- 現場でよく聞く「天吊りエアコン」をまるっと理解するガイド|意味・現場での使い方・施工の勘どころ
- 現場ワード(天吊りエアコン)
- 現場での使い方
- 天吊りエアコンの仕組みと構造
- 天吊りと他形式の違い(選定の考え方)
- メリット・デメリット
- 天吊りエアコンの選び方(基本の視点)
- 施工の流れとチェックポイント
- よくある不具合と防止策
- メンテナンスと日常管理
- コスト感と工期の目安(考え方)
- 代表的なメーカー(五十音順)
- 天吊りエアコンの図面・監督業務でのチェックリスト
- 天吊りエアコンで間違えやすいポイント(現場あるある)
- 初心者向けQ&A
- 用語ミニ辞典(天吊り関連)
- 現場で通じる言い回しまとめ(すぐ使えるフレーズ)
- まとめ:天吊りエアコンを理解すると現場がスムーズになる
現場でよく聞く「天吊りエアコン」をまるっと理解するガイド|意味・現場での使い方・施工の勘どころ
現場で「ここ天吊りでいく?」「天吊りの吊元どこ?」なんて会話を耳にして、少し不安になったことはありませんか。天吊りエアコンは店舗やオフィスの内装現場で非常によく登場する機器ですが、言葉の定義や他形式との違い、施工時の注意点を知らないと現場の会話についていけず、工程の段取りにも影響します。本記事では、初心者の方でもスッと理解できるように、現場ワードとしての意味から、実務で役立つ使い方、選び方、施工の注意点までをやさしく丁寧に解説します。読み終わる頃には「現場で困らない最低限の基礎」がしっかり身につくはずです。
現場ワード(天吊りエアコン)
| 読み仮名 | てんづりえあこん(天井吊りエアコン/天吊り) |
|---|---|
| 英語表記 | Ceiling-suspended air conditioner(Ceiling-suspended type packaged AC) |
定義
天吊りエアコンとは、室内機本体を天井面(スラブや梁、下地)からボルトや金具で吊り下げて設置する業務用エアコンの室内機形状を指す現場用語です。正式には「天井吊形(てんじょうつりがた)」とも呼ばれ、パッケージエアコン(いわゆる業務用エアコン)の一形式です。吹出しは本体の側面または前面から水平方向へ、吸込みは下面(もしくは前面)から行うのが一般的で、天井を大きく開口せずに設置できるため、後付け改修や天井懐の浅い現場、ダクトスペースが取りにくい店舗などで重宝されます。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では以下の呼び方がよく使われます。意味はほぼ同じですが、混同しやすい用語には注意が必要です。
- 天吊り/天吊りエアコン/吊り形/天井吊形:同義として使われます。
- PAC(パック/パケ):パッケージエアコンの略。天吊りを含む業務用エアコン全般を指すことがあります。
- 天カセ:天井カセット形のこと。天井面と面一に納める別形式。天吊りとは別物なので要注意。
使用例(3つ)
- 「このゾーンは天吊り2台でいこう。梁ピッチ見て吊元拾っといて。」
- 「天吊りのドレン、勾配取れないからポンプ要検討ね。」
- 「天吊りの振れ止め、壁側に一本追加しといて。照明に風当たってるから風向も調整。」
使う場面・工程
天吊りエアコンは、以下のような場面で選定・設置されます。
- 改装現場で天井懐が浅く、天カセやダクト形が入らないとき
- 露出天井でデザイン的に機器を見せる計画のとき
- 飲食店・物販店・オフィスのゾーニングで柔軟に風向調整したいとき
- 既存天井を大きく壊したくない改修現場
工程上は、墨出し→吊元(インサート・あと施工アンカー・金具)→全ねじ・チャンネル組み→本体荷揚げ・仮吊り→水平(レベル)調整→固定→ドレン配管→冷媒配管→電源・リモコン配線→試運転の流れが基本です。
