現場でよく聞く「トリプルガラス」丸わかりガイド—仕組み・メリット・選定と施工の勘所
「トリプルガラスって本当に必要?」「ペアガラスとどう違うの?」そんな疑問を抱えて検索された方へ。この記事では、建設内装の現場で実際に使われる用語としての「トリプルガラス」を、やさしく、でも実務レベルで役立つ深さで解説します。断熱・防音・結露対策の観点からメリットと限界、採用の判断軸、施工時の注意点まで一気に把握できます。初めての方でも安心して読み進められるよう、専門用語は噛み砕いて説明します。
現場ワード(トリプルガラス)
| 読み仮名 | とりぷるがらす |
|---|---|
| 英語表記 | Triple glazing(triple-pane glass / triple-glazed window) |
定義
トリプルガラスとは、3枚のガラスと2つの中空層で構成された複層ガラス(多層ガラス)の総称です。一般的にLow-E(金属微膜)コーティングやアルゴン/クリプトンなどの不活性ガス封入、樹脂やステンレス系の「ウォームエッジ」スペーサーを組み合わせ、断熱・遮熱性能、結露抑制、遮音性の向上を狙います。サッシ(枠)側の仕様とセットで性能が決まるため、窓全体(ガラス+サッシ)の熱貫流率や気密・水密グレードで比較検討します。
トリプルガラスの仕組みと基本構成
トリプルガラスの強みは「層が増えるほど熱や音が伝わりにくい」というシンプルな理屈に基づきます。3枚のガラスの間に2つの中空層を設け、空気より熱伝導の遅いガスを封入、さらにLow-E膜で放射熱の移動を抑えます。窓際の冷気・暑気の侵入を減らし、室内側表面温度を上げやすくすることで、体感温度や結露リスクを改善します。
主な構成要素は以下です。
- ガラス:3枚構成(厚みは用途により可変。外側と内側で厚みを変えて遮音最適化することも)
- Low-Eコーティング:1〜2面に採用が一般的(室内側の放射熱ロスを抑制、日射取得・遮蔽のバランス調整)
- 中空層:2層(一般的には10mm前後〜、仕様により厚み違いあり)
- 封入ガス:アルゴン(一般的)、クリプトン(高性能だが高価)、空気(コスト優先)
- スペーサー:アルミ、ステンレス、樹脂など。樹脂・ステン系の「ウォームエッジ」は縁部の結露リスクを低減
- 周縁シール:ガス保持と湿気侵入防止。長期性能に直結するため品質が重要
なお、窓の最終的な断熱・気密性能はサッシの材質・構造(樹脂、アルミ樹脂複合、木、木樹脂複合など)や取付精度、開口部の収まり処理によって大きく左右されます。「良いガラス」だけでは性能は出し切れません。
性能の目安と体感の違い
断熱(冬の寒さ対策)
一般的に、単板ガラスに比べて複層化するほど熱貫流率(U値)は低下(=断熱性能が向上)します。トリプルガラスはペアガラスよりさらに熱の逃げ道が少なく、窓辺のヒンヤリ感や放射冷却による不快感が軽減され、暖房効率を助けます。数値は構成やサッシで幅がありますが、トリプル化により窓全体U値が一段良くなる傾向は広く認められています。
遮熱・日射取得(夏の暑さ対策/冬の日射活用)
Low-Eには主に「遮熱タイプ」と「断熱タイプ」があり、地域や方位、暮らし方によって使い分けます。夏の日射が強い西日・南面では遮熱寄り、寒冷地の南面は冬季に日射熱を取り込みたい場合が多く、断熱寄りを選ぶことがあります。トリプルガラスでもこの考え方は共通で、日射熱取得率(η値)の設計バランスがカギになります。
防音(外部騒音の低減)
層が増えるほど音は伝わりにくくなりますが、重要なのは「ガラス厚の組み合わせ」と「気密」。ガラス厚を変えると異なる周波数帯の音に強くでき、さらにサッシの気密が高いと効果的です。トリプルガラスは総合的に遮音に有利ですが、交通騒音など特定の周波数対策ではガラス厚や中間膜(合わせガラス)との組み合わせ検討が有効です。
結露(室内・室外)
室内側の表面温度が上がるため、ペアガラスよりも室内結露は抑えやすくなります。一方で外気側が冷え、ガラス外面に「外側結露」が発生しやすくなることがあります。これは性能が高いがゆえの現象で、故障ではありません。縁部の結露にはスペーサー選定や室内の湿度管理、換気バランスが効いてきます。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では「トリプル」「トリプルLow-E」「三層ガラス」「3枚ガラス」などと略して呼ばれます。サッシ側のシリーズ名で呼ぶこともありますが、混乱防止のためガラス構成(例:3-12Ar-LowE-3-12Ar-3)やサッシ材質まで含めて伝えると確実です。
