現場でよく聞く「竪樋」をやさしく解説:意味・役割・施工の勘所
図面や打合せで「ここ、竪樋が通ります」と言われて「え、何のこと?」と戸惑ったことはありませんか。竪樋は建物の雨仕舞いに欠かせない基本部材ですが、呼び名や取り合いがややこしく、はじめての方はイメージが湧きづらい用語のひとつです。本記事では、建設内装の現場でも頻出する現場ワード「竪樋」を、役割・部材構成・施工のポイント・トラブル対策まで、プロ目線でやさしく丁寧に解説します。読み終える頃には、図面の読解も現場での会話もスムーズになります。
現場ワード(竪樋)
| 読み仮名 | たてどい(縦樋/竪樋/たて樋) |
|---|---|
| 英語表記 | downspout / rainwater downpipe |
定義
竪樋とは、屋根やバルコニーに降った雨水を軒樋(のきどい)や集水器で受け、地上の排水(雨水桝や地中配管)まで縦方向に流す雨どいの一部材です。建物の外壁面や柱に沿って垂直に取り付けられるため「竪(縦)樋」と呼ばれ、英語ではダウンスパウト(downspout)やレインウォーターダウンパイプと表現します。雨水を安全に素早く地面へ導くことで、外壁の汚れや基礎周りの浸食、漏水リスクを防ぐ重要な役割を担います。
基本の仕組みと構成部材
竪樋は単独で機能するのではなく、周辺部材とセットで雨水を流します。全体像を理解すると、取り合いの検討や不具合の切り分けが容易になります。
雨水が流れるルート
屋根面 → 軒樋(屋根の端に水平に通る樋) → 集水器(ます)またはエルボ → 竪樋(垂直に下ろす) → 建物基礎際の曲がり → 地中の雨水配管(雨水桝)
主な部材
- 軒樋(のきどい):屋根の端に沿う水平樋。角樋・半丸樋など形状多数。
- 集水器(じゅうすいき):軒樋の水を竪樋へ落とす受け口。マスとも。
- 竪樋(たてどい):水を下へ運ぶ縦管本体。
- エルボ(曲がり):方向転換用の曲がり部材。45°や90°など。
- 継手・ソケット:管の接続部材。伸縮吸収タイプもある。
- 受け金具・抱き金具:竪樋を外壁に固定する金具。ピッチ管理が重要。
- 吐水口・落ち口:地面近くで雨水を出す口金。地中配管へ接続する場合も。
平屋根(陸屋根)では「ルーフドレン」で屋上の水を集め、壁内や外部へ竪樋(雨水縦管)として落とすパターンもあります。外装だけでなく、内装の天井内・PS(パイプスペース)を通るケースもあるため、内装工事でも取り合いの把握が欠かせません。
材料と形状の種類
竪樋の材質と形状は、建物用途・意匠・コスト・耐久性で選定されます。それぞれの特徴を押さえておくと、提案や納まり検討がスムーズです。
主な材質
- 硬質塩化ビニル(塩ビ):軽量・施工性良好・コストバランスに優れる。住宅や軽量鉄骨系で一般的。熱伸縮への配慮が必要。
- ガルバリウム鋼板:耐食性と強度に優れ、シャープな意匠に合う。金属製のため凍結や飛来物に強め。
- アルミ:軽量で耐食性良好。意匠性重視で採用されることがある。
- 銅:高級感があり、経年で緑青が出る。神社仏閣や意匠性重視の建物に使用。
形状と断面
- 丸樋(丸パイプ):施工が容易で詰まりにくい。呼び径60・75・100など。
- 角樋(角パイプ):意匠性が高く、外壁ラインと揃えやすい。角エルボの取り合いに注意。
- スリムタイプ:意匠配慮で細身の断面。流量計画とのバランスが必要。
サイズ選定と呼び径の考え方
竪樋は「呼び径」でサイズを表します(例:呼び60=外径約60mm)。選定の基本は、屋根やバルコニーの有効排水面積、地域の降雨強度、軒樋と集水器の容量、取り付け間隔です。実務では、設計段階で屋根ブロックを分割し、適切な本数と径を決めます。住宅なら呼び60~75が多く、庇や小面積なら呼び50、集合住宅や大屋根・商業施設なら75~100以上を使うことが一般的です。意匠で細くしたい場合も、流量不足による越水・汚れ・漏水リスクを避けるため、必ず設計(またはメーカーの容量表)に基づき選びましょう。
