現場で通じる「着色塗装」ガイド|木部の色づけから仕上げまでをやさしく解説
建設内装の打合せで「ここは着色塗装でいきます」「ステインで色合わせしてからクリヤーね」と言われ、なんとなくわかった気でいながらも具体的な中身がモヤっとしたまま……そんな不安はありませんか?本記事は、現場で職人が日常的に使う現場ワード「着色塗装」を、初心者にもわかりやすく、工程や道具、注意点まで実務目線で解説します。読み終える頃には、打合せの意図がスッと理解でき、仕上がりをイメージしたうえで段取りを組めるようになります。
現場ワード(着色塗装)
読み仮名 | ちゃくしょくとそう |
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英語表記 | stained finish(wood) / color coating |
定義
着色塗装とは、素材に色味を与えることを目的とした塗装の総称です。内装の現場では主に木部(造作材・建具・フローリング端部など)で「木目を活かしつつ色を付ける」ステイン仕上げを指すことが多く、着色後にクリヤー塗装(透明の保護塗膜)で保護し、艶や耐久性を整えます。一方、鉄部やボード面の「塗りつぶし」でも、既存色に合わせて調色した上塗りをする場合に「着色」という言い回しを使うことがあります。つまり現場では、木部の色づけ(透け感あり)と、他素材の色付け(塗膜で隠ぺい)を文脈で使い分ける言葉です。
現場での使い方
「着色塗装」は、見た目のトーンを揃えたいとき、既存造作との色合わせが必要なとき、意匠で木目を活かしたいときに登場します。木部では「ステイン→クリヤー」の二段階、金属やボードでは「下塗り→中塗り→上塗り(色)」の中で色を決める運用が基本です。
言い回し・別称
現場では以下のように呼ばれます。文脈により意味が近いがニュアンスが異なるので注意しましょう。
- 着色(ちゃくしょく):木部の色付け全般。単に「色を入れる」意味でも使用。
- ステイン(着色ステイン/オイルステイン):木目を活かす浸透型の着色剤。
- 染色塗装:着色塗装とほぼ同義だが、木部で染料系を使うニュアンスが強め。
- 着色クリヤー:クリヤー塗料に着色剤を混ぜた半透明仕上げ。スプレーで均一に乗せやすい。
- 調色:塗料そのものの色を既存に合わせる行為。鉄部・ボード面での「着色」に近い文脈。
使用例(3つ)
- 「框は既存建具に合わせて着色、サンプル通してからクリヤーで仕上げよう。」
- 「ニレは吸い込みムラ出やすいから、目止めしてから薄めのステインで着色して。」
- 「スチール手摺は調色で近似色にして塗りつぶし。木笠木はステイン着色で木目活かすよ。」
使う場面・工程
主な対象は、木製建具・枠・造作家具(カウンター、棚板、面材)、巾木、階段材など。既存の色味に合わせる改修現場、色のばらつきが出やすい無垢材や突板面のトーン調整、設計指定のサンプル色に揃える新築現場などで使われます。基本の工程(木部)は以下のとおりです。
- 素地調整:キズ・パテ補修、面取り、番手を上げながらサンディング。
- 目止め(必要に応じて):サンディングシーラーや目止め剤で吸い込みを均一化。
- 着色(ステイン):刷毛・ウエス・スプレーで塗布、拭き取り・なじませ。
- 乾燥:材や環境によるが十分な乾燥を確保。
- 中研ぎ:毛羽立ちを整え、密着を確保。
- クリヤー塗装:ラッカー、アクリル、ウレタンなどで保護。必要に応じて2〜3回。
関連語
- ステイン(染料系/顔料系):染料は発色が鮮やかで透明感、顔料は隠ぺいと色ブレ抑制に強い。
- クリヤー(クリア):透明の保護塗料。艶消し〜鏡面まで艶調整が可能。
