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アーク溶接棒の選び方と使い方|種類・特徴・用途を徹底解説

現場ワード「アーク溶接棒」をやさしく理解する|種類・選び方・安全な使い方まで

「アーク溶接棒って何? どれを買えばいいの?」と、初めて現場用語に触れて戸惑っていませんか。内装工事の現場でも、金物の補強や鉄骨まわりの納まり調整で、溶接チームや鍛冶屋さんが「棒用意して」「低水素の棒に替えて」などと普通に口にします。本記事では、建設内装の初心者にもわかりやすく、アーク溶接棒の意味・種類・選び方・安全な使い方を丁寧に解説します。読後には、現場で会話についていけるだけでなく、実務で迷わない基礎知識が身につきます。

現場ワード(キーワード)

読み仮名あーくようせつぼう(ひふくあーくようせつぼう)
英語表記Arc Welding Electrode(Covered Electrode / SMAW Electrode)

定義

アーク溶接棒とは、被覆アーク溶接(SMAW:Shielded Metal Arc Welding)で用いる棒状の溶接材料です。中心に金属の芯線(ワイヤ)があり、その周りを被覆剤(フラックス)が覆っています。溶接時にアーク熱で芯線が溶けて溶接金属(溶着金属)となり、被覆剤は分解してガスやスラグを生じ、溶融池を大気から守り、脱酸・合金添加・アーク安定などの役割を果たします。電源とホルダーに棒をつなぎ、アーク熱で母材と棒を同時に溶かして接合する、最も普及した溶接方法のひとつです。

現場での使い方

言い回し・別称

現場では「溶棒(ようぼう)」「被覆棒」「棒溶接の棒」「低水素棒(ていすいそぼう)」「イルミナイト系(酸化チタン系)」「セルロース系」などと呼ばれることがあります。電極の種類を短縮して「7018(ななまるいちはち)」「6013(ろくまるいちさん)」と、規格名(AWS)で呼ぶこともあります。

使用例(3つ)

  • 「今日は立向きが多いから、低水素の3.2ミリ、DCプラスでいこう。」
  • 「タックは6013でさっと押さえて、本溶接は7018に替えてね。」
  • 「棒が湿気たかも。焼き直してから再開しよう。」

使う場面・工程

内装現場では、鉄骨階段・手すりの補修、スリーブやインサート用の座金・アングルブラケットの取り付け、開口補強の金物調整、既設スチール枠の補修などで溶接棒が登場します。実際の溶接作業は鍛冶工や鉄骨業者が担うことが多いですが、内装管理者・多能工でも用語理解が求められます。

関連語

  • 被覆アーク溶接(SMAW)/溶接機(交流・直流)/ホルダー(電極ホルダー)/アースクリップ
  • アークストライク/スラグ/ビード/タック溶接(仮付け)/開先(かいさき)/溶融池
  • 極性(DCEP/直流正極、DCEN/直流逆極、AC)/溶け込み/ポロシティ(ブローホール)
  • JIS Z 3211(被覆アーク溶接棒)/AWS A5.1(炭素鋼用溶接棒)

種類と特徴をおさえる

被覆タイプ別のざっくり分類

  • イルミナイト系(酸化チタン系): アークが安定しやすく、スラグの剥がれが良い。ビード外観がきれいで、薄板や姿勢変化に対応しやすい。一般構造用鋼の軽作業やタックに使われやすい。おおむねAWS E6013に相当する製品群が該当。
  • 低水素系: 被覆に水分が少なく、溶着金属の水素量を低く保てる。割れに強く、高強度鋼や厚板、拘束の大きい継手に適する。乾燥保管が必須で、湿気ると欠陥が出やすい。おおむねAWS E7016/E7018に該当する製品群が代表。
  • セルロース系: アーク力が強く、立向き・上向きなどの難姿勢に強い。配管現場などで重宝されるが、取り扱いには経験が必要。多くは直流正極(DCEP)を要求。おおむねAWS E6010/E6011に該当。

被覆タイプはアークの立ち上がり、スラグの性状、許容姿勢(下向き・横向き・立向き・上向き)、必要な乾燥条件などに影響します。現場では「外観・割れにくさ・姿勢のやりやすさ・入手性」で選ぶことが多いです。

規格表示(JIS/AWS)の見方

日本国内ではJIS Z 3211(被覆アーク溶接棒)が広く使われ、海外規格ではAWS A5.1(炭素鋼用)などが一般的です。両者はおおむね対応関係があり、例えば「JIS D4303 ≒ AWS E6013」「JIS D4316 ≒ AWS E7016」「JIS D5016 ≒ AWS E7018」という具合に強度・被覆系・許容姿勢などの指標が読み取れます。発注書や箱表示のどちらにも目を通せると確実です。