関連語
- 天井カセット形(天カセ):天井面内に埋め込むタイプ。見た目はすっきりだが、天井懐が必要。
- 壁掛け形:小規模空間向け。天吊りより能力帯が小さいことが多い。
- 床置き形:床に設置。天井への荷重・吊りが不要。
- ダクト形:ダクトで各所へ送風。設計自由度が高いがスペース・コストは増えやすい。
- パッケージエアコン(PAC):業務用エアコンの総称。天吊りもこの一種。
- 室内機/室外機:セットで使用。冷媒配管で接続。
- 馬力(HP):業務用エアコンの能力表記(俗称)。選定の目安に用いる。
天吊りエアコンの仕組みと構造
基本構成は、室内機(熱交換器・送風機・ドレンパン・フィルター・制御基板等)と室外機(圧縮機・熱交換器・ファン等)からなります。室内機は天井から吊り下げ、前面や側面から水平方向に吹き出して室内空気を循環させます。冷却・暖房は冷媒の相変化を利用し、冷媒配管(銅管)で室内機と室外機がつながっています。ドレン(結露水)は重力で下流へ流すのが基本で、勾配が取れない場合はドレンポンプを用います。
天吊りの構造上、機器の荷重は吊りボルト・金具・上部の構造体へ伝達されます。振動・騒音対策として防振ハンガーや防振ゴムを併用する場合もあります。前面パネルは開閉でき、フィルター清掃や点検が可能な設計が一般的です。
天吊りと他形式の違い(選定の考え方)
- 天吊り形:天井に穴を大きく開けずに設置可能。後付けしやすく、吹出し方向が目視で調整しやすい。意匠的には機器が見える。
- 天井カセット形:意匠性が高くすっきり。ただし天井懐が必要で、改修では難しいことがある。
- ダクト形:見た目は最もすっきり(吹出口のみ露出)。自由度は高いがスペース・コスト・調整手間が増える。
- 壁掛け・床置き形:設置が簡便。能力帯や風量分布の面で大空間には不向きな場合がある。
現場では、空間の用途・天井懐・意匠・工期・コストのバランスで選びます。改修で「既存天井を壊したくない」「ダクトは回せない」という条件なら、天吊りがベターな選択になることが多いです。
メリット・デメリット
メリット
- 天井開口が最小限で済み、改修でも導入しやすい
- 吹出し方向の調整がしやすく、ゾーニングに柔軟
- 保守スペースが確保しやすく、点検・清掃が比較的容易
- 工期短縮につながることがある(ダクト不要)
デメリット
- 機器が露出するため、意匠によっては目立つ
- 吊り構造の設計・施工精度が必要(水平・防振・耐震)
- 吹出しが人に直接当たりやすく、風当たり配慮が必要
- ドレンの勾配確保が難しい場合がある(ポンプ検討)
天吊りエアコンの選び方(基本の視点)
選定で失敗しないために、以下のポイントを押さえます。
- 能力(馬力・定格出力):床面積だけでなく、天井高さ、断熱性能、日射、機器発熱、在室人数、換気量などの熱負荷を考慮します。メーカーの能力表・選定ソフトの条件入力に従いましょう。
- 電源:業務用は三相200Vが一般的ですが、機種・能力により単相200Vなどもあります。受電状況や分電盤容量も確認。
- 設置スペース:吸込み・吹出しのクリアランス、保守スペース、点検口の確保。
- 騒音・風当たり:レイアウトと風向調整で人に直風が当たらない計画に。照明・サインの揺れも考慮。
- ドレン経路:重力で勾配が取れるか、ポンプが必要か。衛生設備との取り合い調整。
- 意匠:露出配管・ケーブルルート・色調(塗装可否)など、見え方の検討。
- 保守:フィルター清掃の足場、脚立の可搬性、前面パネルの開閉スペース。
配管径・最大配管長・高低差・結線方式などは機種ごとに異なるため、必ずメーカー仕様書に従ってください。
施工の流れとチェックポイント
