内装工事の現場で耳にする「BEMS」をゼロから理解:意味・仕組み・使い方・導入のコツ
「BEMSって、結局何のこと?」「内装の現場で自分に関係あるの?」——そんな疑問を持って検索された方へ。BEMSは大規模ビルだけの話に見えますが、実はオフィスや商業施設の内装工事でも、機器の配置や配線、センサーの取り付け、調整(試運転)にまで密接に関わります。本記事では、現場ワードとしてのBEMSを、意味・使い方・注意点までやさしく解説。はじめての方でも「何をすれば良いか」が具体的にイメージできるよう、実務目線でまとめました。
現場ワード(BEMS)
| 読み仮名 | ベムス |
|---|---|
| 英語表記 | Building Energy Management System |
定義
BEMS(ベムス)とは、建物全体のエネルギー使用状況を「計測・見える化」し、必要に応じて空調・照明・換気などを「最適制御」して省エネと快適性の両立を図る仕組みの総称です。電力量計や各種センサー、制御盤、ネットワーク、サーバ/クラウド、可視化ダッシュボードなどで構成され、デマンド(最大需要電力)の監視、ピークカット・シフト、空調の最適運転、照明スケジュール管理といった機能を担います。単なる監視にとどまらず、既設のBMS(ビル管理システム)と連携した高度制御まで含むこともあります。
BEMSの基本構成と仕組み
BEMSは「データを集める→分析する→制御する→結果を蓄積・報告する」というサイクルで動きます。主な構成要素は次のとおりです。
- 計測機器:スマートメーター、分岐回路のサブメーター、流量計、温湿度・CO2・照度・在室(人感)センサーなど
- 制御機器:空調(AHU、PAC、VAV、FCU)、換気、照明、ブラインド、コンセント制御用のリレー/コントローラ
- ネットワーク/ゲートウェイ:BACnet/IP、Modbus、LonWorks 等のプロトコルでデータを集約
- サーバ/クラウド:データベース、分析エンジン、可視化ダッシュボード(トレンド、日報・月報、アラーム)
- アプリ/画面:デマンド監視、スケジュール設定、最適化(外気温連動、在室連動)
既存設備(空調・照明・電気)の制御盤やBMSと連携し、点群(ポイント)を読み取り、メンテナや管理者が扱いやすい画面にまとめます。新築だけでなく、リニューアルやテナント入替の内装工事時にも、センサー追加や配線更新、ローカル制御からBEMSへの統合などが発生します。
BEMSが内装工事に関係する理由
「BEMSは設備屋さんの仕事でしょ?」と思われがちですが、内装工事の段階で決まることが多々あります。
- センサー位置決め:CO2、人感、照度などは天井仕上げや間仕切り計画と密接。位置が悪いと誤制御や不快感の原因に
- 配線・ボックスの下地:LAN(PoE含む)やRS-485等の弱電配線経路、点検口位置、器具裏のスペース確保
- 照明の回路分け:在室・ゾーン制御、昼光制御に合わせた回路計画が必要
- コンセント制御:待機電力カット用の制御系統(制御コンセント)と常時電源の区別
- 表示器・スイッチの高さ・納まり:使い勝手やバリアフリー配慮と同時に、BEMSの制御体系に合わせた機種選定
- 試運転・コミッショニング:点数表(I/Oリスト)の整合、画面上の名称・単位・アラーム設定の確認、ログ取得
このように、BEMSは「内装の仕上がり」と「設備の賢さ」をつなぐ存在。現場での段取りがそのまま省エネ性能や使い勝手に直結します。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では次のような言い回しがあります。
- 「ベムス」「BEMS(ビーイーエムエス)」:読みは主に「ベムス」
- 「エネルギーマネジメント」「エネ管システム」:省エネ視点の総称
- 関連語:「BMS(ビル管理システム)」「HEMS(家庭)」「FEMS(工場)」「CEMS(地域)」
使用例(3つ)
- 「この会議室、在室センサーでBEMS連動するから、天井のセンサー位置もう50ミリ寄せて」
- 「東側ゾーンは昼光制御をBEMSでやるので、照明回路を窓側と内側で分けてください」
- 「デマンド警報の連動で空調を段階制御するから、制御盤に無電圧接点を2点追加で」
使う場面・工程
- 計画・設計:ゾーン分け、センサー選定、配線方式、他設備(空調・照明)とのI/F整理
- 施工:ボックス・配管・配線、機器の設置(高さ・向き)、ラベリング、盤内結線
