現場ワード「欠損補修」を基礎から実務まで解説:意味・材料・手順・失敗しないコツ
「欠損補修って、具体的に何をすること?」——初めて現場や工務店の担当者とやり取りすると、こうした専門用語に戸惑う方は多いです。この記事では、内装現場で職人が日常的に使う現場ワード「欠損補修」を、初心者にもわかりやすく、かつ実務で役立つレベルまで丁寧に解説します。意味や使い方だけでなく、材料の選び方や手順、よくある失敗と対策、検査のポイントまで網羅。読み終えるころには、現場での会話がぐっとスムーズになり、指示や確認も自信を持ってできるようになります。
現場ワード(欠損補修)
| 読み仮名 | けっそんほしゅう |
|---|---|
| 英語表記 | Patch Repair / Defect Repair(コンクリートの場合は Spall Repair とも) |
定義
欠損補修とは、材料の一部が欠ける・欠落する・めくれる・えぐれるなどの「欠損」が生じた箇所を、適切な下地処理と補修材の充填・成形・仕上げによって元の機能と外観に近づける作業全般を指します。内装では、石膏ボードの角欠けやビス穴の拡大、巾木や枠の木部欠け、モルタルの欠落、床材のえぐれなどが典型。仕上げ材だけではなく、必要に応じて下地から補うのがポイントです。
欠損の主な種類と原因
欠損とひと口にいっても、材質や原因により最適な補修手順は変わります。代表的な種類と発生要因は以下の通りです。
- 石膏ボードの欠け・角潰れ:搬入時の衝撃、ビス位置ずれ、開口周りの応力集中、湿気による軟化後の破損など。
- 木部(枠・巾木・造作)の欠け・えぐれ:運搬時の打痕、取り合い干渉、ビス打ちミス、乾燥収縮や欠節落ち。
- モルタル・コンクリートの欠落(スパリング):打設時の充填不足、錆びた鉄筋の膨張、凍害、衝撃。
- 塩ビタイル・長尺シート・フローリングのえぐれ・欠け:搬入機器のキャスター傷、硬い物の落下、端部の収縮。
- 樹脂製部材(巾木・見切り)の欠け:切断面の処理不備、硬化収縮、施工後の打撃。
原因を見極めるのは品質確保の第一歩。同じ欠けに見えても、再発防止策が異なるため、単に埋めて終わりにしない意識が重要です。
材料・工具一覧(現場標準)
主な補修材料
- パテ(内装下地用):石膏ボードの目地・ビス穴・小欠けの充填。粒度や硬化速度が複数あり、上塗り・中塗りで使い分け。
- エポキシパテ/エポキシ樹脂モルタル:高強度が必要な木部・モルタルの欠損、角の成形に有効。機械的強度と接着性に優れる。
- モルタル補修材(速硬タイプ含む):コンクリートやモルタル下地の大きめの欠損に。プライマー併用が基本。
- ウッドパテ/木部補修用充填材:巾木や枠の小欠け・釘穴・打痕の補修に。
- 充填用プライマー/ボンド:下地と補修材の付着力を高める。吸い込み止めの役割も。
- シール材(変成シリコーン等):動きがある取り合い部の細欠損や開口周りの止水・止埃を兼ねるケースに。
- 補強材(メッシュテープ、L型コーナービード):角欠けや繰り返し荷重がかかる部位の耐久性アップに活用。
代表的なメーカー(例)
内装の欠損補修に関わる材料は多岐にわたります。以下は日本国内で広く流通し、プロ現場でも使用されることが多いメーカー例です。
- コニシ株式会社:接着剤・エポキシ系補修材など。内装から構造まで幅広い製品ラインナップ。
- セメダイン株式会社:接着・シーリング材やエポキシ系補修材で実績多数。
- 吉野石膏株式会社:石膏ボードの大手。ボードの目地・下地処理材も展開(ジョイントセメント等)。
- ヤヨイ化学工業株式会社:内装下地処理材(パテ)や壁装関連材でプロの採用が多い。