1. 事前調査・墨出し
梁・スラブ位置、下地種類(コンクリート、軽量鉄骨、木下地等)を確認し、吊元位置を墨出し。機器の外形と保守クリアランスを図面に反映し、照明・スプリンクラー・サインとの干渉を事前に解消します。
2. 吊元(アンカー・インサート)
コンクリートの場合はインサートやあと施工アンカーを適切に選定。デッキプレートや軽量鉄骨の場合は、メーカーの指針や構造の許容に従い、チャンネル・補強部材で荷重を分散します。荷重・地震時の挙動を考慮し、必要に応じて振れ止めを計画します。
3. 架台・吊りボルト(全ねじ)
機器の吊元ピッチに合わせてチャンネル・L金物・全ねじを組み、芯ズレや捻れがないよう調整。ナット・座金の組み方、防振材の挿入、有効ねじ長を確認します。
4. 荷揚げ・仮吊り・レベル調整
チェーンブロック等で荷揚げし、仮吊り後に水平を合わせます。水平不良はドレン溢れの原因。最終固定前に前面の開閉やフィルター脱着ができるかも確認します。
5. ドレン配管
勾配を連続して確保し、断熱・保温を確実に。勾配が取れない場合は純正のドレンポンプを検討。臭気・逆流防止のための立ち上げ・トラップの必要性は計画に応じて判断します。排水の受け先(雑排水系統)と衛生設備の取り合いも事前調整が大切です。
6. 冷媒配管
メーカー指定の配管径・長さ・高低差・ろう付け方法を遵守。フレア・溶接の品質、配管支持、貫通部の防火・気密処理、露出部の美観仕上げ(テープ・化粧カバー)を丁寧に行います。耐圧・気密試験と真空引きはメーカー指示の手順・条件で実施します。
7. 電源・制御配線
分電盤からの電源容量・ブレーカ選定、アース確保、リモコン配線のルートと露出処理、通信線の極性や配線距離の制約を確認。弱電系との干渉やノイズ対策にも配慮します。
8. 試運転・調整
冷暖房の切替、風量・風向調整、ドレン排水の確認、異音・振動チェック、温度応答の確認を行い、引き渡し時に操作説明とメンテナンス方法を共有します。
よくある不具合と防止策
- ドレン漏れ:水平不良、勾配不足、断熱不良。→ レベル調整・勾配再確認・保温徹底。
- 振動・共振:吊り剛性不足、振れ止め不足。→ 補強・防振材・振れ止め追加。
- 冷えない・暖まらない:能力不足、風向不良、室外機周りの吸排気不良。→ 選定見直し・風向調整・設置環境改善。
- 霜付き・結露:風量設定やフィルター詰まり、外気条件。→ 清掃・設定見直し。
- 通信エラー:配線誤り・距離超過。→ 極性・結線・配線ルートを再点検。
メンテナンスと日常管理
安定運用には定期メンテが不可欠です。フィルター清掃(汚れに応じた頻度)、前面パネル・熱交換器の埃除去、ドレンパン・ホースの洗浄、運転時の異音・異臭チェックをルーティン化しましょう。点検スペースの確保や脚立のアクセス性も、設計段階から配慮しておくと後の運用が楽になります。長期休止後の再稼働は、ドレンの詰まりや臭気に注意して点検を行うと安心です。
コスト感と工期の目安(考え方)
天吊りは天カセやダクト形に比べて、天井開口やダクト施工が少ないぶん施工工数が抑えられる傾向があります。ただし、吊り金物の製作・補強、防振・耐震の追加、長距離配管、ドレンポンプの有無、意匠仕上げ(化粧カバー・塗装)などで工数は増減します。見積・工程検討の際は、機器能力、台数、配管ルート、既存天井の状態、他 trades との取り合いを丁寧に拾い出すことが重要です。
代表的なメーカー(五十音順)
- ダイキン:業務用空調のラインアップが豊富。全国的なサポート網が強い大手。
- 東芝(東芝キヤリア):店舗・オフィス向け機種を幅広く展開。
- 日立(ハイセンス日立などのブランド展開を含む):堅実な設計と保守性に定評。
- パナソニック:省エネ性や操作性に配慮したモデルが多い。
