石膏ボードのすべてがわかる:現場で通用する基礎知識・種類・使い方・施工のコツ
「石膏ボードって何に使うの?」「PBって言われたけど同じもの?」——内装工事の会話に急に登場する現場ワードに戸惑うこと、ありますよね。本記事では、内装の基本中の基本である「石膏ボード」を、初めての方にもわかりやすく、現場でそのまま通用するレベルまで丁寧に解説します。種類やサイズ、使い分け、よくある言い回し、施工の注意点まで、これ一つで疑問が解消できる実践ガイドです。
現場ワード(キーワード)
読み仮名 | せっこうボード |
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英語表記 | Gypsum Board / Plasterboard(Drywall) |
定義
石膏ボードは、石膏(硫酸カルシウム二水和物)を芯材とし、両面を強化紙でサンドイッチした板状の建材。室内の壁・天井の下地として最も一般的に使われ、耐火性・寸法安定性に優れ、施工性(切断・加工・ビス留め)が高いのが特徴です。仕上げ材(クロス・塗装・化粧板など)を受けるベースとして用いられます。
石膏ボードの基礎知識
何でできている?(素材と性質)
芯材は天然石膏や副産石膏(発電所の排煙脱硫で得られるものなど)を主原料に、水や添加剤を混ぜて成形したもの。両面の原紙が表面強度を高め、ビスの保持力や曲げ強度に寄与します。石膏自体は結晶水を含むため、加熱時に水分が放出され、その蒸発潜熱で温度上昇を抑える性質があり、耐火性が高いことが知られています。
どこに使う?(用途)
主な用途は室内の壁・天井下地。住宅・オフィス・商業施設・ホテル・病院などほぼすべての内装で採用されます。直接雨が当たる場所や長時間の高湿環境(屋外、浴室内面など)には一般品は不適合で、必要に応じて耐水タイプや別材(ケイカル板等)を選びます。構造耐力部材ではなく「仕上げ下地」です。
規格サイズ・厚みと現場呼称
現場では寸法を記号的に呼ぶことが多いです。長手910mm×短手1820mmを基準に、以下のような呼び名が浸透しています(地域や会社で呼称に差があります)。
- 910×1820mm(3×6):サブロク(最も流通量が多い)
- 910×2420mm(3×8):サンパチ
- 910×2730mm(3×9):サンキュウ
- 910×3030mm(3×10):サントウ
厚みは9.5mm、12.5mm、15mmなどが一般的。壁は12.5mmが標準的で、天井は9.5mmまたは12.5mm、耐火・遮音仕様では15mmや二重貼りなど設計に応じて使い分けます。12.5mmのサブロク1枚の重量は目安で16〜17kg程度、取り回しと安全に配慮が必要です。
主な種類と見分け方(用途別)
石膏ボードは用途に合わせて複数のタイプがあります。製品の色味や印字で見分けることが多いですが、色はメーカーにより違うため、必ず製品名と仕様書で確認してください。
- 標準(一般)ボード:内装下地の定番。コスト・入手性・施工性のバランスが良い。
- 耐火(強化)ボード:耐火性能を高めたタイプ。厚み増や添加材で高温時の強度を確保。耐火間仕切・階段室周り等に。
- 耐水(防湿)ボード:水回りの洗面・トイレ・キッチン周りなどに採用。表紙が撥水性を持つなど湿気に配慮。
- 高密度・遮音ボード:質量を増やして遮音性能を高めたタイプ。シアタールームやホテル等の間仕切に。
- 化粧石膏ボード:表面にビニルや紙、木目などの化粧仕上げ済み。現場での仕上げ工程を短縮。
- 曲げ用ボード:薄物やスリット加工で曲面施工が可能。
法律上の「不燃・準不燃・難燃」の区分は製品ごとに認定が異なります。要求性能(不燃材料認定が必要か等)を設計図書・仕様書で確認のうえ、該当する製品を選定しましょう。
現場での使い方
言い回し・別称
石膏ボードは現場で「PB(プラスターボードの略)」「ボード」と省略されます。メーカーの代表的ブランド名で呼ばれることもあります(例:タイガー=吉野石膏のブランド名)。ただしブランド名と一般名の混用は誤発注の原因になるため、正式名称や厚み・サイズ・種類(例:PB 12.5 サブロク 標準)が伝わるように指示するのが安心です。
使用例(3つ)
- 例1:PB12.5のサブロクを50枚、明日一便で搬入して。トイレは防湿に切り替えで。
(標準と耐水の使い分け、枚数・サイズ・搬入タイミングの指示) - 例2:階段室側は強化PB15を二重貼りで。ビスピッチは指示通りで頼む。
(耐火要求に応じた厚み・二重貼り・留付け条件の確認) - 例3:天井はPB9.5、ジョイントはスタッドから外してずらして。周囲はコーナービード入れといて。