製品選定では、下地の種類・欠損サイズ・仕上げ(塗装/壁紙/化粧材)・作業時間(硬化時間)を総合的に見て決めます。安全性や臭気の点から、室内では低臭タイプ・F☆☆☆☆相当の製品を選ぶと安心です。
基本工具
- ケレン用:スクレーパー、ワイヤーブラシ、カッター
- 充填・成形用:パテベラ、コテ、コーナーヘラ、スポンジ
- 研磨・整形用:サンドペーパー(番手#80〜#400目安)、サンダー、集じん機
- 養生・周辺保護:マスカー、マスキングテープ、養生シート
- 測定・確認:スケール、直定規、下地探し、レーザーや水準器(平滑度確認)
- 清掃・付着力向上:ウエス、集じん、アルコールや中性洗剤による脱脂(材質適合要確認)
下地別・欠損補修の基本手順(プロの考え方)
手順は「原因の見極め→下地処理→補修材の充填→成形→研磨→仕上げ→再発防止」の流れが基本。下地別の要点を押さえれば、仕上がりの差が大きく縮まります。
石膏ボードの欠損(角欠け・面のえぐれ・ビス周り)
- 1. 調査:欠損の深さと範囲を確認。紙面が膨れている、軟化している場合は浮き部分まで切り回す。
- 2. 下地処理:緩んだ紙や粉化した部分を除去し、粉塵を除く。必要に応じて下地用プライマー。
- 3. 補強:角はメッシュテープやコーナービードで補強すると耐久性が向上。
- 4. 充填:中塗り用の硬めパテやエポキシパテで芯を作り、乾燥後に上塗りパテで平滑に。
- 5. 研磨:周辺面になじむよう段差を消す。過研磨は紙面破れにつながるため控えめに。
- 6. 仕上げ:塗装や壁紙下地の場合はピンホール確認。必要なら追いパテ。
- 7. 再発防止:ビス位置やボード端部の支持状況を確認し、構造的弱点があれば是正。
木部(枠・巾木・笠木等)の欠け
- 1. 調査:含水率や変形の有無を確認。動きがある部位は完全剛性より追従性を重視する。
- 2. 下地処理:割れの奥まで清掃・脱脂。緩い繊維は取り除く。
- 3. 充填:小欠けはウッドパテ、強度が必要ならエポキシパテ。角出しは当て木や治具で直角を保持。
- 4. 成形・研磨:木目を壊しすぎないよう番手を上げながら整える。
- 5. 仕上げ:クリア仕上げなら木目再現(補色)を行い、塗装やシート巻きの場合は下地の平滑性を重視。
- 6. 再発防止:搬入・開口取り合いで干渉する部材を調整。コーナーガード採用も有効。
モルタル・コンクリートの欠落(内装側)
- 1. 調査:鉄筋露出や錆の有無、空洞音の範囲を打診で確認。必要に応じて健全部まで撤去。
- 2. 下地処理:ケレン・清掃・プライマー。鉄筋錆は除去・防錆処理。
- 3. 充填:配合指定の補修モルタルを層状に充填。厚充填時は一体化に留意。
- 4. 成形:直定規でラインを通し、取り合いを通り良く整える。
- 5. 養生:乾燥収縮・ひび割れを避けるため適切に保湿。速硬材でも最小限の養生は行う。
- 6. 仕上げ:塗装・左官仕上げ・ボード下地貼りなど次工程に応じて平滑を確保。
床材(塩ビタイル・長尺シート等)のえぐれ
- 1. 判断:局所補修か張替えかを決定。色柄合わせが困難なら張替え推奨。
- 2. 下地処理:破損周囲を面取りし、密着性を高める。
- 3. 充填:床用パテで段差をなだらかに整える。衝撃部なら強度の高い充填材を併用。
- 4. 仕上げ:部分貼り・溶着・熱圧着など材質に応じた工法で。ジョイントの目違いに注意。
現場での使い方
言い回し・別称
「欠損補修」は、現場では次のような言い回し・近い意味の語で使われます。
- 欠け補修/欠けの補修:小規模な欠けに対して。
- パテ埋め/パテ処理:特にボードや木部の小さな欠損に。