直径と推奨電流の目安

  • φ2.0 mm: 薄板・微細補修向け。目安40–70A。
  • φ2.6 mm: 汎用の軽作業。目安60–90A。
  • φ3.2 mm: 建築現場の主力サイズ。目安90–130A。
  • φ4.0 mm: 厚板・能率重視。目安130–180A。

数値はあくまで目安です。同じ直径でも種類やメーカーで最適電流は異なります。箱に記載のレンジを優先し、試し打ちで微調整しましょう。

アーク溶接棒の選び方(失敗しないステップ)

  • 母材の材質・板厚を確認する(例:一般構造用鋼SS400、板厚6mmなど)。
  • 必要強度と溶接姿勢を決める(外観重視か、割れにくさ重視か、全姿勢か)。
  • 現場の電源条件を確認(交流機か直流機か、開先の有無、予熱の可否)。
  • 屋内外・湿度・持ち運び条件を確認(低水素系なら乾燥設備の有無)。
  • 在庫・調達性・コストを考慮して銘柄・サイズを決定。

よくある現場の組み合わせ例

  • 一般的な補修・タック(薄~中板、外観重視): イルミナイト系(AWS E6013系)、φ2.6または3.2。
  • 拘束大・割れ対策(中~厚板、構造部): 低水素系(AWS E7018系)、φ3.2中心。乾燥管理を厳守。
  • 立向き配管・難姿勢(専門職向け): セルロース系(AWS E6010/6011系、DC機向き)。

実務では「タックは6013で軽く、仕上げは7018で確実に」という使い分けが定番です。いずれも母材条件と手持ち設備に合わせて微調整します。

使い方の基本(手順とコツ)

1. 準備

  • 安全養生: 可燃物を離し、防炎シートで遮蔽。火花の飛散範囲を意識して通路もケア。
  • 母材の下地処理: さび・塗膜・油分・水分を除去。開先がある場合は適正形状に整える。
  • 機材点検: ケーブルの被覆破れ・端子緩みを確認。アースを母材の素地に確実にクランプ。
  • 棒の確認: 種類・径・乾燥状態をチェック。低水素系は箱から出したら保温容器へ。

2. セッティングとアークスタート

  • 電流値設定: 箱の推奨レンジを基準に、板厚・姿勢・ギャップで±10A程度を調整。
  • 極性: 低水素系はDCEP(直流正極)が基本。6013はAC/DCいずれも可が多い。
  • アークスタート: 先端を軽く擦るか、タッピングで着火。母材にピンホールを残さないようソフトに。

3. 運棒(うんぼう)テクニック

  • アーク長は短め(芯線径の約0.5~1倍)を意識。長いとスパッタ・気孔が出やすい。
  • トラベルスピードは溶け込みとビード幅のバランスで決める。広がり過ぎは電流過大や手遅れ。
  • ウィービングは必要最小限。立向きは「U」字や三角の小刻み、下向きはほぼ直進で整える。
  • タック間は熱歪みを見ながら対称配置。拘束部は予熱やスキップ溶接を検討。

4. スラグ除去と仕上げ

  • 冷えてからスラグチッピング。無理に叩くとビードを傷つける。ワイヤーブラシで清掃。
  • 外観検査: アンダーカット、溶け込み不足、ピット、割れの有無をチェック。
  • 必要に応じて追い盛り、再溶接。低水素系は再着火の際も乾燥管理を継続。

保管・管理(品質を落とさない)

低水素系の乾燥管理

低水素系は湿気を吸うと気孔や割れの原因になります。メーカー推奨の再乾燥条件の一例として、100~350℃の範囲で一定時間(製品により異なる)を指示するものが多く、一般的な保温は100~150℃程度のロッドオーブンで行います。具体条件は箱のラベルに従い、再乾燥回数の上限も守りましょう。

現場持ち運びのコツ

  • 開封後は保温筒(保温容器)に入れて必要量のみ持ち出す。
  • 雨天・高湿度時は特に素早く交換。使い残しは早めに箱へ戻し密閉保管。
  • イルミナイト系でも濡れは厳禁。湿った棒は無理に使わない。

安全対策(必ず守る)

  • 教育・資格: アーク溶接作業は労働安全衛生法上の特別教育が必要です(アーク溶接等の業務に係る特別教育)。未受講者の単独作業は禁止。
  • PPE: 遮光面(シェード番号の適合)、革手袋、綿厚手の作業服、防じんマスク、保護靴。袖口・裾の火花侵入を防ぐ。
  • 換気・集じん: 溶接ヒューム・オゾンへの曝露を避ける。密閉空間では送気・換気を強化。
  • 感電・火災防止: ケーブルの損傷を点検。可燃物・ガスボンベから距離を取り、火の元管理・火花養生・火気監視を徹底。
  • 紫外線・やけど: 周囲への遮光も配慮。素手や露出肌を出さない。

