内装職人が使う「突き付け」完全ガイド|意味・納まり・実践の注意点
図面や現場で「ここは突き付けで」「巾木は枠に突き付けね」と言われ、何をどうすれば正解か迷ったことはありませんか?突き付けは内装・造作・ボード・タイルなど幅広い工程で登場する、ごく基本的かつ重要な現場ワードです。本記事では、初心者の方にもわかるように「突き付け」の意味、実際の使い方、納まりの考え方、品質管理のコツまで、プロの視点で丁寧に解説します。読み終える頃には、指示の意図が自信を持って読み解けるようになります。
現場ワード(突き付け)
| 読み仮名 | つきつけ |
|---|---|
| 英語表記 | butt joint(abutted joint) |
定義
突き付けとは、材料の小口(端部)どうし、または材料の小口と基準となる部材(枠・見切り・壁面など)を、重ねたり斜めに留めたりせず、まっすぐ当てて接合・納める方法、もしくはその状態を指す現場用語です。必要に応じて微小なクリアランスやシーリング・パテ処理を伴うことはありますが、基本の考え方は「面と面、線と線を素直に当てる」納まりです。ボードであれば目地処理(テープ・パテ)とセットで語られ、木製巾木や見切り材では「何に対してどう当てるか」という基準取りの言い回しとして使われます。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では以下のような言い回しや略が使われます。いずれも意味はほぼ同じです(文脈によりニュアンス差あり)。
- 突き付け(正式)/突付け(表記ゆれ)/ツキツケ(口語)
- 突き当て(「当てる」動作を表す別称)
- 突き付け納まり(納まり種別としての呼称)
対義・混同しやすい語として「留め(とめ)納まり(45度の留め継ぎ)」「かぶせ(被せ・重ね)」「差し込み(差し込み納まり)」「見切り納まり」などがあります。これらとの違いは後述します。
使用例(会話・指示の具体例)
- 「この壁、石膏ボードの短辺は突き付けで。長辺はテーパー同士でつないで、後でパテ処理ね。」
- 「巾木は枠に突き付けで納めて。隙間が出たらシール微入れ、見切りは入れない方針。」
- 「カウンターの立ち上がりタイルは今回は突き付け張り。水回りじゃないから目地は取らない指示だよ。」
いずれも「どの材料を」「どの相手(基準)に」「どのように当てるか」を明確にするのがポイントです。
使う場面・工程
- ボード下地:石膏ボードの短辺ジョイント、ボードと開口枠との取り合いなど
- 造作木工:巾木と枠、回り縁と見切り、カウンター天板端部と壁
- 金属・見切り材:L型・コーナー材の終端、巾木や床材との取り合い
- 仕上げ材:ビニル床タイル(LVT)のエッジ同士、タイルの「突き付け張り」指定時
- クロス:枠・見切りに対してクロスを突き付けてカット、後処理でシールやコークを微入れ
関連語
- 目地(ジョイント):材料と材料の継ぎ目。突き付けは「目地をほぼゼロで合わせる」か「最小限に抑える」考え方。
- 留め(とめ)納まり:45度にカットして角で合わせる継ぎ方。見付が美しく、框や額縁などで多用。
- かぶせ(被せ):一方の材料がもう一方に重なる納まり。見切りや押さえで隙間を隠す意図がある。
- 差し込み:スリットや溝に材料端部を挿入して納める方法。
- 見切り:材料の切れ端や取り合いの境界を整える部材・納まりの総称。
- クリアランス:膨張・収縮・施工誤差を吸収するための微小な逃げ寸法。
- シーリング(コーキング):取り合いの隙間を充填・防水・防塵・意匠のために埋める材料。
突き付けと他の納まりの違い
突き付けは「素直に当てて仕上げる」のが基本です。他の代表的な納まりと比較すると性格の違いが見えてきます。
- 突き付け:小口をそのまま当てる。シンプルでラインが通りやすい。加工は最小限だが、精度が直に露出する。
- 留め:面取りと角の意匠性を重視。角部の陰影が美しいが、45度の精密加工・接着・養生が必要。
- かぶせ:被せ部材で端部を隠す。多少の誤差や伸縮を吸収しやすい代わりに、意匠としてラインが増える。
- 差し込み:溝やレールに挿すため、見付はクリーンになりやすい。収まりの事前設計が重要。