施工手順の概略(外装・内装の取り合いを含む)
現場状況で前後はありますが、基本手順を把握しておくと養生や先行工事の段取りが組みやすくなります。
- 1. 位置出し:図面の竪樋芯を外壁に移し、下げ振りやレーザーで通りを出す。
- 2. 金具の取り付け:抱き金具のピッチをメーカー基準に合わせて取り付ける(目安1.0~1.5m程度)。下地強度を確認。
- 3. 集水器の設置:軒樋の勾配・高さを確認し、集水器の芯と竪樋芯を合わせる。
- 4. 竪樋の建込み:上から下へ順に差し込み・継手を接続。熱伸縮に配慮し、伸縮継手や遊びを確保。
- 5. 曲がり・吐水部の納まり:基礎や土間との取り合いを確認し、地中の雨水配管へ接続(または吐水口で放流)。
- 6. シール・止水:外壁との貫通部がある場合は適切な防水処理(シーリングは二面接着を基本)。
- 7. 通水確認・清掃:水を流し、漏れ・たまり・振れを確認。切粉やごみを除去。
内装工程との取り合いでは、天井・壁内を通る雨水縦管のために、開口寸法・点検口の位置・化粧カバーの可動域を事前に調整します。仕上げ後に樋の点検ができるよう、清掃口やジョイント位置の計画も重要です。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では「竪樋(たてどい)」のほか、「縦樋」「たて樋」「ダウンスパウト」「雨水縦管(屋内配管の場合)」などと呼ばれます。図面では「RWP(Rain Water Pipe)」と略記される場合もあります。
使用例(3つ)
- 「この外壁、サイディング割付の関係で竪樋の芯を50ミリ外に振れますか?」
- 「集水器の位置が梁と干渉するので、エルボで回してから竪樋を落としましょう。」
- 「竪樋の金具ピッチが飛んでるので追加してください。風で揺れて音が出ています。」
使う場面・工程
外装(板金・サイディング)や防水、足場解体前の最終チェック、内装ではPS内の配管納まりや点検口設置時に頻繁に登場します。雨仕舞い・止水・外壁意匠の三者調整が必要なため、工程間のすり合わせが重要です。
関連語
- 軒樋/集水器/エルボ/継手/抱き金具(バンド)
- ルーフドレン(屋上の雨水受け)/雨水桝/VP・VU管(塩ビ配管規格)
- 呼び径/伸縮継手/吐水口/通気層・胴縁(外壁の取り合い)
仕上げと納まりのコツ(プロの視点)
通り・垂直を最優先
竪樋は細長い部材のため、わずかな芯ズレや反りが目立ちます。下げ振りで垂直を確認し、曲がりの位置は梁・バルコニー手すり・庇の見付けと揃えると見栄えが整います。
金具ピッチと下地
金具ピッチはメーカー基準に従い、強風地域や階高が大きい場合は細かめに設定します。外断熱や通気胴縁の現場では、金具固定のための合板下地を事前に用意。ビスの効きと防水シートの貫通処理を忘れずに。
熱伸縮・異音対策
塩ビ樋は温度差で伸縮します。継手でクリアランスを確保し、直射日光が強い面では伸縮継手やスライドソケットを採用。バンドの締めすぎは異音や割れの原因になります。
貫通・止水の基本
バルコニーやパラペットを貫通する場合は、防水層をまたぐため納まりに注意。スリーブ・防水ブーツ・シーリングの二面接着を守り、可動クリアランスを確保します。
よくある不具合と対処
- 詰まり(落ち葉・砂):集水器のゴミ受け、軒樋の清掃を定期化。必要に応じて落ち葉よけネットを採用。
- 漏れ(継手・クラック):塩ビ用接着剤の塗布不足や勘合不足が原因。既存は補修ソケットやパッキン付継手で対応。
- たわみ・揺れ:金具ピッチ過大や下地不良。増し止め・下地補強で是正。
- 跳ね返り汚れ(吐水口周り):地面へ直接落とす場合は跳ね防止の受け石や雨水桝接続に変更。
- 凍結・破損:寒冷地は保温・金属樋の選択や、たまり水を作らない勾配・接続を徹底。
メンテナンスと点検のポイント
年に1~2回、台風や落葉シーズン後に点検すると長持ちします。
- 目視点検:継手部のひび・変色、金具の緩み、壁との隙間を確認。
