施工現場で必ず役立つ「立面図」完全ガイド—読み方・活用・確認ポイント
図面を前にして「どれが何を示しているのか分からない…」と感じたことはありませんか?内装・建設の現場では、各職種が同じゴールに向かって動くために、図面の言葉を正しく共有することがとても重要です。中でも「立面図」は、壁面の高さ関係や仕上げ、器具の位置決めなど、現場の精度を左右する要の図面。この記事では、初めての方にもわかりやすく、立面図の意味から読み方、活用のコツ、現場での具体的な使いどころまで丁寧に解説します。読み終えるころには、図面を前にして迷わなくなるはずです。
現場ワード(立面図)
読み仮名 | りつめんず(一般的) |
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英語表記 | Elevation(Elevation drawing) |
定義
立面図は、建物や部屋の一つの面(主に壁面)を正面から見た投影図です。平面図が「上から見た図」であるのに対し、立面図は「正面から見た図」。外装では建物の外観(北・南・東・西立面など)を、内装では室内の各壁面(壁面展開図を含む)を表し、開口部(ドア・窓)、天井高さ(CH)、巾木や見切り、設備器具、造作家具、仕上げ材の範囲、高さ寸法などを読み取ります。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では次のような言い回しがよく使われます。
- 北立(きたりつ):北側立面図の略称
- 展開(てんかい):壁面展開図(室内の各壁を立面で描いたもの)の略称
- 内立(ないりつ):内装の立面図の意味で使う場合あり
- 外立(そとりつ):外装(外観)の立面図
- 正面・側面:対象物(造作家具など)に対しての立面の向き
使用例(3つ)
- 「このカウンターの上端Hは、立面図の寸法優先でお願いします。」
- 「展開のA-3を見ると、コンセントの高さが300になっています。」
- 「外立の西立で見切り位置が変わったので、見積りと施工図を更新します。」
使う場面・工程
- 事前打合せ:高さ基準(±0、FL、CL、CH)や仕上げ範囲の合意
- 施工図作成:造作家具やタイル割付、器具位置の確定
- 墨出し:機器・スイッチ・コンセント・見切り・巾木などの高さ実測の基準
- 各工種の取り合い調整:LGS下地、PB、内装仕上げ、電気・設備、建具の納まり
- 検査・引渡し:図面通りに高さ・位置が守られているかの確認
関連語
- 平面図(Plan):上から見た図。通り芯、レイアウト、寸法の基準
- 断面図(Section):切って見た図。天井内・床下や層構成が分かる
- 展開図(Interior elevation):室内の各壁面を立面で連続的に示す図
- 詳細図(Detail):納まりや金物、見切りなどを拡大した図
- 仕上表(Finish schedule):部位ごとの仕上げ仕様一覧
立面図で分かること
立面図からは、次のような情報が読み取れます。
- 高さ関係:床レベル(FL)、天井レベル(CL)、天井高さ(CH)、梁下、見切り位置
- 開口部:建具(D)、サッシ(W)の高さ・幅・位置、枠の納まり
- 仕上げ材の範囲:タイル貼り高さ、腰壁高さ、アクセントクロス範囲など
- 設備器具位置:スイッチ・コンセント・給気口・手すり・ペーパーホルダー等の高さ
- 造作家具:カウンター上端・下端、棚板ピッチ、扉・引出しの割付
- 割付・通り:タイル目地、化粧板ジョイント、グリッド・通り芯との関係
- レベル基準:±0の基準、GL(外構の地盤)、他階との整合
立面図の基本的な読み方(ステップ)
初めて立面図を見るときは、次の順で確認すると迷いません。
- タイトルと縮尺の確認:何の立面か(例:A室 東面展開)、縮尺(1/50、1/20など)
- 基準レベルの把握:±0(多くは1階FL)、各階FL、CL、CHの関係
- 基準線と通り芯:通り芯や中心線、壁の通りの位置を把握
- 寸法線の優先順位:仕上寸法か下地寸法か、明記がなければ現場ルールを確認
- 仕上げの領域:塗装・クロス・タイル・パネルの範囲と端部の見切り