どれが優れている、というより「設計意図(意匠・耐久・メンテ性)」「材料の特性」「施工性」「コスト」を総合して選びます。突き付けは加工が少なく見た目もスッキリしやすい一方、施工精度と仕上げ処理(シールやパテ)の腕が問われます。
材料別:突き付けのコツと注意点
石膏ボード(PB)
石膏ボードでは、長辺に「テーパー(面落ち)」が付いたタイプと、面落ちのない「スクエアエッジ(SE)」があり、長辺同士はテーパー目地で、短辺同士は突き付け目地になることが多いです。突き付け部は後のパテ処理でフラットに仕上げるため、段差や欠けを最小化することが大切です。
- カット面の処理:欠けやバリを小さなカンナやサンドペーパーで整え、微小な面取りで紙の浮き上がりを防ぐ。
- ビスピッチ・食い込み:ビスの頭は面より僅かに沈め、紙を破らない。目地付近のビスは特に丁寧に。
- 隙間管理:後のパテが確実に充填できる最小限の隙間に抑える。広すぎても狭すぎてもクラックの原因になる。
- 目地処理:テープ(紙・ファイバー等)とパテはメーカー仕様に従い、乾燥・サンディングを守る。
巾木・回り縁・枠(木工造作)
「巾木を枠に突き付け」「回り縁を壁際に突き付け」のように、基準となる部材に対して綺麗に当てるのが肝です。木は湿度変化で動くため、わずかなクリアランスと後処理の選択が品質を左右します。
- 基準取り:先に“動きが少ない・基準となる”枠や見切りを決め、そこへ巾木を突き付ける順序が安定。
- 面合わせ:段差や反りがあると線が波打つ。下地パッキンや微調整で通りを出す。
- 後処理:隙間が見える場合はシーリングやパテで微調整。色合わせ(塗装・シール色)も重要。
金属見切り材・コーナー材
アルミやステンの見切り材を壁や床に用いる場合、終端や取り合いで「突き付け」が多用されます。硬い直線材なので、ほんのわずかな不陸も目立ちます。
- 切断精度:切断のバリ・曲がりは禁物。角を軽く面取りして欠けを防止。
- 連続性:ラインが命。通りを優先し、端部はシールで吸収するか、見切りキャップで処理。
ビニル床タイル(LVT)・フロアタイル
床タイルは基本的に“エッジ同士を突き付け”て貼ります。伸縮の影響を受けやすいので、環境馴染みと接着剤選定が鍵です。
- 馴染ませ:施工前に現場温度・湿度に馴染ませる(実務上の基本)。
- 圧着:ローラーでしっかり圧着し、突き付け部の段差・開きを抑える。
- 取り合い:巾木・サッシ・見切り材への突き付け部は、仕様に応じてシールや見切りで処理。
タイル(内装)
設計意図によっては「突き付け張り(目地なし風)」が指定される場合があります。ただし、一般にタイルは目地で動きや誤差を吸収する前提が多く、水回り等では目地を取るのが基本です。突き付け指定時は、素地精度やカット精度が強く要求されます。
- 素地の平滑さを優先確保。わずかな不陸が直に目地の通りに現れる。
- カット面の小口処理を丁寧に。欠け・割れ防止が最重要。
- 用途により、目地なしは避ける判断も(清掃性・耐久性・吸水の観点)。
図面・指示の読み解き方
図面や仕様書では、次のような書き方で「突き付け」を示します。現場では略記や口頭指示も多いため、文脈を確認しましょう。
- 「巾木—枠 突き付け」「PB短辺 突き付け」「見切り-タイル 突き付け」
- 「突き付け+シール」「突き付け(見切り無し)」「突き付け(クリアランス微)」
- 英語表記の参考:butt joint、abutted(海外資料・輸入建材の説明などで登場)
判断に迷ったら「どの材料を」「どの相手に」「隙間はどう扱う(ゼロ想定か、シール有か)」「段差は許容か」をセットで確認すると齟齬が減ります。
品質管理・検査のポイント
突き付けはシンプルな分、粗が出やすい納まりです。次の観点でセルフチェックしましょう。
- 通り・直線性:光を斜めに当ててラインのうねりを確認。
- 段差・チッピング:指先でなぞって段差や欠けの引っかかりを探す。
- 隙間:目視で黒く見えないか。必要な箇所はシール・パテが均一か。
- 色・艶の整合:シールや補修材の色が周囲と調和しているか。
- 清掃性:突き付け部にバリ・糊だまり・粉残りがないか。
許容値や検査基準は工事種別・仕様書・契約条件で異なります。公共工事・大規模案件では指定要領に従い、民間でも設計者・監督と完成イメージを共有しておくと安心です。
