策
- 鋭利なエッジ・開口部・躯体の角を避け、擦れ防止の保護材を使用
- 造作中のビス・ビット貫通に注意。仮設配線のルートは職長間で共有
雨・粉じん・熱のリスク
- 屋外・半屋外は防雨コンセント・プラグを使用。ジョイント部のビニール巻きだけで済ませない
- 電工ドラムは必ず全て引き出して使用。巻いたままの大電流は発熱・焼損の恐れ
- 粉じんが多い工程では、盤内・器具の吸気口を定期清掃。過熱・誤動作を防ぐ
点検と記録
- 毎朝点検:破損・発熱・緩み・漏電表示の有無、仮設照明の点灯、アースの有効性
- 月次点検:管理者が盤内・接地抵抗・保護具の状態を確認し、記録を残す
- 鍵管理・掲示:使用ルール・緊急連絡先・回路表を盤扉に掲示
よくあるトラブルと対処
- ブレーカが頻繁に落ちる:同時使用の見直し、回路分け、延長の過多やドラム巻き使用を解消。必要なら容量増強を電気工事会社へ依頼
- 工具が動かない・力が弱い:電圧降下の可能性。長すぎる細線延長の使用をやめ、太線・短距離へ
- プラグ・コンセントが熱い:接触不良・過負荷の疑い。即時停止・交換し、焼損痕の有無を確認
- 感電の疑い・しびれ:作業中止、該当回路遮断、漏電検査とアース確認。濡れた環境の改善
- 照明がちらつく:回路過負荷・接触不良・器具不良を点検。照明専用回路を確保
費用と見積もりの見方(目安の考え方)
費用は地域・期間・容量・設置条件で大きく変わります。具体額は現場条件のヒアリングが必須ですが、見積もりでは次の項目が一般的です。
- 申請・手続き代行費(臨時電灯/臨時電力)
- 仮設分電盤・仮設照明・ケーブル類のレンタル/購入費
- 配線・接地工事費(設置・撤去)
- 定期点検・保守費
- 電気料金(基本料金+使用電力量、期間按分)
「どこまでが仮設電気」「どこから先が各業者の持込設備」か、責任範囲と数量の線引きを明確にしておくと、後トラブルを防げます。
発電機やバッテリーの併用について
引込前・停電時・短期小規模では、発電機や業務用バッテリーを使う場合もあります。以下を厳守しましょう。
- 屋内でエンジン発電機は使用しない(排気による一酸化炭素中毒の危険)
- 容量・周波数・波形を機器に適合させる。精密機器はインバーター発電機を検討
- 逆潮流(商用側へ戻る電気)を絶対に起こさない切替・絶縁を徹底
- 接地・保護装置を確実に。雨天時は防雨対策の上で運用
内装職人向け 実用TIPS
- レーザー墨出し器や測定器はノイズ影響を受けやすい。大電流機器と回路を分けると安定
- 集じん機・コンプレッサは起動時突入が大きい。単独回路や20A口を優先
- 照度は安全に直結。投光器は転倒防止・落下防止を必ず実施
- 延長ケーブルは個人管理でラベル化。傷・つぶれは即交換
- 夜間作業は近隣配慮(光漏れ・騒音)と許可の確認を忘れずに
代表的なメーカーと特徴(例)
仮設電気でよく見かける国内メーカーを挙げます。製品選定の参考にしてください。
- 日動工業:仮設分電盤、電工ドラム、LED作業灯など現場向け電設用品に強み
- ハタヤリミテッド:電工ドラム・投光器の定番。防雨仕様やプロ向けラインナップが豊富
- パナソニック(電材):配線器具、コンセント、ブレーカなど信頼性の高い定番品
- テンパール工業:漏電遮断器・配線用遮断器に特化した国内メーカー
- 日東工業:分電盤・盤筐体の大手。仮設盤のベースにも使われる
- 未来工業:ボックス・ダクト・保護材など、配線の取り回し・保護部材が充実
チェックリスト(保存版)
着工前
- 容量計画(同時使用想定・回路分け)と盤位置・ルートの合意
- 防雨・防塵・保護の要否、夜間照明の有無を決定
- 責任分担(鍵管理、点検、復旧手順、緊急連絡)を明確化
日常点検
- ブレーカ・漏電遮断器・アースの状態
- ケーブルの傷・発熱・踏圧の痕跡
- 照明の点灯・転倒防止、コンセントの接触状態
撤去前
- 使用機器の撤収、回路の無電確認
- 盤・配線・接地の撤去順序と安全養生
- 電力会社の解約・メーター撤去手配、原状回復
初心者のためのQ&A
Q. 100Vと200V、どう使い分ける?
A. 内装では100Vが中心です。大型の機械や設備試運転、揚重用で200V(単相または三相)を使うことがあります。事前に機器仕様を確認し、必要な回路を計画に入れましょう。
Q. 3極(アース付き)プラグが刺さらないときは?
A. 2極しかない仮設口に変換アダプタで無理に使うとアースが取れません。原則は3極口またはアース接続を確保した上で使用します。現場の電気工事担当に相談してください。
Q. ドラムが熱いのはなぜ?
A. 巻いたまま大電流を流すとコイル状になって熱を持ちやすく危険です。必ず全部引き出し、過負荷を避けましょう。
まとめ
仮設電気は、内装工事の安全と効率を支える「現場のライフライン」です。定義と役割を理解し、容量計画・安全対策・点検をきちんと押さえておけば、「ブレーカが落ちた」「感電が怖い」といった不安は大きく減らせます。分からない点は無理をせず、元請や電気工事の担当者にすぐ相談する——それがトラブルを防ぐ最短ルートです。今日から現場で、自信を持って「仮設電気」の会話に参加していきましょう。