(天井の薄物採用、目地の千鳥配置、出隅の納まり指示)
使う場面・工程
施工は大きく「下地組み→ボード貼り→ジョイント処理→仕上げ」の流れです。下地は軽量鉄骨(LGS:スタッド・ランナー)または木下地(胴縁)を組み、必要に応じて断熱材や遮音材を充填。ボードは寸法に合わせてカッターで切断し、ビスで留め付けます。目地はジョイントテープ+パテで処理し、乾燥後に研磨、最終仕上げ(クロス貼りや塗装)に進みます。躯体に直接貼るGL工法(接着工法)を採用する場合もあります。
関連語
- LGS(軽量鉄骨):間仕切下地のスタッド・ランナー。
- ボードビス(ドライウォールスクリュー):木用(粗目)/LGS用(細目やドリル付)で使い分け。
- GL工法・GLボンド:躯体にボードを接着する工法とその接着材。
- ジョイントテープ・パテ:目地処理に用いる副資材。紙テープやファイバーテープ。
- コーナービード:出隅の保護材。塗装・クロス下地用がある。
- ケイカル板・窯業系板:高湿・高耐水を要する部位で選択される別材。
施工のポイント(失敗しないコツ)
切断・加工の基本
直線切断は表紙側にカッターで筋を入れて割る「スナップ切り」が基本。割った後、裏紙を切り離し、切断面はボードカンナで軽く面取りすると角欠けやクラック防止に有効です。コンセントやダウンライトなどの開口は、型紙で位置を写し、ジグソー・ホールソー・カッターで加工。配線・配管の位置は事前確認が必須です。
取り付け(ビス留め)
ビスは下地に対して直角に打ち、頭は紙面に軽く食い込む程度に。めり込みすぎは保持力低下・パテ不良の原因、出っ張りは仕上げ不良の原因です。一般的な目安として、壁はビスピッチ200mm程度、天井は150mm程度、端部からの離れは10〜15mm程度を確保します(実際は製品・仕様書・監理指示に従ってください)。長手目地(テーパー面)は工場面同士を合わせ、直交方向は千鳥にずらすとクラックリスクが低減します。
ジョイント処理と仕上げ
目地は「テープ入れ+下塗り→中塗り→上塗り(ならし)」の3工程が基本。テーパー(AK)には紙テープが収まりやすく、四周サネなしのカット面どうし(スクエアエッジ)は面取りをしてからテープ+パテで膨らみを抑えます。パテ乾燥後はサンディングで平滑に。出隅はコーナービードで保護し、仕上げ材(クロス・塗装・化粧材)の指示に合わせて下地精度を整えます。
注意点・やりがちなNG
・湿気・水濡れ:標準ボードは水に弱いです。水回りは耐水タイプ、浴室内面など連続的に濡れる部位は適材(防水下地やケイカル板等)を選定。搬入・保管も雨濡れ厳禁で、平積み・養生を徹底します。
・屋外使用NG:直射日光・雨掛かり環境は基本不可。
・荷重集中:石膏ボードは下地ではあっても構造材ではありません。棚・TV・手すりなど重量物は、必ず下地(スタッド・桟)にビスを効かせるか、アンカー等の計画を事前に。
・不適切なビス:木下地に細目ビス、LGSに粗目ビスなどの取り違いは保持力低下。必ず用途に適したビスを。
・目地の通し:隅や開口周りで目地を一直線に通すとクラックの原因。千鳥配置・補強テープでリスク低減。
・粉じん・安全:切断・研磨時は粉じんが出ます。保護具(マスク・メガネ・手袋)を着用し、持ち運びは二人作業で腰と指を守りましょう。
メーカーと選び方の目安
国内で広く流通している代表的なメーカーには、吉野石膏とチヨダウーテがあります。いずれも内装現場での実績が多く、標準・耐火・耐水・遮音・化粧など用途別に幅広いラインナップを展開しています。物件の仕様(不燃・準不燃などの建材認定、厚み、遮音・耐火性能)と、仕上げ材(クロス・塗装・化粧)との相性、供給体制(在庫・納期)を総合して選定します。
代表メーカー(概要)
- 吉野石膏:国内最大手の石膏ボードメーカー。一般下地から耐火・遮音・化粧まで総合的な製品群と技術資料が充実。
- チヨダウーテ:住宅・非住宅向けに幅広いボードを製造。機能系(防湿・ホルムアルデヒド吸着など)もラインナップ。
同一仕様でもメーカーによって色味や印字、テーパー形状、対応副資材(テープ・パテ)が微妙に異なります。現場は原則「メーカー統一」を意識し、途中切替の際は監理者承認を得て、試験施工・サンプル確認を行うとトラブルを防げます。
石膏ボードの機能別の考え方(選定のコツ)
・耐火:防火区画や避難経路周りは図面に性能指定(例:1時間耐火等)が記載されます。ボードの種類・厚み・枚数、下地(LGSの厚み・ピッチ)、ジョイント処理や仕上げ材まで含めた「仕様セット」で性能が決まるため、代替や省略は不可。