- 試運転・調整:ポイントチェック、アラーム試験、スケジュール設定、トレンド取得、デマンド試験
- 引渡し:操作説明、運用マニュアル、図面・点数表・ネットワーク構成の納品
関連語の解説
- BMS(Building Management System):中央監視・建物自動制御の総称。BEMSはBMSの上位で分析可視化に特化、またはBMS機能に省エネアルゴリズムを加えた形で使われることが多い
- HEMS/FEMS/CEMS:対象が家庭/工場/地域である点がBEMSと異なる
- デマンド:30分平均の最大需要電力。契約電力に直結するためBEMSで監視・制御する
- 最適運転:外気連動、在室連動、予熱・予冷制御、昼光利用などのアルゴリズム
BEMS導入の実務メリット
導入効果は運用次第ですが、現場の体感メリットは具体的です。
- 省エネ・コスト削減:照明・空調の運転時間短縮、待機電力の抑制、ピークカット/シフト
- 快適性の向上:CO2・温湿度・照度を根拠にした質の高い制御で「暑い/寒い」「暗い/眩しい」を減らす
- 保守の効率化:アラーム履歴・トレンドから不具合の早期発見、巡回点検の効率化
- 説明責任:管理者がデータで判断・報告でき、テナントへの説明やESG対応にも有利
特にテナントフィットアウトでは、ゾーンごとのサブメーターと在室連動照明だけでも実感できる効果が出やすいです。
導入の流れ(内装現場に寄せた段取り)
- 要件整理:省エネ目標、対象設備(照明・空調・換気・コンセント)、可視化したい指標(kWh、CO2、室内環境)を決める
- 基本計画:ゾーニング、回路分け、センサー位置、通信方式(BACnet/IP・Modbus・Lon等)、既設BMSとの連携方針
- 実施設計:配線系統図、I/O点数表、盤改造図、スケジュール・連動ロジック仕様、命名規則
- 施工・据付:配線・ボックス・盤内結線、機器固定、ラベリング、ネットワーク設定(IP・VLAN等)
- 試運転・コミッショニング:点検表に沿って全ポイントの生死確認、単位・符号・補正、アラーム・最適化ロジック試験、トレンド収集
- 運用引継ぎ:操作説明、運用ルール(スケジュール更新手順、アラーム対応)、帳票テンプレート配布
コミッショニングでは「データは取れているが制御に効かない」という典型的な取り違い(論理、接点種別、極性、命名不一致)を丁寧に潰すのがコツです。
施工時の注意点チェックリスト
- センサーの位置・高さ:CO2は人呼気の代表位置(一般に天井面、吹出直下は避ける)、照度は窓際の昼光影響を考慮
- 向き・遮蔽物:人感センサーは視野確保。家具・袖壁で死角が出ないよう事前確認
- 配線と系統分け:在室制御用照明はゾーン回路分け、制御コンセントは常時と明確に区別
- 通信品質:RS-485の終端抵抗・極性、アドレス重複、アース処理、LANのVLAN設計
- ラベリング:盤内端子、機器、ケーブルの名称を図面・画面と一致させる(英数のO/0、I/1の取り違い防止)
- 試験データ:トレンドを最低数日分取得し、日内変動と週次パターンで挙動を確認
- 保守性:点検口の位置・サイズ、機器周囲のクリアランス、交換・清掃の動線
代表的なメーカー・ソリューションの例
具体的な製品名や仕様は案件で異なりますが、日本国内でビル向けのエネルギー管理/ビルオートメーションを展開する代表的な企業例は次のとおりです(五十音順)。
- アズビル:ビルオートメーションと計測制御に強み。BMSと連携したエネルギーマネジメントを提供
- シーメンス:Desigoなどのプラットフォームでビル制御・省エネを統合
- シュナイダーエレクトリック:EcoStruxureを中心に電力・設備の統合監視と省エネ分析
- ジョンソンコントロールズ:Metasys等、グローバルのビル管理ソリューション
- 東芝、日立、パナソニック、三菱電機:国内の空調・照明制御やエネルギー管理のソリューションを展開
選定時は「既設設備との接続性(BACnet/Modbus等)」「ローカル制御との役割分担」「クラウドかオンプレか」「保守体制」を確認しましょう。
法規・補助金の基礎ポイント
BEMSそのものを義務化する法律は一般的ではありませんが、関連する制度・考え方として次があります。
- 建築物省エネ法(建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律):新築・増改築での省エネ性能確保。BEMSは達成手段・運用面で有効
