- 内装職人が押さえておきたい「壁掛けエアコン」完全ガイド—意味・現場での言い回し・工事の勘所と費用感まで
- 現場ワード(壁掛けエアコン)
- 現場での使い方
- 壁掛けエアコンの基本構造と各部名称
- サイズの目安と選び方(畳数はあくまで参考)
- 工事の流れ(標準的な露出配管の場合)
- 必要工具・材料(代表例)
- 現場でよくある判断ポイントとコツ
- 隠蔽配管の現場注意
- 費用の目安(一般的な戸建・集合住宅の一例)
- 法令・資格と安全
- 主要メーカー(五十音順・家庭用壁掛けの代表例)
- 仕上げ重視の内装現場でのポイント
- よくあるトラブルと予防策
- メンテナンスの基本
- 現場で役立つ時短フレーズ集
- チェックリスト(引渡し前)
- ミニ用語辞典
- よくある質問(FAQ)
- ケーススタディ:内装中の段取り成功例
- まとめ:壁掛けエアコンを「現場言葉」で理解すると工事がスムーズ
内装職人が押さえておきたい「壁掛けエアコン」完全ガイド—意味・現場での言い回し・工事の勘所と費用感まで
「壁掛けエアコンって、ただ壁に付いてる普通のエアコンのこと?」と不安になって検索された方へ。現場では当たり前に飛び交う言葉でも、初めての人には分かりづらいですよね。本記事は、建設内装の現場で実際に使われる「壁掛けエアコン」というワードの意味から、現場での言い回し、工程の流れ、必要工具、よくある失敗と防止策、費用目安までをやさしく整理。これを読めば職人同士の会話がスッと入ってくるようになり、工程調整や発注も安心して進められるはずです。初心者の方向けに、専門用語もかみ砕いて解説します。
現場ワード(壁掛けエアコン)
| 読み仮名 | かべかけエアコン |
|---|---|
| 英語表記 | Wall-mounted air conditioner |
定義
壁掛けエアコンとは、住宅や小規模店舗・オフィスで最も一般的な、室内機を壁面高所に取り付けるタイプのルームエアコンのこと。室内機と室外機が配管でつながる「セパレート(スプリット)型」で、冷媒配管・電線・ドレン(排水)を介して冷暖房を行います。内装・電気・空調の各工種が関わる設備で、壁下地の強度、配管ルート、電源、開口位置、仕上げとの取り合いが重要なポイントです。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では以下のように略して呼ばれることが多いです。
- 壁掛け、壁掛(かべかけ)
- ルームエアコン、ルームエアコン機(ルームエア)
- スプリット(セパレート)
- 室内機・室外機(それぞれ単体を指すとき)
- 隠蔽(いんぺい)配管/露出配管
使用例(3つ)
- 「この部屋は6畳だから、2.2kWの壁掛け入れる想定で背板の下地入れといて。」
- 「既設撤去はポンプダウンしてから室外機外すね。新規は右抜きでスリムダクト仕上げ。」
- 「隠蔽で配管出てるから、既存は2分3分。フレア切り直して真空引きしてから通電ね。」
使う場面・工程
打合せ、墨出し、下地補強、開口(コア抜き)、電源工事、配管・化粧ダクト、機器取り付け、真空引き、試運転、仕上げ調整など、内装工事の複数工程で登場します。クロス貼りや巾木、カーテンレール、家具配置とも取り合うため、工程順の調整が肝心です。
関連語
- 背板(はいばん):室内機を壁に固定する金具。
- ドレン:室内機で発生する結露水の排水管。
- スリーブ:貫通穴に入れる筒状の部材。気密・防蟻・断熱の観点で重要。
- フレア加工:銅管端部を広げ、ナットで接続する加工。
- 真空引き:配管内の空気・水分を真空ポンプで除去する作業。
