FCU(ファンコイルユニット)って何?内装工事で失敗しないための基礎・納まり・運用ポイント
「図面にFCUって書いてあるけど、何をどう気をつければいいの?」そんな不安を抱えている方へ。FCU(ファンコイルユニット)はオフィスやホテル、商業施設でよく使われる空調機器ですが、内装側の納まりや点検口、ドレン勾配などを間違えると、後から水漏れや結露、騒音トラブルになりがちです。本記事では現場でよく使う言い回しから、仕組み、据付・配管・電気の実務ポイント、メンテ・トラブル対応までをやさしく整理。初めての方でも「ここだけ押さえれば大丈夫」と思える実践的な内容にまとめました。
現場ワード(FCU(ファンコイルユニット))
| 読み仮名 | えふしーゆー/ふぁんこいるゆにっと |
|---|---|
| 英語表記 | Fan Coil Unit |
定義
FCU(ファンコイルユニット)は、冷温水コイルとファンを内蔵し、室内空気を吸い込んでコイルに通した冷水・温水で熱交換し、冷風・温風として吹き出す室内空調端末機です。空気は室内循環が基本でダクトを使わない(または短い)構成が多く、ビル中央の熱源(チラー・ボイラ等)から冷水・温水を配管で受けて各室を空調します。小規模ゾーンの温度制御がしやすく、ホテル客室やオフィスのテナント区画で多数採用されています。
仕組みと基本構成
FCUの動く原理
室内から吸い込んだ空気をフィルタで捕じんし、冷水または温水が循環するコイルに通して熱交換。ファンの送風で室内へ戻します。冷房時はコイル表面で空気中の水分が凝縮するため、ドレンパンに回収しドレン配管で排水します。暖房時はコイルに温水を流し、同じ構造で暖めます。
主な構成部材
- ファン(シロッコ等)・モータ:室内空気を循環させる心臓部
- 熱交換コイル:冷水・温水が流れる銅管+アルミフィン
- バルブ(2方弁/3方弁)・アクチュエータ:流量を制御して能力を調整
- フィルタ:吸込み側の捕じん、メンテ頻度に注意
- ドレンパン・ドレン配管・ドレントラップ:結露水を回収し排水、逆流防止
- ケーシング・点検パネル:内部保護とメンテアクセス
- 温度センサ・サーモスタット・コントローラ:室温制御、ON/OFFや段切替
- 防振材・吊り金具:振動・騒音対策、躯体への負担軽減
系統種別(2管式と4管式)
2管式は「冷房・暖房で同じ2本の配管を季節切替」する方式。イニシャルコストが安く、一般的に多いですが、中間期に冷暖混在しづらいのが弱点。4管式は「冷水2本+温水2本」で同時に冷暖可能。初期費用・配管量は増えますが、ホテルや病院などで快適性・柔軟性を重視する場合に選ばれます。
形状・設置形態(代表例)
天井ビルトイン型(点検口からメンテ)、天井カセット型(ルーバー露出)、天井吊形、床置形、縦吹き・横吹きなど。内装仕上げとの取り合い(グリル位置、点検口サイズ、化粧パネル納まり)を早期に確定するのがコツです。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では「エフシーユー」「ファンコイル」「FCU機」「ビルトインFCU」と呼ばれます。図面では「FCU-1」「FCU-A」と機器記号や系統名で表記されることが多いです。
使用例(3つ)
- 「この部屋のFCU、点検口600角確保できてる? フィルタ引き抜き方向も確認して。」
- 「ドレンは1/100以上で勾配つけてね。トラップ位置は仕上げ確定前に写真撮っておこう。」
- 「2管式だから季節切替時期は要注意。テナント要望で中間期の冷房希望が出るかも。」
使う場面・工程
- 施工図・納まり検討:点検口の位置・サイズ、吸込/吹出グリルの位置、天井内の他設備との干渉チェック
- スリーブ・インサート:配管ルート、保温厚みを見込んだ寸法で計画
- 据付・吊り込み:防振ハンガー、水平出し、メンテスペース確保
- 配管・保温:冷温水の往/還、2方/3方弁、結露防止保温、フレキ接続
- ドレン:勾配、トラップ、合流部の確認、ドレンアップポンプ有無
- 電源・制御:単独電源の有無、集中制御(BMS)・サーモ連動、段切替