- 器具・金物位置:高さ記載(H=)、ピッチ(@)、数量、中心位置
- 備考・注記:例外や優先指示、別図参照(“詳細-5参照”など)
平面図・断面図・展開図との違いと役割分担
図面は単体では完結せず、相互に補完し合います。
- 平面図:平面的な位置(X・Y方向)を決める
- 立面図(含む展開図):高さ・仕上げ範囲(Z方向)や見え方を決める
- 断面図:内部構成、天井内設備、層厚、構造・設備の干渉を確認
- 詳細図:小さな納まりや役物、見切り・役物・金物の具体的な形状を決める
たとえば「開口の横位置は平面図」「高さは立面図」「下地の納まりは断面図・詳細図」というように、指示の所在を整理して参照しましょう。
内装施工での実践チェックリスト(立面図編)
着工前〜仕上げ前に、以下をチェックしておくと手戻りを防げます。
- 基準の統一:±0はどこか、仕上がり基準(GL/FL/CL/CH)の定義を共有
- 寸法の解釈:仕上寸法優先か下地寸法優先か、厚みの吸収先はどこか
- 取り合い:建具枠、目地・見切り、ボーダー材、巾木と床材の見切り位置
- 割付の整合:タイル・パネルの割付とコンセント・手すり位置の干渉有無
- 造作家具:上端・下端高さ、壁との取合い、耐荷重やビス位置の下地指示
- 設備・電気:スイッチ高さの統一(例:1200mm基準など)、器具中心の基準
- 法規・運用:手すり高さ、サイン高さ、視認性やバリアフリー配慮
- 他図参照:立面の注記にある「詳細図番号」「施工図番号」の確認
よくある勘違い・トラブルと回避策
- 平面図と立面図で寸法が違う
- 回避策:どちらが優先かを事前に確認。一般には「詳細・立面優先」とするケースが多いが、現場ルールに従う。
- 仕上げ厚の見落としで高さが合わない
- 回避策:タイル厚、パネル厚、接着材厚、床仕上げ厚を合算し、仕上がり寸法で逆算。
- 器具位置が割付と干渉
- 回避策:割付図を作成し、器具中心が目地にかからないよう立面で確認。
- ±0の解釈違い
- 回避策:±0がどの階のFLか、内外で基準が違うかを打合せ記録に明記。
- 展開図未確認のまま墨出し
- 回避策:各面の展開番号を確認し、対象面の立面を必ず参照してから位置決め。
立面図に出てくる主な記号・略語(内装の一般例)
表記は会社や案件で差があります。あくまで一般的な例としてご覧ください。
- FL:Finished Level(仕上げ床レベル)
- CL:Ceiling Level(天井レベル)
- CH:Ceiling Height(天井高さ)
- GL:Ground Level(外構などの地盤レベル)
- H/W/D:高さ/幅/奥行
- t:厚み、@:ピッチ、Ø:直径
- D/W:Door/Window(建具・サッシ番号と併記することが多い)
- LGS:軽量鉄骨下地、PB:プラスターボード(石膏ボード)
- EP:塗装(エマルションペイントの略で使われることがある)
- CF:クッションフロア、GL(仕上げ名でのGLと区別必要)
プロジェクト冒頭で「略語一覧」を共有しておくと、誤解が減ります。
縮尺と図面の精度感
立面図の縮尺は用途により変わります。
- 外観立面:1/100〜1/200(全体のプロポーションや高さ関係の把握)
- 室内展開:1/50(標準)、細部確認が必要な箇所は1/20〜1/10
縮尺が小さい図では細部が省略されます。納まりやクリアランスに関わる箇所は、拡大図や詳細図を必ず参照しましょう。
現場コミュニケーションでのフレーズ例
- 「この面の立面番号はB-2ですよね。コンセントはH=300、センター合わせで合ってますか?」
- 「タイルの割付、立面だと端部が半端なので、起点を右に50振りませんか?」
- 「巾木の見切りは建具枠の内側で切る指示に読み取れますが、干渉しそうなので詳細図に起こします。」
- 「CHは2400指定ですが、ダウンライトの器具高を考えると下地は何ミリ下げますか?」
立面図を使った実務シナリオ(内装)
スイッチ・コンセントの高さ決め
展開図でH=(高さ)を確認し、床からの高さで墨出し。家具やカウンターとの取り合いを同時に確認して干渉を回避します。集合スイッチは中心高さ、プレートの並び、左右の優先位置(手前優先など)を注記で確認しましょう。
