ラインポンプ完全ガイド|意味・仕組み・段取り・注意点を内装現場の言葉で解説
「ラインポンプって何?ブーム車とはどう違う?内装の改修工事でも使うの?」——そんな疑問に、現場経験とリサーチをもとにやさしくお答えします。この記事では、ラインポンプの基本から、実際の段取り、声掛けの仕方、注意点までを初心者にもわかる言葉で整理。読んだその日から現場で使える実践的な知識だけを詰め込みました。狭い建物内でも安全・効率的に打設を進めたい方の不安を、しっかり解消します。
現場ワード(キーワード)
読み仮名 | らいんぽんぷ |
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英語表記 | line pump (concrete pump) |
定義
ラインポンプとは、配管(スチールパイプやゴムホース=ライン)を敷設し、その中をポンプで生コンクリートやモルタルを圧送して打設地点まで送る機械・工法の総称です。ブーム(折りたたみ式のアーム)を持つ「ブーム車」と違い、ライン(配管)を床や壁、階段などに沿わせて延ばして使います。狭小地や建物内、地下階など、ミキサー車やブームが入れない場所での打設に強みがあり、内装工事の土間打ちや改修現場のコンクリート補修・基礎増設などで頻繁に登場します。
ラインポンプの基礎知識
どんな機械?
ラインポンプは、トレーラーに載せて牽引するタイプや小型トラックに積まれたタイプが一般的です。エンジンまたは電動モーターでポンプを駆動し、配管の中を材料が押し出されていきます。ライン自体は鋼管(B管など)とゴムホースを組み合わせ、クランプで連結。打設の最後は柔らかく取り回しのよいゴムホースで位置調整しながら流し込みます。
仕組みと主な構成
圧送方式には数種類ありますが、基本の構造・部材は共通です。
- ポンプユニット:材料を押し出す心臓部(ピストン式やスクイズ式など)
- ホッパー:ミキサー車から受けた材料を一時的にためる場所
- アジテータ(撹拌):材料をホッパー内で均一に保ち、吸い込みを安定させる
- 配管(ライン):鋼管(例:2.5B=約65A、3B=約80A など)とゴムホース
- クランプ・ガスケット:配管同士の連結部材(漏れ・抜け防止の要)
- ゲートバルブ・清掃口:流量調整や洗浄作業に使用
- 先行モルタル:配管内の潤滑・詰まり防止のために最初に流すモルタル
主な方式(ざっくり)
現場で出会うラインポンプは概ね次の方式に分かれます。ピストン式は生コンの圧送に幅広く用いられ、スクイズ式はモルタルやグラウトなど粘性の高い材料に用いられることが多い、という理解で差し支えありません(機種により用途適合は異なるため、実際はメーカー仕様を確認)。
- ピストン式:シリンダで材料を交互に押し出す。高圧・長距離・骨材を含む生コンに強い。
- スクイズ式:ゴムホースをローラーで絞って搬送。部材構成がシンプルで、モルタル系に相性がよい。
どんな現場・材料で使う?
ラインポンプは「入れない・届かない・上げられない」を解決する切り札です。内装寄りの建物工事でも、次のような場面で活躍します。
- テナント改修の土間コンクリート打設(建物内部でミキサー車が寄れない)
- 地下階やピット内の増し打ち・埋め戻し(搬入経路が狭い)
- 外部からの水平延長が長い現場(中庭や奥まったスペース)
- 上層階への圧送(クレーンバケットが使いにくい、仮設が大掛かり)
扱う材料は、生コンクリートが中心です。スランプ等の配合は、配管径・延長・立上がり高さ・機種の能力に左右されます。一般的にはポンプ圧送に適したワーカビリティ(流動性)を確保した配合が指定され、目詰まりを避ける骨材サイズやトラップ(配管の急曲げ・段差)を減らす計画が重要です。モルタル・無収縮グラウトなどを扱う場合もありますが、材料と機械の適合は必ず事前確認が必要です(セルフレベリング材などは専用ポンプを用いることもあります)。
現場での使い方
言い回し・別称
- ライン、地走り(地域によってはライン圧送をこう呼ぶことがあります)
- ポンプ(広義。ブーム車も含むため、区別するなら「ラインポンプ」と明示)
- 配管(パイプ・ホース)、クランプ、先行モルタル(プレグラウト)
使用例(3つ)