使用例(3つ)
- 「南面は断熱型のトリプルで日射取り込み、東西は遮熱型で抑えよう」
- 「重量出るから搬入は二丁吊り吸盤で二人以上、障子建付けは最終で」
- 「スペーサーはウォームエッジ指定、縁の結露クレーム減らしたいから」
使う場面・工程
採用判断は基本設計〜実施設計で行い、サッシ拾い・積算で仕様固定。現場では躯体開口の寸法精度確認、サッシ枠の取付(水平・直角・下枠勾配)、気密・防水処理(防水テープ、止水、四周シーリング)、障子建込み、調整、保護フィルム剥離の順で進みます。引違い、開き、FIXなど開口部のタイプごとに納まりが異なり、トリプルガラスは重量増に伴って搬入・建て込み時の人員確保や仮置きスペースの確保が重要です。
関連語
- Low-E(ロウイー):金属微膜コーティング。遮熱/断熱タイプ。
- スペーサー:ガラス周縁の部材。ウォームエッジ(熱橋を抑える種類)。
- アルゴン/クリプトン:ガス封入。性能とコストのバランスを考慮。
- 樹脂サッシ/アルミ樹脂複合:枠材の種類。窓全体性能に直結。
- 内窓(二重窓):既存に内側サッシを追加。トリプルと比較・併用検討。
- 熱貫流率(U値)/日射熱取得率(η値):性能比較の主要な指標。
- ガラス厚バリエーション/合わせガラス:遮音・防犯強化の選択肢。
採用判断のポイント(設計・積算・施主説明)
導入メリットは大きい一方、万能ではありません。以下の観点で総合判断しましょう。
- 地域特性:寒冷地・温暖地、積雪・日射条件、方位。断熱型/遮熱型の選択。
- 間取り:大開口リビング、寝室、子ども部屋、北面の水回りなど、体感への寄与が大きい窓から優先配置。
- サッシ材質:樹脂や木系は断熱的に有利。高性能ガラスの効果を引き出す。
- コストと効果:初期費用は増加。暖冷房負荷低減や快適性、結露抑制の価値を数年スパンで説明。
- 重量・施工性:特に引違いや大開口は搬入・建付けの難易度が上がる。工程と人員を確保。
- 補助制度:省エネ関連の補助対象になる場合がある。最新の公的情報を確認。
- 外観・見え方:Low-Eの反射色味、外側結露の可能性、日射取得のバランスも施主と共有。
施工の注意点とチェックリスト
現場品質を左右する要点を整理します。
- 搬入・仮置き:平置きは避け立て掛けで。角当て・保護材を使用。吸盤(ガラス搬器)で二人以上、重量周知。
- 開口精度:躯体の通り・直角・対角差の事前チェック。歪みは建付け不良・パッキン片寄りの原因。
- サッシ取付:下枠は外勾配、四周のビス間隔・締付けトルク管理。過締めで枠歪みを作らない。
- 防水・気密:防水テープの連続性、四隅処理、貫通部の止水。室内側は気密連続、外側は排水計画を優先。
- グレージング:セッティングブロック位置・数量、荷重の受け方、ビードの確実な嵌合。Low-E膜の面方位指定に留意。
- 清掃・仕上げ:コーティング層側への研磨剤・溶剤NG。メーカー指定以外のフィルム貼付は熱割れリスクがあるため要確認。
- 最終調整:クレセント・戸車・召し合わせの気密調整。動作確認は朝夕の温度差後に再チェックすると安定。
トリプルと内窓、どちらが良い?併用の考え方
戸建新築ではトリプル+樹脂サッシの採用が増えています。一方、リフォームでは内窓(二重窓)で既存窓を活かす方法も一般的。内窓は気密層が増えるため体感改善に寄与しやすく、騒音対策にも効果的です。コスト・工期・外観制約をふまえ、以下のような判断が現場では多いです。
- 新築:主要開口はトリプル、細部はペア/内窓でバランス。方位によりLow-Eタイプを使い分け。
- 改修:開口拡大やサッシ交換が難しい場合は内窓。結露・遮音で満足度が高い。
- 併用:トリプルに内窓を足す方法は高性能だが、開閉動線や清掃性、コストを要検討。
主なメーカーと特徴の傾向
具体製品は日々更新されるため、ここでは日本国内で一般的に関与するメーカーの傾向を紹介します(最新仕様は各社資料で要確認)。
- サッシメーカー(例:YKK AP、LIXIL、三協アルミなど)…トリプルガラス対応の樹脂・アルミ樹脂複合サッシを展開。窓全体U値や気密・水密・耐風圧のバランスで比較。
- 板硝子メーカー(例:AGC、日本板硝子〈NSG〉など)…Low-Eコーティングやスペーサー技術、複層ユニットの供給。遮熱/断熱タイプ、多層構成に対応。