造作カウンターの上端・下端
立面図のH寸法を優先し、床仕上げ厚・天板厚・金物のクリアランスを逆算。湿式・乾式の違いで最終高さが変わる場合は、仕上がる前に中間確認を行います。
タイル割付と見切り
立面図に割付を記載するか、別紙の割付図を用意。見切り材の位置・厚みを反映し、端部の半端を少なくするよう起点を調整します。器具中心が目地にかからないよう、位置を微調整するのがコツです。
立面図の注記でよく見る表現
- 「仕上げ面基準」:仕上がり面からの寸法。下地ではなく仕上げで合わせる
- 「中心合わせ」:器具や棚を壁の中心、または仕上げ面の中心に合わせる
- 「通り芯より○○」:建物の通り芯からの寸法指示
- 「詳細○○参照」:拡大図・納まり図が別にあるので必ず参照
- 「現合」:現場の実寸に合わせて最終調整(責任範囲を明確に)
初心者が最初に押さえるべき3ポイント
- 立面図は「高さ」と「見え方(仕上げ範囲)」の図だと覚える
- ±0、FL、CL、CHといったレベル記号の関係をまず確認する
- わからないときは「どの図が優先か」「仕上げ基準か下地基準か」を質問する
展開図(壁面展開)と立面図の関係
外観の立面図は建物の4面を示すことが多く、内装では室内の壁一面を1枚ずつ描いた図を「展開図」と呼びます。図面タイトルに「展開」とあっても、扱う情報は立面図と同様に高さ・仕上げ・器具位置など。室名や方位(例:A室・東面)で管理され、連番(A-1、A-2…)で各面が整理されています。
実務で役立つミニ用語集(立面図まわり)
- 見切り:異なる仕上げの境界処理。見た目とメンテ性の両立が大切
- 割付:材料のサイズを基にした配置計画。半端を減らして見栄えを整える
- 納まり:部材同士の取り合い方。水や汚れの逃げ、動きの吸収も考える
- 役物:コーナーや端部用の専用部材。タイルの出隅キャップなど
- 墨出し:図面の寸法を現場に実寸で写す作業。精度の要
チェックの優先度マップ(どれから見る?)
時間がないときは、次の順で確認しましょう。
- 基準(±0・FL・CL・CH)と縮尺
- 仕上げ範囲と見切り位置(色替え・材替えの境界)
- 高さ寸法(器具、カウンター、手すり、タイル貼り上がり)
- 干渉ポイント(開口・柱・梁・設備)
- 備考・参照指示(詳細図番号、施工図番号)
現場での小ワザ・プロの視点
- 仕上がり基準線を壁に描く:CH、見切り、タイル貼り上がりをテープやチョークで可視化
- 「中心」を数で合わせる:器具は高さだけでなく中心位置も統一すると美しく納まる
- 割付は“目線”を意識:視認性の高い場所から割付を起点に。扉を開けたときの一枚目も重要
- 加工代を見込む:板材や金物の実寸は公称寸法とズレることがあるため、立面寸法と現物の差を吸収できる設計に
立面図に関するQ&A
Q1. 立面図がなく平面図しかないときは?
A. 高さ関係が不明な場合は、設計者に展開図の追加を依頼するのが原則。暫定で決める場合でも、±0や既定の基準(例:スイッチH=1100〜1200など現場標準)を合意してから墨を出します。
Q2. 寸法が「仕上げ面基準」か「下地基準」か分からない
A. 注記がない場合、内装では仕上がり面基準のことが多いですが、必ず確認しましょう。下地基準だと仕上げ厚ぶんのズレが発生します。
Q3. 展開図の番号の探し方は?
A. 平面図に記された展開マーク(矢印と記号)から、該当番号(例:A-3)を図面集の展開図ページで探します。タイトルに室名と方向が併記されていることが多いです。
まとめ:立面図を味方にすれば、現場はもっとスムーズに
立面図は、内装現場における“高さと見え方”の辞書です。平面図とセットで読み、基準レベル・仕上げ範囲・器具位置を丁寧に確認するだけで、仕上がりの質と工程の安定性は大きく向上します。分からない箇所は「どの図が優先か」「仕上げ基準か下地基準か」を必ず確認。展開図・詳細図・仕上表まで目を通し、墨出し前に相互チェックを徹底しましょう。今日から立面図のページを開く回数を少し増やすだけで、施工精度と見栄えは確実に変わります。あなたの現場に、安心と納得の仕上がりを。