冷媒管を基礎から実務まで解説—種類・規格・配管ルート・断熱のコツ【内装工の現場ワード】
「冷媒管って何?エアコン工事でよく聞くけど、ドレン管や電線と何が違うの?」——初めて図面や現場指示書を見たとき、多くの方がここでつまずきます。この記事では、建設内装の現場で日常的に飛び交う「冷媒管」というワードを、ゼロからやさしく解説。種類や選び方、配管ルートの考え方、断熱のコツ、施工手順やチェックポイントまで、実務に直結する内容をひとまとまりにしました。読み終える頃には、図面の記号や職人同士の会話がぐっとクリアに感じられるはずです。
現場ワード(冷媒管)
| 読み仮名 | れいばいかん |
|---|---|
| 英語表記 | Refrigerant Piping / Refrigerant Copper Tube |
定義
冷媒管とは、エアコン(空調機)や冷凍冷蔵設備の室内機・室外機間で冷媒(R32やR410Aなど)を循環させるための配管のこと。一般的には銅管(主にりん脱酸銅の継目無管)を用い、断熱材で被覆して使用します。2本1組(太い「ガス側」と細い「液側」)で構成され、住宅や店舗のルームエアコンでは「ペアコイル(被覆一体の2本セット)」がよく使われます。
冷媒管の基礎知識
冷媒管は何のためにある?
エアコンは室内機で空気から熱を奪い(または与え)、その熱を室外機で放出(または吸収)します。この「熱の受け渡し」を運ぶのが冷媒で、その通り道が冷媒管です。室内機と室外機をつなぐ「血管」のような役割で、気密性・清浄性・熱伝導性が求められます。
ガス側・液側の違いとペアコイル
冷媒管は通常2本1組です。太い方が「ガス側(吸入側)」、細い方が「液側(吐出側)」と呼ばれます。ガス側は気体冷媒が主に流れるため流量が多く、熱交換の影響も大きいので太くなります。住宅や小規模店舗では、あらかじめ2本が断熱材で被覆された「ペアコイル(被覆銅管)」が主流で、施工性と仕上がりの品質が安定しやすいのが特長です。
材質・種類と選び方
銅管(軟質・硬質)
冷媒管の材質は銅が基本。腐食に強く、熱伝導率が高く、ろう付けやフレア加工が可能だからです。軟質銅管は曲げ加工しやすく、室内の取り回しや天井内ルートに適しています。硬質銅管は直管で支持が安定しやすく、中〜大規模設備の幹線や露出配管で使われます。室内の仕上げ品質や曲げ半径、施工スペースに応じて使い分けます。
被覆銅管・ペアコイル
断熱材が一体化した被覆銅管は、結露防止・省施工・外観品質の面でメリットがあります。屋外では紫外線・風雨に曝されるため、耐候性のある外被が望ましいです。屋内でも、天井内や壁内での結露を防ぐために、隙間なく被覆を連続させることが重要です。
継手方式(フレア・ろう付け)
ルームエアコンでは、多くがフレア継手での接続を採用しています。フレアツールで管端を広げ、専用フレアナットで締結します。中〜大規模や幹線では、銅管どうしをろう付け(銀ろうやりん銅ろう)で接続することも一般的です。ろう付け時は窒素ブローで内部酸化を抑えるのが基本です。どちらの方式も、メーカーの施工条件と図面指示に従うのが鉄則です。
規格・サイズの目安
呼び径と「分」表記
現場では「2分」「3分」「4分」「5分」といった呼び方をします。これはインチ分数の慣用表記で、例えば2分は1/4インチ、3分は3/8インチ、4分は1/2インチ、5分は5/8インチに相当します。選定は必ず機種の取扱説明書・据付説明書の指定に従います(同じ能力帯でもメーカーやシリーズで指定が異なるため、現物合わせや経験則での判断は避ける)。
機種別の一例(必ず仕様確認)