- 目止め(フィラー/シーラー):導管を埋めたり吸い込みを均一化し、ムラを防ぐ下地処理。
- 調色:既存色・見本色に合わせて塗料の色を作る工程。
- 塗りつぶし(ソリッド):下地を隠して色で覆う仕上げ。木目は出ない。
着色塗装の種類と仕上がりの違い
木部の着色(ステイン系)
木部では、木目の表情と導管の深さ、材の吸い込みが仕上がりを左右します。ステインは大きく「染料系」と「顔料系」に分かれます。
- 染料系ステイン:透明性が高く、木目が際立つ。色乗りが早く、重ねで濃くなるが、退色に注意。均一な木地で効果的。
- 顔料系ステイン:微細な顔料が表面に留まり、隠ぺい力がやや高い。色ブレや吸い込みムラを抑えやすい。
- オイルステイン:油性溶剤ベースで作業性がよく、拭き取りで濃度を調整しやすい。乾燥には時間を要する場合あり。
風合いを最大限活かすには、材の選別(木目・板目/柾目、節の有無)と、テストピースでの色決めが重要。特に突板と無垢材が混在する造作は、同じ色番でも見え方が違うため注意します。
金属・石膏ボード面の着色(塗りつぶし)
鉄部やボードは、上塗り塗料を調色して所望の色に仕上げます。工程は「素地処理→プライマー→パテ→下塗り→中塗り→上塗り」。この場合の「着色」は上塗りの色決め・調色を指す場面が多く、木部のような「木目を透かす」というニュアンスはありません。艶やテクスチャ(ゆず肌・フラット)も同時に指定します。
工程と道具・材料
基本工程(木部の現場想定)
- 1. 素地調整:#120→#180→#240(仕上げは#320まで上げる場合も)。木口・面取りを丁寧に。
- 2. 目止め:導管の深い材(オーク等)や吸い込みムラが出やすい材に有効。サンディングシーラーを薄く均一に。
- 3. 着色:刷毛・ウエスで塗布し、数分置いて拭き取り。濃度は重ね塗り・希釈で微調整。
- 4. 乾燥:規定時間を厳守。油性は特に内部乾燥を待つ。乾燥不足は後の白濁・艶ムラの原因。
- 5. 中研ぎ:#320〜#400で軽く。毛羽を落として密着と手触りを改善。
- 6. クリヤー塗装:ラッカー(速乾・易補修)、アクリル(黄変少)、ウレタン(耐久・耐薬品性)。艶は設計指示に合わせる。
- 7. 仕上げ研磨と上塗り:鏡面レベルなら研ぎ出し、一般住宅や店舗なら2回塗りで十分なことが多い。
使用する道具・機材
- サンダー(オービタル・ランダムアクション)、サンドペーパー各番手
- 刷毛(溶剤用・水性用)、ウエス(糸くずの出にくいもの)、スポンジパッド
- スプレーガン(着色クリヤーや均一な薄付けに有効)、コンプレッサー、攪拌機
- 計量カップ、濃度計(目安)、試験片(同材の端材)
- 養生材(マスカー・布テープ・ノンスリップシート)、集塵機
- PPE(有機用防毒マスク・手袋・保護メガネ)
代表的な塗料メーカー(参考)
以下は、日本国内で内装塗装に広く用いられる主要メーカーやブランドの一例です。製品の仕様は必ず最新カタログ・安全データシートで確認してください。
- 関西ペイント:建築用から木部用まで幅広い製品ラインナップを持つ総合塗料メーカー。
- 日本ペイント:建築・工業・自動車など総合的に展開。内装用上塗りや下塗り製品が豊富。
- 大日本塗料(DNT):建築内装・床・橋梁など実績多数。耐久性の高い塗料群を提供。
- 和信化学工業:木工・木部用塗料に強み。ステインやクリヤー、ニス系で知られる。
- アサヒペン:DIY向けも含めた身近な塗料メーカー。現場の補修・小規模対応で活用される。
- オスモ(OSMO):木部用自然塗料ブランド。オイル・ワックス系で内装造作に採用例あり。
