現場で迷わない「換気扇」入門ガイド—種類・選定・施工・メンテまでプロがやさしく解説
はじめて現場に入ると、「この換気扇はダクト用?」「どの風量を選べばいいの?」など、細かな疑問が次々にわいて不安になりますよね。この記事では、建設内装の現場で日常的に使われる「換気扇」というワードを、初心者にもわかりやすく整理。種類の違い、選び方、設置のコツ、よくあるトラブルまで、現場目線で丁寧にまとめました。読み終える頃には、図面の指示や職人さんの会話がスッと入ってくるはずです。
現場ワード(換気扇)
| 読み仮名 | かんきせん |
|---|---|
| 英語表記 | ventilation fan |
定義
建物内の汚れた空気や湿気、臭気、熱などを屋外へ排出し、必要に応じて新鮮な空気を取り入れるために用いる電動ファン(送排気機器)の総称。住宅・店舗・オフィス・工場など用途に応じて、壁付け・天井埋込・ダクト接続・レンジフード一体型・熱交換(第一種換気)など様々な形態がある。現場では、単に「換気」とも呼ばれ、図面上は機器記号(例:VF、EF、RFなど)や品番で示される。
換気の基本と目的をやさしく整理
換気の目的は「健康・快適・安全」。人が快適に過ごすための二酸化炭素濃度のコントロール、匂い・湿気の排出、ホルムアルデヒド等の化学物質低減、キッチンの油煙排出、浴室のカビ抑制、トイレの臭気対策、機械室の熱排出などが代表です。建物は“排気すると必ずどこかから給気される”が原則。排気用の換気扇と、給気口(レジスターやアンダーカット等)をセットで考えるのがポイントです。
方式は大きく3つ。第一種換気(給気も排気も機械で制御:全熱交換器など)、第二種(給気のみ機械:クリーンルーム等)、第三種(排気のみ機械:住宅やトイレで一般的)。内装現場では第三種と、必要に応じて第一種(全熱交換形)がよく登場します。
性能を見る基本単位は、風量(m³/hまたはm³/min)、静圧(Pa)、消費電力(W)、騒音(dB)。ダクト配管が長い・曲がりが多い現場では、静圧に余裕のある機種選定が重要です。
換気扇の種類と特徴(現場でよく出る形)
用途と設置場所で大別すると、以下が典型です。図面に型式がなくても、場所と目的から当たりを付けられるようになります。
- 壁付けプロペラファン(一般換気扇):壁面に直接貫通して屋外へ排気。構造がシンプルで安価、風量は確保しやすいが、外風の影響や騒音が伝わりやすい。住宅の勝手口や小規模店舗の補助換気に多い。
- パイプ用ファン(小型ダクトファン):φ100/φ150などの丸ダクトに接続。トイレ・洗面・納戸などの局所排気で定番。外壁にはベントキャップを設置。
- 天井埋込形換気扇(ダクト用):天井裏に本体を設置し、外部へダクト排気。見た目がすっきりで遮音性も良い。浴室・脱衣室・トイレなどで採用が多い。多岐分岐で複数室をまとめて排気するタイプもある。
- 浴室換気乾燥暖房機(いわゆる「浴乾」):換気・乾燥・暖房・涼風機能を備えた天井埋込ユニット。衣類乾燥やカビ抑制に有効。ダクト配管・電源容量・下地補強が要件。
- レンジフード(台所用):捕集フードとファンが一体。油煙を効率的に捕集し排気する。整流板付きやスリム型など形状も多様。ダクトは可能な限り短く、曲がりを少なくが鉄則。
- 全熱交換形換気(第一種):給気と排気を機械で制御し、熱と湿気を交換して省エネと快適性を両立。オフィス・高気密住宅・医院・学習塾などで採用が増加。
- 有圧換気扇(産業用):高静圧・大風量を必要とする厨房・工場・倉庫など。ダクト抵抗や外風に負けにくい。
関連規格・法令・基準のポイント(まずは全体像)
法令や基準は用途・地域・建物規模で異なりますが、現場で押さえるべき共通ポイントは次の通りです。
- 24時間換気:住宅等ではシックハウス対策として、居室の0.5回/h程度の換気回数が一般的な目安。設計図書の「換気計画」に従う。
- 局所換気:トイレ・浴室・厨房などは機械換気が標準。におい・湿気・油煙の発生源近くで確実に排気する。
- 表示項目:機器のカタログには通常、定格風量(m³/h)、静圧(Pa)、消費電力(W)、騒音(dB)、適用ダクト径、設置場所(屋内・浴室可否)などが明記される。これらで現場適合性を判断。