小型ルームエアコンでは、液側が「2分」、ガス側が「3分」または「4分」といった組み合わせがよく見られます。能力が上がるほどガス側が太くなる傾向です。ただし、機種・配管長・高低差・冷媒種によって指定が変わるため、必ずメーカー仕様に合わせてください。指定と異なる径を使うと能力低下や故障の原因になります。
施工に必要な工具・計測機器
冷媒管の施工は「切る・曲げる・つなぐ・守る(断熱)」の連続です。代表的な工具と用途は次の通りです。
- パイプカッター:銅管を直角に切断。バリ取りツールとセットで使用。
- ベンダー/スプリングベンダー:曲げ加工でキンク(潰れ)を防止。
- フレアツール:規定角度・寸法でフレア加工。偏芯防止タイプが望ましい。
- トルクレンチ:フレアナットの規定トルク管理に必須。
- マニホールドゲージ:真空引き・気密試験・試運転時の圧力確認。
- 真空ポンプ:しっかりと脱気・乾燥(真空引き)を行うために使用。
- 窒素ガスボンベ+レギュレータ:気密試験・ブロー・ろう付け時のパージに使用。
- 断熱材・テープ・化粧ダクト:結露防止と仕上げ、耐候性確保。
工具の代表的なメーカー例として、TASCO(フレアツール、マニホールド、トルクレンチ等)、アサダ(真空ポンプ、配管工具等)が広く流通しています。信頼できる工具を使うと仕上がりと再現性が安定します。
施工手順の基本フロー
現場の状況や設計指示で前後しますが、基本の流れは次の通りです。
- 事前確認:機種仕様(推奨配管径・最大配管長・高低差)、冷媒種、設置位置、貫通位置、ルート、化粧仕上げの有無を確認。
- 墨出し・貫通:配管ルートを明確にし、スリーブを適切に設置。雨仕舞い・気密性能に配慮。
- 配管加工:所定の長さに切断、バリ取り、曲げ加工。最小曲げ半径を守り、潰れやしわを作らない。
- 継手加工:フレア加工→面取り→オイルの清浄塗布(指定がある場合)→規定トルクで締結。ろう付けの場合は窒素ブローしながら加熱・ろうを流す。
- 支持・固定:吊りバンド、サドル、インサートなどで適切なピッチで支持。振動・熱膨張を考慮。
- 気密試験:窒素ガスで加圧し、圧力降下・リークを確認(メーカー推奨値・工事仕様に従う)。
- 真空引き:十分な真空レベルまで引き、保持試験で戻りがないことを確認。
- 冷媒開放・試運転:バルブを開放し、運転データ(圧力・温度・電流・ドレン排水等)を確認。
- 断熱・化粧:継手部の追加保温、屋外の耐候仕上げ、化粧ダクトやラッキングで納める。
- 引き渡し:配管長・追加冷媒量(必要時)・試験結果・写真などの記録を残す。
品質確保の勘所(リーク・性能劣化を防ぐ)
フレア品質とトルク管理
フレア割れ、偏芯、バリ残りは漏えいの主要因です。切断は直角、面取りは軽く均一に、フレア寸法はゲージで確認。締付は必ずトルクレンチで規定値を守ります。オーバートルクは座面損傷のもと、アンダートルクは滲み漏れの原因です。
窒素ブローと気密試験
ろう付け時の窒素ブローは酸化スケール(スラッジ)を抑制し、コンプレッサ故障リスクを低減します。気密試験は安定した温度条件で十分な時間保持し、圧力降下や石鹸水・検知器で漏えいの有無を確認します。試験圧力は機種・冷媒種・配管仕様により異なるため、メーカー施工要領と工事仕様書に従ってください。
真空引き(脱気・乾燥)
冷媒配管内の水分や空気は、酸化・凍結・能力低下の原因です。真空ポンプで十分な真空度まで引いた後、遮断して保持。戻りがなければ健全性の目安になります。配管長が長い場合や湿気が多い環境では、時間を長めに確保しましょう。
断熱・結露対策と化粧仕上げ
断熱材の選定と厚み