- 三菱電機:業務用でも採用実績が多く、制御バリエーションが豊富。
各社とも「天井吊形(吊り形)」としてラインアップされており、能力帯・外形・制御仕様に違いがあります。機種選びは、設置条件と保守体制、既存システムとの整合で決めるのが実務的です。
天吊りエアコンの図面・監督業務でのチェックリスト
- 機器位置:梁・配管・照明・スプリンクラーと干渉しないか
- 吊元:構造体の強度確認、あと施工アンカーの種類・本数・施工手順
- 保守スペース:前面開口・フィルター脱着クリアランス・脚立可否
- ドレン:勾配・受け先・断熱・点検口
- 冷媒:配管径・ルート・支持ピッチ・火気作業計画
- 電源・制御:ブレーカ容量・電圧・配線ルート・通信線極性
- 防振・耐震:振れ止め計画・仕上げとの取り合い
- 意匠:露出配管の美観、化粧カバー、仕上げへの影響
- 試運転:引渡し前のチェック項目と記録
天吊りエアコンで間違えやすいポイント(現場あるある)
- 「天吊り」と「天カセ」の取り違え:意匠と天井懐の要件が全く違います。
- 吊りボルトの位置ズレ:寸法図に基づく墨出しと、実機採寸・現合確認が大切。
- ドレンポンプ後付けの想定漏れ:ルート検討時に早期判断を。
- 風向・風速の配慮不足:直風が当たる席配置や熱源位置(厨房機器等)を考慮。
- 室外機側の制約見落とし:設置スペース、吸排気、搬入経路も同時に確認。
初心者向けQ&A
Q. 天吊りのメリットは一言で?
A. 天井を大きく壊さずに設置でき、改修現場で使いやすいことです。
Q. 天カセとどっちがいい?
A. 意匠をすっきりさせたいなら天カセ、後付けしやすさ・施工性重視なら天吊りが有利な場面が多いです。現場条件で判断します。
Q. 馬力はどう決める?
A. 面積だけでは決められません。天井高さ、断熱、方位、在室人数、機器発熱などを考慮し、メーカーの選定資料や負荷計算に従って決めます。
Q. ドレン勾配が取れないときは?
A. ドレンポンプの採用を検討します。騒音・保守性も考え、ルートは可能な限りシンプルにしましょう。
Q. 防振は必要?
A. 振動・騒音の要求や建物条件によっては有効です。防振材や振れ止めを適切に選定します。
用語ミニ辞典(天吊り関連)
- 吊元(つりもと):室内機を吊るための取付点。インサート、アンカー、金具など。
- 全ねじ(ぜんねじ):長尺のねじ棒。吊りボルトとして使用。
- 振れ止め:横揺れを抑える補助材。耐震にも寄与。
- ドレン:結露水。配管で排出し、勾配・保温が重要。
- 馬力(HP):業務用空調の能力表記の慣用。正確には能力(kW)で確認する。
- PAC:Packaged Air Conditioner の略。業務用パッケージエアコン。
現場で通じる言い回しまとめ(すぐ使えるフレーズ)
- 「天吊りの吊りピッチ、梁心で拾って。」(吊元位置を梁に合わせて決めて)
- 「ドレン落とし先どこ?勾配確認して。」(排水経路と勾配を要確認)
- 「振れ止め入れて照明に風当たらないように。」(揺れと風当たりの配慮)
- 「前面の保守クリアランス確保してね。」(点検スペースの確保)
まとめ:天吊りエアコンを理解すると現場がスムーズになる
天吊りエアコンは、改修・リニューアル現場で特に重宝される室内機形状です。言葉の定義を押さえ、天カセとの違いを理解し、吊元・ドレン・風向・保守の基本を外さなければ、選定も施工もグッとスムーズになります。まずは現場で「天吊り」と聞いたら、設置条件の確認(構造・意匠・ドレン・電源)と、メーカー仕様書のチェック。この二つを徹底するだけで、トラブルの多くは未然に防げます。本記事が、現場で自信を持って会話に参加し、段取りをリードする第一歩になれば幸いです。