よくあるミスと防止策
- ミス:材料の端部欠けが目立つ。対策:切断工具の状態を整え、切断後に小口処理。搬送時の養生を徹底。
- ミス:隙間が不均一。対策:基準側(枠・見切り・先付材)を先に決め、墨出し・基準通りに施工。
- ミス:後処理のシールが波打つ。対策:テープ養生と一定のヘラ角度で均し、硬化後の艶ムラは補修。
- ミス:突き付けたのに段差が出る。対策:下地不陸を事前に点検・調整。必要ならパッキン・下地パテで通りを出す。
- ミス:温度・湿度で開く/詰まる。対策:材料の馴染ませ、施工時環境の管理、必要なクリアランスの確保。
施工手順の基本(例:巾木を枠に突き付け)
実務で迷いがちな巾木の突き付けを例に、手順の考え方を示します。
- 1. 基準確認:枠の通り・垂直をチェック。必要なら下地調整。
- 2. 巾木カット:現場合わせで長さを微調整。小口は軽く面取り。
- 3. 試し当て:枠に当てて通り・隙間を確認。必要に応じて再カット。
- 4. 固定:接着剤や釘・ピンネイラで固定。はみ出し糊は即時拭き取り。
- 5. 後処理:隙間が見える場合はシール微入れ。色合わせに注意。
- 6. 最終確認:光を当ててライン・段差・汚れをチェック。
ケーススタディ:突き付けを選ぶべきか、他の納まりか
同じ取り合いでも、突き付け以外が適切なことがあります。判断の考え方をいくつか。
- メンテ性重視(床と見切り):突き付けはきれいだが、清掃で当たると欠けやすい。キャップや見切りで「かぶせ」も検討。
- 温度変化が大きい場所(金属—金属、金属—石):突き付けだと熱伸縮がぶつかる。シール目地やクリアランスを前提に。
- 意匠で陰影を見せたい(額縁・框):45度の留めが映える。突き付けより留めを選択。
- 高耐水・衛生(厨房・水回りタイル):突き付け張りは避け、目地ありを基本に。
初心者向けチェックリスト(現場で迷ったら)
- 相手は何?(枠・見切り・別の材料)どちらを基準にラインを出す?
- 隙間の扱いは?(ゼロに近づける/シールで処理する)
- 段差は許される?(不可なら下地から整える)
- 材料は動く?(木・塩ビ・金属の伸縮を考慮)
- 後処理の色・艶は揃う?(シール色・塗装・パテ仕上げ)
- 検査目線で見てOK?(通り・欠け・汚れ・仕上げの整合)
よくある質問(FAQ)
Q. 突き付けは“隙間ゼロ”が正解ですか?
A. 目指すのは「見た目に隙間がなく、ラインが通っている状態」です。ただし、材料や用途により微小なクリアランスやシールで動きを吸収する方が長期的に安定することがあります。図面・仕様と材料特性を踏まえて判断しましょう。
Q. ボードの突き付けで割れやすいのはなぜ?
A. 小口の欠け、下地不陸、ビスの食い込み過多、パテの充填不足などが原因になりやすいです。切断・固定・目地処理の基本手順を丁寧に守ることが最大の予防策です。
Q. タイルを突き付け張りしても大丈夫?
A. 意匠優先で指定されることはありますが、一般的には目地を確保する張り方が推奨されます。水回りや温度変化がある場所では特に目地が機能します。突き付け張りは素地精度とカット精度が高く求められるため、条件により可否を設計・監理と確認してください。
Q. 突き付けと留め、どちらがきれい?
A. 目的次第です。突き付けは線が素直でミニマル、留めは角の意匠性が高い。部位・デザイン・手間(コスト)・メンテを含めて選定します。
Q. シール(コーク)は必須ですか?
A. 必須ではありません。見切り無しで意匠をスッキリ見せたい場合や、微小な隙間の影・ゴミの入り込みを防ぎたい場合に採用します。必要性は用途と仕様で判断します。
まとめ:突き付けを使いこなすコツ
突き付けは、内装のあらゆる工程に顔を出す基本ワードです。要点は「何に対して」「どう当てるか」を明確にし、材料特性と下地精度を踏まえてラインを通すこと。後処理(パテ・シール)や色合わせまで含めて完了と考えると、仕上がりのレベルが一段上がります。図面指示に迷ったら、隙間・段差・見切り・シールの有無までセットで確認。これだけで現場のコミュニケーションがスムーズになり、手戻りを大きく減らせます。