- 「今日はブーム入らないから、ラインポンプで2.5Bを30メートル流して地中梁までいこう」
- 「先行モルタル一発流したら、1台目(ミキサー車)ゆっくり送って。ホース口は2人付きで」
- 「配管ルートの曲がり多いから、クランプ増し締めしておいて。バルブ側は圧抜き確認してから外してね」
使う場面・工程
配管ルートの確保、養生、合図者の配置、先行モルタルの準備がポイントです。内装では既存仕上げを傷つけないための養生(床、壁、建具の角)や、通行動線の確保・警備計画も重要になります。ミキサー車の待機スペースや、洗浄水の仮置き・処理方法まで決めておくとスムーズです。
関連語
- ブーム車(ブーム付きコンクリートポンプ車)
- 先行モルタル(配管内の潤滑・詰まり防止のため最初に流すモルタル)
- 配管(B管、ホース)、クランプ、ガスケット、ゲートバルブ
- スランプ、骨材、打継ぎ、コールドジョイント、バイブレーター
手配から撤収までの段取り
事前に伝える情報チェックリスト
- 打設数量(m³)と想定時間帯、台数段取り(ミキサー車の回転)
- 配管延長(水平・垂直の内訳)、曲がり回数、階段や段差の有無
- 配管径の希望(例:2.5B、3B)と打設箇所の開口寸法・作業スペース
- 現場の搬入経路・車両制限(高さ・幅・重量)、待機場所
- 材料の仕様(生コンの配合・スランプ等は設計・生コンプラントと整合)
- 水・電源の可否、洗浄場所と残水・残渣の処理方法
- 養生の範囲(床・壁・既存設備)、近隣・共用部の配慮事項
- 合図者・人員体制、使用無線のチャンネル、緊急時の連絡手順
当日の基本フロー
- 搬入・KY(危険予知):ルート最終確認、近隣周知、動線確保
- 養生:床のスリップ防止、角当て、配管下の養生板など
- 配管敷設:曲げは最小限、クランプの抜け止め・向きを統一、ガスケット確認
- 圧送準備:エア抜き、先行モルタル投入、合図系統の確認
- 本打設:ミキサー車→ホッパー→配管→打設口。吐出口は常時保持者を配置
- 品質管理:打重ね時間の管理、締固め(バイブレーター)、天端均し
- 終了・圧抜き:バルブ閉止→圧力ゼロ確認→分解。洗浄・回収
- 撤収・清掃:残水・残渣の適正処理、養生撤去、周辺清掃・原状回復
片付け・洗浄の注意
洗浄水や残渣は排水口に直接流さず、所定の養生・回収方法に従います。館内作業では特に、共用部の汚れ・滑り事故・騒音苦情に注意。洗浄場所は事前に合意し、導水・受け皿・沈砂の段取りを決めておくとトラブルが減ります。
失敗しないためのコツと安全対策
- 合図の一本化:ポンプ側・打設口・ミキサー車の指示系統を統一。無線やハンドサインを事前共有。
- ホース暴れ対策:吐出口は常に2名で保持、腰・顔の前に噴口を向けない。圧力がかかった状態で無理に曲げない。
- 曲げ・継手の管理:急曲げ・継手乱用は詰まりの原因。極力直線的に、曲がり回数を減らす。
- クランプ点検:ガスケット噛み込み・摩耗・クランプのかかり不足は漏れ・抜けの原因。毎回目視・手当て。
- 先行モルタルの適正:不足も過多もトラブルのもと。配管延長・径・材料性状に合わせて計画。
- 圧抜き徹底:分解前に必ず圧力ゼロを確認。ゲートバルブや清掃口の扱いは有資格者・経験者の指示で。
- 床荷重・仮設:配管・人員・材料が集中する箇所の荷重確認。架台・養生板で荷重分散。
- 品質面:打継ぎ部の処理、打重ね時間の管理、適切な締固め。後工程(内装仕上げ)を意識した天端精度。
メリット・デメリットと選び方
メリット
- 狭小・屋内・地下などブームが届かない場所へ圧送可能
- 仮設が比較的シンプル(クレーン・タワークレーンが不要な場面も多い)
- 打設口に人が付けるため、仕上がりやスピードの調整がしやすい
- 配管ルートの自由度が高く、既存建物の動線に合わせやすい
デメリット
- 配管・養生・撤収の手間がかかる(通路確保や共用部配慮が必要)
- 曲がりや延長が多いと詰まりやすく、打設速度も落ちる
- 洗浄水・残渣の処理計画が必要(内装現場では特に重要)
- 打設口の安全管理と人員配置が欠かせない
ブーム車やクレーン・バケットとの比較