- 2分3分・2分4分:冷媒管の太さ(液側1/4=2分、ガス側3/8=3分、または1/2=4分)。
- 専用回路:分電盤から単独で引く電源回路。100V/200Vがあり機種により異なる。
壁掛けエアコンの基本構造と各部名称
壁掛けエアコンは「室内機」「室外機」「冷媒配管(銅管2本)」「連絡電線」「ドレンホース」「化粧ダクト(必要に応じて)」で構成されます。室内機は壁高所に設置し、背板で壁に固定。室外機はバルコニーや屋外の据付台の上に置き、防振ゴムで振動を低減します。冷媒回路はフレアナットで接続し、確実なトルク管理が必要。ドレンは必ず自然勾配で流し、室内側に逆勾配が出ないよう注意します。
サイズの目安と選び方(畳数はあくまで参考)
能力選定の目安は以下。ただし断熱性能、方位、天井高、開口部の大きさ、日射条件で必要能力は変わります。新築・リノベでは監督・設計と事前に確認しましょう。
- 2.2kW(6畳目安)
- 2.8kW(8〜10畳目安)
- 3.6kW(12畳目安)
- 4.0kW(14畳目安)
- 5.6kW(18畳目安)
- 6.3kW(20畳目安)
選定時のチェックポイント:
- 電源種別(単相100V/200V、プラグ形状、アース)
- 室内機の幅・高さ・奥行(カーテンレールや梁との干渉)
- 配管右抜き・左抜き・後ろ抜きの可否と最短ルート
- 配管長の上限・高低差の上限(メーカー仕様書参照)
- 既存隠蔽配管の管径・劣化状況(再利用可否)
- 低温暖房性能・除湿方式・清掃性(フィルター自動掃除など)
工事の流れ(標準的な露出配管の場合)
- 事前調査:設置位置、下地、電源、配管ルート、屋外設置位置の確認。
- 墨出し・下地補強:背板位置を水平器で決め、PB(プラスターボード)下地なら間柱・胴縁を確保。必要に応じて合板下地やボードアンカー、トグラーを使用。
- 穴あけ:壁内の電線・配管・筋交いを避け、φ65±の開口。スリーブを挿入し気密・断熱・防虫を確保。
- 背板取り付け:水平を厳守。ビスは下地のある位置へ。躯体への穿孔は管理者と合意の上で。
- 室内機仮掛け:配管を傷めないように養生。配管取り回しの曲げ半径に注意。
- 屋外側配管:フレア加工、断熱材の補強、スリムダクトで美観と保護を両立。
- 室外機設置:ブロック・据付台・防振ゴムを使用。転倒防止の固定は仕様・管理者指示に従う。
- 電気結線:連絡電線を極性・芯数を確認して接続。電源は専用回路へ。
- 真空引き:マニホールドと真空ポンプで所定時間。到達真空・保持を確認。
- 試運転:冷暖房の切替、吸込み・吹出し温度差、ドレン排水、異音・振動の確認。
- 化粧:ダクト端部・貫通部のコーキング、室内化粧プレートの調整。仕上げ面に傷が出ないよう清掃。
必要工具・材料(代表例)
- 計測・取り付け:メジャー、水平器、下地探し、インパクト、ドリル、コアビット
- 配管加工:パイプカッター、リーマー、フレアツール、トルクレンチ、ベンダー、断熱材、テープ
- 冷媒系:マニホールドゲージ、チャージングホース、真空ポンプ
- 電気:圧着工具、テスター、絶縁ドライバー(電気工事士の範囲)
- 仕上げ:スリムダクト一式、シール材、化粧プレート、防振ゴム、据付台・ブロック
現場でよくある判断ポイントとコツ
- 下地:PBのみへの固定は不可。必ず間柱・胴縁・補強合板に効かせる。どうしても下地が拾えない場合は適合アンカーを選定。
- ドレン勾配:室内から屋外へ常時下り勾配を確保。途中で上がると逆流・水漏れの原因。長尺や立ち上がりが必要な場合はドレンアップポンプを検討。