- 省エネ法(エネルギーの使用の合理化等に関する法律):事業者のエネルギー管理と報告。データの継続取得・改善PDCAにBEMSが役立つ
- 表示制度・評価(例:BELS等):運用データや最適制御が評価改善に寄与
- 補助事業:年度により、エネルギー使用合理化やZEB化支援の枠で可視化・制御導入が対象になることがある(要:最新公募要領の確認)
制度は改定されるため、最新情報は各省庁・自治体の公募ページを必ず確認してください。
BEMSとBMSの違い・棲み分け
しばしば混同されますが、現場では次の理解が実務的です。
- BMS:中央監視・自動制御の基盤。空調機・ポンプ・照明などの直接制御を担う
- BEMS:エネルギー見える化と省エネ最適化。BMSからデータを受け、分析・指示(場合によりBMSへ)を行う、またはBMS機能を内包する
案件によってはBMSのみ、BEMSのみ、両者連携とさまざま。要件に応じて役割分担を定義しましょう。
よくある失敗と対策
- 在室センサーの誤検知で照明が消える:視野と感度設定、机配置の事前共有、手動操作の逃げ(オーバーライド)を用意
- デマンド警報が多発:しきい値設定が厳しすぎる、負荷の段階制御に猶予時間がない。段階・遅延・優先順位を設計
- 画面の名称が現場と一致しない:命名規則と図面・ラベルの統一、コミッショニングでの突合せを徹底
- ネットワーク不良:終端抵抗・アドレス・VLAN不一致。計画段階でトポロジーを確定し、現場での変更は必ず反映
- 「見える化止まり」で効果が出ない:スケジュール最適化、在室・昼光連動、アラーム運用などのルールを作りPDCAを回す
内装工事者向け・現場メモ
実務で役立つ小ネタです。
- CO2センサーは吹出・還気の直近を避け、代表的な滞在域を測る
- 照明の昼光制御は窓側と内側の回路分けが命。境界線は梁・スプリンクラー等との干渉を考慮
- 制御コンセントはプリンター・サーバ・冷蔵庫など止めてはいけない負荷を事前ヒアリング
- 点検口は機器交換サイズ+工具の取り回しまで見込む
- 盤内は後日増設を見越した空きスペースと端子列、ラベルの余白を確保
ケース別の使い分け(オフィス/店舗/医療)
- オフィス:在室・予約連動、会議室CO2制御、フリーアドレス対応のゾーン柔軟性
- 店舗:営業時間スケジュールと外気・混雑度に応じた空調、看板・外部照明の一括管理
- 医療・研究:温湿度・差圧の安定重視。省エネよりも環境維持の優先度を明確にし、アラーム閾値を厳格に
よくある質問
Q1. BEMSは小規模オフィスでも必要?
必須ではありませんが、在室連動照明やサブメーター+可視化だけでも効果は実感しやすいです。初期はスモールスタートし、後から拡張できる構成がおすすめです。
Q2. 既設BMSがあればBEMSは要らない?
既設BMSが強力なら見える化も可能な場合があります。ただし分析・レポート、テナント別集計、クラウド連携はBEMSの方が得意なことも多いです。既設の機能と目標を比較して判断しましょう。
Q3. 通信規格はどれを選べばいい?
既設設備の対応規格に合わせるのが基本です。ビル設備ではBACnet/IP、電力計ではModbusが実務で使われる場面が多めです。混在時はゲートウェイで橋渡しします。
Q4. 導入後の運用は難しい?
初期設定と運用ルール作りが肝心です。月次でのレポート確認、アラーム対応の手順化、季節の切替(冷暖房・日長変化)反映ができれば、効果を維持できます。
用語ミニ辞典
- サブメータリング:回路やテナントごとに電力量等を個別計測すること
- ピークカット/シフト:最大需要電力を抑制(カット)、時間帯をずらす(シフト)制御
- 最適制御:外気・在室・負荷予測などのデータに基づき運転を自動調整
- コミッショニング:設計意図通りに性能を発揮するか第三者的に検証・是正するプロセス
まとめ:BEMSは「内装の仕上がり」を賢くする裏方
BEMSは、単なる監視装置ではなく「空間の使われ方に合わせて賢く省エネする」ための土台です。内装工事では、センサー位置・回路分け・配線・ラベリング・試運転の丁寧さが、そのまま効果と快適性に反映されます。用語や仕組みをひと通り押さえ、現場での言い回しや段取りに慣れてしまえば、難しさはぐっと減ります。今日の打合せから「BEMS連動」を前提に、ゾーン分けとセンサーの位置を一緒に確認してみてください。きっと、仕上がりも運用もワンランク上がります。









