ボルトカッターとは?現場で迷わない基本・使い方・選び方をプロがやさしく解説
「ボルトカッターって何?どんな時に使うの?」そんな疑問を持つ初心者の方へ。建設内装の現場では、チェーンやボルト、金網などの金属を素早く切るためにボルトカッター(ボルトクリッパー)が活躍します。ただし、選び方や使い方を誤ると刃を痛めたり、思わぬ事故につながることも。本記事では、現場ワードとしての意味から、正しい使い方、サイズや刃の選び方、安全のポイント、メーカーの特徴まで、プロの視点でわかりやすく解説します。読んだその日から、現場で迷わず安全に使えるようになります。
現場ワード(キーワード)
読み仮名 | ぼるとかったー(ぼるとくりっぱー) |
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英語表記 | Bolt cutter(英: Bolt cropper とも) |
定義
ボルトカッターとは、長い柄と硬質の刃を持ち、てこの原理でボルト・チェーン・鉄線・金網などの金属材を手動で切断する工具の総称です。建設内装の現場では、仮設チェーンの調整、メッシュラックや金網の切り欠き、軽微なボルト類の切断などに用いられます。強い切断力が得られる一方、対象材や硬さに合わない使用は刃欠けや事故の原因となるため、対象に応じた選定と正しい使い方が必須です。
ボルトカッターの基本(構造と原理)
ボルトカッターは、長いハンドルと、刃を支えるヘッド部(リンク機構+刃)で構成されます。ハンドルを閉じる力がリンク機構で増幅され、硬い材でも少ない力で切断できるのが特徴です。刃は焼入れされた合金鋼で、対象材によって「適正硬度」や「刃形状」が異なります。調整ボルト(偏心ボルト)で刃のかみ合わせ(クリアランス)を微調整できるタイプが一般的です。
種類と選び方(サイズ・刃・対象材で決める)
刃のタイプ(代表例)
多くのボルトカッターは「センターカット」タイプで、刃の中心で材料をはさみ込む設計です。狭所での作業性を優先する場合は、刃先が少しオフセットされた「アングルカット」系(メーカーにより名称は異なる)もあります。基本はセンターカット、障害物に近い“際”を狙うならアングルカット系を検討しましょう。替刃式は経済的、一体式は剛性に優れる傾向があります。
サイズ(柄長)の目安と切断能力
サイズはおおむね350mm(14インチ)から1050mm(42インチ)程度まで。長いほどてこの効果が高く、太く硬い材に対応しやすくなります。ただし重量・取り回しの悪化とトレードオフです。
- 350〜450mm級:細線・小径ボルト・軽作業向け。内装の小物切断や狭所に最適。
- 600〜750mm級:汎用。一般的なチェーン・ボルト・金網等に幅広く対応。
- 900〜1050mm級:太径やや硬めの材、屋外仮設の重めのチェーンなどに。
重要なのは「カタログに記載された切断可能径・対象材(軟鋼・中硬・硬鋼など)」を必ず確認すること。同じ直径でも材質や硬度で可否が変わります。迷ったら一回り大きいサイズか、硬材対応モデルを選ぶのが無難です。
材料の硬さ表示(目安)
メーカーは切断対象を「軟材(アルミ・銅・焼きの入っていない軟鋼線)」「中硬材(一般的なボルト・チェーン・鉄筋ワイヤ)」「硬材(ピアノ線・焼入れボルト)」といった区分で示すのが一般的です。硬材の切断は対応モデルに限定し、表示のない工具では絶対に行わないでください。
握りやすさ・ヘッド形状・替刃
グリップが滑りにくいもの、開口幅が手に合うものを選ぶと疲れにくく安全です。ヘッドが薄いタイプは狭所で有利。替刃・調整ボルト・ピボットピンの供給があるメーカーはメンテナンス性も良好です。
現場での使い方
ここでは、内装現場で実際にどう呼ばれ、どんなシーンで、どんな言い回しで使うのかを具体的にまとめます。
言い回し・別称
- ボルトカッター/ボルトクリッパー/クリッパー
- (誤用気味)番線カッター:番線専用ニッパー等と混同されることあり。区別して使い分けましょう。
使用例(3つ)
- 仮設チェーンの長さ調整:余りコマを切り落として通行の邪魔を解消。
- メッシュラック・金網の切り欠き:ダクトやケーブル経路に干渉する部分を素早くカット。
- 全ねじ(吊りボルト)を仮で短くする:急場の寸法合わせ。ただしネジ山が潰れるため、仕上げには専用の全ねじカッター推奨。
使う場面・工程
- 解体・撤去:南京錠やチェーンが残っている場合の撤去(管理者の承認があるときに限る)。
- 設備・電気の仮設:ラックの余分なメッシュ、金網の干渉部を短時間で処理。
- 養生・仮囲い:ワイヤやフェンスの調整・改修時の切断作業。
関連語
- 全ねじカッター(吊りボルトカッター):ネジ山を潰さずに切れる専用工具。
- ニッパー/ケーブルカッター:細線・電線の切断に。用途が異なる。
- 鉄筋カッター:異形棒鋼など、より太く硬い棒鋼を切る専用工具。
- レシプロソー/ディスクグラインダ:切断代替手段。火花・粉じん管理が必要。
正しい手順(プロが現場で行う基本フロー)
- 1. 適合確認:対象材の材質・径と工具の切断能力表示を照合。迷ったら切らない。
- 2. 養生と保護具:飛散対策(段ボール・シート)と保護メガネ・手袋を準備。
- 3. 固定:対象を万力・クランプや足でしっかり保持。ブレは事故のもと。
