チラーって何?内装工事でよく耳にする「冷水をつくる機械」の基本・現場運用・選び方までやさしく解説
「チラーって何のこと?」「空調とどう違うの?」——はじめて現場に入ると、先輩から当たり前に飛び交う言葉に戸惑いますよね。この記事では、建設・内装の現場でよく使われる現場ワード「チラー」について、仕組みや種類、現場での使い方、選定ポイント、メーカーの例まで、初心者にもわかりやすく丁寧に解説します。読み終えたときに、「現場の会話がスッと入ってくる」「見積・段取りで迷わない」状態になれることを目標にしています。
現場ワード(チラー)
| 読み仮名 | ちらー |
|---|---|
| 英語表記 | chiller |
定義
建築・設備分野での「チラー」は、冷水(場合によっては温水も)をつくって建物内の空調機(AHU・FCUなど)やプロセス機器へ循環させる「熱源機」のことを指します。一般に「冷凍機」「チラーユニット」「冷温水発生機(ヒートポンプチラー)」とも呼ばれ、空気自体を直接冷やすのではなく、「水」を介して冷却(や加熱)を行います。空冷式は屋外機単体で熱を大気に放出し、水冷式は冷却塔とセットで運転します。建物では中央監視(BAS)と連動し、季節や負荷に応じて台数制御や流量制御が行われます。
どんな仕組みで冷やしている?(基本の流れ)
チラーの多くは「冷凍サイクル」で動きます。難しく聞こえますが、ポイントは「冷媒を圧縮→凝縮→膨張→蒸発」させることで冷たさ(または温かさ)をつくり、水へ受け渡すことです。
- 圧縮:コンプレッサで冷媒ガスを圧縮し、高温・高圧にします。
- 凝縮:凝縮器で外気(空冷)や冷却水(水冷)に熱を逃がし、冷媒を液化します。
- 膨張:膨張弁で一気に圧力を下げ、冷媒を低温化します。
- 蒸発:蒸発器で冷媒が周囲(冷水)から熱を奪い、冷水が冷やされます。
この「冷水」を、一次ポンプ・二次ポンプや配管・バルブ・コントローラで各フロアの空調機に配り、室内の熱を回収してまたチラーに戻す——これがビル空調の基本構成です。ヒートポンプ式ならサイクルを切り替え、暖房用の温水もつくれます(冷温水発生機)。
種類と特徴(空冷・水冷・吸収式・ヒートポンプ)
空冷チラー
屋外に設置し、ファンで外気に熱を放出します。冷却塔や冷却水配管が不要で、更新や小~中規模の改修で選ばれることが多い方式です。メリットは設備がシンプルで保守が比較的容易な点。デメリットは夏季の外気温上昇で効率が落ちやすい点と、設置場所(屋上・バルコニーなど)で騒音対策・搬入計画が必要になる点です。
水冷チラー
冷却水を用いて熱を冷却塔に逃がす方式。高負荷・大規模な建物で採用されやすく、外気温の影響を受けにくく高効率を出しやすいのが特徴です。冷却塔・ポンプ・水処理・配管ルート・機械室など、付帯設備と運用管理がしっかり必要になります。大規模更新や新築で設計段階から決め打ちされることが多い方式です。
吸収式冷凍機
冷媒の圧縮に電動コンプレッサを使わず、蒸気や温水(排熱)を熱源にして冷水をつくる方式です。騒音・振動が少ない一方で、設備規模が大きく、薬液(臭化リチウム)の管理・定期メンテが必須。工場の余剰蒸気利用や地域冷暖房など、計画が合えば高いメリットが出ます。
ヒートポンプチラー(冷温水発生機)
冷暖両用で、季節に応じて冷水/温水を発生させます。中規模以下のオフィス・商業などで増えている方式で、ボイラーを無くせるケースもあります。近年はインバータ制御や部分負荷効率の改善が進み、省エネ性が高まっています。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では次のような言い回しがよく使われます。
- チラー(チラーユニット)=冷凍機本体のこと。
- 冷温水発生機=ヒートポンプチラーの呼び名。図面では「RWH(Reversible Water Heater)」などの表記になることも。
- 空冷チラー/水冷チラー=方式の区別。
- 熱源=チラーやボイラーなど、建物に熱(冷熱・温熱)を供給する設備の総称。
- 一次側・二次側=チラーに直結する側(一次)と、各フロアへ配水する側(二次)。
使用例(3つ)
- 「今日の午後、チラー立ち上げて冷水回すから、FCUのエア抜き準備しておいて。」
- 「この区画は週末停電作業があるから、事前にチラー停止と冷却塔の養生を調整しよう。」
- 「空冷チラー屋上設置、揚重は日曜早朝。防振架台とドレン勾配、忘れず確認ね。」
