現場ワード「冷温水配管」をやさしく解説――意味・使い方・施工の勘所とトラブル対策まで
「冷温水配管って何? 冷媒配管とは違うの?」——内装や設備の現場に初めて入ると、似た言葉が多くて戸惑いますよね。この記事では、建設内装の現場で職人が日常的に使う現場ワード「冷温水配管」を、初心者にもわかりやすく整理して解説します。意味・仕組み・現場での言い回しや使用例、施工のチェックポイント、よくあるトラブルの防ぎ方まで、実践的にまとめました。読み終えるころには、図面や打合せで出てくる言葉に自信を持って対応できるはずです。
現場ワード(冷温水配管)
| 読み仮名 | れいおんすいはいかん |
|---|---|
| 英語表記 | Chilled and Hot Water Piping(Chilled/Hot Water System, CHW/HW) |
定義
冷温水配管とは、建物の空調用に「冷たい水(冷水)」と「温かい水(温水)」を循環させるための配管系統の総称です。チラー(冷水機)やボイラーで作った冷水・温水を、空調機(AHU)やファンコイル(FCU)へ送り、熱交換で室内の空気を冷やしたり温めたりします。給水・給湯のように「水そのものを使う」配管ではなく、「水を熱媒として循環させる」配管で、一般に閉回路(クローズド系)で運用されます。
どんな設備で使う?(全体像)
オフィス、商業施設、ホテル、病院、学校などの中〜大規模建物で広く採用されます。屋上や機械室のチラー・ボイラーから、立て管・水平主管で各階に分配され、フロアのAHUや天井裏のFCUへ。各端末で空気と熱交換し、室内空調を行います。配管には必ず保温(断熱)を施し、冷水では結露防止、温水では熱損失低減が主目的です。
仕組みのイメージ(基本フロー)
冷温水配管は、「往き(サプライ)」と「戻り(リターン)」の二本で一組が基本です。ポンプが循環を担い、各機器前後にはバルブやストレーナ、バランシング弁、エアベントなどを配置。系統全体で流量・温度・圧力が設計値になるよう調整します。
現場での使い方
言い回し・別称
現場では次のような言い方をします。
- 冷温水(略して「冷温水」)/冷温水配管
- 冷水配管・温水配管(分けて言う)
- 二次側配管(一次側=機械室付近、二次側=端末へ分配する側 という文脈)
- CHWS/CHWR(冷水往き/冷水戻り)、HWS/HWR(温水往き/温水戻り)と図面略記
- CHW/HWライン、冷温水ライン、冷温水ループ
使用例(3つ)
- 「この区画、冷温水の水平主管はダクトと干渉するから、レベル50ミリ上げよう。」
- 「FCUの二方弁は戻り側。冷水のエア抜きは一番高いところに付けてね。」
- 「保温仕上げは冷水が結露注意。吊りバンド部も断熱切らさないで養生入れて。」
使う場面・工程
- 施工計画・干渉検討(BIM/図面レビュー、ダクト・電気配管との取り合い)
- 墨出し・支持金物取付(インサート、ハンガー、バンドピッチ設定)
- 配管布設(切断・面取り・接合・勾配やエア抜きポイントの確保)
- 機器接続(ポンプ、AHU、FCU、バルブ、ストレーナ、フレキ)
- 洗浄・フラッシング・水圧試験(設計指定圧での漏れ確認)
- 保温工事(断熱材・防湿処理・仕上げ)
- 試運転・調整(流量調整、温度確認、エア抜き)
関連語
- 冷媒配管:ヒートポンプやパッケージエアコンの冷媒(ガス)を流す配管。冷温水配管とは別物。
- 一次側/二次側:機械室〜一次ポンプまでを一次側、そこから端末側へは二次側と呼ぶ場合が多い。