- 通水チェック:ホースや少量の水で流れを確認。オーバーフローがあれば詰まりを疑う。
- 清掃:集水器や軒樋のごみを除去。高所作業は足場・脚立の安全確保を最優先。
内装で隠蔽される雨水縦管は、点検口からの目視と清掃口での確認が有効です。異音(コツコツ・パキパキ)は伸縮ストレスのサインのことが多く、固定方法や遊びを見直します。
図面での読み方・打合せの勘所
- 平面図:竪樋の芯位置・本数・雨水桝までの経路を確認。PS内通過なら点検口位置も検討。
- 立面図:軒樋・集水器高さ、バルコニーや庇との干渉、意匠ラインとの整合をチェック。
- 詳細図:貫通部の止水ディテール、金具の固定下地、伸縮継手の位置などを明記。
建築と設備の境界にある部材のため、外装・内装・設備・防水の4者で早めに取り合いを固めるのが成功の近道です。
代表的なメーカーと特徴
採用実績が多く、現場サポートや納まり資料が充実しているメーカーを挙げます。
- 積水化学工業(エスロン雨どい):塩ビ樋の定番ブランド。部材バリエーションが豊富で住宅から中規模建築まで幅広く対応。
- パナソニック ハウジングソリューションズ(パナソニック雨とい):意匠性の高い角樋・スリムタイプなどのラインアップがあり、カラーも多彩。
- タキロンシーアイ(雨どい):樹脂建材の大手。耐候性に配慮した樋製品を展開し、取付部材も揃う。
金属樋や特注色が必要な場合は建築板金ルートでの製作も可能です。いずれも最新のカタログで容量表・金具ピッチ・納まり図を確認のうえ採用しましょう。
内装工事で押さえるべきポイント(雨水縦管の場合)
- 遮音・防振:居室に面する場合は遮音シートやグラスウールで巻き、振動が伝わらない支持方法にする。
- 点検性:清掃口や継手部が点検口から手が届く位置に来るよう配慮。
- 化粧カバー:可動クリアランスと将来の交換性を見込んだ寸法取り。清掃時の取り外しも想定。
- 結露対策:温度差が出る環境では断熱・防露シートを追加。
用語ミニ辞典(関連ワードをまとめて理解)
- 軒樋(のきどい):屋根端部で雨を集める水平樋。竪樋へ水を送る。
- 集水器:軒樋から竪樋へ落とす受け箱状の部材。サイズ・意匠多数。
- 雨水桝:地中で雨水を一時的に溜めたり流したりする箱。泥溜め機能付きも。
- VP/VU管:塩ビ排水管の規格。VPは厚肉、VUは薄肉で雨水用途に多い。
- ルーフドレン:屋上の水を受ける金物。屋上→ドレン→雨水縦管の順で流れる。
- 呼び径:配管の呼称寸法。竪樋の太さ選定に用いる。
チェックリスト(着工前~引渡し)
- 設計:屋根面積に対して本数・径は足りているか。意匠と容量のバランスは適正か。
- 施工:金具ピッチ・下地・防水納まりはメーカー基準内か。垂直・通りは出ているか。
- 検査:通水テストで越水・漏れ・揺れ音はないか。吐水部の跳ね返り対策は十分か。
- 維持管理:点検口・清掃ルートは確保されているか。取扱説明に清掃周期を明記したか。
現場の小ネタ(トラブル未然防止)
- 外壁色と樋色を近似で合わせると、樋が目立たず意匠が引き締まる。
- 曲がりが多い経路は詰まりの原因に。可能なかぎり直線的に。
- 足場解体前に樋の最終確認。後からの直しは高所作業になりコスト増。
- バルコニーの掃き出し前は、樋の位置で手すりや面格子と干渉しないか再確認。
まとめ:竪樋を理解すれば、雨仕舞いと意匠が同時にレベルアップ
竪樋は、雨水を安全に地面へ導く「縁の下の力持ち」です。言葉の意味だけでなく、構成部材・サイズ選定・施工の勘所・内装との取り合いまで理解すると、図面調整も現場対応もぐっとスムーズになります。まずは「通りと金具ピッチ」「伸縮・止水」「点検性」の三点を外さないこと。メーカー資料と現場の実測を合わせれば、不具合を未然に防ぎ、綺麗な仕上がりと長寿命を両立できます。困ったときは、外装・設備・防水・内装の関係者で早めに集まり、取り合いのすり合わせを行いましょう。今日から「竪樋」という現場ワードを自信を持って使っていけるはずです。