使う場面・工程
- 計画・見積:負荷計算、方式選定(空冷/水冷/ヒートポンプ)、容量と台数の検討。
- 搬入・据付:重量物据付、アンカーボルト、レベリング、防振架台の設置。
- 配管・配線:冷温水配管、冷却水配管(必要時)、ドレン、保温・ラッキング、動力・制御線。
- 水張り・洗浄:配管フラッシング、エア抜き、圧力試験、漏れ試験。
- 試運転・調整:流量調整、ΔT確認、ポンプ制御、台数制御、BAS連携、アラーム確認。
- 引渡し・運用:取扱説明、点検周期、薬注(冷却水系)、季節切替手順の整備。
関連語の解説
- 冷却塔(CT):水冷チラーの相棒。外気に熱を放出する装置。冬期凍結対策や水処理が大切。
- AHU/FCU:空調機(Air Handling Unit/Fan Coil Unit)。チラーの冷水で空気を冷やす(温める)。
- 中央監視(BAS/BEMS):起動・停止・台数制御・温度・流量などを集中管理する仕組み。
- 一次ポンプ/二次ポンプ:チラー直結の循環ポンプと、各系統へ配るポンプ。可変流量制御が省エネの鍵。
- ΔT(デルタティー):往きと戻りの水温差。計画値からずれると効率低下のサイン。
内装工事との関係と注意点(仕上げ目線で押さえるポイント)
内装工事では「空調屋さんの領域」と感じがちですが、仕上げに直結する注意点がいくつもあります。段取りの早い段階で共有しておくと手戻りが激減します。
- 騒音・振動:空冷チラーは特に音が出るため、屋上やバルコニー設置時は防振・遮音に配慮。テナントの営業時間や近隣との調整も必要。
- ドレン計画:機器ドレン・トラップ・勾配・排水経路を事前に確認。天井内での結露防止と点検口の位置もセットで検討。
- 配管保温:冷水系は結露対策が命。保温材の厚み・継手部の処理・端末シールまで徹底。
- スペース確保:機械室・PS・天井内で、点検スペース・バルブ操作・フィルタ交換スペースを確保。内装造作で塞がない。
- 電源・盤位置:動力盤・制御盤や点検通路の干渉に注意。レイアウト変更時は設備と即時共有。
- 養生と水漏れ対策:試運転前後は漏水リスクあり。仕上げ材(木・石・家具)への養生を強化。
選定・見積りの基本(まずはここから)
メーカー選定や見積依頼の前に、次の観点を整理しておくとスムーズです(詳細は設計・専門業者と協議)。
- 必要能力:対象面積・外皮性能・内部発熱・換気量などから熱負荷を算定。余裕度は運用に合わせて設定。
- 冷水/温水条件:代表的には冷水7/12℃や6/12℃など。プロセス用途はさらに低温でグリコール混入の検討も。
- 方式・設置場所:空冷は屋外スペースと騒音対策、水冷は機械室・冷却塔・水処理の可否で判断。
- 電源条件:受電容量、始動電流、台数分割、インバータ有無、法定点検の要否。
- 省エネ性:定格COPだけでなく部分負荷効率(IPLV等)、可変流量、熱回収の有無を確認。
- 環境条件:外気温範囲、塩害・粉塵対策、凍結対策、海風や工場粉塵の影響。
- メンテ性:点検スペース、消耗品、薬注や水処理、保守契約、部品供給体制。
- 更新・搬入計画:クレーン揚重の可否、夜間作業、分割搬入の必要性。
メーカーの代表例(参考)
チラーは国内外に多くの信頼ブランドがあります。分野や容量帯、得意方式が異なるため、用途に合わせた選定が重要です。以下は代表的な例です(順不同)。
- ダイキン(Daikin):空調総合メーカー。空冷・水冷・ヒートポンプなど幅広く展開。
- 三菱重工(MHI Thermal Systems):大型冷凍機やヒートポンプに強み。高効率機のラインアップが豊富。
- 東芝キャリア(Toshiba Carrier):ビル空調分野で実績。制御システム連携に強み。
- 日立(Hitachi):水冷・空冷ともに展開。ビル・工場用途での導入事例多数。
- トレーン(Trane):グローバルで実績のある米国系。大型チラーや高効率機に定評。
- ヨーク(Johnson Controls):世界的な冷凍機ブランド。ターボ・スクリューなど多彩。
- キャリア(Carrier):冷凍空調の老舗。空冷・水冷・制御の総合力。
- オリオン機械(ORION):産業用・プロセス用の小中型チラーで国内実績が多い。
- SMC:生産設備向け温調機(チラー)で広く採用。コンパクト機が豊富。
同じ「チラー」でも、ビル空調向けと産業プロセス向けでは仕様・要求性能が異なります。見積時は用途・温度条件・流量・外気条件などを明確に伝えましょう。