- AHU/FCU:Air Handling Unit、Fan Coil Unit。冷温水を受けて空気と熱交換する端末機器。
- 二方弁/三方弁:端末の流量制御用バルブ。省エネや制御方式で使い分ける。
- 定流量/変流量:ポンプ流量を一定にするか、実負荷に応じて可変にするかの方式。
冷温水配管の役割とメリット・デメリット
役割
冷温水配管の役割は、空調機器へ必要な温度・流量の水を安定供給し、建物の快適性と省エネ性能を支えること。負荷変動に追従しながら、全端末で均一に熱を運ぶのが理想です。
メリット
- 大規模建物での熱搬送効率が高く、長距離供給に強い
- 機械室集中管理で保守性が良い(機器更新・制御の拡張がしやすい)
- 冷媒配管に比べて漏えい時の環境・安全リスクが低い(水が媒体)
デメリット
- 配管・ポンプ・保温など設備が大掛かりになりやすい
- エア噛みやバランス不良など、調整の手間がかかる
- 冷水は結露対策を徹底しないと仕上げ材に悪影響
配管材と保温の基礎知識
主な配管材の種類と使いどころ
- 炭素鋼鋼管(スチールパイプ):機械室や主管などで広く使用。溶接・ねじ込み・フランジ接合。強度に優れる。
- 銅管:耐食性と施工性が良く、端末周りや小口径で採用されることがある。ろう付けが基本。
- 架橋ポリエチレン管(PE-X)、ポリブテン管(PB):軽量で施工性が高く、FCU二次側などで採用される場合がある。専用継手で圧着・拡管などの接合。
採用可否は設計条件(温度・圧力・口径・施工環境・防火区画など)とメーカー仕様に従います。機械室など火気使用が制限される場所では、接合方式も事前検討が重要です。
保温(断熱)と防露の考え方
- 冷水配管:結露防止が最優先。断熱材は連続性を切らさず、防湿層を確実に施工。吊りバンド部には割り込みの断熱スペーサやスリーブを使用。
- 温水配管:熱損失低減と表面温度低減(火傷防止)が目的。必要厚みは設計指示に従う。
- 代表的な断熱材:ゴム系発泡、フェノールフォーム、グラスウールなど。屋外露出は防水仕上げを追加。
継手・バルブ・機器まわりの基本
継手・接合
- ねじ込み(小口径)、溶接(中大口径)、フランジ(機器接続・分解点)
- 樹脂管は専用の圧着・拡管・差込継手を使用(メーカー工法に厳密に準拠)
- 機器接続にはフレキシブル継手を入れて振動吸収・芯ズレ吸収
バルブの種類と役割
- 止水用:ゲート、ボール、バタフライなど
- 調整用:グローブ、バランシング弁、差圧制御弁
- 逆止:チェック弁(逆流防止)
- 安全・保守:ドレン弁、エアベント、フラッシング用バルブ
機器周辺での定番構成
ポンプ前後の止水弁・ストレーナ・振止め、端末の二方/三方弁、バイパス、ドレン、エア抜き。計測用の温度計・圧力計・差圧計のボスも忘れずに設けます。
施工手順とチェックポイント(実務版)
1. 事前計画・干渉検討
ダクト・電気配管・スプリンクラーとのクリアランス、点検口位置、バルブ操作スペースを確認。搬入経路・仮置きスペースも含め計画。躯体貫通部は防火区画・気密処理の有無を事前に把握します。
2. 墨出し・支持金物の設置
配管芯とレベルを墨出し。振れ止め、バンドピッチ、吊りボルト径を決め、アンカー・インサートを施工。空調機器のメンテナンススペースを確保し、点検口位置と干渉しないようにします。
3. 配管布設・接合
切断は直角・面取り確実。溶接は開先・仮付け・本溶接の順で歪み管理。ねじ込みはシール材の種類と巻き方向を統一。樹脂管は専用工具と指定時間・温度を厳守。往き・戻りの識別マーキングを現場で徹底します。
4. 勾配・エア抜き・ドレン