- リボス(LIVOS):植物由来成分の木部用オイル・ワックスで、意匠性と環境配慮の選択肢。
- 大谷塗料(VATONなど):木部用着色オイルの代表的ブランドを展開。
色合わせのコツ(サンプル承認から本番まで)
着色塗装の満足度は「色合わせ」の精度で決まります。現場で失敗しないための要点です。
- 同材・同仕上げでサンプル作成:本番と同じ材・同じ研磨番手・同じクリヤーで色確認。
- 光源を揃える:現場の照明色(電球色/昼白色)で最終確認。外光の影響も考慮。
- 乾燥後の見え方を想定:濡れ色・乾き色の差、上塗りクリヤーで濃く見える「沈み」を見越す。
- 濃度は上げるより下げるが難しい:まず薄めに着色→段階的に近づけるのがセオリー。
- 異種材の整合:無垢・突板・集成材で色の乗りが違う。部位別に微調整プランを用意。
- 塗り回数・塗布方法の統一:刷毛か拭き取りか、スプレーかで発色が変わる。手順書化が安心。
よくある失敗とリカバリー
- 吸い込みムラ(シマや濃淡):原因は下地の粗さや導管差。対策は目止め・番手アップ・ウエス拭き取りの均一化。軽微なら再着色で馴染ませ、重症は一度研いでやり直す。
- 色が濃すぎた:原則戻しにくい。早期なら溶剤で軽く拭き上げて薄める、乾燥後は研磨で薄くして再着色。先に薄く作る運用が鉄則。
- クリヤーで沈んで暗く見える:見本作成時に同じクリヤーで確認する。想定外の場合は艶を落とすと明るく見えることがあるが、根本は見本条件の統一。
- 白濁・ブリッシュ:湿度・低温・乾燥不足が原因。環境を整え、溶剤バランスを見直し、再塗装。
- ヤニ・アクの浮き:針葉樹やタンニンの多い材で発生。シーラーやアク止めプライマーで封じてから着色。
- はじき(塗料が乗らない):油分やシリコン汚染。脱脂・洗浄・研磨で下地を再調整。
- 艶ムラ:塗布量・乾燥環境の差。中研ぎと塗り重ねで均し、最終の艶度を統一。
品質基準・検査ポイント(現場監督・施主確認に備える)
- 承認サンプルとの色差:目視だけでなく、自然光と人工照明の両方で確認。許容差は事前合意。
- 艶度の一致:全体・部分補修とも艶を合わせる。半艶・3分艶など表記を統一。
- 木目の表情:意匠意図(木目強調/穏やか)と合致しているか。導管の目詰まりや染みの有無。
- 塗膜の健全性:ざらつき、ピンホール、付着物、埃噛みの有無。手触りも評価。
- 端部・小口:色の乗りやすさが違う。段差・毛羽立ちの処理状況。
- 帳尻合わせの痕跡:見切りや継ぎ手の色ズレ・マスキング跡が残っていないか。
安全・環境配慮(VOC・臭気・養生)
溶剤系は揮発性有機化合物(VOC)と臭気対策が必須です。換気計画(給気と排気の動線)、作業者のPPE(有機用防毒マスク・手袋・保護メガネ)、火気厳禁の徹底、ウエスの自然発火防止(密閉保管・水張り容器)を守りましょう。周辺仕上げの養生は布テープ+ポリで段差を作らず、埃の発生源は事前に除去。水性塗料や低VOC品を選ぶと、現場の環境負荷と近隣クレームを抑えやすくなります。
コスト・工期の目安と段取りのコツ
コストと工期は「試作回数」「材の種類」「塗り重ね回数」「塗装方法(拭き/刷毛/スプレー)」「養生規模」で大きく変動します。改修で既存色合わせが厳密な場合は、サンプル試作を1〜2回想定しておくとトラブルを防げます。スプレーは仕上がりが安定しやすい反面、養生・設備・乾燥管理に手間がかかります。刷毛・ウエスは小面積や現場補修に有効です。
- 事前に色番号や基準サンプルを確定:曖昧なまま発注しない。
- 材料のロット管理:同一ロットで統一、足りない場合は早めに追加手配。
- 面積の大きい面は先にモックアップ:壁面パネルや長尺カウンターで実寸検証。