- 角出し補修:角が潰れた場合に角を出し直すこと。
- 充填補修:エポキシやモルタルで「中身を埋める」ニュアンス。
- スパリング補修(コンクリート):剥落・欠落の補修。
使用例(会話・指示の実例)
- 「この開口の角、搬入で潰れたから、メッシュ入れて欠損補修しといて。」
- 「巾木の欠けはエポで角出して、上から塗装で仕上げ。今日中に研磨まで。」
- 「ビス周りの欠損は中塗りで埋めて、最終上塗りはクロス前日に。ピンホールチェック忘れずに。」
使う場面・工程
欠損補修は、下地工事から仕上げ直前まで幅広い工程で発生します。
- 下地ボード施工後:搬入・配線・設備開口での欠け対応。
- 木製建具・枠の取り付け後:取り合いでの打痕・角欠けの補修。
- 左官下地の打診・補修:不陸調整と合わせて行う。
- 仕上げ直前検査(社内検査・施主検査)前:見栄えの最終調整。
関連語
- 下地処理:仕上げ材を美しく長持ちさせるための事前整え作業全般。
- ピンホール:微小な穴のこと。パテ仕上げで問題になりやすい。
- 面取り:角の欠け防止や見た目向上のために角をわずかに落とすこと。
- 不陸:面の凸凹。補修後の研磨で不陸調整が必須。
- コーナービード:角の補強部材。欠損・再欠損を防ぐ。
仕上がり基準と検査ポイント(実務目線)
内装の品質は、仕上げ後に「見えないはずの段差・色むら・ピンホール」が残っているかどうかで決まります。以下は一般的な目安です(現場や仕様で基準は異なります)。
- 視認距離:一般居室は1.5〜2m程度で正面から見て目立たないことを目安に。
- 平滑性:スライドライト(斜め光)で段差・波打ちがないかを確認。必要なら追いパテ。
- 色・質感の整合:部分塗装・補色の場合は、周辺とのなじみ具合に留意。
- 角の直角性:当て木や定規で確認。角出しは直線性も重要。
- 付着性:テストピースや指触で剥離の気配がないか。プライマーの選定が鍵。
よくある失敗と対策
- 乾く前に研磨してしまう:内部が未硬化で後から痩せる。所要硬化時間を守り、寒冷時は余裕を取る。
- 粉塵除去不足:密着不良・剥離の原因。集じん・ウエス拭きを徹底し、必要に応じてプライマー。
- 厚盛り一発仕上げ:乾燥収縮で段差が出る。層状に充填してから上塗りで平滑化。
- 素材不適合:可塑剤移行や反応不良。材質(塩ビ・金属・木・石膏)に適合した材料を選ぶ。
- 周辺の汚染・汚れ:マスキング不足。養生を丁寧に行い、外すタイミングも適切に。
- 再発:根本原因が未解決(干渉・荷重・動き・水分)。原因対策とセットで完結させる。
安全・養生と法令面の留意事項
補修材は化学製品が中心です。安全データシート(SDS)の確認と基本的な保護具の着用は必須です。
- 保護具:手袋、保護メガネ、必要に応じて防塵マスク。
- 換気:溶剤系・反応型樹脂の使用時は特に徹底。居室内は養生区画で管理。
- 可燃物管理:硬化反応熱や溶剤の引火性に注意。保管方法を守る。
- 臭気対策:営業中施設では低臭材・夜間作業・送排気計画でクレーム防止。
- 廃材処理:硬化後の廃棄・容器の分別を適切に。現場ルールに従う。
コストと工期の目安(考え方)
欠損補修の費用・時間は、欠損の大きさ、下地の種類、仕上げ要求、使用材料(速硬型か標準型か)で変わります。一般論としては、
- 小欠け(〜2cm角程度):1カ所あたり数十分〜1時間+乾燥待ち。仕上げ込みで半日内。
- 中程度(手のひらサイズ):下地補強・層状充填が必要。数時間〜1日。
- 大欠損(広範囲・構造的影響):別途見積・計画。下地からの復旧や張替えが現実的な場合も。