- 配管曲げ:最小曲げ半径以下はNG。銅管の座屈やピンホールのリスク。
- フレア:バリ取り、45度面の傷・割れの有無、適正トルクで締付。増し締めでごまかさない。
- 真空引き:時間よりも到達真空度と保持が大切。短絡的な「エアパージ」は厳禁。
- 貫通部:スリーブ未施工は気密・断熱低下や害虫侵入の原因。必ず施工し、室内側を気密処理。
- 仕上げとの取り合い:クロス前に背板設置する場合は位置の再現性に注意。クロス後なら養生徹底。
隠蔽配管の現場注意
リフォームや新築で既に壁内・天井内に配管が通っているケース。管径(2分3分/2分4分)や劣化、フレア形状、配管長・高低差が機種条件に合うかを確認。劣化が強い場合や異径の場合は配管更新や変換継手が必要になることも。壁内のドレン勾配不良は水漏れの定番トラブルなので、試運転で必ず排水を目視確認します。
費用の目安(一般的な戸建・集合住宅の一例)
地域・建物条件・機種・配管長で変動しますが、参考として:
- 標準取付工事(配管4mまで、穴あけ1か所、室外機直置き):約15,000〜30,000円
- 配管延長(1mあたり):約3,000〜5,000円
- スリムダクト施工(屋外):約5,000〜15,000円
- 専用回路新設:状況により約15,000〜40,000円
- 既設撤去・処分(フロン回収含む):約5,000〜15,000円+回収証明が必要な場合あり
量販店や工務店、シーズンにより変動します。正式見積は現地調査後に。
法令・資格と安全
- 電気工事:日本ではコンセント増設・電線接続などは電気工事士の資格が必要。
- フロン類:既設撤去時は冷媒を回収する。ポンプダウンや回収は法令に従い、適切な手順で。冷媒ガスの大気放出は禁止。
- 高所・重量物:室外機搬入やベランダ設置は墜落・落下防止の安全対策を。二人作業推奨。
- 保証:DIYや不適切施工はメーカー保証の対象外になることがあるため注意。
主要メーカー(五十音順・家庭用壁掛けの代表例)
- シャープ:空気清浄・プラズマクラスター搭載モデルなどを展開。
- ダイキン:空調専業大手。冷暖房の基本性能とラインナップが豊富。
- 東芝:省エネ性や静音性を意識した機種を展開。
- 日立:凍結洗浄などの清掃性に配慮した機能がある機種がある。
- 富士通ゼネラル(nocria):独自の気流制御モデルを展開。
- 三菱電機(霧ヶ峰):運転制御やセンサーの評価が高い機種がある。
- 三菱重工(ビーバーエアコン):堅実な基本性能のラインナップ。
- パナソニック:清潔・省エネ・気流制御などバランスの良い機種構成。
機能や名称は年度で更新されるため、最新仕様は各社カタログで確認してください。
仕上げ重視の内装現場でのポイント
- ダクト色:外壁・サッシ・雨樋に合わせると目立ちにくい。白・アイボリー・ブラウン・ブラック等を使い分け。
- 室内の見え方:化粧プレートの水平、配管露出部の最小化、コーキング色の選定。
- クロスとの順序:クロス先行なら傷防止養生を徹底。背板位置の墨は消せるように。
- 家具・カーテン:吹出しとカーテンレールの干渉、家具天板への直風を避ける。
よくあるトラブルと予防策
- 室内水漏れ:ドレン逆勾配・詰まり・結露。施工時は勾配確保、試運転で排水を目視。定期的にドレン清掃。
- 冷えない/暖まらない:冷媒漏れ、フィルター詰まり、室外機周りの吸排気不良。フィルター清掃と設置環境の見直し。
- 異音・振動:室外機の水平不良、防振不足、フレア不良。水平・トルク・固定を再確認。
- エラーコード:各社で内容が異なるため取説を参照。電源やセンサー、通信異常など。
メンテナンスの基本