閉回路でも高所にエアが溜まりやすいので、頂部にエアベントを設け、低所にドレン弁を配置。水平配管は可能なら緩やかな勾配を取り、エア溜まり・水溜まりを作らない段差計画にします。
5. 洗浄・フラッシング・水圧試験
切粉・油分を除去するため、循環洗浄(フラッシング)を実施。続いて水圧試験を行い、接合部の漏れや圧力降下がないかを確認します。試験圧・保持時間は設計・監理指示に従い、記録を残します。
6. 保温工事
配管試験合格後に保温。継手・サポート部の断熱欠損、継ぎ目のテープ処理、貫通部の気密・防露を丁寧に。仕上がり後にバルブ操作や温度計視認ができるよう開口・名板も計画します。
7. 試運転・調整
ポンプを運転し、エア抜きと流量調整を実施。端末の差圧や水温を確認し、居室の温調に応じて二方弁の動作や制御の安定をチェック。異音・振動・結露の有無も合わせて確認します。
よくあるトラブルと対策
1. 結露(水滴・水染み)
原因:冷水配管の保温欠損・防湿層の破断・吊りバンド部の断熱不足。対策:保温の連続性確保、バンド部に断熱スペーサ、テープ巻きの重ね代厳守。露点より十分低い表面温度にならないよう設計厚の順守。
2. エア噛み(流量不足・異音)
原因:高所のエア抜き不足、補給水時の空気混入。対策:頂部の自動エアベント/手動エア抜き、試運転時の段階的なエア抜き、配管ルートの不要な段差回避。
3. 漏れ(にじみ・滴下)
原因:ねじ締め不足、溶接不良、樹脂継手の施工条件逸脱。対策:トルク管理・外観/浸透検査レベルの社内標準、メーカー施工要領の遵守、試験記録の保存と是正。
4. 温度が出ない(冷えない・暖まらない)
原因:流量バランス不良、バルブ開度の偏り、ポンプ揚程不足、ストレーナ目詰まり。対策:系統ごとのバランシング、差圧確認、ストレーナ清掃、設計条件(温度差・流量)の再確認。
5. 振動・騒音
原因:ポンプの据付不良、フレキ不足、配管の共振。対策:防振ベース・フレキ設置、支持金物の増設・位置調整、配管ルート見直し。
図面記号・指示の読み方
図面では、冷水はCHW、温水はHWと略すのが一般的です。供給側はS(Supply)、戻りはR(Return)で、CHWS/CHWR、HWS/HWRと表記されます。口径はφ(ミリ表示)やA(呼び径)で記載。矢印で流れ方向、バルブ記号で種類、点線で保温範囲が示されることがあります。機器記号(AHU、FCU)と管理番号も参照し、系統図と平面図を突き合わせて流れの全体像を掴むと混乱しにくくなります。
冷温水配管と「似て非なる」配管との違い
冷媒配管との違い
冷媒配管はヒートポンプやパッケージエアコンで使用する冷媒ガスの配管。材料や接合、試験方法、漏えい時の対応が大きく異なります。冷温水配管は水を循環させ、空調機器側で熱交換します。
給湯配管との違い
給湯配管は蛇口で人が使う温水を供給する配管。衛生設備の区分で、水質管理や末端器具が中心。冷温水配管は熱媒であり、人が直接使用する水ではありません。
安全と品質管理(現場の基本)
- 火気作業:溶接・ろう付けは火気管理計画、養生、火花養生、火災監視を徹底。
- 高所作業:脚立・足場の三点支持、工具落下防止、通路確保。
- 化学物質:接着剤・洗浄剤のSDS確認、換気、保護具着用。
- 粉じん・繊維:断熱材切断は防じん対策、肌荒れ防止の保護具着用、清掃徹底。
- 品質記録:受入検査、溶接・圧着の合否、試験圧・保持時間、是正履歴を写真・書類で残す。
代表的なメーカー例(選定の入り口)
