現場ワード「溶接機」を基礎から実務までやさしく解説|内装工事で迷わない選び方・安全管理
「溶接機って、内装工事でも本当に使うの?」「アーク、半自動、TIG…何が違うの?」──そんな疑問を持って検索された方へ。この記事では、建設内装の現場でよく耳にする現場ワード「溶接機」を、基礎から現場での実務、選定ポイント、安全管理まで、初心者の方にもわかりやすく丁寧に解説します。読み終える頃には、内装の工程でどんな場面に溶接機が関わり、どの種類をどう選べば失敗しないのかが、具体的にイメージできるはずです。
現場ワード(キーワード)
読み仮名 | ようせつき |
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英語表記 | Welding machine / Welder |
定義
溶接機とは、金属(場合により樹脂や床材など)同士を熱や圧力で接合するための機器の総称です。建設内装の現場では、鋼製下地や金物補強、手すり・サイン・什器フレームなどの金属部材を接合・補修する際に使用される「電気アーク溶接機(被覆アーク、半自動、TIG)」や、薄板金物の接合に用いる「スポット溶接機」、床ビニルシートの継ぎ目処理に使う「熱風溶接機」などが該当します。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では次のように呼ばれることが多いです。
- 「アーク(機)」「棒溶接」=被覆アーク溶接機(手棒)
- 「半自動」「MAG(マグ)」=ワイヤ送給+シールドガスの半自動溶接機
- 「TIG(ティグ)」=タングステン不活性ガス溶接機
- 「スポット」=抵抗(点)溶接機
- 「熱風(ねっぷう)」「フロア溶接」=床ビニルシートの熱風溶接機
使用例(3つ)
- 「明日、サインの吊り金物を既製Lアングルで延長するから、100Vのインバータ溶接機と面一式持ってきて。まずはタック(仮付け)で位置決めね。」
- 「手すりの受けブラケットが合わないから、現場でステーを足してMAGでコマ溶接、あとでスパッタ落として錆止めまでやっとこう。」
- 「床は長尺シートの熱溶接だから、熱風溶接機とコテ、WELDロッドを忘れずに。温度は材料の仕様に合わせて設定してね。」
使う場面・工程
- 金物補強・ブラケット増設・金属下地の補修(被覆アーク、半自動、TIG)
- 什器・サイン・手すり・フレームの現場合わせ(主に半自動やTIG、薄板はスポット)
- 床ビニルシートの継ぎ目処理(熱風溶接機)
- 金属笠木・見切り材の細部調整(TIGや半自動。焼け対策や養生が必須)
関連語
- アース(母材側クランプ)、開先、タック、ビード、スパッタ、定格使用率、溶接棒(被覆棒)、ワイヤ、シールドガス(CO₂/Ar)、トーチ、レギュレーター、フラックス、ケレン、錆止め、火気使用申請、遮光シート、局所排気、フィットテスト
溶接機の種類と特徴(内装で使い分け)
被覆アーク溶接(SMAW)
通称「棒溶接」。被覆された溶接棒(電極)を用いるシンプルな方式で、現場対応力が高く、100V/200Vの小型インバータ機でも使用可能。屋外や風の影響にも比較的強い一方、スパッタやヒュームが多く、美観を求める箇所や薄板では注意が必要。
半自動溶接(MAG/MIG, GMAW)
ワイヤを自動送給し、シールドガスで酸化を防ぎながら溶接します。鉄にはCO₂や混合ガス(MAG)、アルミやステンにはアルゴン主体(MIG)が一般的。スピードと品質の両立がしやすく、什器・フレーム作業で出番が多い。風に弱いので屋内向け、ガスボンベの取り扱いが必要。
TIG溶接(GTAW)
タングステン電極と不活性ガスで行う溶接。ビードがきれいで薄板やステンレス、非鉄金属に向く。熱歪みを抑えやすく、意匠性が求められる金物の仕上げに強い。一方で作業スピードは遅めで、技量が顕著に出る方式。
スポット溶接(抵抗溶接, RSW)
重ねた薄板に電流と圧力を加えて点で接合。ダクトや薄板金物の固定などに使用。火花飛散が少なく、仕上げのクリーニングが軽いのが利点。
熱風溶接(床仕上げ)
床の長尺ビニルシートや塩ビタイルの継ぎ目を、熱風溶接機で溶かしたロッド材と一体化させる工法。火花は出ないが、温度管理と材料適合が重要。金属溶接とは機構も用途も異なるが、現場では同じ「溶接機」と呼ばれることがあるため混同に注意。
内装現場での選び方(失敗しないチェックポイント)
電源と可搬性
- 入力電源:100V専用/200V専用/兼用。テナント工事では100Vしか使えないケースもあるため、現場条件を事前確認。