メーカーを跨いだ「窓全体性能」での比較と、納まり・保証・メンテ体制まで含めた総合判断が実務的です。
メンテナンスと長持ちのコツ
- 清掃:柔らかい布と中性洗剤が基本。研磨剤、金属たわし、強溶剤は使用しない。
- 周縁部:スペーサーやシールに傷・薬品を当てない。ガス保持・防湿に関わる部分。
- 結露対策:室内の相対湿度管理(換気、加湿器の設定)、カーテンの開閉で通気を確保。
- 可動部:戸車・金物の定期点検、砂埃の除去。重い障子ほど微調整の効果が大きい。
- フィルム・ブラインド:熱割れリスクがあるため、貼付・設置前に必ずメーカーに適合確認。
コスト感と投資対効果の考え方
トリプルガラスはペアガラスに比べ初期費用が上がる傾向です。省エネ・快適性・結露抑制・遮音性の総合価値で判断します。特に寒冷地や大開口の居室では体感差が明確で、冷暖房の立ち上がりや窓際の不快感が減ります。国や自治体の省エネ関連支援が適用されることもあるため、最新の制度と併せて検討しましょう。
設計・現場での「あるある」注意ポイント
- 重量計算の見落とし:金物選定、搬入動線、足場・荷揚げ計画まで逆算する。
- Low-E面の取り違い:日射取得計画と逆になると体感が変わる。図面・ラベルでダブルチェック。
- 枠歪み:高性能窓ほど微妙な歪みが動作・気密に影響。通り・水平・対角は妥協しない。
- 外側結露の説明不足:引き渡し時に現象の意味を丁寧に説明して安心感を提供。
- 室内要因:加湿器直撃、観葉植物ゾーン、干し物で局所湿度アップ→結露相談の火種に。運用アドバイスもセットで。
簡単な選び方フローチャート(考え方の順序)
- 1. 地域・方位・開口の大きさを確認 → 寒さ・暑さ・眩しさの優先順位を決める
- 2. サッシ材質を決定(樹脂/複合など) → 窓全体性能のベースを固める
- 3. トリプル/ペアの比較 → 体感差が大きい部屋からトリプルを重点採用
- 4. Low-Eタイプ・ガス・スペーサーを選定 → η値・U値・縁部結露リスクの最適化
- 5. 施工計画(搬入・建付け・防水気密) → 性能を現場で出すための段取り
- 6. 施主説明(外観色味・外側結露・メンテ) → 期待値調整と長期満足度の確保
よくある質問(FAQ)
Q. トリプルガラスにすれば結露は完全になくなりますか?
A. 室内側の結露は大幅に減らせますが、室内の湿度が高すぎると発生します。外側結露は高性能窓に起こり得る自然現象で、故障ではありません。
Q. 防音目的ならトリプル一択?
A. トリプルは有利ですが、特定周波数対策では「ガラス厚の組み合わせ」や「合わせガラス」「気密」のほうが効く場合があります。現場の騒音源(交通・人声・工場)の周波数傾向で最適化します。
Q. 日射の強い南面も全部トリプルにすべき?
A. 断熱型と遮熱型の使い分けが重要です。冬の取得を重視するか、夏の遮蔽を重視するかで選び方が変わります。庇・外付けブラインドとの併用も有効です。
Q. 既存住宅のリフォームでは?
A. サッシ交換が難しい場合は内窓が現実的で効果も高いです。結露・遮音・断熱の体感改善が得やすく、工期も短めです。
用語補足(初心者向けミニ辞典)
- 熱貫流率(U値):数値が小さいほど熱が逃げにくい=断熱性能が高い指標。窓全体で比較。
- 日射熱取得率(η値):日射による熱の入りやすさ。夏は小さいほうが涼しく、冬は大きいほうが暖かい。
- ウォームエッジスペーサー:ガラス周縁の熱橋を抑え、縁部の結露リスクを低減するスペーサー。
- Low-E膜:赤外線の出入りを制御して放射熱の伝わりを抑える薄膜コーティング。
- 合わせガラス:中間膜を挟んだガラス。防犯・遮音・安全性に寄与。
まとめ—トリプルガラスは「窓全体」で活かす
トリプルガラスは、断熱・遮音・結露抑制の総合力に優れ、快適性と省エネの両立に貢献します。ただし、真価を引き出すにはサッシの材質・気密、防水・取付精度、方位別のLow-E選定、適切な搬入・調整など、現場の段取りと施工品質が不可欠です。強い窓ほど精度も段取りもシビアになりますが、その分だけ暮らしの質に跳ね返る設備でもあります。迷ったら「どの部屋で一番効果が大きいか」から優先度をつけ、窓全体のバランスで最適解を見つけていきましょう。初心者の方でも、このガイドをもとに設計者や施工者と同じ目線で会話が進められるはずです。