メーカー選定は設計仕様や現場条件に合わせて行いますが、参考として日本国内で広く知られるカテゴリ別の例を挙げます。いずれも各社の仕様書・施工要領に従うことが前提です。
- バルブ:KITZ(キッツ)—止水・調整・自動弁までラインアップが広く、空調用途で実績多数。
- ポンプ:荏原製作所、テラル—ビル用ポンプでの採用が多く、メンテ網も充実。
- 配管材(樹脂管・継手):積水化学工業(エスロン系)、クボタケミックス—架橋ポリエチレン管や樹脂継手の空調用途ラインアップを展開。
- 保温材:ニチアス、マグ・イゾベール、アーマセル—ゴム系発泡、グラスウール、硬質フォームなどを供給。
実機(チラー、ボイラー、AHU/FCU)については、建物の容量や熱源方式により選定が分かれます。メーカー推奨の配管条件(最小直管長、必要バイパス、許容差圧など)は必ず確認してください。
現場で役立つ小ワザ・チェックリスト
- 往き・戻りのマーキングを色分け(例:冷水=青、温水=赤)して、全員で共通認識。
- 吊りバンド位置にあらかじめ保温スペーサを配っておくと、断熱の欠損を防げる。
- エア抜きは「系統の頂部」「機器上部」「立て管上端」の3点主義で計画。
- ストレーナはフラッシング前にメッシュ確認、試運転後に再度清掃。
- バルブの開度位置と流量の関係は非線形。目盛だけに頼らず、実測・差圧で詰める。
- 保温完成前に全バルブの開閉試験・表示板の向き確認を済ませる。
- 防火区画貫通部は、貫通スリーブ・シーリング材の仕様を先に押さえておく。
よくある質問(FAQ)
Q1. 冷温水配管は保温必須ですか?
基本的に必須です。冷水は結露防止、温水は熱損失抑制と触れた際の安全確保のために保温します。厚みや材質は設計・メーカー仕様に従います。
Q2. 水圧試験の圧力はどれくらいですか?
建物や設計条件で異なります。必ず図面・仕様書・監理指示の値に従い、記録(圧力・時間・温度)を残してください。
Q3. 冷媒配管と工具や材料は共用できますか?
基本的に別です。材料特性・接合方法・洗浄剤・試験方法が異なるため、冷媒配管の手法を冷温水へ流用することは避けます。
Q4. 端末の二方弁と三方弁、何が違う?
二方弁は需要に応じて流量を絞る方式で、省エネ性に優れます。三方弁はバイパスで流量を維持しやすく、系統差圧が安定しやすい反面、循環損失は増えがちです。制御方針とポンプ計画で選定します。
Q5. 既存改修で注意する点は?
既存系統の流量バランス、腐食・スケール、防露状態、天井内のスペース、停電・断水時間の制約など。仮設バイパスや分割施工の計画が重要です。
学習・現場共有に効く基本用語ミニ辞典
- チラー:冷水を作る機械。
- ボイラー:温水(または蒸気)を作る機械。
- AHU/FCU:空調機器。冷温水で空気を冷やす・温める。
- サプライ/リターン:往き/戻りのこと。
- ストレーナ:ゴミを除去するフィルタ。
- バランシング弁:系統の流量を整える弁。
- エアベント:配管内の空気を抜く装置。
- フラッシング:配管内の洗浄循環。
まとめ
冷温水配管は、建物の空調を裏から支える「水で熱を運ぶ」ための配管です。現場では、往き/戻りの区別、保温の連続性、エア抜き・流量バランス、試験と記録の徹底が品質を左右します。言い回し(CHWS/CHWR、HWS/HWR)や関連語(一次・二次、二方弁・三方弁)を押さえておけば、図面の理解や打合せがぐっと楽になります。この記事を足掛かりに、実際の現場で「どこに水が流れて、どこで熱を渡しているか」を意識して見ていけば、冷温水配管の全体像が確かな実感としてつかめるはずです。









