建設内装で役立つ「スプレーガン」入門—基礎から現場テクまで一気にわかる解説
「スプレーガンって何?どんな時に使うの?どう選べば失敗しない?」——はじめて内装の塗装や吹付けに触れると、こんな疑問が出てきますよね。この記事では、現場で実際に使われている言い回しや具体的な工程、タイプの選び方、調整のコツ、安全対策までを、プロの目線でやさしく整理しました。読めば、現場の会話がスッと理解でき、道具選びや作業の一歩目で迷わなくなります。
現場ワード(スプレーガン)
読み仮名 | すぷれーがん |
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英語表記 | Spray Gun |
定義
スプレーガンとは、塗料や接着剤などの液体材料を霧状(ミスト)にして対象物へ均一に吹き付けるための工具です。空気の力(エア)または高圧の液体圧によって微粒化し、刷毛やローラーでは難しい均一な薄膜や細部・曲面の仕上げを短時間で実現します。内装現場では、木部枠・建具の塗装、巾木や幕板の仕上げ、下地シーラーの塗布、骨材系やテクスチャー仕上げの吹付け、接着剤の塗布(圧送式・エアレス)などに幅広く用いられます。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では略して「ガン」「吹き」「吹付けガン」と呼ばれることが多いです。「重力式」「吸上(すいあげ)」「圧送」「エアレス」「HVLP(エイチブイエルピー)」「LVLP」など、方式や特性を示す言い回しも頻出します。
使用例(3つ)
- 「今日は枠の上塗り、1.3のガンで薄めに吹いといて。」
- 「下地シーラーは広いからエアレスで一気にいこう。マス養生は厚めにな。」
- 「接着はタンク圧送で。ノズル1.8に替えて、パターンちょい絞りでムラ出さないように。」
使う場面・工程
- 建具・枠・巾木など木部の下塗り/上塗り(ラッカー・ウレタン・水性塗料など)
- 石膏ボード面・木部のシーラー塗布、パテ後の吸い込み止め
- 骨材系・砂壁風・テクスチャー仕上げの吹付け(ホッパーガン等)
- 接着剤の塗布(化粧板貼り等で圧送式やエアレスが選ばれることあり)
- 補修塗装(小面積・タッチアップは小型重力式が便利)
関連語
- 重力式/吸上式/圧送式、ニードル、ノズル、エアキャップ、パターン、オーバースプレー、足付け、マスキング、HVLP/LVLP、エアレス、エアミックス、ホッパー、圧送タンク、粘度カップ、シーラー、下塗り・中塗り・上塗り
スプレーガンの種類と仕組み
エアスプレー(重力式/吸上式/圧送式)
圧縮空気で塗料を微粒化する最も一般的な方式です。
- 重力式:上部のカップから塗料が落ちる。小〜中面積の仕上げ、微妙な調整が得意。メンテもしやすい。
- 吸上式:下カップから吸い上げる。カップ容量を取りやすく、作業視界が良いが、最近は重力式が主流。
- 圧送式:タンクから圧力供給。粘度が高めの材料や広面積連続作業に向く。接着剤やプライマー運用で安定。
HVLP/LVLP
HVLPは低圧・大風量、LVLPは低風量・低圧寄り。いずれも従来型よりオーバースプレーが少なく、塗着効率が高いのが特長です。内装現場の室内作業では、養生量削減や周囲汚染低減にメリットがあります。
エアレス・エアミックス
エアレスは高圧で塗料自体を微粒化する方式で、壁や天井の広面積をスピーディに施工できます。粘度のある材料や下塗り・シーラー、大面積の下地調整に強いです。エアミックスはエアレスに少量のエアを足して粒子を整える方式で、仕上げ寄りの質感と能率の両立に向きます。
テクスチャー用ホッパーガン
砂骨材やパターン仕上げ用の大口径ノズルを備え、粒を潰さずに吐出。内装の意匠仕上げで使用されます。
失敗しない選び方
用途別のノズル径と推奨タイプ(目安)
- 木部仕上げ塗装(薄膜・上塗り):1.2〜1.4mm(重力式/HVLP)