- 電気安全:国内流通品は電気用品安全法(PSE)対象が一般的。浴室内などは防湿・防滴性能(IP表記等)の条件を確認。
- 防火・衛生:厨房ダクトの防火区画、貫通部の防火措置、防火ダンパーの要否、グリス対策、外部開口部の位置などは設計・法令・消防の指示に従う。判断に迷ったら必ず設計者へ確認。
個々の数値基準は建物用途で変わるため、現場判断だけで決めず、設計図書・メーカー資料・関係法令を必ず照合してください。
風量の目安と選定の考え方(実務向け)
最初に押さえるのは「必要風量=空間の容積×必要換気回数」。以下は現場で使いやすい目安です(設計指示があればそちらを優先)。
- トイレ(個室):必要換気回数の目安は5〜10回/h。例)1畳・天高2.4m(約4m³)なら20〜40m³/hが目安。余裕を見て50〜100m³/hクラスの小型ファンを選ぶことが多い。
- 浴室:湿気排出を優先し、100〜200m³/h程度が一般的。浴乾はさらに大きめで、ダクト抵抗を考慮して機種を選定。
- 洗面・脱衣室:50〜120m³/h程度。浴室とのバランスで決める。
- キッチン(レンジフード):捕集性能重視で、400〜700m³/h級が一般的な住宅用のレンジフード。店舗厨房は設計計算に従う。
- 居室の24時間換気:室容積×0.5回/hが基準目安。例)12畳(約20m²)×天高2.4m(容積約48m³)→24m³/h。
ダクト配管が長い・曲がりが多い・外部フードの抵抗が大きい場合、カタログの「静圧-風量特性曲線」を必ず確認。設計静圧点で必要風量を満たす機種にしましょう。ダクト径はφ100/φ150が住宅でよく、径を細くすると抵抗が急増します。曲がりはできるだけ減らし、Rを大きく、直管を長めに取るのがコツです。
設置・施工のポイント(内装職人の実務ノウハウ)
換気扇の仕上がりは、下地・配管・気密・納まりの積み重ねです。代表的なチェックポイントを流れで紹介します。
- 墨出し・開口:本体外形+クリアランス、ダクト径、点検スペースを確認。木軸壁は間柱位置、軽天は補強ランナー、RCはコア抜き計画を事前にすり合わせ。
- 下地補強:レンジフードや浴乾は重量があるため、合板下地や吊りボルト・ブレースを確保。落下防止ワイヤで二重化する現場も多い。
- ダクト配管:なるべく短く・曲がり少なく・潰さない。浴室系は結露水の戻りを防ぐため、屋外側に向けてわずかな下り勾配とし、必要に応じてドレン対策を実施。ジョイントはアルミテープで確実に気密処理。
- 貫通部:防火区画・界壁の貫通は、仕様書どおりの防火措置(モルタル充填、耐火パテ、ロックウール等)を実施。躯体損傷を避け、配筋・配管干渉にも注意。
- 外部フード(ベントキャップ):風雨侵入・逆流対策のあるタイプを選定。海浜・工業地帯はステンレスや耐食仕様を検討。防虫網は目詰まりに注意。
- 電気配線:専用回路・アースの要否、スイッチ種別(タイマー・人感・連動)を電気工と共有。浴室は防湿仕様、ジョイントは天井内で適切に処理。
- シーリング・気密:本体周囲や外壁貫通部は、変成シリコン等で止水・気密を確保。室内側の漏気は性能低下と結露の原因。
- 試運転・風量確認:運転音、吸い込み、逆止弁の動作、外部フードの排気を目視。紙片テスト等の簡易確認でも、異常があれば配管や接続を再点検。
現場での使い方
「換気扇」は現場の会話で多義的に使われるため、文脈で種類や位置を明確にするのがコツです。
言い回し・別称の例:
- パイプファン(トイレ・洗面などの小型ダクトファン)
- 天埋(てんうめ:天井埋込形換気扇の略)
- レンジフード(台所用フード一体機)
- 有圧(有圧換気扇)/ダクトファン(ダクト用送排気機)
- 全熱(全熱交換形)/24時間換気(常時換気システム)
使用例(3つ):
- 「このトイレ、パイプファンはφ100でOK? 風量は50m³/h以上で。」
- 「浴乾つけるから、ダクトは外へ一直線で曲がり少なめ、アルミテープでしっかり気密しといて。」
- 「レンジフードはアース必須ね。ダクト径は150指定だから、途中で絞らないように。」
使う場面・工程:
- 躯体・下地:開口位置決め、補強、貫通計画、防火・気密検討
- 設備配管:ダクト敷設、ベントキャップ取り付け、気密・断熱処理