冷媒管の断熱は「結露を出さない」「熱損失を抑える」ために不可欠です。発泡ポリエチレンなどの保温材を連続して巻き、継手や吊りバンド部も欠かさずカバーします。断熱厚は配管径・室内外の温湿度・露点を踏まえて決まり、一般的なルームエアコンではペアコイルの標準厚み(例:10mm前後)が多く用いられます。外部露出部は耐候性のある外被・テープで紫外線劣化を防ぎます。
化粧ダクト・ラッキング
屋外の配管は、化粧ダクト(樹脂製)やラッキング(板金巻き)で納めると、景観が良く、保護効果も高まります。コーナー部・継手部は雨仕舞いを丁寧に。化粧ダクトは曲がりが少ないほうが見栄えも排水(ドレン)も安定します。
ルート取り・支持金物のポイント
見えない天井・壁内こそ、のちの点検や更新を想定したルート計画が重要です。最小曲げ半径を守り、交差・急曲げを減らし、熱源やノイズ源(高圧電路等)から適切に離隔。支持ピッチは配管径や仕上げにより変わりますが、小口径の銅管ではおおむね1〜1.5m程度を目安に、図面・仕様に従って設定します。振動が想定される箇所は、防振材やスリーブで対策します。
安全・法令と依頼先選び
業務用機器に関わる冷媒の取り扱いには、フロン類の漏えい抑制や回収が求められます。改修や撤去時は適切な資格・機器を持つ事業者に依頼し、記録の保存も忘れずに。新設・据付でも、メーカー要領を順守し、試験・写真記録を残してくれる業者を選ぶと安心です。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では「冷媒管」「銅管」「ペア(ペアコイル)」「ガス管・液管」「2分3分」といった呼び方がよく使われます。例えば「ガス3分・液2分で引いといて」「ここは被覆銅管で」といった指示が典型です。
使用例(3つ)
- 「この部屋、室外機までの立ち下げはペアで一発、最小曲げは守ってね。」
- 「フレアは再加工、面荒れてる。トルク入れ直してリークチェックしよう。」
- 「ここ日当たり強いから外部は化粧ダクトで仕上げ、テープ巻きだけはNG。」
使う場面・工程
墨出し・貫通位置決め、配管ルート作成、曲げ加工、継手作業(フレア/ろう付け)、支持固定、気密試験、真空引き、試運転、断熱・化粧仕上げまで、空調の据付一連で登場します。内装工と空調工が取り合う場面(壁内・天井内のスペース調整や化粧仕上げ)でも重要なキーワードです。
関連語
ペアコイル/ガス側・液側/フレア・フレアナット/トルクレンチ/ろう付け・窒素ブロー/マニホールド・真空ポンプ/化粧ダクト/ドレン管/スリーブ/ラッキング/支持金物
冷媒種別と配管への影響
現在のルームエアコンではR32やR410Aが主流です。どちらも高い運転圧力に対応する必要があり、指定の銅管・継手・トルク管理が必須。冷媒種が変わると粘性や圧力、適合オイルが異なるため、流用は厳禁です。リプレース工事では既設配管の再利用可否をメーカー資料で確認し、内面洗浄・サイズ適合・継手の状態などを総合判断します。
よくあるミスと対策
- フレアのバリ・割れ:切断面の面取り不足が原因。ゲージで寸法確認し、再加工をためらわない。
- トルク管理不足:勘締めはNG。トルクレンチで規定値を守る。
- 最小曲げ半径違反:キンクや内面皺が発生。ベンダー使用、余長を持たせたルートへ見直し。
- 保温の切れ目:継手部・バンド下の断熱欠損が結露を招く。二重巻きや現場保温を丁寧に。
- 化粧・雨仕舞い不良:外部露出での紫外線劣化や雨水侵入。耐候材とコーキングで仕上げ。
- 真空引き不足:水分残留で凍結・劣化。保持試験まで行い、戻りを確認。
小さな手戻りが大きな漏えいや機器故障に直結します。チェックリスト化して確実に潰しましょう。
冷媒管と混同しやすい配管との違い
