コンパスカッター入門|内装職人が教える円形開口の基本・使い方・選び方
「丸い穴をきれいに開けたいけれど、どの道具を使えば失敗しないの?」そんな不安を持つ方に向けて、現場で実際に使われる“コンパスカッター”をわかりやすく解説します。用途や種類、正しい使い方、プロがやっているコツまで丁寧に紹介。この記事を読めば、石こうボードやクロス、シート類の円切りが、ムラやガタつきなく仕上がるはずです。
現場ワード(キーワード)
読み仮名 | こんぱすかったー |
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英語表記 | Compass Cutter / Circle Cutter |
定義
コンパスカッターとは、コンパスのように中心点(支点)を決め、半径を設定して刃を回転させることで、円形や円弧を切り抜くための手動カッターの総称です。薄物の紙・ビニール・壁紙(クロス)・シート類に用いるタイプと、石こうボードなどの建材に丸穴を開けられる専用タイプがあり、内装工事ではダウンライト開口や配管まわり、器具プレート用の穴あけなどに広く使われます。
コンパスカッターの基礎知識(構造・種類・対応素材)
基本の構造
多くのコンパスカッターは、以下のパーツで構成されています。
- センターピン(支点):中心を固定する針や吸盤、プレートなど
- スライダー(アーム):半径を設定する可動部。目盛付きのものが便利
- ブレード(刃):素材に合わせて交換可能なものが多い
- 固定ノブ・ロック機構:設定半径を保持し、作業中のズレを防ぐ
主な種類
現場でよく見かけるのは次のタイプです。素材や仕上がりの要求レベルで使い分けます。
- ピン式(オールラウンダー):針を中心に刺して回す一般的タイプ。紙・クロス・薄いシート類に向く。微小なピン跡が残るため、仕上げ面では対策が必要
- 吸盤式・ディスク式(ピン跡を残したくない場面向け):ガラス面や平滑シートに向き、中心に穴を空けたくないときに有効
- 石こうボード用丸穴カッター(専用):両刃や調整リングを備え、規定径でボードに丸穴を開けられる。粉じんが出るため養生・保護具が必須
対応素材の目安
メーカーごとの指定に従うのが原則ですが、一般的な目安は次の通りです。
- 紙・ボード紙・薄いプラ板:汎用コンパスカッターでOK
- 壁紙(ビニールクロス)・クッションフロア(CF)・長尺シート:刃を新しくし、数回に分けて浅く切り進めると美しく仕上がる
- 石こうボード(9.5〜12.5mm):専用の石こうボード用丸穴カッター、または代替としてホールソーを使用
現場での使い方
言い回し・別称
現場では「円切りカッター」「丸穴カッター」「サークルカッター」と呼ばれることもあります。石こうボード向けの専用品は「ボード丸穴カッター」「ボード用円切り」と区別する言い方も一般的です。
使用例(3つ)
- 「この天井のダウンライト、φ100で開けるからコンパスカッター準備して」
- 「クロスの配管まわり、中心出して円切りでキレイに合わせて」
- 「CFは表面キズつきやすいから養生してからコンパスカッター回してね」
使う場面・工程
- 天井:ダウンライト・火災報知機・換気口の開口(石こうボードは専用タイプ推奨)
- 壁:スリーブ・コンセントボックス位置合わせ、器具プレートまわり
- 仕上げ材:壁紙・CF・長尺シート・床材の配管立ち上がり部の円形切り抜き
- 型紙作成:現場で治具・テンプレートを作る際の円弧けがき
関連語
- 墨出し・センター出し・けがき:中心と半径を正確に決める基準作業
- ホールソー・コアドリル:電動で丸穴を開ける代替工具(木下地・ボード・金属用など)
- ジグソー・トリマー:大径や厚物の円形開口に用いることがある
- ダウンライト・配管スリーブ:円形開口の代表的対象
手順:コンパスカッターの基本的な使い方
1. 中心と半径を決める
図面や器具の仕様書で開口径(例:φ75/φ100/φ125/φ150など)を確認し、現物合わせで干渉がないことを事前にチェック。中心点は、天井下地・壁下地の位置や既設配線との取り合いも勘案して決めます。半径は「開口径の1/2」をスライダーの目盛で設定します。