- 電気:回路・スイッチ・連動機器の配線、アース、動作確認
- 機器付け:本体・レンジフード・化粧パネルの取付と仕上
- 調整・引渡し:試運転、取説説明、フィルター清掃方法の案内
関連語:
- 給気口(レジスター)、逆止弁(チャッキーダンパー)、静圧、風量、S-P曲線
- スパイラルダクト、フレキダクト、アルミテープ、ベントキャップ
- 防火ダンパー、区画貫通、24時間換気、全熱交換、ロスナイ(全熱換気の代表的商品名)
メンテナンスとトラブルシュート
換気扇は「付けたら終わり」ではありません。性能維持のための清掃・点検が不可欠です。引渡し時に施主・テナントへ説明できると信頼されます。
- 台所:フィルター・整流板・油受けの定期清掃。シロッコファンは取扱説明書に従い着脱して洗浄。油だまりは発煙・異音の原因。
- 浴室・洗面:ルーバー・フィルターのホコリ除去。湿気負荷が高いので、定期的に連続運転で乾燥させるとカビ抑制に有効。
- トイレ:紙粉やホコリで目詰まりしやすい。月一の軽清掃推奨。
- 外部フード:防虫網の目詰まり、鳥害、風雪による変形を点検。高所作業は安全確保を最優先。
よくある不具合と原因・対策:
- 吸いが弱い:フィルター詰まり/ダクト潰れ/曲がり過多/外部フードの網詰まり。→清掃・配管見直し・静圧の高い機種へ更新。
- 異音・振動:ファンの汚れ偏り/固定の緩み/ダクト共振。→清掃・締め直し・防振見直し。
- 逆流・臭い戻り:逆止弁不良/強風で逆圧/他室と連動排気のバランス不良。→逆止弁交換・電動シャッター採用・給気計画の調整。
- 結露水の滴下:ダクト断熱不足/勾配不良。→断熱スリーブ追加・勾配修正・ドレン対策。
安全上の注意・現場で起きがちなミス
- ガス機器との同時使用:強い排気で室内が過度に負圧になると、不完全燃焼・逆流のリスク。給気を確保し、機器の注意事項に従う。
- レンジフードの下地不足:ビスが石こうボード止めのままにならないよう、合板下地・アンカーを確保。落下防止ワイヤで安全性向上。
- ダクト径の縮小:途中でφ150→φ100などに落とすと性能低下・騒音増の原因。カタログ指定径を厳守。
- 曲がり過多・フレキ潰れ:見えない天井裏で性能が大きく落ちる典型。曲げRを大きく、フレキは引っ張り過ぎず真円を保つ。
- 浴室で非対応機種:防湿・防滴に非対応の換気扇を浴室内に設置しない。感電・故障の危険。
- 貫通部の防火未処理:界壁・区画を抜くダクトは防火措置が必要な場合がある。設計・監督に必ず確認。
- 気密・止水の甘さ:外壁貫通部のシール不良は雨漏り・結露の原因。外装側・室内側とも丁寧に処理。
代表的メーカーと特徴(順不同・一例)
- 三菱電機:住宅・業務用換気のラインアップが広く、全熱交換形(ロスナイ)で知られる。天井埋込・パイプファンも定番。
- パナソニック:住宅向け換気・レンジフードの展開が豊富。低騒音・省エネ機種が充実。
- 東芝(東芝ライテック等):住宅・小規模業務向けの換気扇・レンジフードを取り扱い。ベーシック機種が揃う。
- マックス:浴室換気乾燥暖房機で広く採用。集合住宅・戸建て向けに強み。
- ダイキン:全熱交換・換気ユニットなど、空調と組み合わせた換気ソリューションを展開。
- 富士工業(FUJIOH):レンジフード専門メーカーとして、住宅・店舗向けに多彩なフードをラインアップ。
同等性能でも、寸法・ダクト接続位置・メンテ性が異なるため、更新や他社代替時は図面・カタログで納まりを必ず確認しましょう。
用語ミニ辞典(現場でよく出るキーワード)
- 静圧(Pa):ダクトなどの抵抗に打ち勝つ力。静圧が高いほど配管条件が厳しくても風量を維持しやすい。
- 風量(m³/h):1時間あたりに排出・給気できる空気の量。必要風量の見積りが選定の基本。
- 逆止弁(ダンパー):停止時の逆流を防ぐ弁。風圧式(フラップ)と電動式がある。
- ベントキャップ:外壁側の排気・給気フード。防雨・防虫・逆風対策を兼ねる。
- 24時間換気:常時低風量で運転し、室内空気を入れ替える仕組み。第一種(給排気)・第三種(排気)などがある。
よくある質問(Q&A)
Q1. トイレがなかなか消臭されません。何を確認すればいい?
