網入りガラスを現場目線でやさしく解説:意味・種類・注意点、プロの使いこなし術
「網入りガラスって何?」「防火ガラスと同じ?安全なの?」——そんな疑問を持って検索されている方へ。この記事では、建設内装の現場で日常的に使う言葉「網入りガラス」を、専門用語をできるだけ避けて、でもプロの実務に基づいてしっかり解説します。読み終えたころには、現場での会話の意図や、採用・交換時の注意点、関連するルールまでスッと理解できるはず。初めての方にも安心して読んでいただけるよう、丁寧に整理してお伝えします。
現場ワード(網入りガラス)
| 読み仮名 | あみいりがらす |
|---|---|
| 英語表記 | Wired glass |
定義
網入りガラスとは、板ガラスの中に細い金属ワイヤ(メッシュ)を挟み込んだガラスのこと。割れても破片が網に引っ掛かり、飛散しにくい性質があり、延焼のおそれがある開口部などで古くから使われてきた建材です。透明タイプと、表面に凹凸模様がある型板(かすみ)タイプがあり、ワイヤの形状も格子状(クロス)や菱形(ダイヤ)など複数あります。
基本の仕組みと種類
どうして「防火」に使われるのか
ガラスは熱に弱く、火災時には高温で割れやすくなります。網入りガラスは、内部のワイヤが割れた破片を押さえるため、延焼時でもすぐにガラスが崩れ落ちにくいというメリットがあります。このため、延焼のおそれのある部分の開口部や、防火戸の小窓などで広く使われてきました。
ただし、ここは大事なポイント。網入りガラスを使えば自動的に「防火設備」になるわけではありません。防火性能は窓(サッシ)や建具全体での認定・仕様によって評価されます。現場では「ガラスは網入りだけど、セットで防火認定取れてるか」を必ず確認します。
種類(透明/型板、ワイヤパターン)
網入りガラスには主に次のバリエーションがあります。
- 透明網入り(透明フロートにワイヤを封入)
- 型板網入り(かすみ:表面がザラザラで視線をぼかす)
- ワイヤパターン:格子(クロス)、菱形(ダイヤ)など
厚みは6〜7mm台が一般的で、サイズや可視品質に制限がある場合があります。現場では「型ワイヤ」「透明ワイヤ」「菱ワイヤ」といった略し方で呼ぶことが多いです。
長所・短所と誤解しやすいポイント
網入りガラスの性質を、プロ視点で整理します。
- 長所
- 破片の飛散を抑えやすい(人の退避時間を稼ぎやすい)
- 視線をぼかす型板タイプがあり、共用部のプライバシーに配慮しやすい
- 防火戸の小窓、階段室など、指定部位の実績が豊富
- 短所
- ガラス自体の曲げ・衝撃強度は高くなく、強化ガラスほど丈夫ではない
- 熱割れ・端部からのワイヤ錆によるひび割れリスクがある
- 割れた場合、ワイヤに引っかかった鋭利な破片が残り得る(安全ガラス≠網入り)
- 誤解しやすいポイント
- 「防犯」ではない:侵入抑止性能は高くない(合わせや防犯ガラスとは別物)
- 「防火設備」になるかは製品セットの認定次第:ガラス単体の話ではない
- フィルムを貼っても防火性能が付与されるわけではない:認定仕様に従うことが必要
現場での使い方
言い回し・別称
現場では、以下のような短い呼び方をよく耳にします。
- 「ワイヤ(入り)」「ワイヤガラス」
- 「型ワイヤ(かたワイヤ)」「透明ワイヤ」
- 「クロス(格子)」「ダイヤ(菱)」「菱ワイヤ」
「ここは型ワイヤで」「防火だからワイヤ指定」など、要件を簡潔に共有する目的で使います。
使用例(3つ)
- 「この防火戸の小窓、型ワイヤ6ミリで発注しておいて」
- 「外壁の延焼ライン跨ぐから、ここは透明ワイヤでサッシ一式防火認定の型番確認して」
- 「割れた網入り、同等仕様に交換。現場カット不可だから工場寸法で取り直しね」
使う場面・工程
採寸・拾い出し→発注→搬入→建具・サッシ組み込み→シール・ビート納め→検査の各工程で登場します。特に、
- 設計・見積段階:延焼のおそれの有無、防火設備の必要性、認定の型番確認
- 発注段階:ガラス寸法(ミリ単位)、ワイヤパターン、透明/型板、厚みの指定
- 施工段階:現場カット不可の前提での段取り、端部処理、防火用ガスケット・ビードの適合確認
- 検査段階:製品ラベルや刻印、認定書類で仕様整合をチェック
関連語
- 防火設備/特定防火設備(認定品)
