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ダクト吊り金物の種類と選び方|内装現場で失敗しないポイントとプロのコツ

ダクト吊り金物を基礎から実務まで解説|初心者でも迷わない選び方・取り付け方・現場の言い回し

「ダクト吊り金物って具体的に何を指すの?どれを選べば安全で、施工もうまくいくの?」——内装や設備の現場に入りたてだと、周りは当たり前に使っているのに自分だけ曖昧なままで不安になりますよね。本記事では、現場で本当に使われる言い回しや種類、選定・施工のコツまで、初心者にもわかりやすく整理しました。読み終える頃には、図面指示の意味がスッと入ってきて、買い出しや段取り、職人さんとの会話でも戸惑わなくなるはずです。

現場ワード(キーワード)

読み仮名だくとつりかなもの
英語表記duct hanger hardware(duct hanging brackets / duct supports)

定義

ダクト吊り金物とは、空調・換気・排煙などの角ダクト(矩形)や丸ダクト(スパイラル等)を、天井や梁などの躯体から安全に吊り下げ・支持するための各種金具・部材の総称です。代表例は、吊りボルト(全ねじ)とナット・ワッシャ類、インサート(埋込雌ねじ)やあと施工アンカー、ハンガーバンド(帯金)、アングル・チャンネル(トラペーズ)、防振ハンガー、耐震ブレース用金具など。単品名ではなく、これらを組み合わせた“吊り一式”を含む現場語として使われます。

何のために使う?基本機能とメリット

ダクトは自重があり、送風機の振動や風圧変動、点検時の荷重、地震時の揺れなど、さまざまな負荷を受けます。吊り金物の役割は、これらの荷重を構造体へ確実に伝える「安全な支持」と、レベル調整や偏芯吸収などの「施工・維持管理のしやすさ」を両立させること。適切な金物選定と施工ができれば、たわみ・共振・落下リスクを抑え、仕上げ天井内の納まりも綺麗に決まります。

主な種類と特徴

吊りボルト・ナット・ワッシャ類(基本セット)

最も基本的な支持。サイズはM8・M10が一般的、重量物にはM12以上を選定します。ナットは原則ダブルナットで緩み止め、場合によりスプリングワッシャや座金を併用します。長さ調整が容易で、ミリ単位のレベル出しが可能です。

インサート・あと施工アンカー(上部固定)

上部の構造体へ固定するための要。新築時は埋込みインサート(雌ねじ付)を打設前に設置、改修や位置変更にはあと施工アンカー(打込み式、拡張式、ケミカル式など)を使います。コンクリートの圧縮強度、縁あき距離、穿孔径・深さ、施工トルクなど、メーカー指示に忠実に施工するのが鉄則です。

ハンガーバンド(丸ダクト向け)

帯金(バンド)で丸ダクトを巻き、吊りボルトと接続する方式。軽量で取り回しが良く、比較的細径〜中径に向きます。ゴムライナー付を選べば振動・騒音の低減にも有効です。

トラペーズ(アングル・チャンネル横桟)

ダクト幅が広い場合や複数系統をまとめて吊る場合に用いる横桟方式。溝形チャンネル(通称:Cチャン)やLアングルを左右の吊りボルトで支え、上にダクトを載せたりバンドで固定します。剛性が高く、配列変更や機器追加にも対応しやすいのが強みです。チャンネルナットや各種ブラケットで拡張性も高いです。

防振ハンガー(ゴム・スプリング)

送風機直近や騒音配慮が必要な系統では、防振ゴム入りやスプリング式のハンガーを吊り系に挿入して振動伝達を抑制します。選定は重量、回転数、共振周波数などを踏まえ、メーカー推奨に合わせます。設置方向・高さ調整範囲にも注意が必要です。

耐震ブレース・落下防止金具

地震時の揺れを抑えるため、ブレース(斜材)や補剛金具を追加する場合があります。角度・間隔・接合部仕様は設計指示や各種指針に準拠すること。吊り金物だけで完結させず、系統全体での安全性を確保します。

選び方のポイント(失敗しない基準)