A. フィルターやルーバーの目詰まり、外部フードの網詰まり、ダクトの潰れ・曲がり過多、給気不足(ドアのアンダーカットが小さい等)を順に確認。必要に応じて風量の大きい機種や静圧余裕のある機種に更新します。
Q2. レンジフードの騒音が大きいです。改善できますか?
A. フィルター・ファンの油汚れ清掃、ダクトの曲がり削減、径の拡大、外部フードの低抵抗品への交換が効きます。機器更新時は静圧特性が良い機種を選ぶと効果的です。
Q3. 浴室換気乾燥機の水滴が落ちます。原因は?
A. ダクト内結露が多いケース。断熱不足や勾配不良で水が本体側に戻っています。断熱スリーブの追加、屋外側への下り勾配付け、ドレン処理で改善します。
Q4. 強風の日に外から冷気やにおいが入ってきます。
A. 風圧で逆流している可能性。逆止弁の動作確認、電動シャッター付きへの変更、外部フードの見直し、給気と排気のバランス調整が有効です。
Q5. 24時間換気は電気代が心配です。止めてもいい?
A. 止めると空気環境や結露・カビに悪影響。最近の機種は省エネ性が高く、常時小風量なら消費電力は小さいことが多いです。止めるのではなく、適切な風量設定とフィルター清掃で運用しましょう。
簡単な風量計算の例(現場でサッと使える)
例:トイレ0.75畳(約1.24m×1.65m)・天井高2.4m→容積約4.9m³。目標換気回数8回/hなら、必要風量は4.9×8=約39m³/h。配管抵抗や余裕をみて、50〜100m³/hクラスを選ぶのが現実的。外部フードが抵抗大・曲がり2回なら、静圧曲線で必要点を満たすかを確認します。
チェックリスト(着工前〜引渡し)
- 図面・機器表で設置場所・機種・ダクト径・電源・アースの要否を確認
- 開口・補強・貫通部の防火・気密仕様を共有
- ダクトのルート検討:短く・曲がり少なく・潰さない
- 外部フードの仕様・取り付け高さ・向き・周辺障害を確認
- 試運転:風量感、逆止弁、騒音、外部フードの排気を目視・聴取
- 施主・テナントへ清掃・フィルター点検方法と運用の説明
まとめ:換気扇は「選定×配管×気密」で性能が決まる
換気扇は、ただ取り付ければ良い機器ではありません。目的に合った種類選定、必要風量と静圧の見極め、ダクト経路の最適化、貫通部の防火・気密、適切な電気接続、そして引渡し後のメンテナンス説明までがワンセット。ここを丁寧に押さえれば、「カタログどおりの性能が出ない」というよくある悩みは大きく減らせます。現場で迷ったら、まずは用途・容積・配管条件を整理し、設計図書とメーカー資料で裏取り。確かな一手が打てるようになります。
この記事が、現場で飛び交う「換気扇」というワードのモヤモヤを晴らす助けになれば幸いです。明日の打合せや施工で、さっそく役立ててください。