2. 養生・下支え
仕上げ材(クロス・CFなど)はキズを防ぐために、切り出す円の外側にマスキングテープや養生テープを軽く貼ると良いです。薄物はカッターマットや合板などの下地で支え、刃の貫通時のバリ・欠けを抑制します。
3. 刃の確認と角度
切れ味の落ちた刃は毛羽立ちや割れの原因になります。新品か、少なくとも鈍っていない刃に交換。刃の角度は素材に対しほぼ垂直〜やや寝かせ気味で、一定の角度を保持するのがコツです。
4. 浅く数回に分けて切る
一度で切り抜こうとせず、軽い力で1周、同じ溝をなぞるように2〜3周と、徐々に深く入れていきます。シート類は特にこの段階切りが有効で、フチがガサつかず美しく仕上がります。
5. 仕上げと確認
切り抜いた後、バリや糊ダマリを軽く整えます。ボード開口の場合は、器具やカバーが確実に納まるか、下地に干渉しないかを必ず仮合わせでチェックします。
プロのコツ:きれいな円を出すために
- 体の向きは「回す方向」に合わせる:腰から道具を回すイメージで、腕だけで無理に回さない
- 押し圧は一定に:強弱が出ると円が波打つ。浅く均一に刻むのが近道
- ピン跡対策:仕上げ面でピンを使う場合は、マスキングテープを小さく貼ってからピンを刺すと跡が目立ちにくい
- 裏表の判断:クロスやCFは表から、紙やボード紙は裏から切ると表面の毛羽立ちが防げる場合がある。素材のクセで使い分ける
- 半径の再現性:よく使う径(例:φ100、φ125など)はスライダーに印を付けておくと現場スピードが上がる
選び方:現場で失敗しないスペックの見方
- 対応径:最小・最大径の幅が仕事に合っているか(例:10〜150mm、40〜300mmなど)
- 対応素材・厚み:クロス向けか、石こうボード向けかを明確に。兼用は無理をしない
- センター方式:ピン式か、吸盤・ディスク式か。仕上げ面の穴跡許容で選ぶ
- 固定剛性:ロックノブやスライダーのガタが少ないほど、円の精度が安定
- 目盛の見やすさ:現場光でも読み取りやすい刻印・スケールが便利
- 替刃の入手性:コンビニや量販店でも手に入る規格は現場で助かる
- 安全カバー・収納性:持ち運びで刃先保護ができると事故防止に有効
代表的なメーカー(五十音順・抜粋)
以下はいずれも国内で入手性の高いカッター・測定工具メーカーで、円切り関連の工具やコンパスカッターを展開しています。製品仕様は必ず各社の最新情報をご確認ください。
- オルファ(OLFA):替刃式カッターの定番メーカー。紙・フィルム向けのコンパスカッターで知られる
- エヌティー(NT Cutter):高精度なカッター・円切り器具を展開。替刃の選択肢が豊富
- シンワ測定(SHINWA):測定・墨出し系に強く、石こうボード用の丸穴カッターなどもラインナップ
- タジマ(TAJIMA):プロ用ツール総合ブランド。内装・設備現場向けの各種カッティングツールを展開
- SK11(藤原産業)・高儀(EARTH MAN)など:コスパ重視のモデルもあり、DIY〜現場のサブツールとして人気
注:各社の製品名・仕様・対応素材は変更されることがあります。購入前に最新のカタログ・Web情報を確認してください。
石こうボード開口のポイント(専用工具と代替手段)
石こうボード(PB)は通常のコンパスカッターでは割れやすく、切り口が欠けやすい素材です。次の方法が一般的です。
- 石こうボード用丸穴カッター:両刃で一定径に調整し、何周かに分けて切削。粉じんが出るので保護具(メガネ・マスク)と養生必須
- ホールソー:電動ドリルに装着。規定径の刃を選び、下地の位置に注意して一発で丸穴を開ける。貫通直前の「抜け」で欠けやすいので、裏当てや低速回転が有効
- ジグソー+下書き:大径や不定形の開口では、墨出し後にジグソーで丁寧にカットし、ヤスリで面取り
ダウンライトはメーカーごとに推奨開口径が異なるため、必ず器具の取説・製品図を確認しましょう。代表的にはφ75・φ100・φ125・φ150などがよく使われますが、同じ「100クラス」でも微妙に径が違うことがあります。