- ブレーカー容量:100V15A回路では出力に限界。20Aや200Vが確保できると作業が安定。
- 発電機の可否:現場電源が不安定なら、発電機適合機種やエンジン溶接機を検討(排気・騒音に配慮)。
- 重量・サイズ:可搬型(~10kg級のインバータ機)は内装の小工事に便利。
溶接方式と母材厚み
- 補強金物や中厚物中心:被覆アーク、半自動。
- 薄板や意匠金物:TIG、スポット。
- 板厚・材質に合う最大電流・ワイヤ/棒径の適合をカタログで確認。
定格使用率(Duty Cycle)
一定時間内で連続溶接できる割合。内装の短時間・断続作業では極端に高い値は不要だが、連続ビードが多い場合は余裕のあるモデルを選ぶとトラブルが減ります。
仕上がり品質・作業性の機能
- アーク系:ホットスタート、アークフォース、アンチスティックなどの補助機能。
- 半自動系:低スパッタモード、パルス機能、細径ワイヤ対応(0.8mmなど)。
- TIG系:リフトスタート、パルス、AC/DC切替(アルミ対応)。
- 屋内作業:低スパッタ・低ヒュームの条件を優先し、集じんや局排との相性も考慮。
安全・環境配慮
- 漏電ブレーカー、アース接続の確実化。
- 火花養生・遮光カーテン・消火器・防炎シートの使用。
- ヒューム対策(局所排気・呼吸用保護具)。
安全管理と法令の基本
資格・教育
- アーク溶接:労働安全衛生法に基づく「アーク溶接等の業務に係る特別教育」が必要。
- ガス溶接:同法に基づく「ガス溶接技能講習」が必要。
未教育者の作業はNG。外注業者にも資格の有無を確認しましょう。
溶接ヒューム対策
溶接ヒュームは健康リスクがあるため、特定化学物質として管理が求められます。屋内では原則、局所排気または有効な換気と、適切な呼吸用保護具の使用、年1回のフィットテスト等が必要となる場合があります。作業環境管理は現場の規模・態様に応じて担当者と計画的に実施してください。
火気使用時のルール
- 建物管理者への火気使用申請・許可取得。
- 自動火災報知設備の一時停止や養生の段取り(所定の手続に従う)。
- 火花・スパッタ対策(防炎シート、遮光カーテン、床・周辺の養生)。
- 消火器常備、監視員配置、終了後の余熱・残火確認。
実務の基本手順とコツ
被覆アーク(棒)溶接の流れ
- 準備:電源・アース接続確認、母材の錆・塗膜をケレン、開先が必要なら加工。
- 条件設定:母材厚・棒径に応じ電流設定。試し打ちでアーク長と手速さを確認。
- タック溶接:歪みを抑えるため均等配置で仮付け。
- 本溶接:ビードは一定速度・角度をキープ。多層時はスラグ除去を徹底。
- 仕上げ:スパッタ除去、錆止め塗布、清掃。
半自動(MAG/MIG)溶接のポイント
- ガス:CO₂や混合ガスを流量計で適正化(屋内で10~20L/minが目安、環境で調整)。
- ワイヤ径:薄板は0.8mmが扱いやすい。電流・電圧・送給速度のバランスを合わせる。
- 風対策:風に弱いので開口部付近は遮風養生を。
- スパッタ:ノズルクリーナーやスパッタ防止剤を併用。
TIG溶接のポイント
- 母材清掃:油脂・酸化皮膜を確実に除去。仕上がりが大きく変わる。
- 電極:用途に合うタングステン(例:ランタン/セリウム入り)を選び、先端形状を適正に整える。
- 熱入力管理:薄板はパルスや断続で歪みと焼けを抑制。裏当て・銅板治具も有効。
床の熱風溶接の基本
- 溝切り:メーカー指定の溝形状・深さを守る。
- 温度・速度:材料仕様書の推奨温度に設定し、試し溶接で定着確認。
- 押さえ・仕上げ:ロッドの押さえと余盛りのカンナ処理で美観を確保。
代表的なメーカー(日本国内での実務で見かける例)
- ダイヘン(OTC DAIHEN):産業用ロボットから溶接機まで展開。MAG/TIG分野で国内外に実績があり、薄板から厚板まで高品質溶接に強い。
- パナソニック(溶接機事業):半自動・TIGなどの産業機を幅広くラインアップ。低スパッタ・高安定アークの制御が特長。
- マイト工業:現場向けインバータ機やエンジン溶接機を取り扱い、可搬性とコストバランスに優れるモデルが多い。
- スター電器製造(SUZUKID):100Vクラスの小型インバータやDIY~プロの入門機で普及。内装の軽作業や持ち込みに便利。
- 新ダイワ(やまびこ)/デンヨー:エンジン発電溶接機の定番。電源事情が不安定な現場や屋外作業で活躍(屋内使用時は排気・騒音に注意)。
このほか、シールドガスは岩谷産業やエア・ウォーター等のガスメーカー、溶接材料は神戸製鋼所や日本ウェルディング・ロッドなどが一般的です。購入・レンタルの可否、アフター体制は地域商社や機械レンタル会社を通じて確認するとスムーズです。