- 試運転・調整:水圧・漏れ確認、エア抜き、風量・騒音、ドレン排水確認
- 引渡し:フィルタ清掃方法、バルブ位置、点検口の案内を記録
関連語
- AHU(エアハンドリングユニット):外調機。新鮮外気を処理しダクトで供給。
- 冷温水配管:チラー/ボイラからの配管。往き(供給)・還り(戻り)。
- 二方弁・三方弁:流量制御の基本部材。省エネ・安定性で使い分け。
- ドレンアップポンプ:排水レベルが取れない時に使用。
- 点検口:フィルタ交換やバルブ点検の開口。位置・サイズが品質を左右。
- 機外静圧:接続グリル・短ダクトがある場合に必要な余裕圧力。
選定と納まりのポイント(失敗しない基準)
FCUの選定は「能力・風量・静圧・騒音・設置スペース・メンテ性」のバランスです。能力は負荷計算値に合わせ、風量は室内の熱負荷と快適性(吹き出し感)で調整。グリルや短ダクトを介す場合は機外静圧の余裕が必要です。騒音はdB(A)値を確認し、会議室やホテル客室ではより静音型を選定します。
納まりでは、吸込側に十分な空間とフィルタ引き抜き方向の確保、吹出側の短ダクト・グリル干渉回避、点検口からバルブ・トラップ・電装部に手が届くかを図面段階でチェック。天井内は他設備(配管・ダクト・電気ラック)との競合が多いため、早期の干渉調整が不可欠です。
配管・電源・ドレンの要点
配管は流れ方向(往き/還り)を間違えないこと。冷水系は確実な保温で結露防止。バルブ・ストレーナ・ドレン弁などの点検箇所は点検口からアクセスできる位置に配置します。配管の振動伝達を抑えるため、フレキシブル継手を適所に使用します。
ドレンは「常時自然勾配」が基本。一般的な目安として1/100以上の勾配を確保し、トラップは負圧・正圧条件に適合した形状・高さで設置。合流部や縦管への接続位置も溢れ・逆流リスクを考えて決めます。ドレンアップポンプ採用時は停止時の逆流や清掃性も確認します。
電源・制御は、個別サーモでのON/OFF・段切替か、BMS連動かで配線が異なります。動力・制御の系統、インターロック、常時電源の要否、機内端子台の位置などを事前に確認しましょう。
騒音・振動対策
ファン回転や配管振動は天井仕上げに音として伝わります。防振ハンガーやゴムブッシング、配管の独立支持、吹出グリル直下の風切音対策(風速を上げすぎない)が有効。試運転で共振音がある場合は回転数調整や支持位置の見直しを行います。
防火区画・点検口
冷温水配管・ドレンが防火区画を貫通する場合は、防火措置(耐火シール)を確実に。FCU自体は天井内に隠蔽されることが多いため、点検口はフィルタ・バルブ・電装・トラップへ手が届く位置とサイズを確保します。サイズは機種・メンテ方式により異なるため、カタログと施工要領書を必ず参照してください。
メンテナンスとトラブル対応
定期点検項目
- フィルタ清掃・交換:目詰まりは風量低下・騒音増の原因
- ドレンパン・配管清掃:スライム・バイオフィルムの除去、トラップの封水確認
- 水漏れ・結露チェック:保温切れ・破れの補修、ドレン勾配の再確認
- バルブ・アクチュエータ動作:開閉不良は能力不足やサーモ不安定の原因
- エア抜き:空気噛みは熱交換効率を落とすため、系統高所で定期的に実施
- 電装部点検:端子緩み、異常温度、異音
よくある不具合と原因
- 天井からの水滴・漏水:ドレン勾配不足、トラップ切れ、配管保温不良、ドレン詰まり
- 冷えない・暖まらない:フィルタ詰まり、バルブ閉塞、エア噛み、コイルの汚れ
- 騒音・振動:ファンの汚れ・摩耗、共振、風速過大、グリル納まり不良
- 臭い:ドレンパンの汚れ、カビ・バイオフィルムの発生、清掃不足
施工時の予防策
- 配管フラッシング・ストレーナ清掃で初期ゴミを除去
- ドレンの勾配・トラップ位置を写真記録し、点検口から確認できるように
- 冷水配管・ドレンの保温・防露を丁寧に施工、継ぎ目も確実に密閉
- 試運転時に漏れ・騒音・排水・制御連動をチェックリストで確認
関係職種との調整ポイント
- 空調衛生:配管ルート、弁・ストレーナ・トラップ位置、保温厚み