- 延焼のおそれのある部分(延焼ライン)
- 強化ガラス・合わせガラス(安全ガラス)
- 型板ガラス(かすみ)・フロートガラス
- 防火戸・防火サッシ・グレージングチャンネル(ビート)
採用場面と設計・施工のチェックポイント
1. 法令・認定の考え方
火に関わる部位は、ガラス単体ではなく「サッシ・建具・金物・ガラス」一式での防火認定で性能が決まります。仕様書に「網入りガラス」と書いてあっても、サッシ型番が非認定なら防火設備とはみなされません。図面・仕様・型番・メーカー資料を突き合わせて確認するのが現場の基本です。
2. 使う場所の向き不向き
- 向いている例:共用階段室、外廊下の開口、防火戸の小窓、隣地境界に近い開口
- 注意が必要な例:人がぶつかりやすい学校・体育館・幼保施設の出入口や低い位置(安全ガラスの検討が優先されることが多い)
3. 見た目・採光の工夫
意匠面では、型板網入りは目隠し効果があり、共用部での使い勝手が良好です。明るさを重視したい場合は透明網入りが選ばれますが、ワイヤの格子が視界に入るため、意匠上の許容を事前に合意しておくと安心です。
4. ディテール・納まり
- 端部の水・湿気対策:ワイヤの錆を防ぐため、端部が雨水にさらされる納まりは避け、適切にシールします。
- 座屈・熱割れ対策:支持材やクリアランス、黒色金物の熱吸収など、熱応力に配慮します。
- ビード・パッキン:防火用の指定ビートやガスケット(メーカー推奨品)を用いること。
施工・交換の実務(職人目線)
寸法取りと発注のコツ
- 現場採寸は「見込寸法」「かかり寸法」を丁寧に。サッシや建具のクリアランス、ビート厚みを見た上でガラス寸法を決めます。
- 現場カットは基本NG。ワイヤの処理が必要で破断リスクも高いため、工場加工で発注します。
- 注文時は「透明/型板」「ワイヤパターン」「厚み」「小口処理」「角Rや切欠き」などを明記。
搬入・取り扱い
- 自重があり、割れるとワイヤが鋭利な破片を保持するため、防刃手袋・長袖で保護。
- 端部への当て傷厳禁。特に角は養生して搬入します。
- 立て掛けはゴムや木端で均等支持。風での転倒防止を徹底。
取り付け
- 下端に支持材(セッティングブロック)を入れて荷重を受け、側方は均等にビートで押さえます。
- 防火仕様の場合、必ず認定通りのビード・パッキン・シーリング材を使用。
- 打ち込みすぎによる歪みは熱割れの原因。適正な押さえ力で均一に納めます。
交換時の注意
- 同等仕様(透明/型、厚み、パターン)での交換が基本。防火設備の場合は認定範囲内での品番マッチングが必須。
- 既存が古いと同じ柄のワイヤが廃番のことも。代替の適合可否は事前にメーカー・流通に確認。
- 飛散防止フィルムを後貼りしても防火認定は付与されません。用途に応じて正しい材料選定を。
安全・メンテナンス
ひび割れ・白サビ(ワイヤ錆)への対応
端部から白っぽい筋が入るのは、ワイヤが錆びてガラスに応力がかかっているサインのことがあります。雨掛かりや洗浄時の水が小口に回る納まりだと進行しやすいので、発見したら早めに交換を検討しましょう。
人がぶつかる恐れがある場所では安全配慮
出入口や低い位置のガラスは、人が衝突したときの安全性が重要です。網入り=安全ガラスではありません。用途次第では強化ガラスや合わせガラス(安全ガラス)が適切になることがあります。計画段階で用途・動線を確認し、安全性の高い仕様を選びましょう。
清掃・保全
- 小口に水をためない:高圧洗浄の直接噴射や過度の薬剤は避ける。
- 金物の黒化・錆が強いと熱吸収ムラを招くことも。金物状態も定期点検。
- ひびの放置は危険。見つけたら使用を控え、プロに相談。
代表的メーカーと調達のコツ
国内の主な建築用ガラスメーカー
- AGC株式会社(旧・旭硝子):国内最大手の総合ガラスメーカー。建築用から機能ガラスまで幅広い品揃え。
- 日本板硝子株式会社(NSGグループ):建築・自動車用ガラスの大手。国内外での流通網が広い。
実際の現場調達は、地域の硝子店やガラス加工流通(問屋)を通すことが一般的です。廃番・在庫状況・納期は地域差があるため、早めに手配するのが安全。防火認定が絡む場合は「サッシ+ガラス一式」の品番・認定書を必ず揃えておきましょう。
よくある質問(Q&A)