誤解しやすいポイントQ&A
Q. 内装工事で溶接はあまり使わないのでは?
A. 軽量下地(LGS)はビス留めが中心ですが、金物補強や什器・サインのフレーム調整、手すりや意匠金物の現場合わせなど、スポット的に溶接が必要な場面は確実にあります。外注金物業者が対応することも多い一方、内装業者側が小型機を持ち込んで補修・仮付けを行うケースもあります。
Q. 100V機と200V機、どちらを選ぶ?
A. テナント工事や改修での電源制約を考えると100V対応は強みですが、出力に限界があり板厚や連続作業で不利。200Vが確保できる現場や、出力が必要な作業が想定されるなら200Vまたは兼用機を選ぶと安心です。
Q. 半自動とTIG、どちらが内装向け?
A. 量をこなす・鉄の薄中板なら半自動、仕上がり重視・ステンや非鉄の意匠金物ならTIGが得意。用途で使い分けます。
Q. 床の「熱風溶接機」も同じ?
A. 名前は似ていますが別物です。金属を溶かすアーク溶接機ではなく、床材の継ぎ目を熱風とロッドで一体化させる専用機。温度と施工手順が重要で、火花は出ませんが火傷や焦げには注意が必要です。
チェックリスト(着工前~当日)
- 電源条件:電圧・容量・延長コードの長さ・漏電ブレーカの有無を確認。
- 申請類:火気使用申請、警報設備の停止手順、監視員手配。
- 安全具:溶接面、皮手袋、前掛け、防炎ウェア、呼吸用保護具、遮光・防炎シート、消火器。
- 環境対策:局所排気や換気計画、周辺の可燃物撤去、火花養生。
- 材料・消耗品:溶接棒/ワイヤ、ガス、チップ・ノズル、タングステン、ロッド、錆止め、ケレン工具。
- 試し溶接:母材端材で条件確認、仕上がりと歪みのチェック。
用語ミニ辞典
- 定格使用率:連続使用できる割合。過負荷は保護停止や故障の原因。
- タック:仮付け溶接。歪みやズレ防止のために先行して点付けする。
- スパッタ:飛散粒。除去しないと塗装・意匠を損ねるため後処理必須。
- 開先:溶け込みを確保するための縁取り形状。
- アース:母材と溶接機をつなぐクランプ。接触不良は不安定の元。
- パルス:電流を脈動させて入熱・ビード形状を制御する機能。
内装職人のリアルなコツ
- 「焼け」対策:意匠面は裏当てや耐熱テープで保護し、熱を入れ過ぎない。
- 歪み管理:対称スタート・コマ溶接・水冷治具などを併用。連続長ビードは避ける。
- 周囲配慮:可燃性養生材や既存仕上げから距離をとり、防炎シートで確実に覆う。
- 仕上げ連携:溶接後のケレン~錆止め~上塗りまでセットで段取りし、他職との取り合いを明確化。
まとめ
「溶接機」は、内装現場では出番が限られるようでいて、金物補強や意匠金物の現場合わせ、床の熱風溶接など、要所で品質と段取りを左右する重要なツールです。まずは作業の目的と母材に合わせて方式(被覆アーク/半自動/TIG/スポット/熱風)を選び、現場の電源・安全条件に合う機種を検討しましょう。安全面では、資格・教育、ヒューム対策、火気手続き・養生を確実に。この記事のポイントを押さえれば、内装現場で「溶接機」の使いどころと選び方がクリアになり、トラブルや手戻りをぐっと減らせます。迷ったときは、板厚・材質・電源・必要仕上げの4点を整理して、信頼できるメーカーやレンタル会社、専門業者に相談するのがおすすめです。