トラブルと対処の早見

  • ポロシティ(ブローホール): 母材の水分・油分・錆を除去。アーク長を短く。低水素系は乾燥やり直し。
  • アンダーカット: 電流過大や過度のウィービングを見直し。トラベルスピードを安定させる。
  • 溶け込み不足: 電流不足・角度不適・速度早過ぎを調整。開先・ルート間隔も検討。
  • 割れ: 低水素系の乾燥徹底、予熱・後熱、拘束低減。高強度材は溶材選定を見直す。
  • スラグ巻き込み: 清掃不足・運棒不適。ビード間のスラグ除去を確実に。
  • 着火不良: 端面の酸化皮膜やアース不良を改善。先端を軽く整え、電流を適正化。

代表的なメーカー(国内外)

アーク溶接棒は多くのメーカーから供給されています。以下は現場で見かけることの多い信頼ブランドの一例です。

  • 神戸製鋼所(KOBELCO): 国内を代表する溶接材料メーカー。被覆棒からワイヤ、溶接機器まで幅広く展開。建築・造船・プラントで広く採用。
  • 日鉄溶接工業(Nippon Steel Welding & Engineering): 国内大手。炭素鋼・高張力鋼向けの被覆棒をはじめ、多様な用途に対応する材料を供給。
  • Lincoln Electric(リンカーン・エレクトリック): 世界的な溶接メーカー。AWS規格の被覆棒のラインアップが充実。
  • ESAB(イーサブ): グローバルで実績のある溶接材料・機器メーカー。各種被覆棒を国際規格で展開。

同じ規格記号でも、メーカーによりアーク感やスラグ性状がわずかに異なります。現場の好みや溶接姿勢に合う銘柄を試し、標準化しておくと段取りが早くなります。

よくある質問(初心者の疑問に即答)

Q. 6013と7018はどう使い分ける?

A. 6013はアークが立ちやすく外観がきれい。薄板・タック・軽作業に便利。7018は低水素系で割れに強く、構造部や厚板に向きます。仕上がり重視・拘束が大きいところは7018、スピード重視やタックは6013が目安です。

Q. AC機でも低水素系は使える?

A. 製品によりけりです。低水素系は直流正極(DCEP)推奨が多いですが、AC対応の銘柄もあります。箱の表示を必ず確認してください。

Q. 立向き溶接が難しい…コツは?

A. 電流をやや下げ、アーク長を短く、溶融池を小さく保つこと。小刻みなウィービング(Uや三角)でスラグの先行を抑え、下から上へ確実に積み上げます。タックピッチを詰め、熱歪みの管理も忘れずに。

Q. 棒が湿っているか見分けられる?

A. 低水素系は着火性の悪化、アークの不安定、ピンホール増加などのサインが出ます。疑わしい場合は再乾燥し、改善しなければ廃棄。開封・保管のルールを徹底するのが最良の対策です。

Q. 内装業でも資格は必要?

A. アーク溶接作業に従事する場合は、特別教育の受講が必要です。実際の溶接品質証明(JIS溶接技能者など)は、構造物や契約条件によって求められる場合があります。安全・品質の両面から適切な資格者に作業を任せましょう。

現場で差がつく小ネタ集

  • アークスタート痕(アークストライク)は腐食や亀裂の起点になります。不要な着火は避け、着火痕は研磨除去。
  • タックは「小さく多く」が基本。大きすぎるタックは本溶接時の欠陥源に。
  • 母材の裏側に可燃物がないか必ず確認。薄板や開口部は裏側火災の盲点になりがち。
  • ビード間の清掃手抜きはスラグ巻き込みの元。1パスごとに確実に落とす。
  • 入隅や狭い箇所は短い棒(カット)や細径を用い、アーク長のコントロールを優先。

内装管理者向けのチェックリスト

  • 図面の指定規格(例:JIS Z 3211 D5016、AWS E7018など)を事前に確認したか。
  • 電源(AC/DC)・機材・乾燥設備の手配は整っているか。
  • 施工環境(換気・養生・火気管理)と周辺作業の調整はできているか。
  • 資格者・監督者の配置と検査(外観・寸法・必要に応じて非破壊検査)の段取りは妥当か。
  • 材料ロット・乾燥条件・使用記録を残せるようにしているか。

まとめ(ここだけ押さえる)

アーク溶接棒は、芯線と被覆剤が一体となった溶接材料で、被覆タイプごとに特徴がはっきりしています。内装現場では「6013でタック、7018で本溶接」という使い分けが定番。選定は母材・姿勢・電源・環境で判断し、低水素系は乾燥管理を徹底。安全は特別教育・PPE・換気・火気管理が大前提です。メーカーや規格の表記に慣れ、電流・極性・運棒を丁寧に合わせれば、ビードは確実に安定します。まずは「正しい棒選び」と「乾燥・清掃・安全の三本柱」から始めましょう。