よくある失敗と対処法
- 円が楕円になる:スライダーが緩い、体の向きが悪い、押し圧が不均一。ロックを再確認し、腰の回転で均一に回す
- エッジが毛羽立つ:刃先の劣化が原因。刃を交換し、浅切りを複数回に分ける
- 中心がズレた:センター出し不足。墨出しを見直し、ピン跡が問題なければ軽く下穴を付けると安定
- ピン跡が目立つ:マスキングテープを介して刺す、裏面から作業する、吸盤式・ディスク式を使う
- シートが伸びる・裂ける:気温が高いと柔らかくなりやすい。下地でしっかり支え、力をかけすぎない
安全・衛生面の注意
- 刃物の取り扱い:軍手ではなく滑りにくい作業用手袋を。替刃交換は平坦な場所で、必ずロックを解除してから
- 粉じん対策:石こうボード切削では保護メガネ・防じんマスクを着用し、周囲の養生を徹底
- 脚立・天井作業:片手作業にならないよう道具を先にセットし、無理な体勢での回転カットは避ける
- 保管:刃先はカバーで保護し、移動時の二次災害を防止
メンテナンスと長持ちのコツ
- 清掃:作業後は粉塵や糊をウエスで拭き取り、可動部にゴミを残さない
- 防錆:金属部は乾いた状態で保管。必要に応じて極少量の防錆剤
- 可動部の点検:スライダーやロックのガタが出たら早めに調整・交換
- 替刃のストック:現場では「切れ味=仕上がり」。替刃は常に余裕をもって携行
代替・補助ツールの使い分け
- ホールソー:スピード優先・厚物の丸穴。電動工具の扱いに慣れている方向け
- 円形テンプレート:量産・同径多数開口で再現性を上げたいときに有効
- ジグソー・トリマー:大径や難素材、抜き形状が円弧を含む場合
- けがきコンパス+カッター:高級材の化粧面では、先にけがいて繊維を切断すると割れを軽減
ミニFAQ(初心者がつまずきやすいポイント)
Q1. 仕上げ面にピン跡を残したくありません。
A. 吸盤式・ディスク式を選ぶ、もしくはマスキングテープ越しにセンターピンを刺します。表に跡を出したくない場合は、裏面から切る方法も検討してください(素材によっては裏返しで径表示が逆になる点に注意)。
Q2. クロスと石こうボード、1本で兼用できますか?
A. 基本は分けるのが無難です。クロス・シート類は汎用コンパスカッター、石こうボードは専用丸穴カッターやホールソーが安全で美しい仕上がりにつながります。
Q3. 目盛どおりに設定したのに、器具が入らない(または隙間が出る)。
A. 器具メーカーの推奨開口径を再確認しましょう。同じ呼び径でも微差があります。仕上がりに被せるカバーサイズ(化粧リング)も踏まえ、必要に応じて0.5〜1.0mm程度の逃げをみることがあります。
Q4. 大きな径(300mm以上)を切るには?
A. 大径対応のサークルカッターや、自作テンプレート(合板に中心穴と半径穴を開けたガイド)+トリマー・ジグソーの組み合わせが現実的です。素材・仕上がり要求に合わせて工具を選定してください。
コスト感と現場の目線
汎用のコンパスカッターは手頃な価格帯のモデルが多く、替刃も安価で入手性が高いのがメリット。石こうボード用丸穴カッターや高精度タイプは価格が上がるものの、作業効率や仕上がりの安定性、粉じんの飛散制御などで差が出ます。現場では「よく使う径と素材」に合わせて1〜2本を常備し、特殊径はホールソーやテンプレートで補完するのが定番です。
まとめ:コンパスカッターを「使い分け」できれば仕上がりは一段上に
コンパスカッターは、単に丸を切るだけの道具ではありません。素材に応じたタイプ選び、中心の出し方、浅切りの重ね方、そして仕上げの配慮——この基本ができているだけで、円切りの品質は見違えるほど安定します。ダウンライトや配管まわりなど、内装では円形開口の出番がとても多いもの。まずは汎用タイプで感覚をつかみ、石こうボードや大径が必要になったら専用工具を加える、というステップアップがおすすめです。道具の特性を理解し、正しく安全に扱えば、誰でも「きれいな丸」を実現できます。