金物選定は「荷重・環境・納まり」を三本柱に判断します。迷ったら以下をチェックしてください。

  • 荷重計算:ダクト自重+内張り(保温材)+付帯金物+点検荷重等を合算。安全率と支持ピッチを考慮し、ボルト径・アンカー種・本数を決める。
  • ダクト寸法と支持方式:丸はバンドが手軽、広幅の角ダクトはトラペーズが有利。高さ制限が厳しい天井では金物の厚みも重要。
  • 設置環境:屋内乾燥なら溶融亜鉛めっきで十分なことが多い。高湿・腐食環境はステンレス(SUS304等)や耐食表面処理品を選定。
  • 振動・騒音:機器直近や長尺ダクトは防振ハンガーやゴムライナー付バンドを検討。
  • 施工性と調整余裕:レベル出し可能な長さ、ナットの締付けスペース、点検通路の確保、後工程(電気・スプリンクラー)との干渉余地。
  • 法規・設計条件:防火区画貫通部の処理、耐震補強の要否、設計図書の支持ピッチ・仕様書を最優先。

施工手順(基本フロー)

  • 墨出し:平面位置・高さ(レベル)を確認。梁・スラブの打継ぎや埋設物位置も事前確認。
  • 上部固定の施工:埋込インサートの位置確認、またはあと施工アンカーの穿孔・清掃・打設・締付けをメーカー手順通りに実施。
  • 吊りボルト仮設置:所定長さに切断(または規格長さ使用)、ナット・座金をセットして仮吊り。頭上作業は仮止めで落下防止を徹底。
  • 支持金具の組立:バンドやアングル・チャンネルを所定寸法で組み、ダクトの受けを準備。トラペーズは左右の水平・直角を確認。
  • ダクトの据付:吊り上げ・差し込み・バンド締付け。ジョイント部や点検口位置に干渉がないかを同時に確認。
  • レベル・通り調整:レーザーや水糸で水平・通りを微調整。ダブルナットで本締め、緩み止めを確実に。
  • 最終確認:支持ピッチ、金具の向き、バンドの噛み込み、座屈や偏荷重の有無、干渉(電気・配管・天井下地)を最終チェック。

現場のコツ

  • ナットは必ず上下二枚で相互ロック(ダブルナット)。締付けトルクは過不足なく。
  • トラペーズは左右の吊り芯がずれると「たわみ・鳴き」の原因に。芯墨管理を丁寧に。
  • あと施工アンカーは穿孔後の孔内清掃(ブロワ・ブラシ)が命。ケミカルは硬化時間厳守。
  • バンドは偏って締めない。丸ダクトは周方向に均等密着、角ダクトは角部の当たりに配慮。
  • 他職と干渉しそうな箇所は、吊りをスライドできる余地(長孔金具・チャンネルナット)を仕込んでおくと後々ラク。

現場での使い方

言い回し・別称:

  • 「ダクトの吊り金物」「吊り一式」「吊りセット」「ハンガー金具」「吊りバンド」「トラペーズ」など、対象や方式で言い分けることが多いです。

使用例(会話のイメージ・3つ):

  • 「ここは広幅だからトラペーズでいこう。吊りボルトはM10、ピッチは図面通りね。」
  • 「ファン直近は振動出るから、防振ハンガーに切り替えておいて。」
  • 「インサート足りない位置はケミカルであとアンカー、縁あき足りるか監督に確認しといて。」

使う場面・工程:

  • 設備(空調・換気)ダクトの取り付け時。躯体工事後、天井下地工事前~並行、または仕上げ天井内での配管・配線との取り合い調整時に頻出。

関連語:

  • 「インサート」「あと施工アンカー」「吊りボルト(全ねじ)」「ダブルナット」「ハンガーバンド」「Cチャン(チャンネル)」「アングル」「防振ハンガー」「ブレース(耐震)」「支持ピッチ」「レベル出し」

よくあるミスと対策

  • 支持ピッチ過大:設計・仕様書指示を未確認のまま経験値で広げてしまう。対策=図面・要領書の数値を優先し、長尺や重量増ポイントはピッチを詰める。
  • アンカー施工不良:孔内清掃不足・締付けトルク不足。対策=メーカー手順のチェックリストを作り、現場で相互確認。
  • 緩み止め不足:シングルナットのまま。対策=ダブルナットと座金を標準にし、終業前に“触って確認”の習慣化。
  • 干渉・段取り不良:他職と干渉して付け直し。対策=施工前ミーティングで通り・高さ・順番を合意、可変金具(チャンネル・長孔)を活用。
  • 振動・鳴き:防振未対策やバンドの偏締め。対策=機器直近は防振ハンガー、ゴムライナー、均等締付けを徹底。

必要工具・消耗品(現場セットの例)