「早く終わる材料」ほど単価が上がる傾向があるため、工程全体のクリティカルパスを見て材料と段取りを決めるのがプロの段取りです。
用語辞典(欠損補修まわりでよく出る言葉)
- ケレン:浮き・汚れ・錆などを除去して素地を整える作業。
- プライマー:接着・付着向上の下塗り剤。吸い込みを均一化。
- 追いパテ:一次充填後、痩せやピンホールを埋める仕上げパテ。
- 面なじみ:既存面との連続性・平滑性が取れている状態。
- コーナー養生:角を保護する養生。工事期間中の再欠損防止。
場面別・材料選定のコツ
- すぐに次工程が来る:速硬型や二液エポキシを選ぶ。ただし作業時間(ポットライフ)に注意。
- 後工程が壁紙:上塗り用の細かいパテでピンホールを抑える。吸い込み差を最小化。
- 角の再発が多い:L型コーナービード+硬質パテで角出しし、コーナーガード採用を検討。
- クリア塗装の木部:色合わせ(補色)を前提に、研磨で周囲になじませる。補修材は着色対応品を選ぶ。
- 塩ビ床材:可塑剤移行に強い接着・パテ材を選択。メーカー適合表の確認が安全。
チェックリスト(着手前〜引き渡し)
- 原因把握:干渉・荷重・水分・熱・錆のどれか?対策はセットか?
- 材料適合:下地・仕上げ・臭気・硬化時間・季節の各条件に合っているか。
- 養生計画:周辺汚染ゼロで戻せるか。撤去時に塗膜を巻き込まないか。
- 工程調整:硬化待ちと他業種の動線が噛み合っているか。
- 検査項目:斜光確認・触感・色なじみ・角の直角・付着。写真記録も。
よくある質問(Q&A)
Q. 壁紙の上から欠損を埋めても大丈夫?
A. 原則おすすめしません。壁紙の浮きや可塑剤で密着不良になりやすく、後で輪郭が出ます。壁紙は一旦めくって下地から補修し、再施工が基本です。
Q. 小さな欠けはコーキングで埋めて良い?
A. 動きがある取り合いなら有効ですが、「面」を作る必要がある場所はパテやエポキシで面出しが望ましいです。シール材は研磨性が低く、平滑仕上げには不向きです。
Q. 速硬材を使えばすぐ仕上がる?
A. 速硬でも層状充填や最小限の養生は必要です。厚盛り一発や未硬化研磨は痩せ・割れの原因になります。
Q. どの程度なら張替えの方が早い?
A. 石膏ボードで掌サイズ以上の欠損、床材で柄合わせが困難な場合、木部で構造的な欠けがある場合は、張替え・交換を検討するのが結果的に高品質・低コストになることが多いです。
実務のコツ(プロがやっている小技)
- 段取り勝ち:先に「硬化待ちが必要な場所」から着手し、待ち時間に他箇所を進める。
- 光で確認:作業灯を斜めに当てると段差が浮き出ます。昼と夜で見え方が違う点も意識。
- 角の治具:直角アルミ材を当てて硬化まで固定すると、角出しが速く正確。
- 温度管理:寒冷時は材料を室温に慣らす。硬化遅延・結露による密着不良を抑える。
- 写真記録:ビフォー・アフターを残すと検査・説明・再発防止に役立ちます。
まとめ:欠損補修は「下地から理詰め」で、仕上がりと再発防止を両立
欠損補修は、単に穴を埋める作業ではありません。原因の見極め、材質に応じた材料選定、下地処理、層状充填、成形・研磨、仕上げ、そして再発防止までを一連の流れとして設計するのがプロの段取りです。この記事のポイントを押さえれば、現場での意思疎通がスムーズになり、仕上がりの満足度もぐっと高まります。迷ったときは「下地に合うか」「後工程に合うか」「再発を防げるか」の3点を基準に考えてみてください。
最後に、材料と工法は日々アップデートされています。メーカーの最新カタログやSDS、現場の仕様書を必ず確認し、安全・品質・工期のバランスが取れた最適解を選ぶことが、欠損補修を成功させる最短ルートです。