- 後工程との干渉回避:床仕上げ・電気器具・建具吊り込みの前後を調整。
着色塗装の細かなテクニック(プロの一手)
- 濡れ色確認:ステイン前にシンナーや水で軽く湿らせると、仕上がりの色味傾向を把握しやすい。
- 木口の先仕込み:小口は濃く出やすいので、薄めたステインで先に慣らすと均一に近づく。
- 二色使いのなじませ:赤みと黄味の両方を薄く重ね、奥行きある色に仕立てる。
- 着色クリヤーの微調整:スプレーでうすくベールを重ねると、面の色ムラ補正に効く。
- 艶での見え方コントロール:同じ色でも艶消しは淡く、鏡面は濃く感じやすい。見本で艶まで固定。
ケーススタディ:よくあるシーン別の考え方
既存建具に新規造作を合わせる
既存の色は経年変化(黄変・退色)を受けています。まず既存から「現状見本板」を採取(または近似カラーチップを作成)し、同材の端材で色を寄せる。クリヤーの艶を既存に揃えると一体感が増します。大面積は基準面を先に決め、周辺を寄せる方が違和感が出にくいです。
ナラ(オーク)をダーク色で落ち着かせたい
導管が深く吸い込みムラが出やすいので、目止め+顔料系ステインが安定。赤味を抑えたい場合は、補色関係を考えてグリーン寄りをわずかに入れるなど微調整。仕上げは半艶ウレタンクリヤーで耐久性と高級感のバランスを取ります。
店舗什器の短工期対応
乾燥時間が鍵。速乾のラッカー系クリヤーや水性速乾システムを選び、塗装は工場先行で実施。現場は設置後のタッチアップ中心にすると工期短縮が可能です。臭気対策も忘れずに。
よくある質問(Q&A)
- Q. 着色塗装と塗りつぶし、どう選べばいい?
A. 木目を活かしたい、素材感を見せたいなら着色(ステイン+クリヤー)。意匠で色をフラットに見せたい、下地の表情を隠したいなら塗りつぶし。耐久要求やメンテ性も加味して選定します。 - Q. クリヤーは何を選べばいい?
A. 速乾で補修が容易なのはラッカー、黄変が少なく屋内向け万能はアクリル、耐摩耗・耐薬品性が必要ならウレタン。艶指定(全艶消し〜鏡面)も同時に決めます。 - Q. 吸い込みムラを完全に無くせる?
A. 木は生き物で完全ゼロは難しいですが、目止め・均一なサンディング・テスト塗りで大幅に抑えられます。均一性が最優先なら塗りつぶしが確実です。 - Q. 自然塗料とウレタン、どちらがいい?
A. 風合い・メンテナンス性重視なら自然塗料(オイル・ワックス)、耐久・清掃性重視ならウレタン。用途(住宅・商業・厨房周りなど)で使い分けます。
用語辞典(ピンポイントで確認)
- 素地調整:塗装前の下地整え。キズ・パテ、研磨、面取りまで含む。
- 番手:サンドペーパーの粗さ。数が大きいほど細かい。
- 艶(グロス):反射の度合い。全艶消し・3分艶・半艶・艶有りなどで指定。
- 導管:木材の年輪に沿った孔。深いほど着色が濃く出やすい。
- 拭き取り:ステイン塗布後に過剰分を拭き、濃淡を整える操作。
- 調色:色を作る作業。カラーチャート・計量で再現性を担保。
- ブリッシュ:白濁。主に湿度や乾燥条件の不良で発生。
まとめ:着色塗装を味方に、狙いどおりの内装へ
「着色塗装」は、木の表情を活かしながら空間全体のトーンを整えるための強力な手段です。要点は、同条件サンプルでの事前合意、吸い込みを制御する下地づくり、段階的な色合わせ、そして適切なクリヤー選択。現場では、材・道具・環境の三位一体で工程を管理し、検査の視点(色・艶・木目・手触り)を持って進めれば、仕上がりの不一致や手戻りを大きく減らせます。この記事を現場の会話にそのまま持ち込んで、着色塗装の打合せと施工をスムーズに進めていきましょう。