施工・試運転のチェックリスト(現場で役立つ要点)
- 基礎・架台:水平・レベル出し、防振材の設置、アンカー締結トルク管理。
- 配管:フランジ・継手のトルク管理、スリーブ貫通部の防火措置、伸縮継手の向きと芯ズレ。
- 保温:端部のシール、サドル部の結露対策、屋外部のラッキングと耐候性。
- 電気・制御:電源容量・極性・アース、制御配線の誤結線防止、絶縁抵抗の確認。
- 水質・水処理:充水・フラッシング、濁度・pHの確認、グリコール混入時の濃度管理。
- 流量・ΔT:設計値に対する実測確認、バランスバルブ・インバータ設定の最適化。
- 試運転記録:外気温、冷水温、圧力、消費電力、アラーム履歴、写真添付で引渡し資料を残す。
- 安全・法令:フロン類の漏えい点検、回収・充填は有資格者、作業手順書とリスクアセスメントの徹底。
よくあるトラブルと対処の考え方
- 高圧異常:凝縮器側の熱放散不足。空冷ならフィンの目詰まり・ファン不良、水冷なら冷却水流量・水温・冷却塔の不具合を確認。
- 低圧異常:蒸発器側の流量不足・冷媒不足・膨張弁の不調。フィルタ目詰まりやポンプの回転数もチェック。
- 凍結・結露:低温運転や断熱不良が原因。設定温度の見直し、断熱補修、配管ヒータやグリコールの検討。
- 騒音・振動:防振不良、アンバランス、固定ボルトゆるみ。基礎・架台・ファン・コンプレッサ周りを点検。
- 漏水:継手・ガスケット・ドレンの勾配不良。仕上げ前には必ず水張り・養生。漏洩箇所は圧力ゼロで安全確保後に補修。
- 性能不足:負荷想定超過、ΔT低下、流量過多/不足、外気条件悪化。一次・二次のポンプ制御とバルブ開度を再調整。
無理な運転継続は二次災害(機器損傷・仕上げ被害)に直結します。異常停止時はメーカー・保守会社と連携し、原因切り分けを優先してください。
チラーとパッケージエアコンの違い(初心者向けQ&A)
チラーは何を冷やす?
チラーは「水」を冷やして建物に配ります。各室の空調機(AHU・FCU)がその水で空気を冷やす(暖める)仕組みです。一方、パッケージエアコン(PAC)は機器単体で空気を直接冷暖房します。大規模・複数室を一括で効率よく制御するならチラー、小~中規模で室ごとに独立制御したいならPACが選ばれることが多いです。
空冷と水冷はどちらが良い?
建物規模・設置環境・工期・運用体制しだいです。空冷は構成がシンプルで更新がしやすい一方、夏の効率はやや不利。水冷は高効率だが、冷却塔や水処理など運用の手間が増えます。ライフサイクルコスト(初期+運転+保守)で比較しましょう。
冬場はどう運用する?
冷房負荷が少ない時期は、ヒートポンプチラーで暖房用の温水運転に切替えるケースが多いです。外気が極端に低い地域では凍結対策(配管保温・ヒータ・グリコール)を強化し、屋外機や冷却塔のドレン凍結にも注意します。運用切替は中央監視と手順書で管理すると安全です。
法令・資格の基本(概要)
チラーの施工・運用には、法令・資格が関わる場合があります。代表的なものとして、フロン類の管理(漏えい点検・記録・適正回収)、一定規模以上の冷凍設備に関する資格(冷凍機械責任者など)、高所作業・揚重に関わる安全管理などがあります。規模・方式・地域の条例により要件が異なるため、計画段階で必ず確認しましょう。
現場で一目置かれるコツ(プロの所作)
- 図面の「一次」「二次」「ΔT」「流量(L/min)」を瞬時に読み、現場のバルブ・ポンプ表示と結び付けて指示できる。
- 「エア抜き・フラッシング・圧力試験」の段取りを内装側の仕上げ計画と同期し、漏水リスクを抑える。
- 屋上直置き空冷チラーでは、防振・防水・排水・落下物対策まで一枚のチェックリストにまとめる。
- 試運転記録は写真・数値・設定値をセットで残し、トラブル時の初動を早める。
まとめ(今日から「チラー」が怖くなくなる)
チラーは「水で冷やす(暖める)」建物の心臓部=熱源機です。仕組みは冷凍サイクル、方式は空冷・水冷・吸収・ヒートポンプと多様。現場では、据付・配管・保温・電源・制御・試運転・養生の全てがつながっています。この記事のポイントを押さえておけば、「チラー立ち上げ」「ΔTが出ない」「一次側の流量が…」といった会話にも落ち着いて対応できます。迷ったら、設計・メーカー・保守会社と早めに連携し、安全と品質を最優先に。現場で頼られる人ほど、基本を丁寧に積み重ねています。