- 電気:電源容量・盤、制御線、BMS連携、盤番号の整合
- 内装仕上げ:点検口サイズ・位置、グリル形状、化粧パネル納まり
- 防災:区画貫通部の防火措置、感知器との干渉
- BIM・施工図:3D上で干渉チェックし、吊りボルト位置やメンテ空間を事前に確定
代表的なメーカーと特徴(例)
機種や仕様は必ず最新のカタログ・施工要領書をご確認ください。以下は日本の現場で採用実績が見られる代表例です。
- ダイキン工業:ビル用空調の総合メーカー。FCUのラインアップが広く、制御系の連携が取りやすい構成が豊富。
- 東芝キャリア:商業施設・オフィス向けの実績多数。低騒音モデルや多様な据付形状を選択可能。
- 日立グローバルライフソリューションズ(空調):堅牢な筐体と信頼性を重視した製品展開。
- シンコー株式会社(SINKO):FCU・空調端末機器の専業メーカーとして知られ、ビルトイン型や特殊納まりにも対応可能なバリエーションがある。
メーカーにより、保守アクセスの方向、必要点検口サイズ、推奨ドレン勾配、静圧・騒音性能、制御オプションが異なります。現場条件(天井内高さ、グリル位置、メンテ動線)に合わせて、品番単位で適合性を確認しましょう。
よくある質問(Q&A)
Q. FCUとAHU(外調機)の違いは?
A. AHUは外気の取り入れ・空調・ダクト送風を主目的とする大型機。FCUは室内の循環空気を冷温水で熱交換する端末機で、ゾーンごとの温度調整に向いています。外気は別系統で導入するのが一般的です。
Q. 2管式のデメリットは?
A. 中間期に冷暖が同時に必要な場合、どちらかに割り切る必要があります。客室ビルなどで快適性を重視するなら4管式を検討しますが、初期コストと配管量は増加します。
Q. 点検口はどのくらい必要?
A. 機種・メンテ方式に依存します。フィルタ引き抜き方向、バルブ・トラップへのアクセス、電装部への手差しを考慮し、メーカー推奨寸法を満たす開口を確保してください。位置が悪いと、清掃や修理ができず運用トラブルになります。
Q. ドレンアップポンプは必須?
A. 天井内で自然勾配が確保できない場合に採用します。メンテナンス(スライム清掃・誤作動対策)が増えるため、可能なら自然排水を優先します。
現場チェックリスト(内装担当向け)
- 点検口:サイズ・位置はメーカー要件を満たすか。フィルタ・バルブ・電装・トラップに手が届くか。
- 吸込・吹出:グリル位置と風の流れが仕上レイアウトと干渉していないか。
- 吊り込み:防振金具・水平出し完了、周囲の躯体・天井下地とのクリアランスを確保。
- 配管:往/還の接続間違いなし、バルブ・ストレーナ・エア抜き位置が点検可能か。
- 保温:冷水・ドレンは防露を意識して継ぎ目も入念に。テープ巻きの浮きなし。
- ドレン:1/100以上の勾配目安、トラップ封水確認、合流位置の逆流リスク低減。
- 電気・制御:電源容量・系統、サーモ・BMS連動の配線試験、極性・端子の締付。
- 試運転:漏れ・排水・風量・騒音・制御連動・フィルタ差圧の確認と写真記録。
内装現場で押さえるべき「コツ」
FCUは「見えない天井内」に設置されることが多く、問題が起きると天井を開口してやり直す羽目になりがちです。トラブルの多くは、点検口不足、ドレン勾配不良、保温の甘さ、アクセス方向の思い違いから発生します。施工図段階でメーカー図を基に納まり断面を描き、監督・設備・電気・内装で合意することが最大の予防策です。写真・動画での記録化も、引渡し後の保守で効きます。
まとめ
FCU(ファンコイルユニット)は、冷温水で室内空気を直接熱交換する「小回りの利く空調端末」です。仕組みはシンプルですが、内装現場では点検口・ドレン・保温・防振・制御の5点が品質を左右します。選定段階で能力・静圧・騒音・メンテ性を確認し、施工では勾配・アクセス・保温の丁寧さを重視。試運転で漏れ・排水・騒音・制御を確かめれば、引渡し後のクレームを大きく減らせます。本記事をチェックリスト代わりに、現場での「迷い」を一つひとつ解消していきましょう。