Q. 網入りガラスは防犯に強いの?
A. いいえ。網は破片の飛散を抑える目的で、防犯用ではありません。侵入抑止を目的とするなら、合わせ(防犯)ガラスや格子・シャッターなど別の対策が必要です。
Q. フィルムを貼れば防火認定になる?
A. なりません。防火性能は認定された組み合わせで成立します。後施工のフィルムで防火性能が付与されることは基本的に想定されていません。
Q. 学校や体育館の窓に使っても安全?
A. 人が衝突する恐れが高い場所は、安全ガラス(強化や合わせ)の採用が優先されるケースが多いです。網入りは飛散抑制の性質はありますが、衝突安全性は別評価です。設計・発注段階で用途に合わせたガラスを選びましょう。
Q. 割れたら部分補修できる?
A. 基本はガラス一枚を交換します。ワイヤだけの補修はできません。防火設備の場合は認定範囲内で同等品に換える必要があります。
Q. 断熱・遮熱効果はあるの?
A. 網入りそのものに特別な断熱・遮熱性能はありません。必要に応じてLow-E複層ガラスや合わせガラス等、別の機能ガラスを検討します(ただし防火要件がある場合は認定体系に適合する仕様に限られます)。
現場で失敗しないための要点チェックリスト
- 「網入り=防火設備」ではない。サッシ・建具ごとの認定型番を確認する。
- 現場カットは基本しない。工場寸法で正確に発注。
- 透明/型板、ワイヤパターン、厚みの指定を統一し、図面・発注書・現物ラベルで整合を取る。
- 端部からの水回りを避け、適切にシール・ガスケットで納める。
- 人が衝突しやすい場所は安全ガラスの採用を検討する。
網入りガラスと他素材の選び分け
最後に、現場でよく迷う選び分けの考え方です。
- 防火が最優先:認定を満たす組み合わせ(網入り or 他の耐火ガラス)で選定。意匠・コスト・納期を比較。
- 安全(衝突)優先:強化ガラスや合わせガラスを基本に検討。防火要件がある場合は「安全+防火」を両立できる認定仕様を選ぶ。
- 目隠し・意匠:型板網入りは視線をぼかせる。意匠上ワイヤ格子の見え方も確認。
- メンテナンス性:雨掛かりや端部露出の少ない納まりにし、長期での錆・熱割れリスクを抑える。
まとめ
網入りガラスは、ガラス内部のワイヤで破片の飛散を抑える、歴史と実績のある建築用ガラスです。延焼のおそれのある部位や防火戸の小窓で多用されますが、「網入り=防火設備」ではない点が最大の注意点。現場では、ガラス単体ではなくサッシ・建具とセットの認定確認、現場カットを避けた正確な発注、端部の納まり配慮が品質を分けます。安全性や意匠、コストとのバランスを取りながら、用途に合わせて適材適所で選定しましょう。疑問があれば、設計者・メーカー資料・硝子店に遠慮なく確認するのが、失敗しないいちばんの近道です。