- フィルター:2週間〜1か月に一度を目安に清掃(自動掃除機能付きでもダストボックス清掃が必要な場合あり)。
- 熱交換器・送風ファン:汚れは能力低下と異臭の原因。専門業者による分解洗浄を検討。
- 屋外機周り:吸排気を妨げる物を置かない。落ち葉・ごみは定期除去。
現場で役立つ時短フレーズ集
- 「右後ろ抜きで250上、芯から150左」=配管の抜き方向と穴位置指示。
- 「スリムダクトはブラウン、立ち下げ1.5スパン」=屋外化粧ダクトの色と長さ。
- 「2分3分で高低差5m以内、配管は全長7m見込み」=機種仕様と現場条件の共有。
チェックリスト(引渡し前)
- 室内機の水平、背板の固定状態、ビス頭の処理
- ドレン排水の目視確認(冷房運転または給水試験)
- フレア接続部の漏れ確認(泡または圧力保持)
- 連絡電線の芯数・極性の確認、アース接続
- 室外機の水平、防振、固定、周囲スペース
- 貫通部の気密・防虫処理、室内外のコーキング
- 取扱説明、ブレーカー表示、保証書・型式の控え
ミニ用語辞典
- APF/期間消費電力量:省エネ性能の目安。年間の電気代に直結。
- ヒートポンプ:少ない電力で熱を移動させる仕組み。冷暖房の基本原理。
- 霜取り運転:暖房時に室外機に付いた霜を溶かす自動運転。暖気が弱くなるが故障ではない。
- 背抜き・側抜き:室内機から見て配管をどの方向に抜くかの呼び方。
- 化粧ダクト:屋外露出配管を保護・美観向上させる樹脂製ダクト。
よくある質問(FAQ)
Q. DIYで取り付けできますか?
A. 背板の固定や本体設置は道具があれば可能に見えますが、電気工事士が必要な作業や、冷媒回路の真空引き・フレア接続など専門スキルが不可欠です。施工不良は水漏れ・ガス漏れ・火災のリスクもあるため、基本は有資格の業者に依頼してください。
Q. 既存の配管は流用できますか?
A. 配管径や劣化状態、長さ・高低差が新機種の仕様に合えば可能な場合があります。ただし内部の汚れや劣化、過去のオイルや水分混入がトラブルの原因になることもあり、現地判断が必要です。
Q. 室外機はベランダ床に置けば良い?
A. 多くは可ですが、排気スペース、振動、転倒防止、排水(暖房時の霜溶け水)に配慮が必要です。防振ゴムや据付台を使い、落下の恐れがある場所では固定を検討します。
Q. 壁の穴あけはどこでもOK?
A. 壁内の筋交い・柱・電線・配管を避ける必要があり、耐力壁や躯体コンクリートへの穿孔は管理者の承認が必須です。位置決めは墨出しと下地確認を徹底します。
ケーススタディ:内装中の段取り成功例
内装リフォームでクロス張替え+エアコン新設の現場。先に墨出しして背板位置を確定し、下地補強を同時施工。クロス完了後に機器を取り付け、貫通部は室内側で気密処理。屋外は外壁色に合わせたダクトを採用。結果、配管は最短で露出を最小化、室内の見た目もすっきり。工程の重複がなくなり、手戻りゼロで引き渡せました。
まとめ:壁掛けエアコンを「現場言葉」で理解すると工事がスムーズ
壁掛けエアコンは、単なる家電ではなく「内装・電気・空調」が交差する設備。現場では「背板」「2分3分」「真空引き」「右抜き」「スリムダクト」といったワードで、位置・仕様・段取りを手早く共有します。意味を押さえれば、設置位置の微調整や仕上げの美観、トラブル予防までスムーズ。初めての方ほど、下地・ドレン勾配・真空引き・電源の4点を強く意識すると失敗が減ります。不安がある場合は、遠慮なく業者に「言葉の定義」から確認しましょう。丁寧なコミュニケーションが、確実な施工と快適な住環境につながります。