- 下塗り・シーラー(水性・溶剤):1.4〜1.8mm(重力式またはエアレスの小口径)
- 接着剤(コンタクト系等):1.8〜2.0mm前後(圧送式や専用ガン)
- 骨材・テクスチャー:大口径(3mm以上)またはホッパーガン
塗料メーカーの仕様(希釈率・推奨ノズル径)を必ず確認し、それに近い範囲で選定すると失敗が少なくなります。
カップの容量・材質と現場性
- 容量:200〜600mLは小回りが効き、タッチアップや細部に最適。1L前後は連続作業向き。
- 材質:アルミは耐久性と汎用性、樹脂は軽量で残量が見やすい。溶剤適合の可否を確認。
- 使い切りライナー:水性・溶剤の切り替えや清掃短縮に有効。
コンプレッサーとの相性
ガンが要求する空気量・圧力に対し、コンプレッサーの吐出量とホース径が足りないと霧化が不安定になります。HVLPは特に風量を要する傾向があるため、装置側のスペックを事前確認。ホースは長く細いほど圧損が増える点にも注意します。
セットアップと基本操作
塗料の準備(希釈・ろ過)
- 塗料缶をよく攪拌。規定希釈率を守り、粘度カップや実噴で適正粘度を見極める。
- 異物混入防止のため、ろ紙フィルターで必ず濾過。
- 水性⇔溶剤の切替時は洗浄を丁寧に行い、残留での凝固やブツを防止。
圧力・ニードル・パターン調整
- エア圧:メーカー推奨値を基準に、粉っぽい→少し上げる、タレる→やや下げて材料量を絞る、の順で微調整。
- 材料量(ニードル開度):薄膜で均一に乗る最小限を基本に、試し吹きで決定。
- パターン(扇形幅):面積・形状に合わせて広狭を調整。狭すぎるとムラ、広すぎると霧化低下やオーバースプレー増。
吹き方の基本(距離・速度・オーバーラップ)
- 距離:おおむね150〜200mm前後を目安に一定に保つ。
- 速度:濡れ感が均一になる速度で平行移動。手首だけでなく腕全体で。
- オーバーラップ:前パスの1/2〜2/3程度重ね、ムラと筋を抑える。
- トリガー:端でオン・端でオフ。抜き差しでダマや段差を防止。
仕上げ品質を上げるコツ
下地づくりと足付け
塗装は下地で決まります。パテの段差を消し、サンディングで足付け。ダスト除去を徹底し、吸い込みの激しい面はシーラーで均一化してから本吹きへ。
室内環境管理
温度・湿度は仕上がりに直結します。乾燥が遅いとタレや埃付着、速すぎるとカサつきの原因に。換気・送風を適正にコントロールし、乾燥スペースを確保しましょう。
マスキングとオーバースプレー対策
床・壁・設備の保護は厚めに。特にエアレスは飛散量が多いため、飛散方向を読んだ養生が重要。パターン外周のドライスプレーを意識し、境界でのカサつきや砂目を抑えます。
安全衛生・法規のポイント
個人用保護具(PPE)
- 防毒・防じんマスク(塗料・溶剤に適合したフィルタ)
- 保護メガネ/フェイスシールド、耐溶剤手袋、長袖作業着
- 聴覚保護(コンプレッサーやエアレス使用時)
換気・火気・VOC
溶剤系は引火性に注意。火気厳禁・静電気対策・換気の確保が基本です。水性でもミスト吸入は避け、換気を行います。材料のSDS(安全データシート)を確認し、保管・使用・廃棄の規定を遵守します。
廃液・洗浄シンナーの扱い
洗浄液・残塗料は分別し、産業廃棄物として適正処理。排水や下水へ直接流さないこと。ウエスは自然発火の恐れがあるため密閉・分別を徹底します。
メンテナンスと保管
清掃手順(基本)
- カップ・ホース内の残材を戻さず廃材容器へ回収。
- 適合溶剤または水でフラッシング洗浄。ニードル・ノズル・エアキャップを外し、ブラシと専用ピンで優しく洗浄。
- パッキン部に溶剤を強く当てない。乾燥後は可動部へ適度に潤滑。
消耗品と交換時期
- ノズル・ニードル:摩耗や打痕で霧化不良・ツブ・吐出不安定が出る。異常が出たらセットで交換。
- パッキン・Oリング:漏れ・吸気でパルスや吐出ムラに。定期点検で早めの交換。