ブーム車は到達性・スピードに優れますが、車両設置スペースやブームの展開空間が必要です。クレーン・バケットは設備が整った新築構台などで有利ですが、ピストン打ちのような連続性は劣ります。ラインポンプは「入れない・届かない」現場での最有力候補で、内装・改修との相性が良好です。選定のポイントは、搬入制限・到達距離・打設数量・周辺環境(騒音・汚れ)・後片付けのしやすさを総合で見比べることです。
よくあるトラブルと対処
- 目詰まり(ブロッケージ):曲げ・段差・継手過多を見直し、スランプや骨材サイズの適合を確認。先行モルタルの量・粘度も調整。
- 漏れ・抜け:クランプ未締め・ガスケット損傷・配管の傷みが原因。点検と交換を徹底。圧送前に全継手を触って確認。
- ホース暴れ:急な流量変化やエア噛みで発生。合図統一と安定送入、吐出口の複数保持で抑制。
- コールドジョイント:生コン回転の途切れや調整不足が原因。台数段取りと打重ね時間管理で予防。
- 汚れ・クレーム:養生不足や洗浄の流出が原因。通路・床・壁の養生範囲を広めに取り、洗浄・回収計画を事前合意。
代表的なメーカー・機種の傾向
国内現場で目にすることの多い代表的なブランドとして、プツマイスター(Putzmeister/独)、シュウィング(Schwing/独)など海外勢に加え、極東開発工業(日本)などの国産メーカーがあります。機種により対応できる配管径・最大吐出量・最大圧送距離・推奨材料範囲が異なるため、現場条件(延長・立上がり・曲がり数・所要打設スピード)を伝え、販売店・圧送業者の提案を仰ぐのが確実です。
現場で役立つ小ネタとチェックポイント
- 配管径の目安:小回りと取り回し重視なら細め(例:2.5B)。量と距離があるなら太め(例:3B)。ただし材料・機種と合わせて決定。
- 曲げは「必要最小限」:曲げるほど抵抗が増し、詰まりリスクが上がる。可能ならルートを伸ばしてでも曲げ回数を減らす。
- 吐出口の人員:天端(レベル)管理と締固め要員を別にし、吐出口の保持者は流量と向きだけに集中。
- ミキサー車の回転:連続性が品質を左右。搬入車両の入りやすさを事前にドライバーと共有。
- 内装床の保護:車輪・配管の点荷重対策にベニヤやゴムマットを広めに敷く。コーナーや桟に角当て。
用語ミニ辞典
- 先行モルタル:配管内壁を潤滑させるために最初に流すモルタル。量・粘度は配管条件で調整。
- 打重ね時間:前に打ったコンクリートが初期凝結に入る前に次を重ねる時間。連続性が鍵。
- クランプ・ガスケット:配管の継手部材。漏れ・抜け防止の生命線。摩耗・変形は即交換。
- バイブレーター:締固め用電動工具。過振動は分離の原因、不足はジャンカの原因。
よくある質問(Q&A)
Q. ブーム車と何が一番違うの?
A. ブーム車はアームを伸ばして高所・遠所へ直接届かせますが、ラインポンプは配管(ライン)を敷設して到達させます。狭い屋内や地下などブームを展開できない場所でも対応できるのが強みです。
Q. どのくらいの距離まで送れる?
A. 機種能力・配管径・曲がり・立上がり高さ・材料性状で大きく変わります。長距離・高揚程が必要な場合は事前に圧送業者へ条件を詳細に伝え、最適機種と配管計画の提案を受けてください。
Q. 内装仕上げを汚さずに作業できる?
A. 可能です。床・壁・角の養生と、洗浄・回収の段取りを事前に固めること、動線管理と人員配置を丁寧に行うことがポイントです。特に共用部は広めに養生し、巡回清掃をセットにすると安心です。
Q. モルタルだけでも使える?
A. 使えますが、材料とポンプ方式の適合があります。モルタル・グラウト向け機種もあれば、生コン主体の機種もあります。必ずメーカー仕様・圧送業者に確認しましょう。
まとめ|ラインポンプを味方にすると内装現場は一気に回しやすくなる
ラインポンプは「届かない・入れない・汚したくない」という内装現場の悩みを解決する強力な手段です。ブーム車との違いは、アームではなく配管で到達させること。だからこそ、配管ルートの計画、養生、合図の統一、先行モルタルといった段取りが仕上がりと安全を左右します。手配時には数量・距離・曲がり・搬入条件・洗浄計画を具体的に伝え、当日は「養生広め・曲げ少なめ・圧抜き確実」の三原則を徹底しましょう。この記事が、初めての方でも安心してラインポンプを使いこなすための道しるべになれば幸いです。