- 4. 刃の当て方:刃の中心付近で材料をまっすぐはさみ、ねじらない。
- 5. 切断:両手でハンドルをゆっくり閉じ、最後の一押しで「パチン」と切る。勢いだけで一気に閉じない。
- 6. 端材回収:飛散片がないか確認し、清掃。刃先の欠けやガタも点検。
安全と注意事項(必ず守る)
- 保護メガネは必須。金属片は予想以上に飛ぶことがある。
- 対象材の硬さが不明なときは切らない。硬材は対応モデルのみ。
- 電路・通電の可能性があるものは切断禁止。必ず停電・無電確認を。
- てこの力で「こじらない」。刃やピボットを損傷し、破断飛散の危険。
- 地面での直置き切断は不可。反力で弾かれやすく危険。
- 南京錠やロックの切断は所有者・管理者の許可がある場合のみ。
よくある失敗と対策
- 刃が噛み込んで抜けない:ねじらず一旦開放。対象を固定し直し、中心で真っ直ぐ切る。
- ネジ山が潰れた:ボルトカッターで全ねじを切った場合の典型。仕上げは全ねじカッターを使用。
- 刃欠け・刃こぼれ:硬材を切った可能性。以後の使用をやめ、刃交換や点検を行う。
- 切断面が潰れる:刃のクリアランス不良や対象の保持不足。偏心ボルトで調整し、保持を強める。
メンテナンスと調整
作業後は、刃とリンク部の切粉・汚れを拭き取り、可動部に薄くオイルをさします。開閉が渋い場合はピボット部のサビ取り。刃の合いが悪ければ、偏心ボルトで左右均等にクリアランスを調整(メーカー取扱説明書に従う)。大きな欠けや歪みがある刃は無理に使用せず、替刃交換を。保管時は刃を閉じてカバーを掛け、湿気を避けましょう。
代表的なメーカーと特徴
MCCコーポレーション(松阪鉄工所)
配管・切断工具で知られる日本メーカー。堅牢な作りと扱いやすいバランスのボルトカッターを多数ラインアップ。替刃や補修部品の供給が安定しており、現場での信頼が厚い定番です。
ロブテックス(LOBSTER)
エビ印のブランドで知られる日本の老舗工具メーカー。リベッターやペンチ類に加え、ボルトカッターも展開。グリップ性や作業性に配慮した製品が選ばれています。
KNIPEX(クニペックス)
ドイツのプライヤー専門メーカー。コンパクトでも高い切断力を持つ小型ボルトカッター(例:CoBoltシリーズ)で有名。狭所や片手での取り回しが求められる場面に有効です。
H.K. Porter(エイチ・ケイ・ポーター)
アメリカの切断工具ブランド。大型から軽量タイプまで幅広く、ヘビーデューティーな使用に耐える製品を展開。屋外仮設やインフラ系現場でのニーズにも対応します。
上記以外にも国内外で多くのメーカーがあり、入手しやすさ、替刃の供給、サイズ展開などを総合して選ぶとよいでしょう。
代替工具の選択肢(間違えないために)
- 全ねじカッター:吊りボルト(W3/8、M8など)のネジ山を潰さずに切断。
- ケーブルカッター:銅・アルミ電線を潰さず切る。ボルトカッターは不向き。
- ニッパー/エンドニッパー:番線や結束線の切断・除去に最適。
- 鉄筋カッター(手動・油圧):異形棒鋼など太径・高強度材に。
- レシプロソー/ディスクグラインダ:切断幅や火花・粉じん対策が許容できる場面で。
施工品質と段取りのコツ
- 事前確認:切断する材の材質・硬さ・径を把握。現場の仕様書やメーカー表示を参照。
- 仮合わせ優先:仕上げ材や設備に近い切断は、先に養生・墨出し・仮合わせを済ませる。
- 飛散管理:周囲に人がいる場合は声かけと立入禁止を徹底。切断片は必ず回収。
- 工具配置:長尺のボルトカッターは壁際・床置きでつまずきやすい。定位置管理を。
現場で役立つ豆知識(マナーとルール)
南京錠やチェーンの切断は、所有者・管理者の承認がある場合のみ実施しましょう。無断で切るとトラブルになります。また、屋内では切断音や金属片の飛散が養生面に影響することがあります。時間帯(騒音配慮)と周辺養生、清掃まで含めて段取りするのがプロの仕事です。
FAQ(よくある質問)
- Q. ステンレスチェーンは切れますか? A. モデルとサイズ次第です。硬材対応の明記がない工具では刃を傷める恐れがあります。カタログの対象材を確認してください。
- Q. ピアノ線は切断可能? A. 硬材対応モデルに限ります。一般的なボルトカッターでは不可です。
- Q. 全ねじはボルトカッターで切っていい? A. 可能でもネジ山が潰れ、ナットが入らなくなります。仕上げ用途なら専用の全ねじカッターを使いましょう。
- Q. 刃の研磨は自分でしてよい? A. メーカーは替刃交換を推奨することが多いです。独自研磨は切断性能や安全性を損なう可能性があります。
まとめ:ボルトカッターを「安全に・的確に」使いこなそう
ボルトカッターは、てこの力で金属を素早く切断できる頼れる工具です。しかし「対象材に合うモデル選定」「正しい当て方と保持」「保護具・養生」「アフター点検」の4点が守れなければ、刃の損傷や事故につながります。サイズは作業環境と対象材で選び、硬さの不明な材は切らないのが鉄則。全ねじは専用工具、電線はケーブルカッター、太径・高強度材は鉄筋カッターなど、代替工具との使い分けも覚えておきましょう。基本を押さえれば、内装現場での段取りが格段に早く、安全で美しく仕上がります。今日から自信を持って使っていきましょう。