  • 穿孔工具:ハンマードリル、ビット(径・長さはアンカー仕様に合わせる)、集じん機
  • 締付け工具:スパナ・メガネ・ラチェット、トルクレンチ、六角レンチ(チャンネルナット等)
  • 測定・墨出し:レーザー墨出し器、水平器、コンベックス、チョークライン
  • 消耗品:ナット・ワッシャ、スプリングワッシャ、座金、バンド、チャンネルナット、ケミカルカプセル
  • 安全:ヘルメット、ゴーグル、手袋、落下防止コード、養生材

代表的なメーカー・ブランド(例)

ダクト吊り金物やアンカー、支持システムは多くのメーカーが取り扱っています。以下は国内現場で目にすることの多い例です(順不同)。採用時は各社カタログ・技術資料で詳細をご確認ください。

  • ネグロス電工:配管・ダクト支持金具、チャンネル、各種ブラケットが充実。
  • 日栄インテック:鋼製チャンネルや吊り金具、耐震関連金具などのシステム展開。
  • 因幡電工:空調配管資材が有名。防振や支持関連のアクセサリも取り扱い。
  • 未来工業:電設資材全般。支持金具・ダクト関連の便利部材が豊富。
  • HILTI(ヒルティ):あと施工アンカー、チャンネル(配管支持システム)、施工管理ツール。
  • サンコーテクノ:あと施工アンカー(機械式・ケミカル式)や工具類。
  • ユニカ:アンカー、ドリルビットなど穿孔・固定関連の定番メーカー。

法規・基準への注意

吊り金物の選定・配置は、設計図書・仕様書・施工要領書が最優先です。防火区画の貫通部処理、耐震補強の要否、支持ピッチ・材料仕様、腐食対策等は案件ごとに条件が異なります。特にあと施工アンカーは、施工者資格や試験体での確認を求められる場合があります。迷ったら自己判断せず、設計者・監理者・メーカー技術窓口に確認しましょう。

ケース別の選定アドバイス

軽量小径の丸ダクトが中心

ハンガーバンド+M8吊りボルトが扱いやすい。ピッチは設計指示に従い、長尺では振れ止めを追加。送風機近傍はゴムライナー付を検討。

広幅・多条並列の角ダクト

トラペーズ(Cチャンまたはアングル)で一括支持。M10〜M12の吊りボルトで余裕を持たせ、チャンネルナットで後施工の調整性を確保。

既存天井下での改修工事

あと施工アンカー(ケミカル等)を適切に選定。縁あき距離・孔深さ・配筋との干渉に注意。スリムな防振ハンガーで高さを節約することも。

チェックリスト(着工前〜引渡し)

  • 図面・仕様書で支持方式・ピッチ・ボルト径・防振・耐震の要否を確認済みか。
  • 上部固定(インサート/アンカー)の位置・強度・数量は適正か(干渉含む)。
  • 搬入・吊り上げ経路、仮置きスペース、作業足場は確保できるか。
  • ナット・座金の数量、予備材、代替金具(長孔・チャンネルナット)は十分か。
  • 締付け・硬化・検査(トルク・写真・チェックシート)の段取りは決まっているか。

ミニ用語集

・吊りボルト(全ねじ):全長にわたってねじ切りされた棒鋼。長さ調整・レベル出しが容易。

・インサート:コンクリートに埋め込む雌ねじ部材。上部固定の受け。

・あと施工アンカー:コンクリート硬化後に打ち込む固定部材。打込み式・拡張式・ケミカル式など。

・トラペーズ:左右2本の吊りボルトで横桟(アングル/チャンネル)を支える支持方式。

・防振ハンガー:ゴムやばねで振動を絶縁する吊り金具。騒音・振動対策に有効。

まとめ|ダクト吊り金物は「安全・納まり・施工性」を同時に満たす道具

ダクト吊り金物は、単なる金具ではなく「安全に支える仕組み」そのものです。荷重と環境に合った選定、正しいアンカー施工、ダブルナットやレベル出し、他職との取り合い調整——この基本を押さえれば、見た目も性能も良い納まりになります。現場では「吊り金物」「トラペーズ」「防振ハンガー」などの言い回しで指示が飛びますが、意味がわかれば段取りも確実に。迷ったときは設計図書とメーカー資料に立ち返り、安全第一で進めましょう。初心者の方も、本記事を足がかりに、次の現場から自信を持って対応してみてください。