ドレン管は空調機から出る結露水を排水するための配管で、材質は塩ビ管などが一般的。冷媒管とは用途も材質も別物です。また、エアコンの電源や通信線(制御線)とも役割が異なります。外壁で「配管セット」として同一ルートを通しても、機能はそれぞれ独立しています。
代表的なメーカー・ブランドと現場での役割
- 因幡電工(INABA DENKO):被覆銅管「ペアコイル」や配管化粧ダクト「ダクトLD」で有名。住宅・小規模店舗での定番。
- オーケー器材(ダイキン グループ):屋外化粧ダクト「スリムダクトSD」など空調周辺部材を展開。耐候性と納まりの良さが特長。
- TASCO:フレアツール、マニホールドゲージ、トルクレンチなど空調用計測・加工具の定番。
- アサダ:真空ポンプやろう付け機器など、施工品質を支えるプロ用機器を展開。
これらを適材適所で使うことで、施工スピードと仕上がり、維持管理性が向上します。
用語辞典ミニ(押さえておきたい現場キーワード)
- ペアコイル:ガス側・液側の2本が断熱一体になった被覆銅管。
- フレア:銅管端をラッパ状に広げる加工。ナットで密閉接続する。
- ろう付け:金属を溶かして継手を接合する工法。銅管は窒素ブローが基本。
- 真空引き:配管内の空気・水分を除去する作業。真空ポンプとゲージで管理。
- 気密試験:窒素加圧で漏えいの有無を確認する試験。
- 化粧ダクト:屋外・露出部で配管を保護・美観向上するカバー。
初心者がつまずきやすいポイントQ&A
Q. 「2分3分」と言われたら何を用意する?
A. 液側2分(1/4インチ)、ガス側3分(3/8インチ)の冷媒銅管(または同等のペアコイル)を用意します。必ず機種の据付説明書を確認し、同規格のフレアナットや断熱材も揃えましょう。
Q. 既設の冷媒管は流用できる?
A. 冷媒種・径・配管長・内面状態・継手の有無など総合判断が必要です。機種のリプレース要領で流用可否が示されていることが多いので、必ず参照してください。洗浄やろう付け補修が必要な場合もあります。
Q. 断熱はどのくらい必要?
A. 配管径と室内外の温湿度、露点を踏まえた仕様に従います。一般的なルームエアコンではペアコイルの標準断熱厚で対応しますが、湿度が高い場所や天井内では継手部の二重巻きなど、きめ細かな対策が有効です。
Q. 真空引きはどれくらいの時間?
A. 配管長・内径・環境湿度で変わるため一概には言えません。真空度と保持で判断するのが基本です。ゲージで目標真空度に達した後、遮断して戻りがないことを確認します。
実務で役立つ小ワザ
- 貫通スリーブは先行で入れ、断熱の切れ目を作らない納まりにする。
- 屋外立ち上げは直射日光・雨掛かりを想定し、化粧ダクトの蓋向きや継手位置を工夫。
- 吊りバンド下は必ず保温補修。夏場の結露筋を未然に防ぐ。
- 曲げは少なく、大きく、やさしく。余長は点検可能なスペースに逃がす。
- 記録写真は「継手」「支持」「断熱」「屋外仕上げ」を定点で。後日の説明責任に備える。
まとめ:冷媒管が分かると現場が見える
冷媒管は、空調の性能・耐久性・安全性を左右する生命線です。材料の選び方(銅管・被覆・継手)、適切な工具、ルート取り、断熱、そして「気密試験」と「真空引き」を欠かさない——この基本を押さえれば、大半のトラブルは回避できます。図面の「2分3分」「ガス側・液側」「ペアコイル」の意味が腹落ちすると、職人同士の会話もぐっと理解しやすくなります。もし迷ったら、必ずメーカーの据付説明書・施工要領と現場の指示書に立ち返ること。冷媒管を正しく扱えることは、内装・設備の垣根を越えて信頼される職人への第一歩です。