- フィルター:目詰まりは脈動・霧化不良の原因。こまめに清掃・交換。
よくある不具合の原因と対処
- ゆず肌(オレンジピール):粘度高すぎ/霧化不足/距離が遠い→希釈見直し、エア・材料量・距離を調整。
- タレ:厚塗り/距離が近い/速度遅い→材料量を絞る、距離・速度を適正化、薄く複数回に分ける。
- カサつき(ドライスプレー):エア強すぎ/距離遠い/乾燥速すぎ→エアを下げ、距離短縮、環境を整える。
- ブツ・ピンホール:異物混入/水分・油分→濾過・脱脂・エアラインの水分管理。
- ツブ・吐出ムラ:ノズル傷/ニードル摩耗/パッキン不良→清掃・点検しパーツ交換。
代表的なメーカーと特徴
アネスト岩田(ANEST IWATA)
日本を代表する塗装機器メーカー。微粒化性能と操作性に定評があり、重力式からHVLP、圧送システムまで幅広いラインナップ。内装・木工分野でも採用が多いです。
明治機械製作所(MEIJI)
堅牢でメンテナンス性に優れたスプレー機器を展開。エアガン、圧送タンク、周辺機器まで一体で揃えやすく、現場運用での信頼性が高いメーカーです。
デビルビス(DeVilbiss)
自動車補修・工業塗装で世界的に知られるブランド。安定した霧化と仕上がり重視のモデルが多く、内装の高意匠仕上げにも向きます。
SATA(サタ)
精密な霧化と耐久性で評価の高いドイツメーカー。均一なパターンと細かな調整幅で、木部の美観重視仕上げにも適しています。
用途別の実践アドバイス
木部枠・建具の上塗り
- 推奨:重力式+1.2〜1.4mm、HVLPでオーバースプレー低減。
- コツ:薄く2〜3回重ね、端部は先に軽く「捨て吹き」。角は塗り過ぎに注意。
下地シーラー(壁・天井)
- 推奨:エアレスで能率重視、または重力式1.4〜1.8mm。
- コツ:吸い込みムラを見ながら均一に。乾燥後の手触りで上塗りの足付けを判断。
接着剤の吹付け
- 推奨:圧送式や専用ガン。ノズルは1.8mm前後を基準に、メーカー仕様を優先。
- コツ:パターンを絞り、塗布量を管理。濡れすぎ・薄すぎは剥離の原因。
テクスチャー仕上げ
- 推奨:ホッパーガンや大口径ノズル。
- コツ:エア弱めで粒を残し、一定距離で均一に。試し吹きで粒感を決めてから本番へ。
現場で役立つチェックリスト
- 材料・希釈率・ノズル径は仕様書通りか
- 試し吹きで距離・パターン・材料量を確定したか
- 養生範囲と換気経路は十分か
- エアラインの水分・油分は除去されているか
- 清掃・分解工具・予備パーツは手元にあるか
よくある質問(FAQ)
Q. 初めて買うならどのタイプが無難?
A. 内装の木部や小面積を想定するなら、重力式で1.3〜1.4mmの汎用モデルが扱いやすいです。オーバースプレーを抑えたい室内ではHVLP系が候補になります。
Q. コンプレッサーはどのくらい必要?
A. ガンが要求する空気量・圧力に見合った吐出量が必要です。特にHVLPは風量が要る傾向があるため、製品の推奨値とホース径(圧損)も含めて確認しましょう。
Q. 水性塗料と溶剤塗料、同じガンで使い回せる?
A. 可能ですが、切り替え時は入念な洗浄と部品の材質適合確認が必須です。専用を分けるか、使い切りライナーを活用するとトラブルが減ります。
Q. 室内での飛散を最小化するには?
A. HVLPなど低圧系の採用、パターン・材料量を必要最小限に絞る、対象に平行で一定距離を保つ、養生の厚みと範囲を広くする、が効果的です。
まとめ
スプレーガンは「正しい種類選定」「適切なセットアップ」「基本に忠実な操作」の3点が揃えば、初心者でも着実に綺麗な仕上がりに近づけます。現場の言い回しやセッティングの要点を押さえ、まずは小面積で試し吹き。材料メーカーの推奨値を基準に、距離・圧力・パターンを丁寧に詰めていけば、ムラやタレ、カサつきといった失敗はぐっと減ります。この記事を手引きに、明日の現場で自信を持って「吹ける」職人の一歩を踏み出してください。