・遮音:質量則により重いほど音を通しにくい傾向。高密度PB+二重貼り+中空層+充填材(グラスウール等)の組み合わせが定番。目地の気密とコンセントボックスの背当てに注意。
・耐湿:洗面・トイレ・キッチンのバックガード等は耐水PBや化粧板で。防カビ塗料や防水シートを併用する場合も。
・仕上げ適合性:クロスや塗装の仕上げグレードに応じて下地パテの仕様(レベル)を上げ、光沢仕上げや横からの強い照明では入念に平滑を確保。
GL工法とLGS工法の違い(ざっくり理解)
・GL工法:RCやブロックの躯体にGLボンド(接着材)で直接PBを点付け。空間ロスが少なく、工期短縮向き。ただし配管・配線の通りや調整範囲、将来の改修性に制約がある。
・LGS工法:床・天井にランナー、柱状のスタッドで下地を組み、PBをビス留め。寸法精度が出しやすく、断熱・遮音・設備配管の取り回しに有利。非住宅・住宅ともに最も一般的。
内装仕上げとの取り合い
・クロス仕上げ:テーパー目地は紙テープ必須。パテは3工程を基本に、最終で番手を上げて研磨し粉じん除去。
・塗装仕上げ:光の反射で下地不陸が目立ちやすい。広い面は当て照明で確認。
・タイル直貼り:一般PBにタイル直貼りは不可が原則。合板下地や耐水PB+適切な下地処理・接着剤を選定。
・化粧PB:見切り材・入隅出隅の納まりを事前計画。化粧面のキズ対策として搬入から養生まで徹底。
保管・搬入・養生の実務ポイント
・保管は屋内で平積み、底面に桟木を入れて通気・水平確保。
・角欠け防止のため、持ち運びは立て持ちでなく「2人で平持ち」。
・現場搬入時はルートの曲がり・エレベーター寸法・床荷重を事前確認。
・床・壁の養生を先行し、特に化粧材やサッシ周りは養生材を厚めに。
現場あるあるQ&A(よくある質問)
Q. PBと石膏ボードは同じ?
A. ほぼ同義です。PBはプラスターボードの略称で、現場では石膏ボードのことをPBと呼ぶのが一般的です。
Q. 標準ボードは不燃?
A. 石膏は耐火性に優れますが、建築基準法上の「不燃・準不燃」の区分は製品ごとの認定で決まります。用途に必要な認定を持つ製品を選んでください。
Q. 浴室の壁に標準PBは使える?
A. 連続的に濡れる浴室内面は標準PBは不適です。メーカーの推奨する耐水・防水下地や別材(ケイカル板等)を採用してください。
Q. 重い棚を付けたい場合は?
A. 石膏ボード単体では保持できません。事前に下地(スタッド・合板補強)を仕込むか、適切なアンカー・金物計画を行います。
Q. ビスの種類はどう選ぶ?
A. 木下地には粗目ネジ(コース)、LGSには細目やドリル付のドライウォールスクリューを使用。長さはボード厚+下地への食い込みを確保できるものを選びます。
トラブル防止のチェックリスト
- 発注前:厚み・サイズ・種類(標準/耐火/耐水/遮音)・メーカーの指示を明確化。
- 搬入:数量・ロット・仕様印字をその場で確認。濡れ・破損は即時交換依頼。
- 施工:ビスピッチ・端部離れ・千鳥配置・開口補強・テープ種別の順守。
- 仕上げ:パテ乾燥時間の確保、粉じん除去、当て照明での不陸チェック。
リフォーム・DIYでの注意
DIYでも扱いやすい材料ですが、重量物であること、粉じんが出ること、電気・配管の隠蔽リスクがあることに注意。下地探し(センサー)、保護具(マスク・手袋・ゴーグル)、2人作業を基本に。既存仕上げを撤去する場合はアスベスト含有建材の可能性がゼロでない年代の建物もあるため、事前調査が必須です。
石膏ボードと他材の使い分け(ざっくり比較の考え方)
・石膏ボード:内装下地の汎用材。耐火・遮音・コストバランスに優れる。
・合板:ビスの保持力が高く、造作や重量物取り付けに有利。耐火性はPBに劣るため適材適所。
・ケイカル板:耐水・寸法安定性に優れる。浴室周り・外部準用部位などに。
・せっこうプラスター塗り:左官仕上げ。連続面での意匠・調湿性に優れるが施工手間は増える。
まとめ:現場で困らないためのキモ
石膏ボードは「室内下地の標準解」。現場では「PB12.5サブロク」「防湿」「強化」「二重貼り」などの短い言い回しで仕様が飛び交います。迷ったら、以下の順で確認しましょう。
1)使う場所(室・壁/天井・水回りか)
2)必要性能(耐火・遮音・不燃認定)
3)厚み・サイズ(施工性・重量・納まり)
4)下地・ビス・ジョイント(施工条件)
5)仕上げ材との相性(下地レベル)
これらを押さえるだけで、発注ミス・やり直し・仕上がり不良の多くを防げます。本記事を現場の辞書代わりに、石膏ボードを味方につけて、段取りよく・きれいに仕上げていきましょう。